第18話 リンネの告白と本気の抱擁?
情景が頭の中に浮かぶ――――
※※※※※
………200年前リッドバレー王国キャナル―ナ宮殿。
リッドバレー王国は滅亡の危機に瀕していた。
裏切り者である現王の弟『ガレリウス・スルテッド公爵軍』の襲撃により、前線を突破され城下は兵たちにより制圧、すでに宮殿内部にまで攻め込まれていた。
近衛の一部が手に内通し、城内の魔力供給を切ったタイミングでの襲撃。
即座に魔力を発動し結界を構築しようとした王妃であるマナレルナが背中を大きく切り裂かれ、瀕死の重傷を負ってしまう。
そしてなだれ込む敵軍。
王であるガルザナードはマナレルナをかばいながら弟であるガイナルドと2人で絶望的な撤退戦を余儀なくされていた。
「くっ、マナレルナ様っ、くそっ、意識がない。だめだ、レルナ、しっかりしろ」
「陛下、いや兄者、ここはもう持たない。王妃を、マナレルナ様を連れて転移して逃げてくれ。俺が時間を稼ぐっ!!…はああっ『フレイムバーストっっ!!!!』」
ガイナルドの放った魔法が押し寄せる軍勢を押し戻す。
僅かな時間の確保に成功した。
「くっ…かはっ」
「っ!?お、おい、ガイ、お前…」
赤黒い血がガイナルドの口から吐き出される。
みれば右の脇腹に矢が深々と突き刺さっていた。
応急処置をしようとするガルザナードを手で拒み、歯を食いしばった。
「は、はやくいけっ!!ゴバアっ…くあ、はあ、はあ……残念ながら毒だ。……俺はもう助からん。兄者、頼む。希望をつないでくれ……ぐう、があああっ!!!…『混沌の契約・深淵の血族・わが命を糧に……」
ガイナルドは自らの胸に手を突き刺し、心臓を鷲掴みながら古代スペルを口にする。
命を代償とした禁呪だ。
凄まじい魔力が立ち昇り始める。
「っ!?禁呪?!!……すまない、ガイ……くっ『転移っ!!』」
「……『すべからく滅びの鎮魂歌を捧げよ』……兄者……頼む…希望を……マナレルナ様を……うおおおっ『禁呪:滅空灼魔神激』」
極光の波動が天より降り立つ。
刹那空間が振動、超高温の結界が敵軍勢を飲み込み地獄を顕現させる!!
「ぐあっ?!」
「た、退避、たい――」
「だめだ、まにあわ―――」
「っっっ!!!??――――」
光が反転し世界はモノクロに包まれ、音と時間が一瞬消える。
魔素が空間の気体と反応を起こし、原子レベルの相互間転移を繰り返す。
爆発的に超高温の波動が地獄の業火とともに破壊の暴威を振りまいた。
カッ!!!!―――――――――――――ゴオオオオッッ!!!!――――――ドンッ!!!……ズガアアアアアア―――――――ンンンンン―――――――!!!!!
半径500メートルが一瞬で焼き尽くされ消滅していく。
発動地点の宮殿は跡形もなく蒸発し、底が見えないほど深くえぐられていた。
人知を超える禁呪により侵略者で裏切り者のスルテッド公爵軍2000は数人を残し宮殿とともに壊滅した。
※※※※※
美緒の寝室で二人。
呆然と顔を突き合わせていた。
リンネの瞳から涙が零れ落ちる。
「……リンネ、これって……あなた……知っていたの?」
「…うん。ごめんね美緒。私これでも創造神なんだよね。あなたの記憶、一部干渉したの」
「っ!?……理由、聞いてもいいかな」
気付けば立ち尽くしていた二人はソファーへと移動し向かい合う。
ふたりのため息が同時に吐かれた。
「美緒さ、あなたの記憶の中で『ノイズ走った場所』あったでしょ」
「うん。あなたとガナロのところ、かな。……今見せてくれたことろよね」
「私たち実は200年前の襲撃の前に生まれていたんだよね」
「………」
「実はこの世界さ、美緒の知るゲームと少しずれているんだ」
「えっ……そ、そうなの?!」
リンネは悲しそうに笑う。
美緒は何だか居た堪れなくなってしまっていた。
「初代、えっとおばあ様ルーダラルダ様はさ、いくつもの世界を同時進行で創造していたんだ。……平行世界って言えば美緒は分かりやすいかな。ここはその世界の一つなの。そして美緒の知るゲームはね、その中のうちの一つ。記録された世界、もう完結している世界なんだよ」
「……まって。それって……この世界とは違う、つまり色々齟齬が出るってこと?」
「大筋は一緒だよ。設定とスタートは同じだからね。あの世界は一応完結したんだ。まあ後味悪いし、私は納得していない。……美緒さ『その後』知らないよね?」
確かにあのゲームでは皇帝を倒したところで終わっている。
多くの人々が希望を取り戻したところで……
その後の事は一切語られていない。
「滅んじゃうのよね。結局……あうっ、時間切れ」
「っ!?」
みるみる大人だったリンネが縮んでいく。
あっという間にいつもの10歳くらいの美少女が美緒の前でちょこんと座っていた。
「ふうー。この姿だとビジョンを見せられないからさ。だから最近魔力の充填してたんだけど…まあいっか。とりあえず見せてあげられたしね」
「……どういうことか教えてくれるの?」
「うん。だから来た。……あと美緒にお説教」
「っ!?お、お説教?わ、私……あうう、うん。みんなに迷惑かけた、よね」
にこりと笑い美緒の隣に移動するリンネ。
「本っ当にあなた可愛いわね。体も成長したし」
「なっ!?な、な、何言って…ひうっ!?」
そして抱きついてきて私をまじまじ確認するリンネ。
「んー?育ったね?ふーん、とっても奇麗で可愛い。……うんうん」
「やっ、あう、ちょっ、ちょっとそんなに見ないでよ」
顔を近づけ触れそうになる距離。
そういう経験のまったくない美緒は、同姓とはいえドギマギしてしまう。
「ふーん。腰の造詣も理想的…美緒。元気な赤ちゃん産めそうだね!」
「あう…だ、だから、やめっ、うひゃん♡」
今度は私の腰を優しくつかむリンネ。
びくりと肩が跳ねる。
正直これはただのスキンシップ。
でもそういう触れ合いを全く知らない美緒は、顔を赤らめ、涙がにじむ。
その可愛すぎる反応にリンネはちょっとしたイタズラ心が沸き上がり、強く美緒を抱きしめた。
………………………
「あうっ?!リ、リンネ?!」
ゴソゴソ…
「ひゃん」
………
…
「はっ!?…っと。……いけない。……美緒が可愛すぎて思いっきり抱きしめちゃった……てへ♡……おーい、美緒?ごめんね?…美緒?!……………大丈夫?」
さんざん感触を『楽しんだ』コホン……『確認』したリンネは美緒を開放し改めて見つめる。
そんなリンネを、美緒は真っ赤な顔で見つめ返す。
「うあ……う、うん……はあ……えっと……だ、だいじょぶ」
真っ赤にゆだった顔でうっすら涙を浮かべる。
うるんだ瞳でささやくようにとぎれとぎれにつぶやく美緒。
ありていにいって、メチャクチャ可愛い。
(うわ―――――っ!!!!可愛すぎかっ!!!……はあ、はあ……こりゃエルノール、心配するわけだわ……同姓の私でもクラっとしちゃうもん)
「…これが『お説教』なの?」
「あー、う、うん。まあ、その……えへへ」
「???」
(……落ち着け私。……頑張れリンネ。……ふう)
※※※※※
「コホン。まずはこの世界で美緒が勘違いしているところを教えるわ」
余りの可愛さに直視できずに、間を置くためにリンネ自らがお茶の用意をし。
取り敢えず落ち着いたところで話を切り出した。
「勘違い?……う、うん。お願いします」
「貴女の記憶というか情報は間違ってはいない。まあ殆どはこれから起こることだし、大筋は変わらない。でもね、美緒はさ……この世界やっぱり『ゲーム』だって思っているでしょ?そしてあなたは『プレイヤー』だと」
「えっ?そ、そんな事……」
「思ってるよ」
少し怖い顔でリンネが言い放つ。
「だってあなた『自分は死なない』しゲームで起こること『以外の干渉』は受けないと思っている。だって自分はプレイヤーだから、俯瞰しているから、ってね」
「っ!?」
「……死ぬよ?普通に。――まあ美緒は鍛えたから多分魔物相手では死なない。油断もしないだろうしね。でももし普通の人がニコニコしていきなり切り付けたら?それから今のままあんた外に出ればきっとすぐに騙されて…ひどい目にあうよ?」
「えっ……そ、そんな……」
「危ないのよあんた。ガード緩すぎ。子供じゃないんだよ美緒は。スッゴク可愛くて、この世界ではれっきとした大人なんだ。……もう『私は可愛くないから』とか言わないよね?」
「……うん」
「ごめんね。でも大切だからもう一度言う。ここは美緒がどう思おうが『紛れもない現実の世界』だ。地球と同じで様々な思惑の人たちがいる」
そういい紅茶を口に含むリンネ。
「……本当に最初がザッカートとかで良かったよ。あいつら性根はいい奴等だ。でもね美緒?日本で働いていたあなたならわかるよね?他人は無関心だし攻撃性を持っている」
美緒はかつてを思い出し思わず身震いしてしまう。
無意識に歯がカチカチと音を立て、自分を抱きしめる。
恐ろしさが湧き出して涙が零れた。
そんな美緒の手をとってリンネは優しく握りしめた。
「本当にごめんね。でも信じて?あなたが『リンネも助ける』って言ってくれて本当に嬉しかった。だから私もあなたを助けたいの……心配なのよ。……美緒には自分自身の事もっと大切にして欲しいの」
「ヒック……グスッ……うん……」
「ん。分かればよろしい。……あっ、もうこんな時間だね。一緒に寝よっか。慰めてあげる。私こんなナリだけどあなたの10倍は生きているから、甘えて?」
「……リン…ネ……ぐすっ、うああ、ああああああああ―――」
※※※※※
暗く静まる美緒の寝室。
「ねえリンネ……起きてる?」
「……うん」
美緒は今ベッドでまるで子供のようにリンネに抱き着いていた。
彼女の心臓の鼓動が感じられ、心が落ち着いていく。
「あのゲームはさ、平行世界の一つ。そして完結した、のよね?」
「そうね」
「もしかして時間とか…貴女たち神様は移動できるってこと?」
リンネは慈しむように美緒の髪を撫でる。
「…ん……気持ちいい」
「ふふっ、可愛い。……私たち神はさ、寿命や能力以外はあなた達人間とほとんど同じだけど、一つだけ大きく違うんだよね」
「……」
「平行世界にはさ、同じ人たちがいるんだ。だって選択で分岐するからね。でもあなたたちは感知できない。その世界に一人だけだ」
「……うん」
「私たち神はね、全部ではないし状況にもよるけど感応し合えるんだ。情報を共有できる」
「っ!?……そう、なんだね」
「時間は……うーん、あなたたち人だときっと理解できないと思う。だから今日はここまで。また今度ね?……おやすみ、可愛い美緒」
「……うん。ありがとうリンネ……おやすみ…なさ……い………」
怒涛の一日だった。
疲れ果てた美緒はすぐに安らな顔で、寝息を立て始めていた。
「……おやすみ……美緒。……いつか全部話すね――許して…くれるかな……」
そんな美緒を慈愛の籠った瞳で見つめ呟き、リンネは目を閉じた。
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