第151話 ターニングポイント
静寂に包まれる古代エルフの国ブーダ、その国王の住居であるヒャリナルク宮殿謁見の間。
神聖な光に包まれる私とマルレット、その様子を皆は固唾を呑み見守っていた。
やがて大きなため息とともに霧散するとんでもない魔力。
私は思わず座り込んでしまう。
(……もう。……あり得ないよ?!…まさかそんな秘密が…それに私って何なの?お母さんは創造神だし…お父さんは…っ!?)
「うあっ?!!あああっっっ!!!??…ぐううっっ??!」
今確実に知覚した馬鹿らしいほどおかしな真実。
だが一瞬で激痛とともにその内容が一部を残し消えていく。
(…まだだよ?早すぎる…もう少し待ってね…)
(???……っ!?…あ、あれ?)
まさに刹那。
思わず私はあっけにとられた表情をしてしまう。
「…美緒?大丈夫?」
「う、うん。ごめんね?…えっと…マルレット。…ありがとう。…色々わかったよ?」
「っ!?凄い。…見られたのに…なんのダメージも嫌悪感もないなんて…美緒は本当にすごいのね!」
…マルレットのこの反応。
きっと彼女はすでに何度か覗かれている。
しかも心の奥底、自分ですら把握できない深い領域まで。
そして。
彼女の心の奥に残されていたメッセージ。
お母さん、マナレルナ様から私に宛てたメッセージだった。
(まったく。…おばあさまと言いお母さんと言い…スッゴク用心深いのね。…まあ、相手はあの『絶対者』だ。おかげで私はやるべきこと、はっきりしたんだもの…)
思わずジト目をしてしまう私。
その様子にマルレットが慌てふためく。
「あうっ?!わ、私、なんかやらかしちゃった?!」
「あー、うん。…あなたは悪くないよ?あなたの心の奥に隠されていたメッセージがね…うん」
マルレットの心の奥に隠されていたメッセージ。
それはガナロの権能『リーディング』なしでは絶対に分からないものだった。
私はジパングでの戦いのとき、ガナロの権能を習得していた。
その中の一つである『リーディング』
獲得したときにはまったく意味の分からなかったそれは、まさに今、このタイミングでのみ効果を発揮するものだった。
なにしろ以前より進化して内容の強化された私のスキル『真相究明』がまるでおもちゃに見えてしまうほど高性能なのに、なんと使用できる時間は0.3秒。
そしてそれにはハイエルフとダークエルフの魔力を有するもの、さらにはレベルが100以上の者、つまりその資格を備えているマルレットの魔力がなければ再現すらされないという縛り付き。
確実にこの状況、知っていなければ組み込めないほどピンポイントで構築されていたものだった。
(…知っていた。…私ですら知らなかった今回のルート。間違いなくお母さん、マナレルナ様は体験したか或いは…)
とんでもない可能性が私の脳裏に湧き上がる。
この世界、今私が経験しているすべて。
もし『もう一段上のシナリオ』だとしたら。
そして何らかの形でマナレルナ様がそれに触れていたとしたら…
彼女は全くと言っていいほどこの世界に干渉していない。
リンネとガナロを出産した以外、彼女は傍観者に徹していた。
おばあさまの指示とは言え…
それはあまりに不自然だ。
何より私は日本でのお母さんをよく知っている。
凄くおせっかいで優しく、そして何より傍観など出来る人ではなかったはずだ。
(…きっと対価だ。…知ったことによる対価。この世は2面性。きっとお母様は知ってしまったことで行動を阻害されていたんだ)
思い返せば転移直後に私の脳裏に流れてきた情報の数々。
こういう言い方は傲慢だし嫌だけれど、ゲームマスターである私の情報に、創造神とは言えかなり制限されていたリンネですら干渉する事が出来ていた。
能力的に結果としてノイズというバグが残ってしまったけど。
もし全開のおばあさまやお母さんが改ざんしていたとしたら…
きっと私は気づけない。
何より今の私に残る違和感。
きっと幾つか消去または改ざんされたんだ。
あの瞬間に。
そして今この瞬間にも。
私がもしほとんど成長していなかったのなら。
気付くことにすら気づけなかった。
でも今のタイミング。
私はほんのわずかだけれどこの世界の深淵に触れた。
世律神、そう『レギエルデ』がただ人に落とされたこの世界の深淵。
まあ大半は『どこかの誰かさん』に消されたのだけれど?!
コホン。
情報があったわけではないし、確信すらない。
でも間違いないはずだ。
そしてこれは絶対に秘匿しないといけないものだ。
だって。
根幹である『虚無神イコール悪』
この公式が根底から崩れてしまう内容なのだから。
私は大きくため息をつき、おもむろにマルレットを抱きしめた。
悪いけど、今はもう考えたくない。
整理しないとだめだし、実際に私のやるべきことは変わらない。
まずは対峙する場面までたどり着かなくてはならないことに変わりがないからだ。
「ひゃん?!み、美緒?…あうっ♡」
「あー、癒される♡マルレット、いい匂い♡」
私は彼女を強く抱きしめる。
程よく育った彼女の体。
柔らかくて何とも抱き心地が良い。
そして女性特有の甘く優しい香り。
…リアの気持ち、分かっちゃうね。
私は全力で現実逃避をしていたんだ。
※※※※※
やがて私は彼女、マルレットを開放した。
なぜか真っ赤になっているマルレット。
うん。
ごめんね?
私パッシブ、全開だった。
ヘナヘナと崩れ落ちるマルレット。
『超絶美女』のパッシブである誘惑、すでに男女関係なく虜にしてしまうほどその権能は強かった。
「…み、美緒さま?そ、その…」
その様子に顔を赤らめ、ルイデルドさんがおそるおそる私に声をかける。
あー。
皆も真っ赤です。
はい。
取り敢えず私はパッシブを解き、おもむろに解呪を施した。
実はフィリルニームさん。
かなりの実力者で、私とマルレットが会うと発動する仕掛け、構築していた。
そう、私は試されていた。
そして。
「……あー、えっと。……そこのあなた、ちょっといいかな?」
「え?…わ、私ですか?」
ハイエルフの重鎮が集まる今日の謁見の間。
なぜかそこに居る一人の老婆。
私はおもむろに彼女の手を取る。
「はああっっ!!隔絶解呪!!!全開だあああああっっっ!!!!」
「ひぐっ?!!…うあ、うああああああああああああっっっっ??!!!!」
見たことのない光が謁見の間を包み込む。
皆の瞳に驚愕が浮かんだ。
そこには。
私と手をつなぎ満足げな表情を浮かべる絶世の美女が佇んでいた。
「ふむ。合格だ。…凄いなお前は。まさに希望だ。…認めよう。…私がフィリルニームだ」「もう。何やっているのよ。お母さん」
「っ!?…ええっ?な、なんでバレるの?…美緒?あなた…」
私の発した言葉に全員の時が止まる。
ダークエルフの姫であるフィリルニームさん。
彼女は創造神マナレルナの一部、分離した別人格が混ざっている状況だった。
さあて。
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