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第205話 ザイルルドの見た夢

暗く何もない場所。

息苦しくなぜか陰湿な、怨念のような物が渦巻く場所。


気付けばあまりに馴染みのある『その場所』でザイルルドは一人佇んでいた。


「…ふん。くだらん…何か用か?」

『…と、遠い…な、なぜだ…なぜ我が辿れぬ…』


遠い残響のように、どうにか伝わる想い。

姿を見たことの無い、どうやら『絶対者』は焦っているようだ。


子供のころからよく見る夢。

恐ろしさに泣いたのは懐かしい思い出だ。


『……キサマ…な、なぜ…我が力を…の、望まぬ…貴様が…願えば…わ、我は…』

「いらん。与えられし絶対な力?まさにくだらなさの極致だな。…欲しいなら俺は自らの命で獲得するさ。…ふむ。いい加減うざいな…」


これは夢。

ザイルルドはそう思い込んでいた。


しかし。


魔導科学と言う分野を切り開いた彼。

この現象をただの夢と割り切るには、彼の頭脳は優秀過ぎた。


「……ふん。ついに掴める、か。…ふはは、どうやら意識のない俺の実体、繋がったようだ…どれ…」


おもむろに現れる歪な杖。

まさに魔導科学の極致、魂魄を封印する呪われし『人造アーティーファクト』だ。


「ふむ。どうやら使えそうだな…」


刹那高速で指先を動かすザイルルド。

まるでタイピング。


見えないものに打ち込んでいるもの…

まさに魔法の理論を超越した術式。


禁呪を超えた厳戒摂理。

凄まじい極光が暗い場所を包み込んだ。


『ぐうっ?な、なぜだ?!…な、なぜ?…あ、あり得ん…貴様らは盤面の駒…それが次元を…摂理を…超えっ?!!!グギャアアアアア―あ―――――??!!!!』



※※※※※



静まり返る豪華な寝室。

なぜか手に歪な杖を握りしめたザイルルドは静かに起き上がり天を見上げた。


「…何があった?…なぜ俺はこの杖を持っている?…」


彼、ザイルルドは魔法が使えない。

とんでもない魔力を保有しているものの、生まれつきそれを繋げるバイパスが存在しない彼。


幼少のころはまるで爆発するような内部の魔力に、幾度となく生死の境をさまよった。


そして6歳の時。

彼に転機が訪れる。


激しい魔力暴走。

身体を痙攣させ、まさに爆発寸前。


王宮の医師が、神官たちが静かに首を振るその時。

突然見たことの無い光がザイルルドを包み込んだ。


彼は繋がった。

平行世界の自分に。



※※※※※



なぜかこの世界ではない情景に囚われた彼。

近代的なオフィス。

みたことの無い機器の数々。


さらにはどうやらその世界には『魔法が存在しない事』を何故か理解した彼は。


恐らく何かがねじれていたのだろうが。

体感で数十年。


その世界の英知を悉く習得し、遂に新たな技術『魔導科学』にたどり着く。


(足りない…今の俺では…この世界では…これ以上進めない…力だ、力を得ねば…)


自身の能力を限界まで鍛え上げた彼がたどり着いた結論。

技術、そして魔力。


この世界ではできない事実。


運命。

まさに彼はそれに翻弄され、その歪な別の世界での生を終わらされた。

虚無神に乗っ取られた黒木優斗。


そして一瞬取り戻した彼の心の希望を刷り込まれて。



※※※※※



ザイルルドは目を覚めす。

恐らく数分。


しかし。


彼の中では既に数十年が経過し…


そして怪物が、暴君がその産声を上げていた。



※※※※※



この世界の絶対者の一人虚無神。

2000年前の創造神渾身の賭け。


全ての世界を対価にどうにか隔絶したこの世界。

しかし虚無神はザイルルドの精神を依り代にその力を徐々に蓄えていた。


彼、虚無神。

創世神アークディーツの対。


彼が今いる次元、そう地球だった。

かつて美緒たちが暮らしていたあの世界。


虚無神の干渉下におかれたあの世界。


ザイルルドはその世界のある人物、その魂を分離されたものだった。

ゆえに不完全、彼は魔法が使えなかったのだ。


もちろん記憶はない。

次元を超える、まさに平行世界の同一人物。


それを使い、断絶されたレリウスリードへの干渉を試みた虚無神は。


まさに今この瞬間、完全にその繋がりを絶たれていた。



※※※※※



近代的な部屋で、VRのようなゴーグルをしていた一人の男性がゆっくりと椅子から立ち上がった。


40代半ばくらいだろうか。


彼はおもむろにゴーグルを外し、デスクに置いてあったブランデーを流し込む。


「…ふう。…久しぶりに見てみれば…ククッ。どうやらあいつ、どこかに居るな?そして直している…あの理想主義者の虫唾の走る物語を…」


そして一枚の写真を眺め、一瞬浮かぶ優しげな表情。


「……『美緒』…もうすぐ会えるかな?…ククク、クハハハ、アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!」


突然狂気じみた笑い声をあげる男性。

そしてその体からはあり得ない魔力が吹き上がっていた。


「いいだろう。書き上げてみろ。…『根幹』は俺が持っている。…『物語の逆襲』か。まさに奇跡だな…俺もワクワクしてきたよ」


独り言ちる男性。


鳳乙那。


ついに黒幕の胎動が始まる。




※※※※※




「っ!?」


ギルド本部執務室。


遠いどこか。

余りにも悍ましいその魔力が次元を超え美緒の感知に引っかかっていた。


突然自らを抱きしめ、顔を青くさせ震える美緒。

その様子に一緒に居たリンネが冷や汗を流しつつ、慌てて彼女を抱きしめた。


「美緒っ!?大丈夫?」

「っ!?リ、リンネ?…あなたも感じた?」


「美緒ねえさんっ!!」


ドアを乱暴に開け飛び込んでくるガナロ。

さらには転移してくるレギエルデとコメイ。


「美緒、あいつだ…この魔力間違いない。…動き、は無いようだね…でも間違いなく奴は『現状』に気づいた。始まるよ?本当のシナリオが…」

「ああ。なんや、けったくそ悪い、えげつない魔力。間違いない、奴や」


さらにまるで引き裂くような、荒々しい魔力を纏い姿を現すガーダーレグト。


涙を浮かべた彼女、突然私を抱きしめた。


「美緒…ああ、お前は美緒…奏多さんと真奈さんの娘…私は…李衣菜だ」

「っ!?レ、レグ?…あ、あなた…思い出したの?」

「…この魔力…忘れる訳もない。…鳳乙那…私を穢し、ケビンまでをも殺した男。…実体のない魔力だけのあの男を!!」


怒りに震える彼女。

そして語られる『現実世界と言う名のゲーム』その顛末を。



※※※※※



新たな会社を立ち上げた優斗。

多くの資金と豊富な人材を抱えた彼の会社は瞬く間に業界でのし上がっていった。


「ケビン。どうだい?君から見てこのシナリオ。僕は気に入っているのだけれど?」

「ボス。そうだね。まさにエクセレント。でもさ。もう少し暗い部分、あってもいいんじゃないかな?」

「うん?十分暗いと思うけど?…だって最期は皆滅ぶ。まあ、物語ではそれは語られないけどさ」


開発ルームを訪れた優斗はチーフであるケビン・マクガイヤーに問いかけていた。


「李衣菜さんはどう思う?」

「うん?なんだ社長。正直に言ってもいいのか?」

「えっと。ハハハ。少し怖いけど…まだ今のタイミングなら変更は効くから…どうぞ?」

「そうだな。…まずは…」


李衣菜の駄目出し。

余りの内容に、優斗は思わず涙目になってしまう。


「ストップ、ストップ。…それもう別の物語じゃん。良いよ、今度李衣菜さんが原案から作ってよ。取り敢えずこれはこのままでいく。良いね?」



※※※※※



『魔に侵されし帝国』


優斗の双子の兄、黒木大地渾身の物語だ。

当人に自覚はないものの、すでに乗っ取られている優斗。


しかし彼の想い、それはまだ犯されてはいなかった。


(…奏多さんを裏切ってまで獲得した兄さんの物語…絶対にモノにするんだ。そうじゃなくちゃ…あまりにも報われない…僕は…)


前を向く優斗。


しかしその瞳。

日に日に色を無くすそれに、ケビンも李衣菜も底知れぬ恐怖を覚えていた。



※※※※※



そして。


ついに発売された『魔に侵されし帝国』


なぜか優斗の会社ではなく、彼らのダミー会社からの発売。

さらにはその情報は悉く秘匿。


販売戦略ではあり得ないその対応。

結果魔に侵されし帝国は…


多く発売されるゲームに埋もれてしまう。


実は虚無神の計略。

彼は絞っていた。


確実に美緒を捉えるため、そして極小確率ではあるものの『違うものによる完全攻略』、それを防ぐために。


そしてその数年後。


完全に狂った優斗によって。

いや、彼を完全に掌握した『魔力体の鳳乙那』によって李衣菜とケビンはその命を散らす。


どうにか抵抗していた優斗。

幾つかの彼の願いを魂に刻み込まれて。


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