SS 慣れないカップラーメンは胸焼けするようです?
深夜。
皆が寝静まる頃、違う大陸へと調査に赴いていたミカとミルライナ、そしてドレイクの3人が転移門経由でギルドへと戻ってきていた。
「うー、疲れた…お腹減った…もうこんな時間だから…サロンに行ってもお菓子くらいしかないよね?」
「まあな。でもあと数時間すれば朝食だ。我慢すればいいだろ?」
ミカの嘆きにミルライナが諭す。
そんな様子にドレイクはにやりと悪い顔をした。
「なあ。腹が減ったんなら…以前美緒が出してくれた携帯食、というか非常食?…試してみるか?」
「非常食?」
ドレイクの問いかけに何故か嫌な顔をするミカ。
「ああ。美緒たちの居た世界では忙しい人が多かったらしくてな。何でも只お湯を入れて3分待てば飯が食えるらしいんだ」
「ふわっ?!…3分?しかもお湯を入れるだけ?…うう、でも携帯食みたいな物なんでしょ?…美味しくないんじゃないのかな」
ミカの疑問はもっともだ。
冒険者が多く居るこの世界。
いわゆる長期にわたる依頼の時にお世話になる携帯食。
もちろん存在しているものの、とにかく不味い。
なにしろ『栄養補給の観点』で作られたものだし、正直この世界のそういう技術、あまり進んではいない。
主に肉を塩につけて干したものや、野菜を煮詰め乾燥させたものが主流だ。
しかも運が悪ければ腹を下すというおまけ付き。
思い出したのかミカは苦虫をかみつぶしたような顔をしてしまう。
「くくく、それがな。…ここだけの話にして欲しんだが…マジで旨いんだよ…ただ『沢山食べると健康に問題がある』と言われたが…どうだ?試してみるか?」
実はドレイク。
すでに食べたことがある。
彼は今『共犯者』を増やそうと悪い顔をしていた。
「…お、美味しいの?」
「ああ。絶品だ」
「健康に悪いのよね?」
「まあな。でもそれこそ毎日何食も続ければ、ってことらしいぞ?」
そんな二人の会話に加わるミルライナ。
「マジか…な、なあ、ドレイク。…数はあるのか?」
興味を惹かれる二人。
ミカではないがミルライナとて腹は減っている。
「…内緒だぞ?実は美緒、隠しているんだよ。…確かここに…あった!」
サロンの奥に設置されている棚。
そこへ行きごそごそと探すドレイク。
普段は誰が食べても良いお菓子やおつまみなどが置いてある棚の下、段ボールの中にそれはあった。
「…見たことの無いものだね…ふわっ?これ…紙?…えっと…ふたを開ける?」
恐る恐るふたを開け、中を覗くミカ。
細かい糸のような物に、幾つかの縮んだ食材。
嗅いだことの無い香辛料のようなにおいがする。
かなりきつい香りだ。
「…ね、ねえ。…なんか刺激臭?…だ、大丈夫なの?」
「心配ねえ。美緒の居た世界じゃガキだって食っているらしいからな。…お湯を入れてっと」
なぜかウキウキしているドレイク。
それにならい、ミカとミルライナもたどたどしくお湯を入れた。
待つこと3分。
既に香る、経験したことの無いとんでもなく良い匂い。
気付けば美香たち3人はよだれが零れ始めていた。
「よしっ。できたぞ。熱いから気をつけろよ…ズズッ…くはー、旨いっ!!」
おもむろに置いてあったフォークで混ぜながらすするドレイク。
ミカとミルライナに衝撃が走る。
「っ!?…な、な、何これ…ヤバイ…旨すぎる?!!」
「あああ。やっぱり美緒さまは神だ…間違いない」
余りの旨さに感動を通り越して昇天しそうなミルライナ。
その様子にドレイクが声をかけた。
「…今日のこれは『トンコツ味』と言うものらしい。…実はな、これ」
「…ゴクリ」
「数百種類、味があるらしいぞ?」
「っ!?」
二人に衝撃が走る。
そして美緒の居た世界のすさまじさに、思わず遠い目をしてしまった。
「っ!?…な、なあ。…た、食べちまってなんだが…こ、こんなに旨いのに、どうして美緒さまは皆に言わねえんだ?…はっきり言って、俺はこんなに旨いものは食べたことがない。あのお優しい美緒さまが隠すって…何かあるんじゃないのか?」
ミルライナの問いかけ。
ドレイクはにやりと顔を歪めた。
「言ったろ?体に良くねえんだ。それに味が強すぎて舌が馬鹿になるらしい。まあ、たまに食うのなら問題はねえらしいんだが…うちにはまだ小さい仲間もいるんだ。そいつらがもし食べたら…分かるだろ?」
理解できてしまう二人。
何しろここのギルド、食はきっと世界随一だ。
たまに任務とかで外で食事をとると、今ギルドにいる者たちはどうしても物足りなさを感じてしまう。
美緒の出してくれている調味料や香辛料。
それこそ王侯貴族くらいしか手に入れることができない代物ばかりだ。
通常の料理は塩が基本。
普通に酒や出汁、胡椒や砂糖などが揃っている方がおかしいのだ。
だからこそみなギルドの食事が大好きだし、生きる楽しみと言ってもいいくらいだ。
そんな中さらに強烈なこれ。
きっとまだ小さい仲間たちは虜になってしまう。
そして体にあまり良くないもの。
成程、美緒が隠すわけだ。
「むう。分かったけどさ。…ドレイク酷くない?私暫くこの味忘れられなくなっちゃうよ?」
「ハハ。だから言っただろ?この事は重要機密だ。誰にも言うなよ?」
「ぐうっ」
「…わ、分かった」
「ハハハ。まあたまにはいいもんだろ?別に毒ってわけじゃねえんだ。それにな、コイツが最高に旨いタイミングがある。…知りたいか?」
「ゴクリ」
すでに経験のない旨さ。
それなのにドレイクはこいつがさらに『旨くなるタイミング』があると言い出した。
俄然興味を惹かれる二人。
そんな二人を横目に、ドレイクは冷蔵の魔道具から缶ビールを取り出した。
「お前ら酒は平気なんだろ?」
「う、うん」
「ああ」
そしてプシュッと缶を開け、一気に喉を鳴らすドレイク。
その様子に二人も思わず生唾を飲み込んだ。
「ぷはー。うまい。…まあ1本じゃ意味はないんだがな…少し多めに酒を飲むとするだろ?」
「う、うん」
「そしてほろ酔い加減になる。何でもアルコールを飲むと体の水分が減るらしい。…まあ良く判らんが。するとな、体が水分、そして味の濃いものを欲求するんだと」
「…そ、それで?」
「そのタイミング、まさに酔った時に食べるコイツ。…マジで天国だ」
「っ!?」
分かる気がする。
お酒を飲んだ後、汁物やおかゆなど、確かに旨い。
でも酔ったおかげで確かに味の薄いものは、あまり美味しく感じない。
「っ!?そっか!!だからあの非常食が、メチャクチャうまくなるんだ!!」
「そう言う事だ。…今度やってみろ。まあ、内緒で、だがな」
3人の悪だくみと言うかなんというか。
余りの興奮状態に気づいていなかったが。
実はこの3人の様子、サロンの入り口でザッカートとレルダン、そしてなぜかアランまでもが見ていた。
「…聞いたか?レルダン」
「ああ。…一度試してみるとしよう」
「ふうむ。流石美緒だな。…何よりここまで届く香り。腹が減る」
※※※※※
こうして人知れずカップラーメンの人気はじわじわと上がっていった。
いきなり増えた消費に、美緒は頭を悩ませたが。
真面目な彼女はそのあと幾つかの味を追加し、数量しっかり5倍に増やしましたとさ。
※※※※
そんなこんなあったものの。
更けていくギルドの夜。
深夜帯に食べるカップラーメン。
その旨さの代償は、しばらく続く胸やけだった。
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