第172話 久しぶりの親子の会話と『不可殺の守銭奴の変人』
古代エルフの国ブーダ。
その秘匿された一室。
そこではフィリルニームの姿であるマナレルナに、まだ少年の姿のガナロが抱き着き甘えているところだった。
「ああ、母様、母様…ああ…」
「ふふっ。もう。…貴方200歳超えたのでしょう?甘えん坊さんね」
「うあ、う、うん。…で、でも…」
フィリルニームの豊満な胸に顔をうずめるガナロ。
優しい香りと柔らかさに、彼は安心しきった表情を浮かべていた。
「ふふっ。本当に可愛い…リンネ?あなたはいいの?」
「っ!?わ、私はお姉ちゃんだから…うう、で、でも…えいっ!」
「キャッ?!…ふふっ、あなたもとっても可愛いわ♡」
「…お母様…大好き♡」
甘える双子。
そして受け止める母親。
まさに幸せが支配する空間。
3人はしばらく、その時間に浸っていた。
※※※※※
未だ封印を施され、美緒でも解呪できない縛りを受けているマナレルナ。
だが美緒の渾身の隔絶解呪。
取り敢えずかなりの自由と時間を獲得することが出来ていた。
改めてお茶を楽しむ3柱。
考えてみれば先代の創造神、今世の創造神、そして破壊神。
とんでもないメンツだ。
そして話す内容。
それはかつてない成長を続ける美緒のことについてだった。
「お母様。美緒は、彼女は……問題ないのでしょうか」
「…問題、ね。……うーん。大丈夫だとは思うけど…何よりあの子、おかしいくらい強くない?」
「ハハ、ハ」
思わず殴られたことが脳裏によぎるガナロ。
つい遠い目をしてしまっていた。
「うん。あの子は、美緒は以前の世界線よりも遥かに強い。…多分『次元』までをもきっと今の美緒ならねじ伏せる。…届く。虚無神に」
瞳に力をともし、はっきりと口にするリンネ。
当然ながら今この空間、3柱渾身の結界で断絶している状況だ。
覗ける者はいない。
口につけていたカップをソーサーへと戻すマナレルナ。
その瞳が一瞬鋭さを増した。
「ねえリンネ。あなた他にも聞きたい事、あるわよね?」
「っ!?……え、ええ」
突然包まれる緊張感。
ガナロは思わずつばを飲み込んだ。
「あなたたち二人、すでに美緒によって解呪された。それはすなわち、この星と同意であったリンネ、そして対になっていたガナロ、その意味を失ったという事なの」
「……」
「もう誰も予想できない。そしてなぞり始める。創世神ではなく原神、全ての始まりである絶対者の思惑が」
真剣なマナレルナの言葉。
二人は思わずつばを飲み込む。
「…原神…やっぱり……そして…」
「ええ。『簒奪者』…虚無神の本体。…大元の世界、つまり原神の一部である奏多さん、それのシナリオを書き換えた許すことのできない男。…鳳乙那。…あいつが飽きて見ていない今のうち、この時間だけが唯一勝てるチャンス。…きっとレギエルデは思い出した。だから彼は動き出すでしょう。リンネ、ガナロ」
厳しい表情をふっと緩め、優しいまなざしを二人に向けるマナレルナ。
二人は同時に大きく頷いた。
「美緒を、私の娘、そしてあなた達のお姉ちゃん。助けてあげて」
「「はいっ!」」
この世界、いやすべての根幹。
マナレルナは触れていた。
彼女はその対価に、全ての自由を奪われていた。
そして隔絶された空間での内緒話は…
真実へと世界をつき進めていく。
創造神と破壊神。
2柱の絶対者は。
心の奥深くにこの事実、そして運命を刻み込んでいた。
隔絶し力を増す美緒。
あり得ない高い勝算を持てたこの世界。
彼等は戦慄する。
最終最後、本当の対。
美緒の中に存在する濃い原神。
そしてそれを御する可能性があるのは美緒一人なのだと、改めて魂に刻み込んでいた。
(まったく。美緒は、お姉ちゃんは…とんでもない運命を背負わされちゃったね)
リンネは覚悟を決めながら、心の中で独り言ちていた。
※※※※※
商業国家ジギニアルダの商工会会長の部屋。
今ここでは、いなくなってしまった『英雄ランルガン』の後釜探しに奔走していた。
「おい、ランルガンの居場所は分かったか?」
「いえ、依然行方不明です。闘技場のある国は少ないので今はガザルトの情報待ちですが…ルギアナードでもその存在は確認できていません」
何しろ強く、そして金銭に執着しない絶対強者。
商業国としてはあまりにも理想的な人物だった。
もちろん多くの商会が所属し『寺銭』での収入は強国の国家予算を軽く上回る。
しかしそうとはいえ闘技場での収入、それは無視できないほどその割合を高めていた。
「まったく。勝手にどこかに行くなど…契約違反ですねえ」
この世界では珍しい眼鏡をちゃきりとかけ直し、怪しく目を光らせる男性。
その様子に同じテーブルについている男たちは身震いをしてしまう。
「し、しかし。…特に契約は結んでいないのだろう?もし契約なら、出ていく事すらままならないだろうに」
「……は?」
「う、うぐっ?!」
ジトリと睨み付けるその男性。
まるで蛇に睨まれた蛙のように、おかしな声が出てしまう。
メガネの男性、ヤマイサークはすっとその男性から目を切り、大きくため息をついた。
「まあ、居ないものはしょうがありません。次の候補、すでにいるのですよね?」
「っ!?あ、ああ。もちろんチャンピオンには遠く及ばないが…我々がスカウトしたものが5人ほど…」
「そうですか。それは僥倖。…分かっていますね?」
闘技場はいわばギャンブル。
多くの金が飛び交う場所だ。
そして形式はどうあれギャンブル、いわゆる博打。
胴元が損をすることは絶対に許されない。
「シナリオ、必要ですねえ。…メナッサ」
「っ!?は、はい」
「いい頃合いでしょう。あなたが仕切りなさい。私は噂のリッドバレーへと向かいます。どうもあそこからは金の匂いがプンプンする。…クククッ。ああ、楽しみだ」
そう言い立ち上がるヤマイサーク。
正直彼には力などない。
只、誰にも負けない信念、金に対する執着があった。
「知っていますか?ある世界では金で買えないものはないのですよ?…命ですら買えるのです。…金は命よりも重い」
とんでもない発言。
普通に咎められる内容だ。
だがここにいる者たちはごくりとつばを飲み込んだ。
守銭奴ヤマイサーク。
どういう訳か、彼は殺すことのできない人物だった。
※※※※※
当然この国は商業国家。
この世界レリウスリードにおいて、金のみを信望する国はほかにはないだろう。
そんな中でとんでもない力を持つ集団『商工会』
その会長であるヤマイサークは当然いつでもその命を狙われ続けていた。
彼の持つ人脈に莫大な資産。
それは誰もが羨む、とんでもない力だった。
普通権力者は、その力故色々と散財をするものだ。
何よりそういうアピールは、さらなる商談につながるもの。
誰もがそう思い、そうしてきていた。
だが彼は、ヤマイサークは普段、驚くほど質素な暮らしをしていた。
金があるくせに貧民の通う酒場で安い貧しい食事をとり、日雇い労働者が雑魚寝をするような場所で平気で寝る。
今彼は会議に出ていたため、それなりの格好をしているが…
普段の彼はまるで浮浪者のような格好で過ごしていた。
『うん?服とは体を守るものです。見た目などどうでもいいでしょう?』
『食事?ああ、栄養の補給ですね。…味?…胃の中に入れば同じではありませんか』
あり得ないほどの節約家。
そして使うときには大胆に、あり得ない額を躊躇なく投資する。
そしてさらに蓄えられる莫大な力と金。
そんな彼に対し面白く思わない人物など、数えきれないほど存在していた。
結果彼には多くの暗殺者が仕向けられるのだが…
何故か誰も彼を殺すことはできなかった。
武力があるわけでもない。
究極な魔法や、彼を守る絶対者がいる訳でもない。
だが誰もが。
彼の信念、そしてその存在に殺意を奪われてしまっていた。
それどころか…
気付けば暗殺者たちはいつの間にか彼の味方へとその存在を変化させていた。
いつの間にかついた彼のあだ名。
『不可殺の守銭奴の変人』
それはいつの間にか、商業国家ジギニアルダの伝説になっていた。
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15日に8話、16日に8話、その後は定期的に投稿いたします。
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