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第19話 アルディ捕獲作戦1

翌朝。

ギルドは熱のこもった高揚感に包まれていた。




「では最終確認を行う。美緒さまの願いだ。皆、気合を入れて欲しい」


サロンでエルノールが作戦に参加する皆の前で大きな声で檄を飛ばした。


「現地へ飛ぶのは私と美緒さま、そして誘惑役のミネア、ルルーナ、潜入するイニギアとロッジノ。総括でザッカート。この7人がメインの班だ。飛ぶのは夕暮れの5時」


名を呼ばれた皆が力強く頷く。


「その前に先発組として周辺の警戒及び下準備でレルダンとサンテス、それにナルカ、モナーク、レイルイドの5名だ。先発組はこの後飛ぶ。残りは対象を捕獲した後の対応の準備をしつつ待機。だが問題が発生した場合は私の判断で飛ぶのでなるべくサロンにいてほしい。以上だ」


全員が大きく頷く。

いよいよ作戦決行だ。


「てめえら、しっかりやれよ。……レルダン」

「ああ」

「これを」


ザッカートはアーティーファクトの一つである『通信石』を手渡した。

これひとつで小国なら買収できてしまうほどの価値のあるお宝だ。


「エルノールの許可を得たお宝だ。もう一つは俺が持っている。可能な限り状況を報告しろ」

「分かった。確実に遂行すると誓おう」

「ふん。心配などしちゃいねえよ。……頼んだ」


皆の瞳が覚悟の色に染まっていく。

私はその様子を心強く見つめていた。


「では最後に……美緒さま、どうぞ」

「えっ!?わ、私?……えっと……」


急に振られ驚く私。


軽く頭を振り真直ぐに皆に視線を向けた。

私の瞳にも覚悟と、そして信頼の色が宿る。


「皆さん、今日の為にたくさん努力してくれてありがとう。信頼しています。絶対成功させて、また皆で美味しいご飯食べましょう」


私は全員を見渡しにっこりとほほ笑む。

そして真剣な表情で言葉をつづけた。


「……一人たりともかけることは許しません。健闘を祈ります」


「「「「「「「「「「「わああああああ――――――!!!」」」」」」」」」」

「「「「美緒さま―――――」」」」


サロンは歓声に包まれた。

雰囲気は最高潮だ。


『絶対に成功する』――私は確信していた。


「よし、それでは30分後に先発組は飛ぶぞ。準備を頼む」



※※※※※



デイブス連邦国。


小国家が乱立していた地域で、数年前の紛争終結を機に各国の王と代表者が調停を結び連邦議会制を確立した連邦国だ。


ヒューマン主体の国家だが商業色が強く交易を盛んに行うため多くの人種が集まりコロニーを形成、結果として多種族が入り乱れる雑多な国民性を醸成していた。


国土の西部は肥沃な大地がおおく広大な農耕地を構築、主に小麦を栽培しており食糧事情は安定している。


南部には広大な湿地帯。

そこを住処とするリザードマンたちとは友好的な関係を築いており、水産資源の豊富な国としても有名だ。


紛争時に疲弊したものの――ここ数年は安定し、国力は全盛期に迫る勢いだ。

多くの種族により個性豊かな文化が混ざり合い、多種多様な言語が飛び交う。


まさに人種のるつぼのような国だ。



※※※※※



今回の作戦はその西部の代表的な都市である『イリムグルド交易都市』で行われる。


イリムグルド中央区よりやや貧民街よりの立地に、今回の舞台である『夕闇の調べ亭』という酒場があった。


以前ザッカート盗賊団の拠点があったムールド高原に近い立地、都合のいい事に食料の買い出しなどの時に訪れていた酒場でもある。


酒場の女将とは顔見知りだ。


その近く、確保しておいた廃屋に魔力があふれ出す。


「よし。全員問題はないな。それでは行動を開始してくれ。レルダン、指揮を頼む」

「了解だ。それでは俺たちは紛れつつ情報を確認する。対象を確認次第通信しよう」

「頼んだ。美緒さまが悲しむ。無理はするな」


言い残しエルノールは転移し姿を消す。

僅かに魔力の残滓がキラキラと煌めいた。


「ふっ、俺達が『伝説の転移魔法』を何度も体験するとはな。…よし、モナーク。早速スキルで奴を捕らえろ。――2時間後にザイール道具店で落ち合うぞ」


「了解だ。『隠匿』………」


スキル『隠匿』を発動し姿を消すモナーク。

前回来た時に既にマーカーはつけてあるので追跡はたやすい。


見届けたレルダンは矢継ぎ早に指示を出していく。


「俺達はこの街でも目立たない。何しろしょっちゅう来ていたからな。だが余計な戦闘は避けろ。特にメンツをつぶされたと思っている『リーディルの連中』には気をつけろ。では散開」



※※※※※



「くそがっ!!話がちげえ!!!」


ガシャーンと派手に音を立て料理を盛られていた皿ごとテーブルが蹴り飛ばされる。

街の中央にある高級料理店の個室では目つきの悪い男が荒らぶっていた。


「おいおい。もったいないことするねー、あーあ。僕まだ手すら付けてないのに」


エルフであろう耳の長い美しい少年が、おちょくるように両手を上げ失笑とともに男に言葉をかけた。


「うるせえ。大体てめえ、金はどうした?ノルマは済んだはずだ」

「んー?ノルマ?あははははっ。ねえ、計算もできないの?僕の身の回りの世話をする人数が抜けているんだ。足りるわけないじゃん。バカなの?」


少年は心底しょうがないといった表情で呆れたようにつぶやく。


「っ!?て、てめ……」

「『黙れ、お前は犬だ』……そうだよね♪」

「……わ、ワン……う、うお、な、なんで……」


男は驚愕の表情を浮かべ、冷や汗をかく。

先ほどの怒りが嘘のように消えてしまっていた。


「…しつけが必要かな」


ニヤリと顔を歪めるアルディ。


そして下される命令。

男は冷や汗を流しつつも、屈辱に肩を振るわせてしまう。


「くふっ、くははははははっ、ああ、いいよお前。はははっ、ぶっさいくな犬だ。笑える……じゃあねー」


スキルで姿と存在を隠匿し対象を尾行していたモナークはその様子を静かに見つめていた。


余りにも異質な一部始終に冷や汗を流しながら……



※※※※※


ここ10日ほど、この貧民街では奇妙な事件が多発しており、住民たちは混乱に包まれていた。

貧民街とはいえ、ある程度の秩序は保たれている。

しかしその中で、突然姿を消す成人女性が多発。

その後、特定の場所で目撃されるという事態が発生していた。


最初は単なる偶然や個人的な事情だと思われていた。


しかし同じパターンが繰り返されることで、町の人々の不安は日に日に増していった。

特に女性の家族にとっては、行方が分からず心配の限りだった。


それらの事件の背後には、かつてこの街で暗躍していたエルフの少年、アルディの存在があった。


彼は以前から周囲を操る才覚を持っており、特殊な能力で人々を翻弄していたのだ。


近年は街を離れていたが、この街に戻ってきてから状況が急変。

アルディは街の様子を静かに観察し、必要に応じて自らのスキルで影響力を行使していた。


表向きは平穏に見える日常の裏で、彼の能力によって人々が翻弄される――

そんな異様な光景が広がっていた。


街の住民や裏社会の者たちも、彼の行動の異常さに気づき始めていた。


だが、彼の行動は直接的な暴力ではなく、巧妙で計算された策略に過ぎなかったため、対策を講じるのは容易ではなかった。


モナークは、先発隊として彼の動向を密かに追っていた。

スキル『隠匿』を駆使し、影から状況を把握する。


目に映るアルディの行動は不穏でありながらも、誰も直接的に傷つけられてはいない。

それでも、今回は確実にケリをつける必要があった。


何より美緒の願い、そして彼らにとっての初めての大仕事でもある。

失敗は許されない。



※※※※※



アルディは街を歩きながら、静かに独り言をつぶやく。

その声には、異常なほどの自信と計算が滲んでいた。

人々は彼の存在を意識し始めており、街全体に緊張感が漂う。


モナークたちにとっては、この緊張感こそが作戦の重要な情報源だった。


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