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第211話 隠されていた封印の仕組み

この世界の北方―――

隠された地、ビュラナールドの大地。


創造神ルーダラルダと精霊王であるファナンレイリしか知らない、幾重もの結界によって秘された地。


そこの荘厳な神殿の中。

特別にあつらえられた聖なる神域、いわゆる封印の間である聖櫃。


百年ぶりに青き聖なる清浄な光が満ち溢れた。

まるで時が止まっていたような美しい女性。


その閉じられた瞳がゆっくりと開かれた。


「…ん……時が来た…そう言う事なのじゃな」


銀色に輝く長髪。

漆黒の瞳。


まるで彫刻のようなあまりにも整った美しい彼女はゆっくりと体を起こす。

そして気怠そうに伸びをし、おもむろに手を叩いた。


「ネリア、ネリアはおるか?」

「はい。大精霊フィードフォート様」


幻のように滲みだす妖精。

美しい女性の前にきて頭を下げる。


「ふむ。…どうやら封印が破られた…龍姫…まさにルーダラルダ様の仰ったとおり。ネリア、ファナンレイリ様はどうされておるのじゃ?」

「はい。……どうやら…っ!?…封印が?…自由にされておられるようです」


その言葉を聞き、ピクリと眉を動かす女性。

魔流れの霊峰にいない?


おもむろにため息をつく。


「…なぜわらわに会いに来ない?…ファナンレイリ様…いや、ファナン姉さま」

「っ!?」


突然吹き上がるとんでもない魔力。

ネリアと呼ばれた妖精は背中にびっしりと冷たい汗をかいてしまう。


「…ネリア」

「は、はい」

「連れてきなさい」

「っ!?か、かしこまりました」


妖精族に許されたスキル『ホール移動』

ネリアは慌てて術式を構築し、その姿を消していた。


静寂に包まれる厳かな部屋。

独り言ちる大精霊フィードフォート。


「…時が来た…ゲームマスターの降臨と動き出す世界…そして欺くことができた龍姫の死…」


何時の間にか出現した紅茶を味わいながら、彼女は遠い目をする。


「…ルーダラルダ様…お姉さま…」




※※※※※




「嫌よ」


ギルドのサロン。

いきなり現れた新たな妖精、ネリアは困惑の表情を浮かべてしまう。


「い、いや、あの、ファナンレイリ様?そ、そんな事仰らずに…」

「うー。嫌なの。なんであいつ目覚めたの?まだ100年くらいでしょ?…うん?…うあ、これって?!」


妖精の話を聞きながらも、メチャクチャ不機嫌そうなファナンレイリは自身の魔力を世界に広げる。


そして気付く。

封印されていた虚像の龍姫、それの消失を。


「…ネリア?フィードフォートは『会いたい』って言ったのよね?」

「は、はい。その…『連れて来い』って…」


美緒は知らないはずだが。

実はフィードフォートはある事情で長き眠りについていた。


世界を騙す。

その使命を果たすために魔力を使用しすぎて、永い眠りを余儀なくされていた。


(はあ。やっぱり美緒の幸運値、やばいくらいしっかりと仕事をするのね…今彼女が行っている案件…メチャクチャつながってるし?)


美緒はゲームマスターだ。

恐らくこの世界のだれよりもこの世界のことには詳しい。


しかしそうはいっても転移者だ。

元々この世界の根幹である精霊王や大精霊の使命については知らないはずだった。


「ふう。分かったわよ。…でも今じゃない。美緒が、ゲームマスターが戻ってきたら一緒に行くわ。…ディーネ」

「っ!?は、はい」


久しぶりにまみえる別の妖精に、興味津々にしていたディーネが突然声を掛けられ挙動不審になってしまう。


「とりあえずネリアにご飯でもご馳走してあげて。この子ホール移動しすぎたせいでもう魔力も底をついているし…それにネリア、あなたは少し休む事。しばらくご飯でも食べてなさい」

「うあ、えっと。…ご配慮感謝します。ファナンレイリ様」


ディーネに手を引かれ席につくネリア。

事前に話を聞き、すでに準備をしていたレリアーナがテーブルに軽食を並べ始めた。


「うわあ♡可愛い。…えっとネリアさん?どうぞ召し上がれ♡」

「あ、そ、その…ゴクリ…いただきます…あむ…っ!?」


正直見たことの無い料理の数々。

恐る恐る口にした甘い香り漂う焼き菓子に、ネリアは目を輝かせた。


「美味しいっ!…何これ何これ?!…こ、こっちも…あむ…んんんー♡」


この世界、前述もしたが基本料理は塩味が基本だ。

そして薄味だ。

特に妖精たちは果実が好きではあるが…

幾つもの調味料を使いしっかりと味付けされた、いわゆる美味しい料理には慣れていない。


美緒のギルドの料理の数々、虜にするには『戦力が過剰』だった。


「フフン。美味しいでしょ?うちのギルドのご飯、最高なのっ!」


なぜかどや顔のディーネ。

そんな様子を一瞥し、ファナンレイリは思考を巡らせた。


(ダミーの龍姫は壊され霧散…私はこれを知っていたはずだ…でも……と言う事は…確かに隠した本人、フィードフォートとの話し合いは必須…ああ、面倒くさいな)


考えるほど眉間にしわが寄ってしまう。

そんな珍しい表情のファナンレイリに、先ほどから何故か腕を組み思考していたリンネが問いかけた。


「ねえファナンレイリ?…もしかして貴女、私たちに伝えていない事あるのかしら」

「っ!?…そう、ですね。…リンネ様、龍姫の事、どこまで把握していますか?」

「龍姫?…アランが探しているっていうエスピアさんのことよね?…私は会ったことないけれど…」


「リンネ様、場所変えましょう。…ここではちょっと…」

「分かったわ。私の部屋でいいかしら」

「はい」



※※※※※



明かされる真実。

そして組み込まれた幾つものトリガー。


リンネはため息をつき大きくかぶりを振った。


「…なるほど…確かに今回のルート、完全に想定外ね。…強すぎるゲームマスターに元々あった設定の崩壊。…悪魔を欺く事実…じゃあ、エレリアーナは…」

「…もし順調に行っていたら…唯一助けることのできなかったメインキャラクターだったのでしょうね」


美緒の変遷。

それにより既に物語は誰も知らない領域へとシフトしていた。


何より全てを救うため、美緒の覚醒をさらに図るシナリオ。

つまりは助かるはずの少女、エレリアーナの喪失。


最終最後になってしまったメインキャラクターであるエレリアーナ。

そしてその仕組みに深くかかわっている大精霊フィードフォート。


「…所でレイリ」

「はい」

「はじめから知っていたのかしら?今回のこのトリガー」


ジト目を向けるリンネ。

説明を聞き、非道ではあるものの確かに美緒はさらなる覚醒を起こすであろう今回のギミック。


リンネは既にそれを許すつもりはなかった。


「いいえ。…信じていただけないかもしれませんが…正直この前レギエルデの口から『フィードフォート』の名を聞いてから…ものすごく私の心が不安定になったのです。そして今日久しぶりのネリアとの出会い…完全に思い出した…いえ、どうやら私ですら何かしらを封じられていたみたいです」


消沈するファナンレイリ。

何より彼女は美緒のことを一番に思っている。


それなのに今回のこのギミック。

まさにその信望する美緒が悲しみ狂う案件だった。


しかも原因は自身をも含む精霊と妖精たちの合作による隠蔽。


ファナンレイリは唇をかみしめ、目からは涙が零れ落ちた。

そんな彼女をリンネは優しく抱きしめ、ハンカチで目をぬぐう。


「…もう。泣かないで?…私はあなたを信じるわ。それに…」


涙を拭かれたことがくすぐったくて。

思わず顔を赤らめたファナンレイリはリンネの瞳を見つめた。


「美緒の幸運値、きっと全てを覆す。…信じて待ちましょう。…すぐに戻ってくるわ」


そう言いにっこりとほほ笑むリンネ。


その顔には美緒に対する信頼が浮かんでいた。


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