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第157話 神聖ルギアナード帝国での後始末

あの帝都を襲った大爆発から約10日が経過していた。


急遽編成された帝国の兵士たちによる調査及び捜索隊。

そして齎された報告。

あの大穴、なんと爆心地では深さ200mを超えていた。

幅に至ってはおよそ12km。


全てを吹き飛ばし、人どころか獣すら住めない状況だ。

激しく焼けたのだろう。

未だ黒煙がくすぶっている場所が残されていた。


酷い匂いが立ち込める。


「…恐ろしい。いったいどれだけの魔力を消費したのか…ねえアルディ?君はこれの正体、分かっているんじゃないのかい?」


冷めた目で大穴の上空から見下ろすレギエルデ。

土台となる魔法を構築するため一緒に来ていたアルディは思わずえずき、口を押さえていた。


「…ナパームだ。…中心の破壊はきっと核爆弾並みの破壊力。そして周囲を蹂躙したこの破壊痕…これは増粘剤と呼ばれる物質を再現したもの。…凄まじく広がっていく特徴を有している…くそっ。これを作った奴…地球の知識がある。…そうじゃなきゃ…説明がつかない」


「…核爆弾?…ナパーム?…それは再現できるものなのかい?」


「…うん。技術的には美緒が生活していた時代よりも数十年前に開発されたものだよ。正直使う奴の気が知れない。…ねえレギエルデ?例えば戦争ならさ、後のこと考えるでしょ?…間違っても殲滅なんてしない。普通そうだよね」

「…うん。そうだね。…全てを滅ぼしたらそれは…意味がないからね」


見つめ合い暗い表情を浮かべる二人。

特にアルディは元があの変態、篠崎琢磨だ。

彼もまた、そういう情報には精通していた。


オタクの常識だそうだ。

…オタクって。


…いらん知識の宝庫なのかな?


(ぐふふ。拙者の出番ですかな?アルディ殿?…フフン、この破壊の跡…おそらく…)

(っ?!…黙れ…出てくるなっ)


ジパング決戦の時戻し忘れた篠崎琢磨。

しばらく時間限定で一緒に生活していたのだが…


あまりに長い時間、いわゆる同じ魂と触れ合っていた二人。

何と『ちいちゃん』は消えたものの、琢磨はなぜか一部がアルディの魂にしみついてしまっていた。


つまり今アルディは、いつでもその気があれば『琢磨の知識』の流用が出来る状況だった。

忌々しいが、実はアルディ、そのおかげでかなり強くなっているくらいだ。


「???アルディ?…どうしたんだい?急に難しい顔して」

「っ!?な、何でもないよ。それより君さ、これ再現できるかい?」


軽く頭を振り意識を切り替えたアルディは、天才であるレギエルデに視線を投げる。

正直こんなもの、存在しない方が良い。

だがすでに敵がこれを使うことが証明されてしまっている。


理論は知っていた方が絶対に良いはずだ。


「…魔力の残滓をたどれば…出来る…と思う。でもこれはきっと神の摂理、この星の摂理から逸脱しているよ。おそらくだけど、これを作ったものはすでに死んでいるはずだ。そうじゃなければ…許されないよ」


レギエルデは禁忌に触れた。

それはいわば好奇心だ。


それでも彼はそのほとんどの力を奪われ、凄まじい呪いに囚われた。

あの爆弾、まさに禁忌。

しかも確実に欲望にまみれている。


そうあってほしいとの希望もあるのだろうが…

ことさら真剣な表情のレギエルデを見やり、アルディはため息を零す。


「そう、なんだね。…ねえ、理論だけという訳にはいかないかな。もしかしたらそこにヒントがあるかもしれない」

「…そうだね。はあ。気が滅入る事態だよコレは。僕はこの星が大好きなのに。…戻ろうか」

「…うん」


一応の確認を経て地上に降り立つ二人。

そこへ美緒からの念話が届く。


(レギエルデ?確認は終わった?)

(…凄いタイミングだね。まさに今地上に降りたところだよ…どうしたんだい?)

(うん。あのね、宮殿の地下に隠し通路があって…気配があるのだけれど…そ、その…)

(宮殿の地下に気配?…美緒なら入れるのではないのか?君が入れないのならきっと誰も入れないと思うけど…)


いまいち腑に落ちない美緒の物言い。

レギエルデは思わず頭をひねる。


(あー、えっとね…たぶんあなたの知り合い?みたいな…『世律神を呼べっ』って)

(っ!?……美緒…き、君…それ…っ!?ハイエルフの里で…知ったのかい?)

(…ごめんなさい。…実は前から『そうじゃないか』とは思っていたの…確信はないのだけれど…)


大きくため息をつくレギエルデ。

その事実はこの世界の摂理上『秘匿されている』事だ。

だから普通誰も認識できない。


眷属である数名を除いて。


(…ゲームマスター……ルールブレイカー……そうか…)

(ん?なあに?聞こえないよ?)

(ああ、ごめんね?詳しくは後で話そうか。とりあえず向かうね)

(う、うん)


念話を終え遠い目をするレギエルデ。

確かに色々紐解けば誰でもたどり着ける事実だ。


でも、だからこそ、摂理で縛ったこと。

頭のいいアルディだって、他の皆だって、想像する事が出来ない事だった。


(まいったね。こんなに早くバレるとか…覚悟を決める時が来たのかな)


軽く頭を振りしっかりとした足取りで歩き出すレギエルデ。

彼は今意識を変える。


やることは変わらない。

何よりエルノールとは共有済みだ。

たどり着くゲームマスターのそばにいること、そして彼女を助けること。


彼が世律神だった事実。

だからといって何も変わらない事だった。


レギエルデの目に決意の光が灯っていた。



※※※※※



皇帝の居城である皇居の地下深くに設置されている重罪人専用の地下牢。

その一室の壁に細工がされており、隠し通路が人知れず設置されていた。


「ハイン、これって皇帝とかが逃げるための隠し通路じゃないの?」

「いえ。こんな通路、私は知りません。父上にも確認しましたが…どうやらかなり危ない状況のようです」


まあね。

世界最高の軍事力を誇る神聖ルギアナード帝国。

その中枢に国の権力者の知らない隠し通路とか。


戦争中だったらすぐに詰んでしまう事実だ。


「隠ぺいですね。凄い技術だ。…目の前で見ているのに、全然情報が頭の中に入ってこない。これもその、ノーウイックとやらの技術なのですか?」

「違うと思う。彼もフィリルニームさんもこの皇居には近づいていないはずよ?もしかしたらフィリルニームさんから奪ったのかもしれないけれど…何より私でも解呪できるレベルなの。だから違う」


私の隔絶解呪はきっと世界最高峰。

でもノーウイック渾身の仕事には、そのレベルの私でも届かない。

解呪できない。


本当に彼が味方でよかったと私はため息をついた。


「お待たせ、美緒。…おっと、ハインバッハ殿下、ご機嫌麗しく」

「ああ。君は…そうか、君が『レギエルデ』だね。……(コイツが美緒の…くっ)…挨拶が遅れたね。僕は第1皇子のハインバッハだ。よろしく頼む」


にこやかに挨拶する二人。

何気に初対面だ。


なんか変な空気感?

うん?


「ごめんなさいレギエルデ。あれっ?アルディは?」

「あー、うん。『例の件』でしょ?彼には帰ってもらったよ。…出来れば…」


あー、うん。

この世の摂理に直結する話。

何故かハインの眉がピクリと反応したけど?


彼にも退出してもらった方が良いね。


「ねえハイン」

「はい、美緒さま」

「この先には…私とレギエルデの二人行くわ。あなたは警戒に戻ってくれる?」

「…いやです」


「…は?」


何故か瞳に力をたぎらせ、即座に拒否するハイン。

私は思わず困惑してしまう。


「えっと、ちょっと秘匿事項があるの…だから…」

「嫌です。美緒さまを男と、ましてやその『レギエルデ』だけとは二人きりにはさせたくない」


うあ。

突然ハインバッハからとんでもない色気とともに嫉妬の炎が吹き上がる。

思わず顔を引きつらせる私。


レギエルデは大きくため息をついた。


「あー、殿下?今はそういう話ではないんだ。これは君たちこの世界の住人には認識できない事案なんだよ。…美緒は転移者だ。君だって知っているだろう?」


私の正体はすでにハインバッハは知っている。

だからこそのこの物言い。


聡いハインバッハなら理解する事だろう。


「くっ、だ、だが…おいっ!」

「うん?」

「…絶対に美緒さまに手を出さないと誓え」


えっと。


今はそんなこと気にする時ではないのだけれど…

でも。


実はそういう心の想い、それはいくつもの引き金になりうる。

私はそれを知っているはずだ。


「ふう。…僕が誓ったところで君は納得できるのかい?」

「っ!?ぐうっ、だ、だが…」


思わず顔をしかめるハインバッハ。

レギエルデは心底困ったような表情を浮かべる。


「くだらないとは僕は思わない。君のその想い、僕も同じ立場なら理解できてしまう。でも、だからこそ信じてほしい。…僕は我欲で美緒の行動を阻害したくはない」


そして覚悟の色に変わるレギエルデの瞳。

思わず息をのむハインバッハが、その気迫に気圧された。


「っ!?………すまなかった」


真剣な表情の二人。

つくづく私の称号、本当に厄介だ。


レギエルデだってハインバッハだって、とんでもない美形だ。

きっと日本にいたころの私なら、相手にもされない事だろう。


その二人が熱い視線を私に向けてくる今の状況。


私は大きくため息をつきハインバッハを見つめた。


「コホン。ねえハイン?私を信じてほしい。…私は今誰とも恋愛する気持ちはないの。私は今この世界を、あなたも含む手が届くすべてを救いたい。…あなたの私に向ける気持ち、嬉しいよ?でもね、今はまだその時じゃないの」


「…わかりました。…美緒さま。すまなかった。…レギエルデ」

「うん?」

「美緒さまを頼む」


「うん。任された。もっとも彼女の方が僕よりもずっと強いけどね。まあ、そういうことじゃ無いのはわかるよ。安心してほしい」


どうにか引いてくれたハインバッハ。

私たちは彼が立ち去るのを確認し、念話で話を始める。


(レギエルデ?心当たりはあるの?)

(うーん。正直分からないとしか言いようがないんだ。僕の正体を知っているのは今の世界だと、それこそフィリルニームだけのはずなんだけれど……もしかして…)


(…うん?…っ!?…コメイ?)

(…さすがに都合良すぎではないかな?…確かに彼は僕を認識している。でもそれこそマナレルナ様渾身の封印だよ?…場所だって知らないし…)


二人大きくうなずく。


「…とりあえず、行ってみましょう」

「うん。そうだね」


認識阻害で封印されている隠し通路。


私とレギエルデの二人は解呪を紡ぎ、暗い階段を下りて行った。


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