第150話 世律神の眷属、ダークエルフの姫の行方
ダークエルフの男ワサマナ。
彼は以前この国の王妃として嫁いできたフィリルニームというダークエルフの姫であった女性の付き人としてこの国へとやってきた一人だった。
この世界で一番の長寿のヒューマン族はハイエルフ族だ。
それに次ぐ寿命と、さらには凌駕する強い魔力を保持する種族で、数は少ないもののルーダラルダが創造した種族だった。
この世は2面性。
恐らくハイエルフの対として創造された種族。
やはりどちらかと言えば闘争心に溢れる種族特性を持ち、今までの5000年間、いくつもの騒動を引き起こしていた種族でもあった。
勿論星を滅ぼすといった脅威という訳ではなく、あくまでカウンターとして仕込んでいたはずだったのだが、創造神が代替わりをしたその隙に虚無神によるちょっかいで変貌を遂げさせられていた。
しかし代替わりした2代目であるマナレルナ様。
彼女はこの世界に干渉しない代わりに、まだルーダラルダが健在だったタイミングで『ある仕掛け』を作り、その力の殆どを使い彼等ダークエルフの能力を抑えていた。
何より虚無神の願い。
全ての種族が幸福を享受した後の滅亡。
そのため虚無神はこの『仕掛け』に対し行動を起こした。
つまり自らが干渉できないルールにちょっかいをかけるため『ミディエイター』である神津スフィアを眷属化し、唯一ルールに逆らえる黒木優斗を乗っ取り、時間遡行を繰り返しすべての世界線でその『仕掛け』を破るべく、ダークエルフ族の本来の特性を刺激して世界全体の脅威として解き放っていた。
ルーダラルダの作った世界。
そして創世神アークディーツの願い。
優しいだけの世界とは、虚無神にとって都合が悪かった。
その世界では生きとし生ける者は進化などしない。
脅威があってこそ、全ては覚醒し真の幸福にたどり着く。
多くの犠牲を払ったうえで、初めてその精神は輝くと、彼は信じていた。
今となっては虚無神の願い、その本質は誰も理解が出来ない。
何しろあまりにも支離滅裂な考えだ。
最終的に彼は虚無をお望みだ。
だけどその前にどうしても彼はすべての種族に心の底から感じる幸福を与えたかった。
その落差。
それが大きければ大きいほど、彼は満たされる。
余りにも理解の出来ないその行動原理。
そしてすべてを凌駕してしまうその力。
だからこそ。
もう一人の絶対者、中立である世律神はその根源を求め『さらなる存在』の定めた摂理に触れ、その存在をただの人へと落とされていた。
そして世界は混乱に包まれたまま、時を刻み始めたのだった。
※※※※※
(…やっぱりね)
完全に気を失い倒れ伏すダークエルフの男ワサマナ。
彼の前で仁王立ちし、鑑定を施した私は思わず心の中でため息をついていた。
その様子に固唾をのんで見守る皆。
私は皆を見回し口を開く。
「皆さん。フィリルニームさんはどこに居るのですか?」
「「「「っ!?」」」」
私が口にするその名前。
瞬間、ここをはじめ世界全てで障壁の一つが消失、隠蔽されていた時間が動き出す。
途端に動揺の色を纏い視線をさまよわせる国王ルイデルド。
そして重い口を開く。
「…美緒さま…そ、その名前…どこで?」
「ええ。ザナンテスのギリアム魔導王から聞きました」
「っ!?ま、まさか…100年前の…不帰の大穴の事件かっ!???」
ざわめく謁見の間。
そして思い出したように幾つものざわめきが沸き上がる。
「…そうか…そうであったか…美緒さま」
「はい」
「フィリルニーム、彼女は、世律神の眷属です。この世界にいる数少ない一人。…そして今はおそらく……虚無神に囚われています」
遂にたどり着く。
この世の真理2面性を含む三つ巴。
その最後のピースである世律神とその眷属。
あの女性、フィリルニームは運命に縛られている世律神の眷属だった。
「その反応…今の所在は分かりませんか」
「は、はい。残念ですが…」
静まり返る謁見の間。
その状況をあどけない声が静寂を破る。
「ええっ?ニームおば様の事?…えっと、私昨日会いましたけど…」
「っ!?なあっ?!!マ、マルレット?…ま、まことか?」
「うえっ?!は、はい」
余りにも食い気味に声をかけるルイデルド国王。
その勢いに思わず後ずさるマルレット。
私も彼女に視線を向けてしまう。
「ええっ?あ、あなた、その、フィリルニームさんに会ったの?しかも昨日?」
「う、うん。ていうかニームおば様、最近ずっと私の部屋に居候していたのだけれど…。私以前国王様に報告しましたよね?」
「っ!?」
驚愕の表情を浮かべる国王。
そして徐々に思い出される光景。
ルイデルドはそこで膝から崩れ落ちた。
「…そうだ…わ、私は確かに報告を受けていた…な、なぜ?…ま、まさか私はボケてしまったのか?」
恐らく何らかのスキル。
そしてそれはきっとノーウイックの技術を使っている。
何よりこのタイミングで姿を現していたその理由。
私はマルレットの肩に手を置いた。
「ねえマルレット?」
「う、うん?」
「あなたの事、鑑定してもいいかな?…ごめんだけど、今は確信が欲しいの」
「っっ!?……ふう。……そうだよね。わたし知らなかったけど…どうやらニームおば様、やらかしていそうだもんね。良いよ?見てくれる?」
「…ごめんね。……『鑑定』!!!」
※※※※※
私は魔力を練り上げ彼女の心に直接干渉を始めた。
今の私の魔力とそのコントロール。
単純にこの世界最高峰だ。
だからわかってしまう。
今回のこの状況と、それをもたらした虚無神のその力のすさまじさを…
(…やっぱり私は運がいい…何よりこの順番…ジパングを先に治めたその理由…)
まるでパズルのように入り組んでいる今の状況。
きっとヒント無しでは絶対にたどり着けなかった真実。
私はやっと、それに挑戦するその資格を今。
遂に手に入れていた。
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