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第21話 アルディ捕獲作戦3

「んくっ、んくっ……ぷはー。お仕事の後のエールは最高だね♪」


夕闇の調べ亭―――


アルディは女性2名を侍らせ、特別に用意させた貴賓室でいつものように顔を赤らめ酒と料理に舌鼓を打っていた。


長身の美女がそっとアルディの口元をハンカチで拭う。

もう一人の女性もかいがいしく料理を彼の口元へと運んでいた。


「あー美味しい。やっぱりレマーノはキレイだね。みんな僕の可愛い子猫ちゃんだ♪」


満面の笑みで、二人に視線を向けるアルディ。

その表情は一見すると『親愛』のように見えるが…


瞳の奥には不気味な色が同居していた。


二人の女性はどうにか笑顔を繕う。


機嫌を損ねるわけにはいかない。

少しの機微でアルディは豹変してしまうからだ。


二人の心に湧き上がる、そこはかとない恐怖。


そしてその心の奥底には。

アルディの超絶スキル『偽りの言霊』の呪縛が張り付いていた。


ひとしきり酒と料理を楽しむアルディ。

見た目は少年のようだが、彼は既にとんでもなく長い年月を生きている。


まさに老獪。


その事実を知る店は特に苦言を呈することはしない。

何よりここの店主をはじめ、この国の重鎮たち。


彼らが子供のころからアルディは『今の姿で存在』していたのだ。



※※※※※



暫く料理と酒を楽しんだアルディ。


目を細め、かいがいしく世話をしている女性―――

すでに『供』を指名して十日ほど経過したセイリナに視線を向ける。


「ふふん。……ちょっと飽きてきたかな。ねえセイリナ、そろそろ君にも『特別な場所』で働いてもらおうか」

「っ!?お、お許しを。……精一杯お勤めいたします」

「そう?ならもう少し様子を見ようかな♪」


さらに不気味に歪むアルディの顔。

美しい顔、それは恐怖に拍車をかける。


彼の底知れぬ狂気と、彼女たちに経験のない魔力。


今のこの状態…

実のところ彼女たちには理解が出来なかった。


「ところでセイリナ…君、ケイトたちに会ったんだって?…元気だった?」

「っ!?…は、はい」

「フフン。……『隷属の魔道具』なんてないでしょ?…君にはあとでお仕置きだね」

「お、お許しを…」



※※※※※



この世界には隷属を強制する魔道具がある。

奴隷制度がまかり通るこの世界ではそれなりに認識されているものだった。


実はセイリナ、それを確かめるために以前アルディの世話を焼いていた女性たちを訪ねていた。


しかしまるで痕跡は見つけられない。

何よりその事実、すでにアルディに見透かされていた。


セイリナは体が震えてしまう事を抑えることが出来なかった。


「フフン。まあ、いいけどね…ククク、君も稼げそうだ」

「ひうっ」


その様子にアルディは顔を歪め、グラスの酒を飲み干した。



※※※※※



実のところ。

アルディは女性たちに対し、性的な虐待は行わない。


まあ、「悪戯」程度の事はもちろんあるが。

誰一人、彼によって『散らされた』女性は存在しなかった。


むしろ興味がない?


そんなふるまいを彼はしていた。


性的な興味、と言うより。

彼はまるで生きた人間を『おもちゃ』のように雑に扱う。

そしていつでも新しいものを求めていた。


そう、まるで『遊び』のように。


結果。


多くの惑わされた女性たち。

身体は、心は、精神は―――


ボロボロにされていた。


まさにクズの所業。



※※※※※



その彼の行動は、報いを受けることになる――ゲームマスター美緒によって。



※※※※※



アルディの耳に店内のざわめきが届く。


この店はある時間になるとショーが行われる。

いつもより若干早いがアルディは気にする節もなく長身の女性レマーノを伴い個室のドアを開け、舞台に近づいた。


「へえー。珍しい音楽だね♪……んん?あれは……いいね…『活き』がよさそうだ」


舞台の上では着飾ったルルーナとミネアによる民族的なダンスが披露されていた。

舞踊り美しく躍動する姿に光る汗。


その様子にアルディはにやりと顔を歪めた。


「いいねえ。あの女たち……ねえレマーノ。あとで『あの二人を連れてこい』」

「っ!?はい。承知しました」

「くくく。これはいい。久しぶりにたぎる。……ずいぶん丈夫そうだ…簡単に壊れないでよ?」



※※※※※



「……ねえザッカート。聞こえた?……あいつ本当に人間のクズだ」


今美緒たちは『集音のスキル』でアルディの言葉を聞いていた。


収音スキルは隠密のジョブを持つモナークのスキルの一部だ。

だから当然個室内でのとんでもなく醜悪な会話も掌握済みだった。


何より心ある人をまるで『おもちゃのよう』に扱う精神性。

美緒の怒りはますます募っていく。


「まあな。……おっとカシラ。殺気が漏れてる」

「うあ、ごめんなさい」

「確かに許せねえな。見ろよあいつが(はべ)らせてる女。……まるで見本市だ」


長身の女性。

なぜか体のラインがくっきりとわかる格好をさせられ―――


背中には張り紙がされていた。


『近日中に売却予定…予約はお早めに!』


さらにはうっすらと残る傷の後。

何かしらの暴行を受けたのだろう。


「どうしよう。あいつ今すぐぶっ飛ばしたいかも」

「まあ待て。……情報得るんだろ?後で取り敢えず俺が代わりにぶんなぐってやる。カシラが手を汚すまでもねえ」


「…うん。…お願いね」

「ああ」



そういうザッカートの瞳には、明らかな怒りと侮蔑の色が灯っていた。



※※※※※



舞台は佳境に入り、ますます躍動するミネアとルルーナ。

やがて音楽が止まる。

多くの歓声が彼女たちに浴びせられていた。


「スッゴク良かったよ!!」

「いつまでこの街にいるの?」

「………」


聞こえてくる称賛する多くの声援。

しかしその中に混ざる、彼女たちに対する卑猥な言葉。


それを聞いた美緒は思わず身震いしてしまう。


(リンネの言ったとおりだ。……多くの人の中にいる、いやらしい人たち。…欲望に染まった眼……そしてその心……怖い)


そんな美緒の肩にエルノールは優しく手を乗せささやく。


「心配ありません。あなたは私が守ります」

「う、うん。………ありがとう」

「っ!?……はい」


不安げな美緒の表情にエルノールは思わずときめいてしまう。

しかし頭を振り意識を切り替えた。


「コホン。…それでは作戦決行です。今からあの二人がアルディの部屋へと行きます。……頃合いを見て転移で突入しますので美緒さまは『解呪』の準備を」

「うん。分かった」


そういって頷き美緒は魔力を自身の内側で巡らせ始めた。



※※※※※



称号は呪いではない。

より強いものだ。


通常の解呪は弾かれる。

問答無用に抑えるため美緒は全力を開放し始めた。



※※※※※



「失礼しまーす」

「しますにゃ」


長身の女性レマーノに先導され、ミネアとルルーナはアルディの居る特別室へと尋ねてきた。

一応付き人として変装したロッジノも入室を許され後に続く。


酒場の女将から、踊りを披露した女性は高確率で連れの女性から呼ばれると事前に情報を得ていた。


そしてよほど自信があるのだろう。

付き人までをもアルディは快く迎えるとのことだった。


「やあいらっしゃい。ふう、近くで見るとおねーさんたち、本当に可愛いね♪あっ、僕はアルディ。見ての通りエルフだよ!よろしくね♡」


「はい。呼んでくださってありがとうございます。……ほんとにこんなに大金頂いても良いんですか?」


ルルーナとミネアにはすでに大銀貨の詰まった革袋が渡されていた。


「良いの良いの。ほら、チップだよ。……重いでしょ?そこの彼に渡せば?一緒に飲もうよ♪……ああ、君も席に着くといい。ご馳走するよ」


そういいながらアルディは席を進める。

さながら紳士のような振る舞いだ。


「お気遣い感謝いたしますにゃ」


ミネアは奥歯に仕込んでいた『状態異常解除薬』をかみ砕きながらにこやかに席に着いた。

ルルーナ、ロッジノもそれに倣う。


「さあさあ、飲んで♪……結構いいお酒揃えているんだよねこの店。ささっ、どうぞ」

「あ、ありがとうございます。……アルディ、さま?お優しいのですね」


目を潤ませ上目遣いでルルーナはアルディを見つめる。

当然だが演技だ。


「うあ。……うん、もうルルーナちゃん。かっわいー♡……ねえ、僕と一緒に住まない?……いや『僕についてこい』」

「っ!?……は、はい……喜んで」


いきなりルルーナの表情が変わる。

焦点がぶれ、うつろな表情を浮かべた。


「っ!?ルルーナ様?……アルディさん、なにを……!?」


慌ててルルーナを支えるように席を立つロッジノ。

アルディがかぶせ気味に口を開く。


「うるさいな。ボンクラ。『出ていけ』」


「っ!?……は、い。……承知しました」


ロッジノはまるで人形のように茫然と立ち尽くし、部屋を出ようと歩き始めた。


(くあっ?!強制力がやばい……く、コイツだけは…)


……アルディの目を盗み、どうにか彼のグラスに作戦の根幹である『ブツ』を投入しながら。


ミネアはその異常な状況に自らを抱きしめ涙を浮かべ身を震わす。

もちろん演技だが?


アルディはその様子に偉くご満悦で、ニコニコ顔でミネアに近づいた。


「ひっ……な、なにをしたのにゃ?」

「んーなんだろうね?ははっ、いいよ。ミネアちゃんの怖がる表情♡……はあ、本当に可愛いね…ふふふ…それにしっかり鍛えているね?」


そして近づき、ニヤリと不気味な表情を浮かべる。


「い、いや……アルディ様、あなた……子供じゃにゃいのか?」

「ふふん。僕はこれでも大人なんだよ。2000歳?…さあ、邪魔者は消えた。ゆっくり楽しもうか」


怯えるミネアに満足したのか、アルディは自分の席に着きグラスを傾ける。

そしてにやりと顔を歪めた。


「ふうん…ねえセイリナ。これあげる。……『飲め』」

「っ!?……はい。……ごくっ………うあ……あ…」


グラスを傾け飲み干したセイリナがそのまま気を失った。

アルディはゆっくり立ち上がり、おもむろにミネアの手を掴む。


「あうっ、痛いにゃ?!」

「ククク…もう分ってるんだよ?…悪い子には罰が必要だろ?」


そう言いながら、ミネアの腕に炎の魔力を顕現させる。

焦げる匂い、肌の焼ける痛み――ミネアは思わず声を上げてしまう。


立ち込める独特な臭い―――


刹那、激しい怒りを内包した激情の威圧が襲い掛かる。


突然部屋に出現する3人。

美緒から凄まじい魔力が吹き上がる。


「くうっ!?なにが?!ぐあああっ…!!??」


「『強制解呪』っっ!!よくもミネアをっ!!許さない!!

『速度減少』『筋力低下』『魔力生成阻害』


全力だああああっっっ!!!」


「ひぐっ、れ、レジスト…できない?!…ぐうあ、ああ、あああああっっ?!!」


光が美緒から噴き出し、複雑な幾何学模様を構築しながら幾重にも重なりアルディを包み込む。


青白い神聖な魔力光がアルディの赤黒いオーラを弾き飛ばした。

効果をあげる各種のデバフ魔法。


その一瞬でザッカートとエルノールに抑えられたアルディが声を上げる。


「クソッ『放せっ』……なっ?…ぼ、僕のスキルが?!くそっ、魔力が練れない?!……う、うあああっっ!??」


「いっぺん死ねっ!!この人でなし!!  

もう一度『強制解呪』っっ!!

おまけに『麻痺』はああああああっっっ!!!!」


「ひぎっ……うがあああああああ………」



※※※※※



美緒の魔力放出が終わり、完全にマヒしたアルディを束縛したエルノールが転移してギルド本部に確保。


作戦は成功だ。


宣言通りアルディの顔を一発殴り飛ばしたザッカートに美緒はサムズアップ。

まさに有言実行。



※※※※※



改めて今回の作戦の概要はこうだ。


惑わせ酔わせ解呪し拘束。

至極単純。


立案したのは美緒。


しかし現実を知らない美緒の作戦はやはり『素直』すぎて、いくつもの不安要素をはらんでいた。


多くの場数を踏みいわば『捻くれている』ザッカートはその内容にいくつかの策を絡ませていた。



確実に捕らえるために。



※※※※※



作戦決行の二日前、ザッカートは最後のピースを埋めるため創造神リンネを訪れていた。


「カシラは人が良すぎる。悪辣なアルディの事だ。過去に何度も危機を乗り越えているはずだ。まあ、薬には気づく、か。抵抗薬も期待できねえかもな――リンネ様、間違いねえんですかい?」


「うん。美緒の解呪は特別だよ?魔法もね。あの子の魔力はすでに並ぶもが居ないレベルだ。レジストなんてできない。警戒され逃げられる方が厄介だ。できればアルディに『策は破った』という優越感を与えたいところだね。そして無理やり解呪する……安心した後に絶望に包まれる―――驚くだろうね」


ニヤリと悪い顔でほほ笑むリンネ。

背中に冷や汗を流すザッカートは苦い顔だ。


「……おっかねえな。流石は創造神様だ」

「誉め言葉として受け取っておくわ。……あいつはやばすぎる。確実に捕らえなさい?そして絶対に美緒を守ること」


「ああ。魂に誓って」


跪き首を垂れる。

彼の真剣さと忠心がひしひしと伝わる。


その様子にリンネはため息をつく。


「ふう。あんたたち重すぎ。まったく。……まあ、期待しているわ」

「ははっ。結局カシラ頼みだがな。まあ、フォローはするさ」



※※※※※



そしてもたらされた結果。


ミネアが腕を焼かれ、少し怪我をしたが。

おおむね計画通りに作戦は遂行された。


当然アルディが解呪されたことでルルーナもロッジノも呪縛から解放されていた。


そして実はザッカートの指示を受けていたミネアもルルーナも『それ以上』のことも覚悟してのことだった。

だからこれは文句なしの完全勝利といえる。


……ミネアを抱きしめ錯乱している美緒を除いて。


「ミネアっ!!腕が…あああ、痛そう……ごめんね……!?ああっ、ひどい、血が出て……ごめんね、ミネア、絶対に治すから!!『エクストラオーバーヒール』!!!」


(!?エクストラオーバーヒール???!!伝説級じゃあ……)


「ちょっ、美緒、大丈夫にゃ。!?ま、待つにゃ、いくら何でも……うにゃああああああ、ひぐうっ?!」


美緒の思いやる全開の魔力が弾けうねり、優しくミネアの体隅々まで、撫でるように優しく緑色の魔力が彼女の全身を包み込む。


「うあ、あうっ?!」


最上級の回復魔法は細胞全てをよみがえらせる。

しかし過剰な回復は、むしろダメージを与えることすらあった。


美緒のぶっちぎりの魔力。

余りの強烈なそれに、ぐったりとミネアは気を失った。


「っ!?ミネア!?ミネアっ!!ああああっ!?」


錯乱している美緒はそのことに気づかない。


絶対に助ける!!


その一念で美緒の体から爆発的に目に見えるほどの濃密な魔力が吹き上がる。

さらなる回復魔法を紡ごうと目を閉じた。


「カシラっ!!!大丈夫だ!!それ以上は――ダメだ」

「美緒さまっ!!それ以上は体がもちません。ミネアを殺す気ですかっ!!!」


「っ!?……えっ?……殺す……え………」


二人の呼びかけに美緒の魔力が霧散。

表情が抜け落ち――途端に涙が滲んだ。


「ふう……ミネアはもう回復しています。……艶々でしょう?やや過剰ですが。……いいですか?『強すぎる回復』は逆に体の負担になります。特に美緒さまの魔力は普通ではありません」


「あ……そ、その……ごめん、なさい………わたし……ミネア大丈夫…かな」


どうにか落ち着いた美緒は気を失っているミネアを抱きしめ優しくいたわるように髪を撫でた。


可愛く美しいミネア。

大好きな友達。


ミネアに対し炎で怪我をさせたアルディ。


沸々と怒りが湧きおこる。



「……あの糞エルフ……ミネアに怪我をさせるなんて……」


ミネアの体に魔法を展開し、痛みに歪む彼女の顔をいやらしい表情で見ているアルディが脳裏に焼き付いていた。


「……ザッカート」

「お、おう」


「大きな鋏、準備してくれる?」


「え……あ、うん…そ、その」

「準備してっ!!」


これはしばらくアルディには合わせられないと、ザッカートは心に誓っていた。


もちろん余りの美緒の怒りにエルノールもザッカートもある部位が『ひゅっ』としていたことはここだけの秘密だ。


何はともあれ。


アルディ捕獲作戦。


大成功を収めたんだ。


「面白かった」

「続きが気になる」

 と思ってくださったら。


下にある☆☆☆☆☆から作品への応援、お願いいたします!


面白いと思っていただけたら星5個、つまらないと思うなら星1つ、正直な感想で大丈夫です!


ブックマークもいただけると、本当に嬉しいです。

何卒よろしくお願いいたします。

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