第163話 創世神の行方とこれから
気付けば。
私は目の前のジャスミン茶に口をつけていた。
ほんの一瞬。
きっと同期した時間はおそらく数秒にも満たなかった。
でも。
目の前の二人は額から冷や汗を流していた。
「…美緒、あんさん、えげつないにも程があるで?…なんや、こんなんめちゃくちゃやないかい。全部救う?なんや自分、難易度爆上げやないかい。ほどほどでええんちゃうん?そないやったら今すぐにでもクリアできそうでんがな」
同期が完了したのだろう。
コメイが困惑の表情で捲し立ててきた。
「嫌だ」
「はあっ?」
「中途半端は絶対に嫌だ。私はシナリオ全部クリアして、そして全部救う。もちろん私も幸せになる」
私は最初から決めていた。
絶対に全部救う。
そして一つだけ変わったこと。
その中にわたしは『自分』を入れることにしたんだ。
私の宣言にレギエルデは優しい表情を向ける。
「ふう。流石はゲームマスターだ。…うん。僕もそれが良いと思う。完全勝利を目指そう。美緒?」
「うん?」
「最後には虚無神、奴だってお仕置きするんでしょ?…倒すとか消滅させるとかじゃなくて」
レギエルデの言葉。
コメイは驚いたように声を上げた。
「はあっ?!虚無神をお仕置き?!!…奴は、あいつは…奏多はんを、真奈はんを…そしてみんなを殺して…世界を消そうとしているんやで?!!…それを仕置き?…あかん、あんたら舐め過ぎやっ!!」
お仕置き、つまり圧倒的に倒して改心させる。
当然だが倒すよりもその難易度は跳ね上がる。
コメイの言葉はもっともなことだ。
何より直接ではないとしても彼だって虚無神の犠牲者の一人だ。
でも。
「ねえコメイ?私、絶対に許せないの。みんなの幸せを壊し、そして歪めたこと。…だからね、倒すだけ、殺すだけなんて…そんな優しい事したくない」
「っ!?」
美緒から迸る殺気。
思わず二人は硬直してしまうほどの濃度に、全身の毛穴が開き冷や汗が止まらなくなる。
「私は怒っているの。ねえレギエルデ?私たぶんこの世界でもう2回くらい死んでいるのよね。そして真のゲームマスターである黒木優斗さんに助けてもらった」
「っ!?…あの、分からない空間…そうか、あれは彼だったんだ…ん?…まさか…ああ、あああああっ?!!!」
突然頭を抱え蹲り苦しみだすレギエルデ。
余りの事に怒りに包まれていた私も、冷や汗を垂らしていたコメイまでもが慌てて彼を抱き起した。
「な、なんや突然?!!…っ!?ごっつい熱や、美緒はん」
「う、うん。『エクストラキュア』………っ!?効果がない?…レ、レギエルデっ!!」
(……ああ、そうか…そうだったんだな……奏多……)
レギエルデはそのまま意識を失った。
※※※※※
話の最中に苦しみだしたレギエルデはそのまま倒れ結局意識を失ってしまった。
シャオランさんの献身的な看病と、私渾身の精神安定魔法で取り敢えず今は寝室のベッドで横になっているところだ。
「シャオランさん、ありがとうございます。…落ち着いたみたいだね」
「ええ。なんですかね…まるでこの症状…子供の知恵熱のようですね…」
「知恵熱?…ええっ?…まさか…」
眠っているレギエルデの額のタオルを取り替えながら、シャオランさんはまるで母親のような慈愛の表情を浮かべた。
「…この方は以前と大きく変わられました…昔は私のことなど、まさに道具としか認識していなかった。…先ほど私にお礼を言われたでしょ?本当にびっくりしたのですよ…ふふっ、凄く『人みたい』になられました…良い傾向なのでしょうね」
後で聞いたのだけれど。
シャオランさんは式神とはいえ、いくつもの秘術を使いまるで本物のヒューマンのように感情も心も獲得していた。
何より改めて見ればすっごく美人さん。
チャイナ服のような物に身を包み、何よりもすっきりとしつつも女性らしさを前面に押し出しているそのスタイル。
うん。
きっとコメイの趣味に違いない。
何よりも切れ長の瞳がメチャクチャ色っぽい。
…コメイ、彼女に変なことしてないでしょうね?
コホン。
※※※※※
改めて私はコメイと向き合い話し合いを行っていた。
私はあの時まだ子供だった。
だから実際に何があったかは、チートスキルと言うかチートの存在であるゲームマスターとして知識はあるがあくまで情報だ。
だから実際の情報、張さんとして経験した地球でのことを私は聞いていたんだ。
「あー、なんや。ワシはどうやら美緒の『父親参観』の日に死んでもうたらしい。実感はあらへんけどな。なにしろワシ、夢や思っていてん。せやから恥ずかしげもなく『孔明や』なんて宣ってん。…さらにはレギエルデはあの時まだ神やった。せやからあいつに認識されたワシの名前、この世界に刻まれたんや。せやからワシはコメイ。奇跡の大軍師コメイさまや」
「そうだったんだね。ねえ、大地さんたちが抜けた後って、全然会わなかったの?大地さんとか優斗さん、それから李衣菜さん」
「ん?いや、普通に会っていたで?…まあ流石に優斗は…あいつは人が変わりよってん。せやから会わへんかってんけど…正直李衣菜はスパイみたいなもんやしな。あいつこっそり仕事回してくれたり、たまには顔出して料理とか振舞ってくれていたんやで。もちろん大地だってちょくちょく顔を出していたわ」
「っ!?李衣菜さん…そうだったんだね。…ねえコメイ?」
「うん?」
「私が認識している中だとさ、琢磨さんはこっちにいるんだよね。今はアルディなんだけど」
「おう。せやな。あんさんの同期、ばっちりやで」
「ありがと。…李衣菜さんも来ているのかな?」
「………ふう。…美緒?気付いておるんやろ?…確信がないだけや…ガーダーレグト…きっと彼女やな」
私は大きくため息をつく。
あの分からない空間。
二度目の時に顔の見えない人、まあ、優斗さんなんだけど…彼は口を滑らした。
『リイ…レグにでも甘えるといい』
きっと。
恐らくお父さんの会社の人全員が、登場人物とつながっている。
私が認識していない人、後は『伊作さん』だけだ。
それ以外の7人は既にいろいろな役割を果たしている。
でも。
そんな都合よく組み込めるものなのかな?
確かに大地さんは創世神と融合している。
今はどうやら虚無神の関係により意識不明のようだけれど…
…あれっ?
なにか違和感…
私は頭をひねる。
「コホン。なあ美緒」
「っ!?う、うん?」
「大地な…あいつきっとこの世界にも居るで。なんや、きっとあのクソッたれな虚無神の結界みたいなもんに阻まれておるけど…波動を感じるんや。…それにな」
「…うん」
「優斗な、あいつはきっと幾つもの魂を持っている。…美緒と同じや」
何となくわかる気がする。
彼は真のゲームマスターだ。
きっととんでもない力を秘めているはずだ。
だからこそ、虚無神に乗っ取られていても私を救ってくれたんだ。
「ふう。なんか色々入り組んでいるんだね」
「せやな。だけどやることは変わらんで?まずはこのゲーム、完全クリアを目指す。それは間違いやあらへん」
このゲームの完全クリア。
それは最初から私の心の中にある使命みたいなものだ。
何より私の希望。
大好きなみんなを助けたい。
「ねえコメイ?」
「うん?」
私は大きく息を吸いそして吐きだしてコメイを真直ぐに見つめた。
途端に赤くなるコメイ。
私は構わず彼に告げた。
「結局ここは作られた場所かもしれない。でも…現実なんだよね?」
「…ああ。そうや。まぎれもない現実や。…ハハッ。安心したで?美緒の覚悟、ワシはしかと受け止めた。心配あらへん。全部うまくいくわ。…虚無神、ぶっ飛ばそうな」
「うん!」
※※※※※
これでメインキャラクターはあと4人。
町娘エレリアーナ。
革命騎士レストール。
竜帝アラン。
大精霊フィードフォート。
今回の私のルート。
きっとそれだけでは終わらない。
もしも私の居たあの世界。
それまでもが物語の舞台だとしたら。
きっとこれは根幹。
そして多分間違いない。
詳しくは分からないし情報もない。
だけど私には確信があった。
何より3人目の私が強く願っている。
『願いを…望みを…』
ってね。
何のことだかは分からない。
未だにわたしは自分の意志では3人目の私とコンタクトが取れない。
たぶん。
まだその時ではないのだろう。
「よしっ」
私は一人気合を入れた。
まだまだこの世界、私は『楽しむ』許可を得たのだから。
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