第204話 ガザルト王国崩壊のシナリオ
商業国ジギニアルダ、ビリルード大競技場に併設された10階建ての建物。
そこの7階、会議室は沈黙に支配されていた。
並ぶ長いテーブル。
こちらにはヤマイサークを中心に右にエルノール、左にロナン。
対面には中央にルザガード、右に影使いのオルデン、そして左側にはヤマイサークの右腕、メナッサが静かに席に着いた。
おもむろにこの世界最大と言ってもよい商会の会長、八咫烏の頭領ルザガードが沈黙を破る。
「…おい、商工会長。…お前本気か?」
「ええ。終わりにします。あの王国ガザルトを。経済で徹底的に叩きのめします」
覚悟が灯るヤマイサークの瞳。
それを確認し、ルザガードは大きくため息をついた。
「…会長、因みにこの後の展開とか…教えてもらえるんですかねえ?」
顔をにやけさせ、問いかける影使いのオルデン。
その顔には楽しくてしょうがないといった表情が張り付いていた。
「もちろんです。…ちなみに混乱はどんな感じですか?」
ヤマイサークの問いかけ。
オルデンはお手上げといった表情をする。
その様子に、仕方なくルザガードが口を開いた。
「…ああ。俺もどうにかどさくさにまぎれたが…今あの国じゃ厳戒態勢だ。何しろもうあの国に食料の備蓄は殆どねえ。…全く、お前は恐ろしい男だよ。国民すべてを人質にするとはな」
今回のガザルト王国の混乱、糸を引いているのは間違いなくヤマイサークだ。
しかも数年前からの仕込み。
慎重に慎重を重ね、齎した今の状況。
遡っても不思議ではない程度の調整の繰り返し。
恐らくヤマイサークにたどり着ける者はいない事だろう。
「ふふっ。仕込みは上々、ですね。…メナッサ。…『ブツ』はもう用意できていますか?」
「ええ。すでに加工した簡易食材、しかも味に優れたもの20万食。まあとんでもない金額でしたが…いつでも運べます」
「さすがです。…オルデン。例の魔道具の調子はどうですか?」
「ふふっ。ばっちりですねえ。でもよいのですか?…私がこれをもってガザルトに寝返ったら…この計画破綻しますけどねえ…」
ニヤリと悪い顔をするオルデン。
エルノールの背筋に寒いものが走る。
「お、おい、キサマ…」
「大丈夫だよ」
言いかけるエルノールにロナンがたしなめた。
ロナンは真っすぐな視線をオルデンに向けた。
「そんなつもり毛頭ないくせに。…それってもしかして『大人の流儀?』みたいなものなの?いらないよ?もうそんな段階とっくに超えてるんでしょ?」
『悟りの極致』のスキルを持つロナンの前では駆け引きなどできない。
事前に伝えてある事実。
ロナンはため息交じりにつぶやいた。
「そっちの3人、すでに決まってんじゃん。だったら早く打ち合わせてさ、ここを出ようよ。…すでに囲まれているよ?」
「「「っ!?」」」
ロナンのスキル範囲は今80mだ。
しかし美緒から預かってきた増幅の魔刻石、それにより実は今ロナンは半径200メートルまで探ることが出来ていた。
「フハ、フハハハハハ…全く…ゲームマスターに最強のギルド、さらには神様に精霊王様。そして転移のできる超絶者にあの神話の真祖まで。そして周囲を覗ける超絶能力者、金貨15億枚、か。…分かった。指示をくれ。俺はもう迷わん…ちなみにだが…スマンがこの事態は俺の元手下の仕業だ。…このくらいの窮地、問題はないのだろう?」
「ふふっ。問題ありませんね。…全く。この期に及んでもまだ私を試しますか?…流石は八咫烏の頭領、感服いたします」
ニヤリとし、じっとりした視線を向けるヤマイサーク。
正直想定内だ。
「ふん。おべんちゃらを。…全く焦ることないという事は…ったく。分かったよ。後でうまい酒でも差し入れさせよう」
「毎度あり」
「けっ!」
かつてのヤマイサークは『金』と言う力しか持っていなかった。
しかし美緒の助力を得た今、彼にはとんでもない力がある。
その力、既にガザルトをはるかに凌駕していた。
「…オルデンもそれでよろしいのですね?」
「くふふ。ええ。そちらの坊ちゃんの言う通りですよ?私はもうあなたから離れる気ございませんので」
そしてゆっくりとメナッサに視線を投げるヤマイサーク。
頷くメナッサ。
これですべての準備は整った。
ガタリと音を立てイスから立ち上がるヤマイサーク。
そして高らかに宣言する。
「コードF、すなわち『ファイナルミッション』…今この瞬間、スタートです」
※※※※※
ジギニアルダの象徴ともいえるビリルード大競技場。
今その周りにはガザルトの誇る斥候部隊と暗殺者数名が、灯りのついている10階建ての建物を包囲していた。
八咫烏の頭領ルザガードの元側近の一人、マナースクは冷や汗をかきつつも今回の部隊長であるノードルドに媚びへつらっていた。
「へへ、へ。じょ、情報通りでしょ?…ま、まあ、預かったこのお宝のおかげだが…こ、これで俺は晴れてガザルトの高位貴族、ま、間違いないんだよな?」
「ああ。お前の情報、どうやら正確だったな。…そんなにガザルトの高位貴族になりたかったのか?」
冷めた瞳を向けるノードルド。
その様子に何故かマナークスは背筋が寒くなってしまう。
「そ、そりゃあ。…何よりガザルトはこの世界最強の国なんだ…あいつ、ルザガードはいつでも俺を見下していやがった。…これで見返してやれる…あいつの娘をあいつの目の前で犯してやる…クヒヒ、キヒャハハは……は?!」
突然吹き飛ぶマナークスの首。
血でぬれた剣を払い、ノードルドは崩れ落ちたマナークスだったモノに語り掛けた。
「功績は認めよう。だが我が国の高位貴族、その精神も気高いのだ。…キサマではその資格はないようだな」
まるでつまらないものを見る目で、ノードルドは斥候部隊の隊長に声をかけた。
「…どうだ?こいつの情報、間違いないのだな?」
「ああ。間違いない。…これは神であるグラコシニア様から預かったアーティーファクト。我がガザルトに対して叛意を持つもの。その命を映し出す。…6人、だな」
部隊長であるノードルドは面倒くさそうにその話を聞いていた。
元々彼は流れの傭兵をしていた男だ。
その力を買われ、王に忠誠を誓った男。
国の根幹でもある諜報部隊長と言う役職。
しかし。
正直、彼にとって国などどうでも良かった。
だがあの男、ザイルルド。
一目見た瞬間、彼はとんでもない絶望とありえない希望に包まれた。
(あのお方…あれはやばい。何も望まぬ目だ…狂ったように力を求め、そして手にし…その実まったく興味がない…あのお方の目指す先…俺はそれを見てみたい)
一瞬よぎる過去の事。
ノードルドはそれを振り払い、突入すべく腕を振り上げた。
※※※※※
5年ほど前ノードルドはミスを犯し大怪我をしてしまっていた。
そんなタイミングで何故か国王とのお目通りを許可された彼。
(早すぎる処刑…流石はガザルト、と言う事か)
死を覚悟していた。
しかし意味も解らず瀕死の状態で王と面談した彼は。
『ほう?お前、良い目をしているな。何も信じない、己すら疑っている。…くくく。面白い。お前は今日から我がガザルトの諜報部隊長だ。これを飲んで怪我を直すといい』
処刑されるどころか。
国宝級の回復薬を渡された彼。
あまつさえ大国の重責、それを見ず知らずの自分に与える国王。
その一瞬で彼はザイルルドによって魂を掌握されてしまっていた。
※※※※※
この世界でのガザルト王国、国王ザイルルドの評判。
傲慢で独裁者。
気に入らぬものは圧倒的な力で従える暴君。
さらには前王を謀殺し、王位を簒奪した心無い男。
そして同時に併せ持つとんでもない力。
違う。
コイツは、このお方は…
俺達と『違うもの』を見ている。
知りたい。
同じ景色を見てみたい。
俺は生まれて初めて。
本当の希望にたどり着いていた。
国などどうでもいい。
だが俺は。
王であるザイルルド、彼に絶対についていく。
それを改めて認識し、俺達は建物の内部に侵入していった。
「面白かった」
「続きが気になる」
と思ってくださったら。
下にある☆☆☆☆☆から作品への応援、お願いいたします!
面白いと思っていただけたら星5個、つまらないと思うなら星1つ、正直な感想で大丈夫です!
ブックマークもいただけると、本当に嬉しいです。
何卒よろしくお願いいたします。




