第194話 マイ、猛る?!
ヤマイサークにさんざん説教を喰らった夜。
今日の私の部屋当番だったマイとサクラ。
今就寝前に私たち3人は仲良くお風呂へと来ていた。
「美緒…なんかますます奇麗になってない?そ、その…スタイルも…」
「うん?ああ。なんかね、ファルマナさんが新しい下着用意してくれたの。少し大きくなったみたい」
「はあ。いいな」
なぜか私を凝視し顔を赤らめるマイ。
その様子にサクラはなんか遠い目をしている?!
「マイだって。ずいぶん女性らしくなってきたじゃない。スッゴク可愛くてきれい♪」
マイは美しい。
もちろんサクラもとっても可愛いけど。
ジョブのせいか、マイはあれからさらに可愛くなっていた。
当然だけど私たち3人には『そういう経験』はない。
そして百合の気も…ない?よね?!
でも。
そんな私でも、可愛く美しいマイの傍にいると、なんだかクラクラしてしまう。
オーラ?
魔力?
私の鑑定でも良く判らない力が彼女を包み込んでいた。
まあ。
今のところ『悪性』とかではないので…
問題はないのだろうけど。
「ふうー。気持ちいいね」
「うん」
「サクラ…あなたまだ12歳よね?」
「うん。私夏の生まれなの。7月で13歳だね」
可愛らしい彼女。
未だ12歳。
なのに…?
彼女もまた、ここにきて成長しているようだ。
「そっか。私もうすぐ誕生日なんだよね。2月5日なの」
「っ!?えっ?そうなの?…そっか。美緒、19歳になるんだね」
「うん」
遠い記憶。
私は日本での19歳の誕生日を思い浮かべ、思わず冷めた目をしてしまう。
あの時。
私は講義を終え、一人自室でショートケーキを食べていたんだ。
「…美緒?」
「あっ?!ご、ごめんね?…ちょっと考え事…」
いけない。
この前精神にダメージを負った私の事を、このギルドの皆は凄く心配してくれていた。
暗い表情なんかしちゃいけない。
「…そろそろ上がろっか。…お部屋でお話ししよっ♪」
「う、うん」
「うわー。楽しみ♪」
彼女たちともなかなか時間が取れなかった私。
実は今日の事、私は楽しみにしていた。
そして。
少しばかりの懸念、私はそれを確かめたい。
マイの心の内の覚醒。
実は私の危機感知、少しばかり仕事をしていたんだ。
※※※※※
一方説教を終えたヤマイサーク。
急遽設営された『財務長官執務室』という部屋。
彼は宣言通り、いくつもの魔道具と、美緒の開発した使えそうなアーティーファクトをものすごい勢いで把握。
ガザルト王国を無力化するためにその始動を始めていた。
「ふむ。仕込みは万全―――くくく。慌てふためく顔が浮かびますねえ」
独り言ち、ニヤリと悪い顔するヤマイサーク。
そしてさらに彼は通信を行う。
「…メナッサ…繋がりましたね」
『か、会長?…い、今どちらですか?…まさか…』
「ええ。たどり着けましたよ。…私は今リッドバレーです。…時が来ました」
『っ!?おお、ついに…』
メナッサ。
ジギニアルダの商工会会長であるヤマイサークの右腕。
そして彼には隠された名前があった。
彼の本名、メリナーサ・ガルグ・ガザルト。
先王の息子、正統なるガザルト王国の王位継承者。
今の王である、実の叔父ザイルルドにより命を狙われ、命からがら逃げだしていた王子だった。
「――これであなたとの約束…ついに果たせます。…協力、していただけますよね?」
『っ!?…もちろんです。…私はどう動けばいいですか?』
「ふむ。まずは打ち合わせ、必要でしょう。…八咫烏の頭領につないでください。『旭日の宴』そう言えば分かります。…そうですね。明後日の午後9時。ビリルード競技場の貴賓室、そこにしましょう。…『コードF』です。…期待していますよ?」
『…コードF!?…ハハハ…承知…では』
途切れる通信。
ヤマイサークは遠い目をする。
(優斗君…やっと約束、果たせそうです…)
すっかり冷めた紅茶を飲み、彼はしみじみとため息をつく。
彼の使命、そして目的。
遂にその準備が整っていた。
夜は更けていく。
※※※※※
私の自室。
今私とマイ、そしてサクラ。
3人仲良くベッドに入って、ピロートークをしているところだ。
先ほどから感じていた違和感。
ますます強くなっていくそれに『悪い私』が警鐘を鳴らしていた。
だからこそ。
私は普段なら『絶対に行わない事』をすることを決めていた。
…あとでサクラには謝らなくちゃね。
コホン。
認識したのち悪い私は引っ込んだ。
意図的では釣れない。
だからこれは賭け。
私は普段の私へと精神のコントロールを繋ぐ。
「うん。サクラ…ねえ、私の目を見て?」
「うあ、み、美緒?そ、その…」
可愛らしい彼女。
サクラを優しく抱きしめた。
「私はあなたのお姉ちゃんみたいなものよ?…甘えていいの」
「あう…おねえ…ちゃん…」
薄っすら目に涙を浮かべ、安心した表情を浮かべるサクラ。
(ごめんね…)
そんなサクラに、私は称号『超絶美女』の魅了を全開にしてぶつけた。
「はうっ?!…うあ…美緒?…あう…み…お…」
正直今の状態。
ただ抱きしめているだけだ。
ただの『姉妹』としての抱擁。
でも私の魅了。
その効果、この世界最高峰。
耐性の無いサクラは既に茫然自失。
顔を真っ赤にし、挙動不審になっていた。
そんな様子。
私はちらとサクラの後ろで顔を真っ赤にさせているマイに視線を向ける。
私が今まで経験したことの無い―――恐ろしい魔力がマイから吹き上がり始めていた。
―――覚醒が始まった。
※※※※※
◆IFルート~マイの覚醒~◆
「ふん。男など不要…生きている意味なぞない―――すべて滅ぶか隷属…選びなさい」
ギルドに新たに設置された『女王の間』
その部屋の豪華な椅子に座り、マイは最後まで抵抗を試みたザッカートに冷たい視線を向け吐き捨てた。
「くっ…マイ、目を覚ませ…こんな事…間違っているだろうがっ!!」
「…それが答え?ふん。美緒」
「…は…い…」
マイの隣の椅子に座る『副女王』美緒。
彼女の権能『女王降臨』により、完全なるコントロール下に置かれていた。
「排除しなさい。もういらないわ」
「っ!?…は、は…い…」
吹き上がるとんでもない魔力。
ザッカートは目を閉じた―――
※※※※※
あの日―――
マイは称号『悪逆の女帝:西太后』に目覚め覚醒。
瞬く間にギルドの主導権を掌握していた。
悍ましいまでの傀儡能力に特化した称号。
それは虚無神の本体『鳳乙那』渾身のシナリオ。
幾つもの試練を乗り越えたゲームマスターを絶望の底へと落とす策略。
それが開花した今。
すでに美緒のギルド、生存している男性はザナークとハイネのただ二人となっていた。
そして。
悪夢は終わらない。
美緒に向けていたマイの純粋な恋心。
それは歪められ執着に変わり―――
ついには無理やり隷属してまで、マイは美緒を自分の隣に据えていた。
「アハハ…ウフフ……アハハハハハハハハハ!!!!」
狂ったように笑い声をあげるマイ。
その瞳からはとめどない後悔の涙が流れていた。
(…タスケテ……タスケテ…美緒……)
悪夢は続く。
マイはギルドのみならず―――
全世界の男性を、『排除』し始めていた。
※※※※※
美緒の寝室。
悍ましいイメージとともに、マイの脳内に電子音が流れる。
『ピコン…条件をクリアしました…称号『悪逆の女帝:西太后』獲得しまし―――』
「っ!?ハアアッ!!隔絶解呪!!!」
『ジジ…ジ…エラー…エラー…称号に干渉…ジジジ…称号…変貌します…『ピュアセイント』清らかなる聖女に変貌…能力値にそれぞれ300のボーナスポイント…付与されます…スキル『性の戒め』…解呪されます…異性への耐性…獲得しました…異性への嫌悪感…解消されます…』
――間に合った。
マイは静かに倒れ伏し、目を閉じ優しい寝息を立て始めた。
※※※※※
以前のルート、存在していなかったマイたち。
だけど。
なぜか私の危機感知、最大で警鐘を鳴らしていたんだ。
詳しくは分からないし、まったく知らない称号。
『悪逆の女帝:西太后』
おそらくとんでもなく強烈で、しかもおそらく悪魔に近いその称号。
マイに獲得させるわけにはいかなかった。
彼女はおそらくイレギュラー。
きっと。
性格の悪い虚無神、いや。
鳳乙那、彼の策略の一つだろう。
努力を重ね幸運を最大にし、どうにか助けた女性。
そして刹那で流れ込んできた情景…
マイがギルドのみならず、この世界の男性を排除していくさま。
称号、悪逆の女帝:西太后。
まさに虚無神を乗っ取っていた鳳乙那の仕込んだトラップだった。
「…ふう。…マイ?大丈夫?」
「う、うあ、ああ……うえっ?!わ、私…ひうっ?!ご、ごめんなさい…私、そ、その…」
妖しい気配が突然消し飛ぶ。
そしてマイを包む清廉な気配。
彼女は恐る恐るベッドから抜け出し、自身の体を見回す。
さらには私とサクラに視線を投げ、何故かにっこりとほほ笑んだ。
「…美緒、サクラ?」
「うん?」
「私…生まれ変わったみたい…美緒、私も戦う。…聞こえたの『残念』って。…怖い男の人の声だった…私…あいつを許したくない」
「マイ…うん。私も協力する。もちろんサクラもね」
「う、うん。…マイ、キレイ。…なんか怪しい気配が消えて…凄く清廉っていうか…良かった。…私ね、恐いときあったんだ。マイが違う何かになっちゃうんじゃないかって」
いつも一緒に居たマイとサクラ。
やっぱりサクラもトリガーの一部だったんだ。
「サクラ…ごめんね心配かけて…それから…ありがとう。…サクラがいてくれたから私頑張れた。あなたがいてくれたから私…きっと前を向けた。…これからも一緒に居てくれる?」
サクラがベッドから飛び出しマイを抱きしめる。
マイもそっとサクラを抱きしめた。
そこにはすでに。
百合の気配は消え失せていたんだ。
親友同士の美しい抱擁。
ギルドの、ひいては世界の危機になり得たマイ。
彼女は美緒渾身の隔絶解呪で新たな力と資格を手に入れていた。
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