第155話 英雄の覚醒、そして激戦
気が付けば。
俺は白い何もない空間で佇んでいた。
「なっ?!……ここは……っ!?」
一瞬沸き上がる懐かしい魔力。
前方に人が出現し俺に視線を向ける。
「…久しいな…息災か?」
「…亡霊…ってわけじゃなさそうだが…久しぶりだ、親方」
懐かしい顔だ。
120年ぶりか?
親方はおもむろに話し始めた。
「獲得したのだな」
「…ああ」
「ふん。そんな顔をするな。俺達はお前を恨んでなどおらぬわ。むしろ使命が果たせた。感謝している」
優しい表情。
だが俺は思いっきり悪態をつく。
「うるせえよ。俺に押し付けやがって。おかげで俺は100年封印されたんだ。……お前らは……死んだのかよ?」
「まあな。でも…お前にはスマンと思っている」
「よせよっ!!いまさらそんなこと言うために出てきやがったのか?俺を恨めよっ!!あの時、俺は感じていたんだ。あの悍ましい秘宝の鳴動を…それなのに…俺は…」
あの時。
確かに俺のスキルは感知していた。
だからあの時もしも俺が言えば…
あの場所から皆を逃がしていれば…
少なくとも何人かは生き延びれたはずだった。
「それに何の意味がある」
「っ!?」
達観した言葉。
何よりもにじみ出るような覚悟がそこにはあった。
「舐めるなよ?小僧が。てめえの感傷を俺達に向けるな。言っただろ?これは定め。運命だ。…なあノーウイック」
「…なんだよ」
「人にはそれぞれ使命がある。俺達はそれを果たした。それだけだ」
「で、でもよ…あの時の赤子…あれも運命だっていうのか?酷すぎだろうがっ!!」
「…赤子は一人では生きてはいけん。それも含めて運命だ。…それに…」
「……」
「お前の中に息づいておるだろうが」
タリスマンの能力。
それは吸収と付与だった。
あの時飲み込まれた俺の集落のすべての人たち。
その力のすべてが俺の力に変換されていた。
「…お前には使命がある。だから選ばれた。……そうであろうが」
「……」
「まったく。お前は優しすぎる。…今はゲームマスターの元におるのだろ?彼女を助けてやってくれ。…虚無神、分かるか?」
「っ!?…虚無神?…い、いや、分かんねえ」
虚無神?
なんだ?
初めて聞く名前のはずだが…
ざわつきやがる。
「お前の使命はな、希望であるゲームマスターを虚無神の警戒網から隠蔽することだ。彼女と奴が出会うその日まで…これは俺たちの…この世界の願いだ」
親方の姿だが…
突然知らない気配に変貌していく。
…誰だ?
「…ああ。すまないね。この体というか魂は間違いなく君の親方だよ?彼はメッセンジャーだ。そういう使命を組み込んであったんだ。まあ『保険』程度ではあったけどね?…君を含め彼等にはひどい事をしてしまった…すまない」
輪郭がぶれとんでもないオーラを纏う男。
きっと。
想像する事すら烏滸がましい次元のものだ。
「美緒を…彼女を助けてほしい。彼女は最後の希望。この世界、いやすべてのカギを握るものだ。…君の力が必要だ」
ああ。
理解してしまう。
美緒はまさに救世主だ。
そして世界の希望。
そうか。
俺の役目。
彼女を隠匿する事。
この世界を包む、虚無神とか言うとんでもない相手から…
「なあ」
「うん?」
「俺にそんな力あるのかよ?俺はこういっちゃなんだが只の盗賊だぞ?」
「ふふっ」
突然にっこり笑うとんでもないもの。
そしていきなり耳元でささやいた。
「っ!?」
「美緒だってただの可愛い女の子だよ?君はもうすでに獲得している。思い出してほしい。そして頼むよ。…私の可愛い娘を」
「なっ?!」
「ああ。心配しなくてもここでのことはすべて忘れるさ。だから君はただ真直ぐに使命を果たしてほしい。まずは彼女の懸念であるロナン、救ってくれるかい?」
いきなりカミングアウトするとんでもないもの。
美緒は…
そうか。
「へっ。分かったよ。任せろ」
「ああ。心強いよ。少しだけ助力を……うん。これでいい」
突然俺の中の何かが弾け飛ぶ。
力が沸き上がってくる。
「本番はすべてがそろってからだよ?…ああ。そうだ。…レギエルデには注意することだ。彼の判断基準は善悪ではない。場合によっては彼が最大の障害になりうるからね」
「…マジか?」
「うん。まあ予定通りいけば問題ないのだけれど。美緒の中の3人目がね…意外と彼女も強情だから。あの子は全部を救いたいんだよ」
ああ、そういう。
すでに覚悟を決めたもの。
その想いすら覆し、美緒は救うために全力を使う、か。
確かにな。
それは危うい。
「分かった。助言感謝する」
「うん。おっと?もうすぐにお別れだね。君はここには二度と来れないと思う。だから最後に一つ秘密を教えよう」
そう言ってこそこそと何事かをつぶやく。
俺は驚愕の表情を浮かべてしまう。
「なあっ?!!」
「ふふっ。内緒だよ?」
くだらなすぎるが本質の事実。
俺はそのまま気を失った。
※※※※※
「はっ?!」
「…大丈夫?」
気付けば俺は美緒と見つめ合っていた。
とんでもなく可愛くて美しい女性。
ああ、美緒。
お前は本当にかけがえのないものだ。
「…ああ。全部わかった。美緒」
「うん?」
「とりあえずロナン、だったか?救うぞ」
「うん」
これでいい。
俺は美緒の為の存在だ。
改めて認識したことで、俺の心は歓喜に包まれる。
力が湧いてくる。
そして。
俺の頭に電子音が流れた。
『ピコン…条件を達成しました。称号『コンシーラー』隠蔽者を獲得しました。称号保持特典として各ステータスに200ポイント付与されます。…スキル『隔絶隠匿』を獲得しました…』
へっ。
俺は今生まれ変わった。
俺の触れたタリスマン。
気付けばそれは霧散し、俺の心の中に同化していたんだ。
※※※※※
ゾザデット帝国グラード侯爵家の保有する倉庫群。
私たちは今、その最後の封印を解いたところだ。
「っ!?来るよっ!!はああっ、『オールリジェネ』『オーラフィールド』『麒麟の嘶き』」
突然怪しい結界に包まれる私たち。
どうやら時間までもがその動きを狂わせ始めた。
「ったく。マジで性悪だな。美緒、コイツら倒しても良いのか?」
「うん。残念だけど…もうこの人たち、元には戻れない。リナミスの眷属と似ているの。きっといるよ、悪魔」
溢れかえる異形の化け物たち。
臨戦態勢に入る私の心強い仲間。
私とリンネ渾身の結界が、時間の法則を無視したこの場所での羅針盤の役目を果たす。
「ふううっ、『時を超える愛』…美緒、お前に勝利を捧げよう」
「はっ、てめえだけにいい顔はさせねえ。美緒、俺の力みせてやるっ」
「うん。期待しているよ?レルダン、ランルガン」
「ねえ美緒?こいつらやっぱり食べられないけど?」
「あー、うん。ていうか食べたらお腹壊しちゃうよ?」
「言えてる。はああっっっ!!」
背中のごつい剣『ギガニッシュ』を抜き放ち、気合を入れるナナ。
うん。
すっごくかっこいい。
「美緒さまには指一本触れさせん。はああっっ!!」
さえわたるエルノールの剣戟。
さらには突然空間が軋むほどの大爆発が異形の物を吹き飛ばす。
「ふふっ。まさに美緒の元では退屈せぬな。ほおれ。喰らうといい。伝説の真祖の力、思い知るがよいぞ?」
「ふん。コントロールできているようで重畳だ。私とて負けんぞ?」
ガーダーレグトの洗練された魔法が、打ち漏らされた異形を焼き払う。
ああ。
本当にすごい。
私のギルド、そして仲間たち。
私は本当に恵まれている。
「みんな!押し切るよっ!!はああっっ『真槍烈脚』!!」
私の蹴り。
とんでもない威力のそれは遥か彼方まで衝撃を届かせる。
射線上の異形の物、すでにその形を維持できなくなっていた。
「…えげつなっ」
なぜかジト目でつぶやくリンネ。
むう。
※※※※※
「ふう。ケリ、着いたようだね」
大量の経験値とともに出現した幾つかのドロップ品。
それをインベントリに収納し、私は大きく息を吐きだした。
この世の摂理、消える異形の者たち。
空間のひずみも落ち着いて、今は正常に時を刻み始めていた。
「美緒、これでロナン、救えるの?」
「ううん。今回の結界と言うか仕掛けね、本当に性悪なの。完全に解けるまで15時間ほど必要なんだよね。だから救出は明日だね」
「そっか。で?どうするの?…悪魔、いなかったね」
今回のトラップと言うか仕掛け。
きっと以前の私たちでは倒せないくらい強烈だった。
でもレギエルデの指示に従った今回の戦い。
ジパング戦を経た私たちの敵ではなかった。
「あー、うん。逃げた気配もなかったから…本当にトラップだけだったね。…厄介」
「…うん」
恐らくこれを組んだのは虚無神に囚われたフィリルニームさんだ。
でも仕掛けである異形の者たち、彼女ではできない芸当だった。
「邪神リナミスにマギ山にいたあの女性。きっとまだそういう奴等が居るってことなのよね」
「そうだね。ねえ、美緒の前のルートの時はどうだったの?」
「あー。えっとね。…もう完全に別物なんだよね。前のルートの時、私リナミスすら倒しきれなかったもの。だからこれからは結構『綱渡り』かな」
意外と不安げな言葉なのだが…
それを言う美緒は自信に溢れていた。
「ふふっ。不謹慎だけど…美緒ってば楽しそう」
「ええっ?そんな事…あるかも?」
世界は混乱に包まれている。
そして想定していない事件が起こる今の状況。
でも。
私は確信している。
何よりも心強い仲間たち。
だから私は絶対にたどり着く。
私は皆を見回しにっこりとほほ笑んでいたんだ。
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