表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

169/256

第160話 あほかっ!!

「何やっとんねん!!」


今僕はやたらとゴテゴテした装飾の部屋で、コメイからキッツい言葉をかけられていた。


「あー、うん。…また『禁忌』に触れちゃった…かな?」


先ほどの美緒との会話。

何故か触発された僕は『本当の真実』を告げる寸前だった。


僕に刻み込まれた呪い。

実は存在自体許されていたのはある『裏ワザ』を駆使してのことだった。


この世界の摂理。

僕という存在は実はコメイとつながっている。


美緒という主人公が降臨したことで動き出したこの世界の設定。

その設定上では僕とコメイは同時に存在できない。


知っていた。

だから僕は避けていた。


でも。


もうこの世界のシナリオは、誰も知らない道を走り始めていた。



※※※※※



世律神と言うとんでもない存在。

自分で言うのも烏滸がましいが…


まあいわゆる『絶対者』だ。


何しろこの世界の主役でもある創世神と虚無神。

その二人を同時に消し去る権能を与えられていたのだから。


つまり僕は―――


あの男『原神』の作ったゲーム、その『リセット』の役目だった。


もう完成している物語。

だけど彼は、『原神の一部』だったあいつは納得していなかった。



※※※※※



「なあ、もう少し内容いじった方が良いかな?」

「あん?なんで?…もう書籍化決まったんだろ?今のままで問題ないんじゃないの。夢だったんだろ?」


とある世界線。


職場のオフィス。

今俺たちはコーヒーを飲みながら、休憩しているところだ。


営業職の俺とコイツ。

正直仕事はとんでもなくしんどい。


何よりも毎月課せられるノルマ。

はっきり言って地獄だ。


「…良いよな、お前はさ。…晴れて作家デビューだもんな。…今月いっぱいで会社辞めるんだろ?」

「あー、うん。…なんかごめん」


俺とコイツは同期入社の同僚だ。

頭もよく度胸はあるくせに、人見知りで優しすぎる性格なコイツ。


その性格はこの仕事では致命傷だった。

正直俺たちの売っているものは生活には必要のないものだ。


あってもなくても影響はない。

だけど確かにあれば、それなりの恩恵、いわゆる箔が付くもの、いわばぜいたく品だ。


人の欲を刺激し、なだめすかし誘導し、そして売りつける。

ハハッ。


きっといつか俺たちは地獄に落ちるだろう。

無理して買って自殺したものは既に数えきれない。


社会問題にもなっているくらいだ。


何はともあれそんな仕事。

コイツは全くと言っていいほど成果を上げる事が出来なかったんだ。


万年最下位の営業職。

そう言われ続けながらこいつは違う分野で花開く。


趣味で執筆していたネット小説。

それが大バズり。

遂に今月書籍化することになり、夢を叶えたんだ。


なんだか俺の名前をもじったキャラがいたが…

まあ『友情出演』てやつだ。


「…お前さ、次の話だってもうできているんだろ?あの例の『創世神と虚無神』のやつ。…お前本当はファンタジー書きたいって言っていたもんな。…まさか『恋愛小説』でデビューするとは思わなかったけど?」


俺達は今26歳。

大学を出て社会人4年目。


正直まったくモテないコイツが『恋愛小説』を書きたいって言ったときには驚いたものだ。


「まあな。最もお前のアドバイスのおかげだよ。…俺、恋愛経験ないからさ」

「ハハッ。2割でいいぞ?」

「はあっ?おまっ、それは多すぎじゃね?」


今月ももうすぐ終わる。

俺はどうにかノルマはこなしたがコイツは相変わらず成績は地を這っていた。


「冗談だよ。何しろ俺も出演しているしな?それで勘弁してやるさ。……まあ、さ。…良かったんじゃないのか?お前この仕事大嫌いだろ?…むしろ良く今まで『辞めなかった』ってことが不思議だよ」


俺の『2割』発言に慌てふためくコイツ。

俺はそんな奴を見つめ想いをぶちまけた。


「大体逆に良くクビにならないよな。…お前契約取れたのって入社直後だけじゃん。もう3年くらい成績0だろ?…部長の嫌味、日に日にキレを増してたもんな。…もしかしてなんか秘密でもあったのかよ?」


今思えば在り得ない話だ。

俺達は営業職。

足で稼ぎ数字を競う仕事だ。


でも思い返せばこいつはいつもパソコンにかじりついていた。


バツが悪そうに頬をポリポリかく。

おもむろに奴は話し始めた。


「あー、実はさ。俺、肩書は営業なんだけど…システム構築に回されていたんだよね。3年前くらいかな。部長に言われてさ…なんか、ごめん……だからさ俺、殆ど外回り、してないんだよ」


申し訳なさそうな表情を俺に向ける。

なんだか納得している俺がいた。


「…じゃあ、何で『毎月実績0』で公開処刑されていたんだ?業務が違うのなら、晒される事なんて必要ないだろ?…もしかして嫌がらせなのか?」


普通に考えればわかる話だ。

実績のない営業職。

そんなの会社にとってお荷物でしかない。


そんな俺の問いにふいに遠い目をするコイツ。

突然雰囲気が変わり、まるで知らない人のようなその様子に何故か背筋が寒くなった。


「…対価と報酬、分かるか?」

「…あん?…なんだよ、急に…そりゃ仕事をこなして給料もらうってやつだろ?それがどうしたんだよ?」


なんだ?

急に知らない場所にいるような感じになってきた…


冷や汗が止まらない。


「…まあな。もちろんそれもそうなんだけどさ…だけど今俺の言ったことは『摂理』なんだよ。仕事という一面ではないんだ。…生活すべて、それこそ息を吸うにも実は俺達は対価を払っている。…そしてこれは変えられない事実だ」


目の前のコイツ。

守山奏多。


突然別人に見えてくる。


狂ったように鳴り響く携帯。

緊急地震速報?!!。


「っ!?」

「ああ。…ついに来たか…なあ()(いで)。俺達人類は大きな過ちを犯したんだよ」

「何を?ていうか急に苗字呼び?…うおおっっ?!!やべえだろ!!逃げなくちゃっ」


そして刹那のタイミングで激しい揺れに襲われる俺たちのオフィス。

それなりの高層ビルの27階。

余りの揺れに、すでに立つこともままならない。


「…俺がいつも公開処刑されていたことはさ…ひとつのトリガーだったんだ」

「おまっ?!…な、なにを…ぐうあっ?!!」


頭上から降り注ぐ、揺れで軋み壊された蛍光灯。

その一つが俺の頭に直撃した。


思わず手を這わす。

生暖かい感触…血?


「…これでやっと…紡げるよ…なあ得出、いや(れい)()。…お前は次目覚めたら…『レギエルデ』だ。……お前は俺の数少ない理解者だ。そして親友。俺に協力してほしい……俺は作りたかったんだよ…完全な世界、全てが幸せになれる世界を……じゃあ、『また』な…」


守山奏多の言葉は…

俺には届く事はなかったんだ。



※※※※※



東京を襲った首都直下型地震。

マグニチュード8.6。


最大震度は7で、俺達の居たオフィスビルは大津波に飲まれた。


死者、行方不明者合わせて370万人。


あの日東京は、いや日本は。

終わりを告げていたんだ。


そして奴は。

奏多は。


知らぬ間に結んでいた人知を超えた『契約』により、今の現実世界を対価に報酬として神となっていた。

そして俺は目覚めたんだ。


アイツ、守山奏多の作った『現実世界』というゲーム、そしてその中で作っていた箱庭『レリウスリード』の世界で。


アイツの言った通り、とんでもない権能を与えられて。


でも。


アイツ、奏多は間違えた。

対価?

報酬?


もともと天涯孤独なあいつ。

アイツには守るべきものはなかった。


だからあいつは創造した。

愛する妻と娘。


そして感動を味わうために、全ての記憶を消して。

だがそれは、現実を知らない理想主義者の世界、いわば足りない世界だ。


そんな中で俺に課せられた使命。

記憶のないアイツが暴走したら止めること。


でも暴走したのはあいつじゃなかった。

アイツの大元である『原神』を多く含んでいた性格破綻者。


理屈は分からない。

だけどあの絶対者『原神』は多くの魂を持っていた。


分裂しそれぞれが自我を形成したあの神。


奏多の夢見た普通の幸せ、そしてその世界。

でもあの『地震の真実』を知っていたものが居た。


実は俺以外に奏多の小説を知っている人物。

そして色々吹き込んだあの男。


鳳乙那(おおとりいつな)


俺達の上司だった男。

今回のすべての黒幕、原神の欠片を持つ、非道な男。


いわばこれは作られた世界だし、創作だ。


だからそれを知っていたあいつは観察していた。


余りにもリアルで、全くと言っていいほど理不尽のない奏多の作った世界。

優しい世界。

そして温かい大団円。


そう、全てはすでに『完結』していたはずだった。


それをただにやけて眺める男。


そして。


アイツは飽きてきた。


だから自ら虚無神となり、全てを滅ぼそうとした。

ありとあらゆる理不尽を追加させて。

対価として面倒なルールを自らに課してまで。


そう、あいつは。


奏多が魂を削り書き上げた物語。

確かに理想主義でご都合主義、そしてむず痒い物語ではあったが…


それを勝手に書き換えやがった。


絶対に許せない。


だから俺は違う魂を持つ『原神』を求め彷徨い、そしてたどり着き禁忌に触れたんだ。

親友を、奏多を、そしてその願いを果たすために……



※※※※※



「せやから『あほかっ』言いよんねん。けったくそ悪いわ。なんや?おんどれ、まだ絶対者、神でおるつもりかいな?」


思考に囚われ懐かしい事を思い出していた僕はさらにコメイに頭をはたかれた。


「痛っ?!!…で、でもさ、コメイ。ここは、作られた世界、いわば虚像だよ?このままじゃ…全部消されてしまう。…どこかに居る本物の奏多を、美緒の父親でもあるあいつを助けないと…」


どうやら僕は美緒にカミングアウトする寸前で、どういう理屈か全く分からないけど、コメイに召喚されたみたいだった。


きっと今僕がいるのはコメイの作った結界、あの門の中なのだろう。


僕の問いかけに頭を抱えるコメイ。

そして大きくため息をついた。


「あんなあ、だったら何でワシたちは今存在しておるんや?今生きている。なんや、これもマボロシやって、言いたいんか?」


「……」


「まったく。師匠は頭が良すぎんねん。もっとシンプルに考えたらええんや。物語を作ったんは、奏多はんなんやろ?それでその鳳っちゅー阿呆が勝手に改ざんしたと。…だったら何で今ワシたちおるんや?おかしいやろ?…予測じゃが絶対じゃ。…奏多はん、書き直しているんや」


「っ!?…まさか…あの大災害…生き延びている?」


「考えてみい。物語の奏多はん、原神やろ?そして美緒の父親や。この世界を創世したのは黒木大地で創造神は美緒の祖母や。そもそも完全に傍観するつもりならわざわざ自分を入れるか?あり得へんやろ。…この世は三つ巴。…もう一人おるで?」


「っ!?…まさか…そんな…」


コメイの指摘。

何故かすんなり心に響いてしまう。


幾つにも混ざり合い難しく絡み合った現状。

パーツが少なかったことで思考が停止していたんだ。


「まあ…関係あらへんけどな」

「……は?」


関係ない?

どういうことだ?


「まったく。あんなあ、もしそんなにご執心やったら、すでに終わってるっちゅーねん。…飽きたんちゃうか?それで放置や。…なんや、別の方法でもあるんかい?ないやろ?…だったら出来ることするしかあらへんがな。イージーな話やで」


……まあ。

確かにできることは限られてはいる。


でも。


「今ワシらがやること、それは美緒を助けることじゃ。他には何もあらへん。残念ながら今師匠が考えている通り、わし含めあんさんまでだって『組み込まれた存在』や。つまり盤面の駒じゃ。どんなにあがいたところでその事実は変わらん。じゃが美緒は違う。まだ出会ってへんが、おそらく彼女も『原神』やろ。それもとびっきり濃い。…なら彼女の力、発揮してもらおうや。大体から美緒が降臨したのに今ワシとあんさんが一緒におること自体、すでにルールは破綻しておるんじゃ。そうやろ?」


「っ!?…そうだ…何で僕、まだ生きているんだ……」


思い出す幾つものルール。


それが何故か鮮明に、僕の脳内で展開されたんだ。


「面白かった」

「続きが気になる」

 と思ってくださったら。


下にある☆☆☆☆☆から作品への応援、お願いいたします!


面白いと思っていただけたら星5個、つまらないと思うなら星1つ、正直な感想で大丈夫です!


ブックマークもいただけると、本当に嬉しいです。

何卒よろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ