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第185話 戦闘の後

私とレイリ、そして長い時間を使いとんでもなく複雑な術式を組んでいたレギエルデ渾身の封鎖結界が、気を失いすでに虫の息のザナンクを捕らえた。


ようやく力を抜く私。

そして同時に笑い始める膝。


脳裏を埋め尽くす悍ましい情景。

私は自身の体を抱きしめる。


『絶対に逃がさない』

その想いで私は深くザナンクとつながってしまっていた。


だから彼の作りだした精神空間、私に与えた影響は非常に大きかった。


まさに実際に体験したようなリアリティと感覚。


精神に刻まれた悍ましい情景…

涙があふれ出し止まらない。


私の精神は奥深いところまでザナンクにより浸食されていた…

経験したことの無い絶望と無力感…


弄ばれた尊厳。


もちろん精神体での出来事。

だが深くつながっていたことにより、その体験はまさに現実そのものだった。


その悍ましさは、恐怖となって私の精神の奥深くに、少なくない傷を刻み込んでいた。


何よりも…


あの悍ましいザナンクの精神性。

狂っている。


正直レルダン達の救助があと一瞬遅かったら…


間違いなく私の精神は崩壊していた。


改めてよぎる恐怖。

心の底からの本能的な震えに、私は囚われ…


刹那―――


突然私は温かいものに包まれる。


優しく、そして強く…

労るようにレルダンが抱きしめてくれていた。


「…美緒…大丈夫だ…俺がいる…絶対に守る……お前は…お前の精神は、破壊されてなんかいない!」

「っ!?…う、うあ…グスッ…怖かった…ひ、ひん…うああ、…レルダン……うああ、あああああああっっっ」



※※※※※



美緒の保険。

それは確固たるつながりを持つレルダンとルルーナとの同調だった。


ザナンクの精神に干渉することの危険度。

それを覚悟していた美緒はそういう術式を組んでいた。


結果としてレルダンとルルーナの脳裏にも反映された悍ましい情景。


愛する美緒。

大切な美緒。


彼女が彼らの脳裏の中―――


ザナンクによって暴虐の限りを受けてしまう美緒を見せつけられていた。


今回の作戦の相手は想像すらできないほど格上であろう悪魔。

当然だがレルダンもルルーナも、自らがダメージを負う―――


その覚悟はとうにできていた。


でも。


悪魔の強すぎる権能、それにより壊されていく美しい美緒の精神。


レルダンの視界があり得ない怒りで真っ赤に染まっていた―――



※※※※※



もちろんこれは現実ではない。

悪魔ザナンクの権能『妄想空間』の中での出来事。


当然実際に美緒は触れられてすらいない。


だが悪魔の権能。

それは恐ろしく強かった。


さらには深くつながってしまっていた事。


美緒は結果として少なくない精神的ダメージを受ける。

彼女の明るさを失わせるほどに…


ルルーナは涙をこらえることができなかった。


「美緒…」


零れる言葉。

彼女はそれ以上口を開くことができなかったんだ。



※※※※※



「聖なる癒し!!」

「ホーリーフィールド!!…美緒、美緒っ!!」

「あああ、美緒っ!…ハイキュアー…グスッ…」


既に戦闘は終わりをつげ、今私はギルド本部の治療室でベッドに寝かされていた。


正直私の身体にはダメージは皆無だ。

健康そのもの。


しかし。


あの一瞬で浸食された私の精神。


あり得ないダメージにさらされていた。


接触は一瞬。

おそらく数秒。


でもその一瞬の地獄、私の経験に無いそれはあり得ないダメージとなり、精神を蝕んでいく。


そう、現在進行形で浸食していっていた。


「…もうっ、どうして消えないの?!…呪いでもないし、魔法でもない…ただの悪意…だけど…美緒っ!!」


リンネが珍しく冷静さを欠いている。

ザッカートは怒りに震え、皆は呆然と立ち尽くす。


「…殺そう。情報なんてどうでもいい。あいつを、ザナンクを殺すっ!!」


ガナロが魔力を噴き上げさせる。


既に共有された内容。

もちろん『同期』のスキルではない。

レルダンとルルーナの血を吐くように紡がれた悍ましい事実。


そしてロナンの悟りの極致。


だから正直ギルドの皆の衝撃は、実際に共有したレルダンとルルーナには遠く及ばない。

だがギルドの、美緒の大切な仲間たちはそのほとんどが治療室に詰めかけた。


凄まじい怒りに震えながら。


そっと美緒の手を取るファルマナ。


「美緒…大丈夫、もう大丈夫だよ…ここはお前の家さね…そしてみんながいるんだ…美緒…目を…目を覚ましておくれ…」


「美緒っ!ダメだよ…ボクまだ何にもお礼できてない…だから…目を…開けてよっ!!」


ミコトの悲痛な叫びが響く。


美緒は今。

まさに命の火が消える直前だった。


急激に存在が薄くなっていく。

あの絶望し、自ら消えようとした時とは違う。


でもまさに今、美緒はその存在が消滅する寸前だった。


そこに駆け込んでくるエルノール。

彼はおもむろに美緒を抱きしめる。


「エルノール?!…な、なにを?!!」


そして完全回復スキルを発動、深い口づけを落とす。

エルノールの瞳から涙が零れ落ちる。


「美緒さま…美緒…だめだ…行っちゃだめだ…私を…皆を…置いていくつもりですか?!!…美緒っ!!愛している。だから…」


「エルノール…」

「ザッカート!!レルダン!!何をつっ立っている?!!美緒さまの手を取れ!!お前ら、良いのかこのまま彼女を失ってもっ!!!お前らの想い、そんなものなのか!!!」

「っ!?」

「違う!!諦めない!!絶対に!!!!」


美緒に縋りつく3人の男性。

その様子を見守る皆。


刹那。


美緒の体から七色の光があふれ出す。


機能し始めるエルノールの完全回復スキル。

それはまさに事実の改変。


美緒の心の傷をゆっくりと修復させていった。


さらには美緒を思うギルドの全員の心。

そして彼女を真に愛する男性3人の想い。


そんな中、ザナンクの封印を終えたレギエルデが部屋に駆け込んできた。


「…もう大丈夫だ。…あいつを隔絶空間に捕らえた。もう影響はない」


美緒のギルドは。

最大の危機を何とか乗り越えたのだった。




※※※※※



マキュベリアにあてがわれた上等な部屋。

美緒が治療室へと連れていかれるのを見届けた後、彼女は今ベッドで膝を抱え、涙をこぼし打ちひしがれていた。


(…役に立てなかった…わらわは確かに強くなった…じゃが…わらわは…)


本当は美緒を見守りたい。

でも。


自分にその資格はない。

マキュベリアは一人、怒りと悲しみに囚われる。


美緒がザナンクとつながった瞬間。

きっとザナンクの隠ぺいが解けたのだろう。


夥しいおぞましい情景が彼女の脳裏を埋め尽くした。


正直マキュベリアは既に果てしない経験がある。

男性も女性も。


だから正直弄ばれたこと、それについてはただただ怒りがこみあげてくるだけだった。

何より以前の自分はザナンクより弱かった。

ただそれだけの事。


しかし。


真に許せないのはあの時の美緒への仕打ち。


美緒はまっさらだ。

何よりも美しく優しく…そしてマキュベリアの希望だった。


流れ来る情景。

マキュベリアは眷族の安全すら無視し、最大で吸収―――

極限の魔法を放っていた。


結果ザナンクを止めることができた。

でも憔悴しきった美緒。


マキュベリアは唇をかみしめる。

鮮血が舞う。


でも。


彼女はさらに強く噛みしめた。


(許せん…ザナンク…そして奴を送り込んだ虚無神…さらにほかの大陸に潜む悪魔…)


あり得ない怒り。

ザナンクに向ける怒り、そして。


自らの弱さに対する怒り。


マキュベリアは血の涙を流し始めた。


『…ピコン…条件を満たしました…称号『アンガーアパルソー』憤怒の使徒、獲得しました…ダブルホルダー特典により、レベル上限撤廃されます…各ステータスに500のボーナスポイント付与されます……』


響く電子音。


マキュベリアはうつろな瞳でその音をただ聞いていた。


「主様!美緒が、美緒が…」


そんな中、血相を変え飛び込んできたスフィナ。

マキュベリアが弾かれたようにベッドから飛び起きた。


「どうした?!美緒は…」


涙を流しにっこり微笑むスフィナ。


「目を、覚ましました…主様、美緒が面会を希望しています」

「目を覚ました?…あああ、あああああああああ、うあああああああああああああ」


泣き崩れるマキュベリア。

スフィナはそんな主を優しく抱きしめた。



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