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第170話 ゾザデットの闇

楽しかったピクニックの翌日。


私はナナと二人、レリアレード侯爵家を訪れていた。

今は彼女の部屋で寛いでいるところだ。


「ねえ美緒。二人だけでいいの?エルノールとかレ、レギエルデ、とか…そ、その…」


「うん。今日はさ、エルノールもレギエルデも別件があるんだよね。リンネとガナロもね。最初コメイを、とも思ったんだけど…彼ってほら、アレじゃない?」


「あー、うん。…まあいいけど。お父様にはすぐに会えるけど…どうする?」


「うん。お願い」


二人打ち合わせをし意志を確認していると、すぐにノックして入ってくるアメリア。

手際よくお茶の準備を整えてくれる。


かぐわしい紅茶の香りがナナの部屋を包み込む。

淹れたての紅茶。

私たち二人はそっとそれに口をつけた。


そして私の顔を見て何故か頬を赤らめる彼女。


「お、お久しぶりでございます。美緒さま。ご機嫌麗しく」

「アメリア様。お久しぶりです。いつもありがとうございます。…紅茶、とっても美味しいですよ♡」

「はうっ♡…お、お口に合うようで、何よりです」


なぜかジト目のナナ。

私は思わず咳払いをしていた。


「コホン。あの、アメリア様?侯爵様はご在宅ですか?」

「はい。もちろんでございます。エルファスお嬢様、お呼びしても?」

「…ええ。お願いね」

「かしこまりました。それでは美緒さま、ごゆっくりお寛ぎ下さいませ」


丁寧なお辞儀をし、部屋を後にするアメリア。


「美緒の人たらし」

「うぐっ、えっと…」


彼女が退室したのち、ナナが私に対しつぶやく。


まあね。


今や『超絶美女』のパッシブ、だれかれ構わず魅了してしまうほどに成長してしまっていた。

もちろん切っているのだけれど?


思わず私はため息をついてしまう。


「まあ、しょうがないよね。美緒最近、ますます可愛くてきれいだもん。あっそうだっ!」

「うん?」


そう言い何故かナナは立ち上がると、私を立たせそっと抱きしめた。


「うあ、な、なに?」

「んふふ♪ねえねえ、あのあとね、自分でちゃんと測ったの。そしたらね…美緒の言う通りだったよ…私の胸、成長していたの♪」


あー。

ソウデスカ。


うん。

まあ、大事な事よね。


私は取り敢えず彼女の大きさを確かめた。


「ひうっ?!」

「良かったね」

「うあ、そ、その……え、えいっ!」


何故か今度は私に触れるナナ。

途端に顔が赤く染まる。


まあ。


ナナは優しく触れてくれる。


リンネとか最近遠慮ないのよね。

私は思わず遠い目で、されるがままになっていた。


なんかもう一人、妹が増えたみたい。

最近のナナ、以前の険が取れたのよね。


うん?

ノックの音?


あー、ナナ、何故か夢中になっていて…


「…えっと…ナナ?」

「う、うん?」

「侯爵様、来たのだけれど…」

「ひうっ?!」


「コホン。ノックはしたのだがな?…美緒さま、うちの娘がご無礼を」

「いえいえ。スキンシップです。私とナナ、仲いいのですよ」


何故かいぶかしげな表情のアウグスト様。

私はこっそり念話でナナに告げた。


(貸し1つ、だよ?)

(…う、うん)


何はともあれ私たちはアウグスト公爵と3人、テーブルの席に座った。



※※※※※



事前に用意された紅茶をナナが淹れ、私たち3人は対面し話し合いを始めた。


既にグラード侯爵家が保有する倉庫群の問題については解決をし、百人に届こうかという数多くの子供たちは解放済みだ。


今回救うことができた子供たち。


幾人かは命の危機があったので私が回復を施したけど。

実は他国の住人も多く含まれていた。


「美緒さま。ありがとう存じます。…皆命に別状はないようです。今は皇居の横の教会で保護をしている状況です」


「そうですか。身元の確認は終わったのですか?」


「ええ。ただ…数人問題のあるものがおりまして…獣人族の国エルレイアの第3王子とダラム王国の第4王女が囚われておりました。特に第4王女は…そ、その…」


この大陸にある同盟国―――

獣人族の国エルレイアとダラム王国。


他国の王族までもが、今回被害に遭っていた事実。



居た堪れない空気が部屋を支配する。

アウグストは唇をかみしめる。


「…許されざることです。もちろんダラムの国王には通信石で報告しましたが…出来れば『穏便』に、と」


「っ!?…それはつまり…秘匿…『死んだことのまま』にするとの事でしょうか?」


「…悔しいですが…すでにあの国では国葬までをも執り行っております。今更生きていた、さらには精神の崩壊。…残念ながら彼女があの国で生きる道は閉ざされてしまいました」


ダラム王国の第4王女は現在17歳。

美しいと評判だった彼女。


実に2年前に攫われていた。


そして薬物をともなった酷い仕打ち。

助けたとき彼女はすでに自分のことも分からなくなっていた。


やっぱりこの大陸を包む闇、相当に根が深そうだ。


思わず3人、ため息をついてしまう。


「…このことは皇帝とも共有済みなのでしょうか?」

「ええ。…美緒さま、明日お時間いただけるでしょうか。皇帝が是非面会をと」


私は大きく頷く。

ここでケリをつける。


「まだまだ怪しい場所もございます。それに先日療養先から戻られた第一皇女であるミュライーナ殿下が是非お礼をしたい、と。面会を希望されております」


「はい。問題ありません。ただ、この国の北の地、シベリツールにいた伝説の真祖、マキュベリアも同行いたします。よろしいですね?」


「ええ。承っております。…なんでも究極の美貌の持ち主とか。さらにはとんでもない実力者と聞いております…2000年前の伝説…凄まじいですな…」


思わず遠くを見つめる侯爵。

すでに彼の想像を超えてしまっているのだろう。


紅茶のお替りを淹れ、席に着くエルファス。

決意を込めた瞳で、父である侯爵に視線を向けた。


「…お父様、わたくしも同席しても構いませんか?」

「っ!?…ふっ。いつの間にか子は成長するのだな…もちろんだ。お前のその瞳…覚悟を決めたのだな」


「ええ。わたくしは確かにレリアレード侯爵家が娘。ですが今からはわたくし、いえ、私は美緒のギルドの冒険者ナナです。お許しいただけますか?…もちろん学園はちゃんと卒業いたします」


見つめ合う父娘。

一瞬の静寂が訪れる。


「ふう。…必ず定期的に顔を見せに来なさい。それから無茶はいけないよ?いくら強くても、お前は私の大切な娘だ。それは絶対に変わらない。…それが約束できるのなら…認めよう。…美緒さま、どうか我が娘、よろしくお願いいたします」


「はい。エルファスは、ナナは凄く強くなりました。私からも是非お願いいたします。ナナはうちのギルドのエースです。そして…私の親友です」


「っ!?ハハハッ。そうですか…美緒さまの親友…ああ、エルファス、お前は本当に自慢の娘だ」


「お父様…はいっ。しっかりやります」


強い信頼で結ばれている父娘。

私はそれを羨ましく思っていた。


でも。


以前のような寂しさはない。

今、私には愛する妹弟、そして大好きなお父さん、お母さんがいる。


ああ。

全ては繋がっているんだ。


私はそう思い、嫉妬を上回る慈愛でその様子を見ることが出来ていた。



※※※※※



「それでアウグスト、例のグラード侯爵様はどのような反応でしたか?」


「ええ。エルニッシは白です」


そう言いながら幾つかの調査結果を私に手渡す。

…うん。

確かにエルニッシさんは問題がないようだ。


「…息子であるラギルードについては現在軟禁して様子をうかがっています。ただ…彼の執事長、どうやらこの国の闇とつながりがあるようでして…私と会談した5日後、彼は死体で発見されました」


実は私はそれを知っていた。

探っていたドレイクから報告を受けていた。


「そう、ですか。……皇帝のお兄様…そうなのですね」


「残念ですが。ただし全くと言っていいほど証拠がありません。状況的には間違いがないとは思うのですが…」


紅茶でのどを湿らす侯爵。

改めて私を見つめ口を開く。


「あとは、ガザルト王国の大使、どうやら一枚かんでいるみたいです。そしてかの国の大商会『ルオールイ商会』…グラード侯爵家と3年ほど前から取引の増えた商会です。そこの責任者、行方をくらましました」


「ガザルト…やはりかの国は…分かりました。詳しくは明日と言う事ですね?」


「ええ。ここでは完全な遮断が出来ません。どこに耳や目があるか…ふがいない事ですがどうやら私たちの想像の上のようです」


やはりつながる悪魔とその眷属。

そしてガザルト王国の暗躍。


ロナンのもたらした情報にあった『心が全く見えない人』が多くいた事実。


彼によればそれは悪魔の眷属に憑かれた症状の一つだ。


「そうですね。アウグストは本当に優秀です。…流石はナナ、エルファスのお父様です」

「っ!?…光栄です」


顔を赤く染める侯爵。

何故かナナもとっても満足気なんだけれど?


本当にあなた達、仲がいいのね。


何はともあれこれで皇帝との面談が決まった。

いよいよ明日、ゾザデット帝国の闇に切り込む。


私は気合を入れていた。



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