第176話 悪魔
ゾザデット皇帝との話し合いの席。
今は主にマキュベリアがこの国の歴史についてすり合わせをしているところだ。
もちろん怪しい箇所については共有済みです。
それとナナの以前の婚約者、ラギルードの解呪の段取りについても。
まあ一段落といったところだね。
私はそれを聞きながら、改めて今の状況を整理していた。
※※※※※
◆美緒脳内…タスク整理◆
今のこの世界、レリウスリード。
おばあ様である創造神ルーダラルダが創造した世界。
大元である概念を創世神である黒木大地さん、アークディーツが構築し、その想いを受けて創造神により作られた世界。
つまりは創作だ。
そして既にすべてのシナリオは練り込まれている、完結していたはずの世界。
もちろん絶対者の意味不明なほど高度な権能。
そのおかげで、今あるこれは現実と遜色のない状況だった。
しかしその世界にイレギュラーが発生した。
悪魔と呼ばれる侵略者。
違う摂理の神ともされているが…
悪魔はいわゆる創世神と同等の権能を持つもの。
創世神の構築した概念、そこに土足で踏み込んできた者の配下。
つまりは。
ゲームとしての舞台である私たちが暮らしていた現実世界。
そしてその中で作られたゲーム『魔に侵されし帝国』の舞台であるレリウスリード。
それを設定した原神を多く含む、本当の世界のお父さん、守山奏多が作成した小説。
それに手を加えた鳳乙那。
絶対に許すことのできない人物だ。
仕組みや摂理は分からない。
どうあれ守山奏多が作り上げた物語。
お父さんは何かを対価にし、この世界を構築していた。
それは願い、望み、そして欲望。
きっと守山奏多を構成していた、とんでもない存在である『原神』彼の想い。
だから物語はすでに完結していたはずだった。
そこに同じく原神を含んでいた鳳乙那。
全ての黒幕である彼は、お父さんの作品に手を加えた。
理由も理屈も分からないし―――
正直理解したくない。
だけど結果として鳳乙那は虚無神となり干渉を始めた。
彼の干渉。
本来登場しないもの『悪魔』を多く、この世界に紛れ込ませてきた。
それこそが虚無神の眷属、そして彼の独善で作り出した別の摂理の神、悪魔だ。
それらは新たに書き加えられたもの。
リンネたちが詳しく知らないのも頷けてしまう。
そしてそれは別の可能性をも含んでいた。
書き終えた物語。
そして加えられた異物。
既に物語は破綻していたはずなのに、未だに続いている現実。
それは本来の物語の創作者であるお父さんの元である、本当の現実世界の守山奏多がいまだ書き続けているという可能性。
もちろん確信などないし誰も確かめることのできない事だ。
あの世界にいた守山奏多。
そして彼の作りだした物語。
私たちは彼の想像したものにすぎないはずだった。
そもそも小説や物語の人物。
絶対者である『作者』に干渉できるはずがない。
思えばあり得ない話。
そもそも登場人物であるはずの私たち、今考えそして行動している。
いわゆるプログラムなのかもしれない。
運命というレールに乗せられているのかもしれない。
でも。
私たちは生きている。
感情があり、そして何より願いがある。
そして未来は変わる。
きっと。
想像すらできないような高次元の存在なのだろう。
原神。
彼の思い、そして目的。
それは確かめようがないのかもしれない。
何はともあれ今私たちは生きている。
だから実はとてもシンプルでもある。
出来ない事を悩んでも仕方がないのだ。
※※※※※
という訳で当面の対策。
悪魔への抵抗だ。
元々のシナリオにはいなかった悪魔。
そしてあふれ出す悪魔の眷属。
悪魔の眷属は元々この世界にいた者たちの成れの果てだ。
だからシナリオには存在していた。
でも違う。
彼等はあまりにも強く、そして理不尽になっていた。
特にファナンレイリが感知した、ルギアナード帝国にいたであろう『キズビット』
確かに今の私なら分かる事実はある。
以前の失敗したルート。
あの時も同じ名前の眷属がいた。
そしてもたらしたもの。
それは同じ人間爆弾だった。
でも明らかにその威力が違う。
今回私は間違いなく以前のルートよりも強い。
でも。
どうやら悪魔の眷属、彼らもまた進化している。
◆◆
私は状況を整理し、静かに意識を浮上させた。
※※※※※
「…という訳じゃ。だから今わらわは美緒についた。皇帝よ。間違えるなよ?…美緒は希望、そのもの。…お主らの協力、期待しておる」
「はっ。金言、しかと賜りました」
私の考えがまとまったとき―――
どうやらマキュベリアのターンが終わりを告げたようだった。
私はカップに口をつけ、おもむろにマキュベリアの後ろに立っていたアザーストに視線を向けた。
(…っ!?…あれ?……アザースト……??…うあっ?!…どうして今気づいた?!!)
突然私の記憶というか以前のルートのことが脳裏によぎる。
マキュベリアの眷属、スフィナと…ザナンクだったはずだ。
そうだ。
何で今まで気づかなかった?
本来マキュベリアの目覚めは帝国歴30年。
シベリツールが極大魔法に焼き尽くされて…
命がけでアザーストが守ってマキュベリアは一命をとりとめていたんだ。
そしてアザーストは命を落としていた。
極大魔法?
…ザナンク?
…おかしい。
認識した途端、彼の情報が私の中から消えていく。
「…ねえマキュベリア?…ザナンクって、誰?」
私はかろうじて口にする。
マキュベリアが怪訝な顔で私に答えた。
「ふむ?ずいぶんと懐かしい名を言う。流石はゲームマスターじゃな。2000年前の人物までをも知っておるとは」
そして一瞬訝しげに顔をしかめ、思い出すように口を開く。
「…奴は、ザナンクは…わらわが倒した悪魔の一体よ。改心したのでわらわの下働きとして置いてやっていたのじゃ。…そう言えばわらわが目覚めた時おらんかったな?アザーストよ、奴はどうしたのじゃ?」
「…そう言えばそんな者もおりましたな…はて?記憶が…情報が?……主様」
「む?…な、何じゃ?…ザナンク…誰じゃ?」
どうやらマキュベリアとアザースト。
私と同じように認識した途端、その情報が消えたようだ。
すぐ隣でスフィナまでが慌てふためいていた。
まるでノイズ。
そしてこれは…
私は経験しているはずだ。
アルディに乗り移っていた悪魔の眷属。
実体のない、精神体のような彼等。
私の感が言っている。
ザナンク…彼は敵だ。
私は今思ったことをマキュベリアとアザースト、そしてスフィナと同期した。
もう一度刻み込む。
完全に忘れてしまう、いや、消去される前に。
「「「っ!?」」」
「…ふう。…本当に性格悪いね。それから2000年前から仕込むとか…いるよ?きっと彼」
ゆっくりと頭を振るマキュベリア。
そして彼女からとんでもない怒りの魔力が吹き上がり始める。
「…のう、美緒?」
「…うん」
「わらわは騙されていた。そうじゃな?」
「…たぶんね。…でも、あなたのせいじゃない。何よりおばあ様も気付けなかった。…ねえマキュベリア」
私は真っすぐ彼女の瞳を射抜く。
決意をのせた瞳で。
「リベンジ、するしかないよね?捕まえよう。あなたと私で」
「っ!?…フハハ。そうじゃな。流石は美緒じゃ。…お前、男前じゃな」
怒りの魔力を霧散させ、今度は楽しくてしょうがないという表情を浮かべるマキュベリア。
その様子に彼女の眷属であるアザーストとスフィナが跪いた。
「主様、どうか私めも。…お供させてください」
「わ、私も…ユルセナイ。主様をたばかるなんて…」
「そうじゃな。お主たちも騙されたような物じゃ。良いだろう。ついてくるといい」
事情を知らない他の皆はぽかんとしているけど…
ちょっと説明できない?かな。
「コホン。すみません皆さん。ちょっと思い出したことがあって共有したのです。取り敢えず幾つかの地点、探索の許可をお願いいたします」
私は話を変えることにした。
「う、うむ。分かりました美緒さま。皇帝である私が許可を出します。宰相、手はずを頼む」
「はっ」
リンネがジト目で私を見ていたけど…
(…あとで、ね?)
(…わかった)
ふう。
取り敢えず問題ないかな?
「コホン。あと一つよろしいでしょうか?」
「はっ。なんなりと」
「今更ではありますが…冒険者ナナ、いえ、エルファス嬢の事なのですけれども」
既に報告はしてあるし、何より彼女のお父様には昨日確認を取ってある。
でも一応ナナから依頼されていたのよね。
彼女の前で皇帝や皇女から正式に許可をもらう事を。
「うむ何であろうか」
「この度正式に彼女は我がギルドに所属することになりました。ゾザデットの重鎮の娘であり、最強の冒険者。この国にとって損失でしょうが、認めてくださいますか」
なぜか私の言葉に激しく反応する第2皇女ジナール。
そして目を見開き、ナナを睨み付けている?
「承知いたしました。…アウグストよ、良いのだな?」
「はっ」
よし。
これで問題なく対処に当たれる。
そんな時いきなり第2皇女が爆弾発言をする。
「美緒さまっ!わ、わたくしもギルドに入れてくださいっ!!」
凍り付く謁見の間。
何故かナナは天井を見上げていた。
別の作品「スローライフどこ行った?!」追放された最強凡人は望まぬハーレムに困惑する?!
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