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第169話 いろいろな調整2

ギルドに設置されている図書館。

今そこの閲覧コーナーには大小さまざまなツルの折り紙が山のように積み上げられていた。


「うー。これでやっと835個…琴音~もういいんじゃないかな?」

「ダメ。言われたでしょ?ちゃんと1000個作る。しっかり魔力も入れなさいよね?今作ったツル、動かしてみなさい」

「う、うん…」


レギエルデの課題。


それは魔力コントロールがいまいち未熟だったミコトに対して、細かい作業を丁寧に行う訓練だった。


浮き上がるツル。

やがてそれは光を纏い仄かに発光を始めた。


「…だいぶ良くなったね。でもまだ単色…これを七色にしないとね。さあ、あと165個。頑張りなさい」

「あうー。もうヤダ~」


涙目のミコト。

この訓練を始めて2日目。

実はすでにコントロールの精度は初めのころとは比較にならないくらい上達していたのだが…


「できたっ!!」


二人の横ではせっせとトポがとても同じツルとは思えないような高度な折り紙を作成していた。

まるで生きているような躍動感あふれるその作り。

既に『特産品』と言ってもいい様なレベルにまでその実力を伸ばしていた。


「ううー。なんでトポそんなに上手なの?…もう1000個以上出来てるし…」


ジト目を向け零すミコト。

そんな様子を十兵衛は瞑想しながらも優しい瞳を向けていた。


「ふむ。こんな修行方法もあるとはな…流石はレギエルデ殿…素晴らしい事だ」


『修行イコール刀を振る』という公式がこびりついている十兵衛は…


当然ながらツルを折ることはできなかった。

今はせめてもと、心を静め瞑想をしていたのだが…


「ふふっ。あなたのその大きな手。確かに細かい事には不向きですね?…まあ、私はあなたの大きな手…とっても好きですけど…」


さらにはなぜか一緒に居たモミジ。

そっと大きな手を取り十兵衛を見つめ、顔を赤らめる。


思い出すジパング決戦の2日前の夜。


深い眠りに囚われ意識の無かった十兵衛。

何しろ過去を思い出し、子供の、トポの精神が出ていたとはいえ彼の大きな手、それが彼女を包み込んでいた。


脳裏に浮かぶあの夜の情景。


甦る感触。


思わず自らを抱き、赤い顔で十兵衛を見つめてしまう。


「うぐっ?!!も、モミジ殿?…そ、その節は…」


もちろん十兵衛だって成人の男性。

女性の事は普通に好ましく思っている。


何よりモミジは超絶美人。

スタイルだって素晴らしい。


朦朧としていたとはいえ彼は美しい彼女に触れていた。

そして当然途中から自覚もしていたし、そういう欲求だってあった。


さらには直接……


「……もう一度しますか?…え、えっと…ぼ、母乳は出ませんけど…」

「ひうっ?!な、な、何を…」


見つめ合い火が出るほど赤く成る二人。

その様子にミコトはさらに大きくため息をついていた。


「まったく。…さっさと(つが)えばいいのに」

「ねえ」


思わず頷く琴音。


「番う?ミコトねーちゃん、それって?」

「うん?赤ちゃん作ることかな」

「っ!?赤ちゃん?…見たい、ねえ十兵衛、モミジ、僕赤ちゃん見たい!」


思わず二人の世界に突入していた十兵衛とモミジ。

トポの真直ぐな言葉に我に返り、挙動不審になってしまう。


「あ、うあ、え、えっと…」

「コホン…せ、拙者、用事を…そ、その、御免」


慌てて図書館から出ていく十兵衛。

その様子に少し不貞腐れた表情を浮かべるモミジ。


まだ二人の春は芽吹かないようだった。


「…十兵衛、体は大きいくせに…ヘタレだね」

「そうだね。…ミコトは誰か好きな人いないの?」

「うん?私?…私は琴音が好き」

「うあっ?!ちょ、ちょっと…こらっ!」

「うーあー…癒される…うん?なんかいつもよりも感触が…はっ?!これが訓練の成果?」


何時もよりも伝わる感触がより鮮明になっていることに、ミコトは驚愕に包まれる。

そしておもむろにツルを折り始めた。


(ヤバイ。マジでこれ効果ある…絶対にもっと細かいコントロール、身に着ける!!そして…そのうえで…ゴクリ)


何故か背筋が寒くなるようなじっとりとした視線を琴音に向けるミコト。

思わず貞操の危機を感じる琴音なのであった。


「まったく。…私も失礼しますね」


そう言い残し図書館を去るモミジ。


ジパング組の恋模様。

それはいわゆる少し『不穏な空気』に包まれていた(笑)



※※※※※



「なあロナン」

「うん?」


一方ギルドの2階、エインの部屋。

何故か一緒に居るロナンに、エインは問いかけていた。


エインのスキル『ジャックポット』

それに興味を持ったロナンに色々説明をしたところだった。


「お前のスキル『伝心』…いや今は進化して『悟りの極致』か。それっていつでもほかの人の心の声とか聞こえる感じなのか?」


なぜか心配そうな表情で問いかけるエイン。


「ううん。普段は聞こえないし聞こうとはしていないよ?そうじゃないと頭がパンクしちゃうんだ。…心の声って実は結構きついんだよね。欲望が直接だからさ」


「あー。…それはきついな」


すでに美緒の同期で今ここの住人はお互いの能力、ほぼ把握していた。

ロナンのスキル、それは実にチートであること、それは皆の認識だった。


何しろ装うことができない。

誰しもが心にある欲望。

それはきっと原初の想い、渇望に近い。


通常人は想いにフィルターをかける。

当然理性があるし、何より心の奥の望みは『ドロドロしている』のが常だ。


それを直接聞かれてしまうのだから。

聞いてしまえば成程、少なくない精神的ダメージをロナンは被ってしまう。


「でもここのギルドの人たちの心の声は凄く理想的なんだよね。攻撃性がないっていうか、素直っていうか…まあ美緒にはちょっと教えられないけど…」


「うぐっ?!」


美緒のギルドの皆。

特に男性はほぼすべてが彼女の事を慕い、憧れている。


だからきっとその心の声。

聞かれたら誰もが立ち直ることは難しい内容なのだろう。


「…でもさエイン。それはないんじゃないかな?…美緒を抱いて寝たいとか。…エインは美緒をぬいぐるみみたいに、触りながら寝たいんだよね?エインもう大人なのに…」


「ぐはっ?!」


「…確かに美緒は可愛い。スタイルもいいし?…あの華奢な体なのに出るとこしっかり出て…それに最近また少し大きくなった、のかな?…めっちゃいい匂いするしね。…でもさ」


「お、おい、か、勘弁してくれ…なあ、俺だけ、なのか?」


「うん?ううん。男性陣はほぼ全員かな。ザナークさんにはそういう欲望ないんだけどね。まあ『抱いて寝たい』ってのは少数派?もっとエグイ人もいるし。…かなりの人が『ごにょごにょごにょ』って思ってるし」


「お、おう…」


まあ。

健康な男性。


それは仕方のない事なのだろう。


「あー、誰とは言わないけど…『罵られたい、踏まれたい』って人もいるよ?」

「…ロナン」

「うん?」

「お前、それ、絶対に言うなよ?まじで自殺しかねん」

「う、うん」


ロナンのスキルはすさまじい力を持っている。

進化し『悟りの極致』になっている今の彼のスキル。

既にレジストなど出来るレベルを超えていた。


大きく息をつくエイン。

彼は恐る恐る気になっていた事を聞いてみた。


「なあ…美緒さまを恐れているギルドの人は多いのか?それから…ここから出たい、とか」


問いかけた内容。

余りの事に思わずごくりとつばを飲み込む音が部屋に響く。


「…う、うん。…勘違いしないでほしんだけど…心は幾つもの色をもっていろんな声があるんだ。だからさ、同時にいくつもの声が聞こえる。だからかな…正直『怖い』ってまったく思っていないのは…ナナとエルノール、後はガーダーレグトとマルレット、レリアーナにルルーナ、ミネア、フィムルーナ、ハイネくらいなんだよね」


ふうっと息を吐くロナン。

でもその瞳には明るい色が乗っていた。


「もちろんリンネ様とガナロ様も思っていない。あの二人はすっごく心配しているんだ。ザナークさんとファルマナさんもね」


そう言い少し冷めた紅茶でのどを湿らす。


「…ああ、でもここから出たいって思っている人はいないかな。みんなここの事は大好きだよ?もちろん美緒のこともね。…あとね、美緒は…彼女はきっと本人も認識できていない人格がある」


「っ!?」


美緒の同期。

実はギルドでは全力の同期は行われていない。


だからきっとほとんどの者は彼女の中の3人目、認識できていないはずだった。


でも、思い当ってしまう。


美緒は最近凄く明るくなった。

でも当初の頃、彼女は結構な割合で物凄く覚悟の決まった顔をすることがあった。


見ているものまでもが、恐怖してしまうほどに。


(そうか。…やっぱりそうなんだな…でも…)


エインは大きく息を吸う。

そしてロナンに視線を向けた。


「サンキュ。少し理解できた気がする。でもな」

「うん?」

「俺達は美緒さまのことが大好きだ。もちろん恐怖だってあるさ。何しろ全くかなわないんだからな、あり得ねえとは思うけど、もし美緒さまが俺達のこと殺そうと思ったらきっと瞬殺だ。…普通に怖いさ」


「エイン…」


「だけどな?俺は、俺達はもう決めたんだ。俺達の命は全部美緒さまに捧げた。だから本当は怖いなんて言いたくねえ」


エインの瞳が覚悟に染まる。


「…何より一番怖いのは…美緒さまが『いなくなる』ってことだ。…なあロナン?俺は勝手に思うけど…ギルドの皆の怖い感情ってのはそっちなんじゃねえのか?」


慕う美緒。

守りたい対象。


でも彼女は隔絶している。


だからこそ怖い。

未だに彼女は儚く見えてしまう時がある。


理由は分からない。

でも…


「う、うん。…そうだと思う…怖い感情なのに…心配が一緒なんだよ…そうか、そう言う事か…ハハッ、やっぱりここは天国みたいなところだね…少し理解したよ」


ロナンは最初不思議だった。

あんなに優しく可愛らしい美緒。


どうして皆の心の奥に恐怖が付きまとうのか。

でも今エインと話をして分かったことがある。


恐怖は通常負の感情。


でもここの皆は…


それ自体を心配で、温かい感情で包み込んでいたんだ。

だから覗いたロナンにダメージがほとんど伝わらなかった。


(ああ、凄いな…そして、俺もここの一員なんだ…マジでうれしい…)


思わず顔を染めにやけるロナン。

エインは訝しげな表情を浮かべる。


「コホン。…うん。問題ないと思うよ?本当にここは凄いね。…ありがとうエイン」


「な、なんだよ急に。…新参とはいえお前はもう俺たちの大切な仲間なんだ。そういうハズイこと言うなよな」


「う、うん。わかった」


思わず見つめ合う二人。

途端にどちらともなく声を出して笑い合う。


「あー、なんか安心したら腹減ったな。サロン行こうぜ」


「うん」


今回ロナンから聞いた情報。

エインはいつかみんなに打ち明けようと決めていた。


きっとそれは美緒の為になる。

そう思えたんだ。


そしてこれがまた実に美緒の幸運値のなせる奇跡だった。

深い理解、そして自身の心の機微。


それを理解するギルドの皆は、気付けば恐怖心が無くなっていくのだから。

そしてそれに沿う形でさらなる覚醒を果たす。



美緒のギルド。

まさに最強へと、その力は天元を超えていくのだった。


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