第209話 ライデル王国への訪問
天使族の皆さんと、ガザルトから我らがギルドに来たバロッド。
鍛冶のできるゴデッサやギルドの皆の協力もあり、彼らによる第2拠点の改造は順調に進んでいった。
そんな中、長期の休みを明けた私はお父さんとレギエルデ、それからエルノールを伴いライデル王国にあるドワーフの工房街へと訪れていた。
※※※※※
転移門のある施設を抜けた私たちを迎えたのはまさに職人の街。
そこら中からカンカンと鉄を打つ音が響き、多くの建物からは煙が上がっていた。
幾つもの工房が軒を連ね、多くの冒険者や商人であふれかえる街並み。
あちらこちらから威勢の良い声がし、活気にあふれていた。
初めて見る景色。
私は興味深げに辺りを見回す。
そんな私の様子に、何故かエルノールがメチャクチャ優しげな瞳を向けていたけど。
気付かなかった振りをしよう。
だって。
…見つめられすぎて…顔が赤くなっちゃうもの。
コホン。
※※※※※
しばらく歩き目的地が近いようで、お父さんは狭い路地を進んでいく。
多くの鍛冶屋が軒を連ねる通りを抜け、私たちは程なくこじんまりした老舗のような店にたどり着いた。
どうやらここが目的地、ジュデルドさんの工房らしい。
ドアをノックし、躊躇なく店の中へと進んでいくお父さん。
そのあとに続き工房の中に私たちも入っていく。
「ジュデルド、いるか?」
大きな声を出し、奥へと進むお父さん。
それに呼応するように聞こえていた鉄を打つような音が止み、ずんぐりした男性が奥から出てきた。
「…うん?なんだ、ザナークか?…おお、そうか。今日だったな」
そう言いながら汗を拭き、にっこりと私に笑顔を向けるドワーフ族の初老の男性。
「ようこそ。…ほう、君がゲームマスター美緒か…ふうむ。何と美しい…おい、ザナーク。まさか貴様、手を出してはおるまいな?」
「…馬鹿なことを言うな。美緒は私の愛する娘だ…邪魔するぞ」
ひげ面だけど優しい瞳をしている彼。
きっとお父さんの師匠でもあり、親友のジュデルドだろう。
わたしは彼の大きな手を取り握手し、にっこりとほほ笑んだ。
「初めまして、ジュデルドさん。美緒です。…お父さんの親友と聞いています。私も是非仲良くしてください」
「ああ。そうさせてもらおう。…本当に美しいな…惚れてしまいそうだ」
「えっと…も、もう。小娘をからかわないでください」
「うん?からかってなどいないぞ?ワシがもう50歳若ければ求愛しているところだ」
にっこりと笑い、ウインクする彼。
私の頭を優しくポンポンと叩くジュデルドさん。
私は思わず顔を赤らめてしまう。
「まあ立ち話もなんだ。散らかっているが取り敢えずリビングへ行こう。茶くらいは出すぞ?」
そう言い奥へと進むジュデルドさん。
私たちもそのあとをついて行ったんだ。
※※※※※
「それで?実際のオーダーはどういった内容なんだ?…俺は魔物なんぞ詳しくはないぞ?」「ふん。どの口がそれを言う。…ワシはお前さんほど詳しい奴を知らぬがな」
お父さんのジョブは武闘執事。
サブは料理人。
そう言うスキル、持っているとは思えないのだけど…
「うん?なんだ、美緒は知らんのか。コイツはな、以前俺達と一緒に冒険していたんだ。鑑定のスキル、そして観察眼のスキル。ザナークの実力は本物だ」
「っ!?ええっ?!そうなのですか?!」
思わずお父さんの顔を見つめる。
くすぐったそうに顔を染め、そっぽを向くお父さん。
…可愛い♡
「…昔の話だ…コホン…現場は例のダンジョンか。許可は…」
話を続けるお父さんに、いくつかの書状を手渡すジュデルドさん。
書状を広げお父さんはため息をついた。
「…もう結果は出ているではないか…うん?…安全の確認?!」
「ああ。本命はそっちだ。お前さんのギルド、実力者ぞろいなんだろ。…ダンジョンに潜ってもらいたいらしい」
改めて大きなため息をつく。
そしてちらとエルノールへ視線を向けた。
「…すまないなエルノール坊ちゃん。どうやら謀られたようだ。調査と言うよりダンジョンアタック。…どうする?」
「ふう。まあ、そうだろうとは思っていたさ。…それよりもう一つの案件はどうなっているのだ?」
質問に対し、エルノールはさらなる質問をジュデルドに向ける。
もう一つの案件、恐らく記憶を封じられているであろう少女。
『エレナ』の案件だ。
「ふむ。そっちについてはお前さん方と認識は変わらんよ。詳しい話は聞いておらん。…まあどちらもマルデの国王からのオーダーだ。受けるかどうかについても一度説明を受けた方が早かろう。あんたがたのギルド、転送ゲート、マルデには無いのだろう?ここからマルデまでは馬車で5時間と言ったところだが…今日は泊っていくか?」
当然だが転移魔法については秘匿してある。
何より伝説の魔法。
我がギルドでは当たり前だが、通常この世界ではそういう扱いだ。
「いや。大丈夫だ。…実は馬車は手配済みだ」
「…そうか。まあそうはいっても折角来たんだ。お茶くらいはいいのだろう?」
「ああ、すまんな。…美緒、いいか?」
「ええ。ありがとうございます、ジュデルドさん」
私たちはジュデルドさんと一緒にお茶を楽しむことにした。
お父さんの昔話、実は私、とっても楽しみにしていたんだよね。
色々聞いてみようっと♡
※※※※※
西の果て。
大海原の中央にポツンと切り立つ岩石だらけの小さな島。
そこには今、猛るエンシャントフレイムドラゴンが、苛立ちを覚えつつ厳重に封じられている女性を前に怒りに震えていた。
『どういう事だ…なぜ龍姫が…この娘は封じられておるのだ…これでは我が番、それへの道しるべ、繋がることが出来ぬ』
※※※※※
この星が創造されたとき。
最初に創造された4体の聖獣、そして妖精族。
それらの対として創造されたのが古龍族、いわゆる『エンシャントドラゴン』たちだった。
多くのロマンを詰め込んだ創造神ルーダラルダ。
幾つもの摂理を動かすために、彼女は実に多くの因果をこの世界に組み込んでいた。
その一つが『番い繁殖するため』の制限。
絶対的な力を持つ種族故に、バランスをとるために面倒な摂理を組み込んでいた。
古龍族は掟に縛られている種族。
龍姫により祝福をもらい初めて番う事を許される。
つまり今封印されている龍姫。
このままではどんなに願おうと、彼ルデーイオは目的を果たせない。
※※※※※
ルデーイオは人化し、改めて封印されている龍姫エスピアをじっくりと観察していた。
「…この波動…あの邪神…むう?!…ほころび……」
彼は天を見上げる。
そしてにやりと顔を歪めた。
「ふん。ならばそのほころび、我が壊そうではないか…ふむ。我がいたあの大陸…そこにカギがある…っ!?なあっ?!」
突然彼を襲うとんでもない暗鬱たる魔力。
ぎりぎりで展開した結界、それがどうにか彼の絶命を防いでいた。
しかし身体の半分を消失するほどのダメージを受けたルデーイオ。
消えゆく意識の中、彼は目撃していた。
かつて肩を並べ、ともに戦った英雄のその姿を…
(…グラコ…シニ…ス…?…ば、馬鹿な…や、奴は…)
海深く沈みゆく彼。
その様子を見やり、悪魔グラコシニアは無表情でつぶやいていた。
「邪魔はさせん…縛りとやらも…ゴフッ…くうっ、…この程度…」
大量の赤黒い血を口から吐き出しながら、どうにか立ち上がる悪魔。
干渉できないルールを破った代償なのだろう。
ふらつきながらも彼はどうにか顔を上げる。
その視線は封印されている龍姫エスピアを捉えていた。
「…もう一撃…しばらく我が休眠する程度…ハアアッッ!!!」
砕け散る封印された龍姫。
見届けた悪魔は、意識を失いつつも転移して消えていった。
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