第149話 百合気味のレリアーナは新たな扉を開く?
男性陣が魔力を噴き上げ鍛錬に励んでいる修練場。
同じタイミング。
何故かレリアーナの自室で、マイとサクラは可愛らしい服に身を包んでいた。
「ふわーやっぱりマイとサクラ、めっちゃ似合う!…ううっ、可愛すぎるよっ!!」
「あう、あ、ありがと…」
「あ、ありがとう?」
以前帝都のマイナール洋服店で購入?献上?された、幾つもの可愛らしい洋服。
レリアーナはマイとサクラを見てピンと来ていた。
(ぜっったいに、似合う!!これはまさに彼女たちの為の洋服!!!!)
目を輝かせるレリアーナ。
彼女の脳裏にもう一つの欲望があふれ出していた。
(この流れ…イケる!!…あの可愛い服…着てもらう!!)
※※※※※
レリアーナはもうすぐ19歳。
彼女はシックな服が似合う。
一番の青春期にレリアーナは呪いに囚われ、お洒落に気を割く余裕すらなかった。
だからつい似合わないと思いつつ。
フリフリのついたピンクを基調とした可愛らしい洋服を2着ほど、彼女はしっかりとチョイスしていた。
当然だが自らも試着はした。
確かに可愛い。
だが残念ながら、何故かいわゆる『コスプレ』のような違和感がどうしても付きまとっていた。
当然美緒はその服を着たレリアーナを褒めてくれた。
だけど残念ながら『あの時の美緒』のセンスはいまいちだ。
さらにはルルーナの駄目出し。
『あー。可愛いけど…リアには少し合わない、かな?』
とか言われてしまう始末。
うん。
分かってた。
分かっていましたよっ!
コホン。
…少し子供っぽい、何より可愛さに振り切ったデザイン。
まるでお披露目の時に着るようなその服。
でもその服たち。
ついに日の目を見たのだった。
※※※※※
可愛らしい服を着て顔を染めモジモジとするマイ。
レリアーナの興奮はとどまることを知らない。
もしこの世界、スマホがあったら写真を撮りまくっていた事だろう。
マイと一緒に誘われたサクラ。
思わずマイを見つめ、ため息を零していた。
当然だがサクラも可愛い服を着せられているが?
「ふわー…マイもサクラも超かわいい…ゴクリ…ね、ねえ?」
「は、はい?」
うっとりしつつも何故か大きく頷き、決意の色に染まるレリアーナの瞳。
ごそごそと、洋服の詰まっている箱から何やら取り出した。
「お、お願いがあるんだけど…この服?…着てみて欲しいんだけど…」
彼女の手にあるもの―――
見たことの無い、やけに派手な色の洋服?
造形がそもそもおかしい???
「うえっ?!リ、リアさん?!!こ、これって…」
「お願いしますっ!!」
「っ!?は、はい」
何故か顔を赤く染めつつ、懇願するレリアーナ。
その勢いに押され、サクラはおそるおそる服を受け取った。
※※※※※
今サクラに手渡されたもの。
美しすぎる大人の女性では絶対に似合わないであろう『可愛らしい動物をモチーフ』にした着ぐるみだった。
なぜかマイナール洋服店を出た後に、レナーク嬢から渡されていたモノ。
一目見た時に『封印しよう』そう心に誓ったのだが。
実は一度フィムにお願いしたのだけれど。
「んー。ヤダ」
そうあっさり断れていた。
何はともあれ今サクラは受け取ってくれた。
すでにサクラが着ている姿を妄想しているのだろう。
緩み切った、人さまには見せられないような、だらしのない表情をしたレリアーナがそこにはいた。
※※※※※
実のところ。
レリアーナとて初めから『おかしかった』わけではない。
確かに彼女は幼少期より普通の女性とは違う生活を送っていた。
使命を持つ伝説の一族。
様々な縛りに囚われる宿命。
そんな生活。
会う事が出来るのは限定されたわずかな人達のみ。
もしも普通に街で暮らしていれば、きっと多くの恋をしたはずだろう。
だが運命は『通常の幸せ』を許してはくれなかった。
そして出会ってしまう。
救ってくれた、いまだかつて見たこともない可愛い生き物。
ゲームマスターであり、絶世の美少女であった美緒と。
あの時の彼女を虜にしてしまった感動。
彼女の中の倫理観、すでに崩壊していたんだ。
そんなレリアーナの望み―――
可愛い女の子たちの『可愛らしい姿』を見ること。
スキンシップも興味はあるが。
一番は見て愛でる。
まさに今。
叶うときは間近に迫っていた。
※※※※※
サクラが着替えるため、別室へ移動したタイミングで。
マイはレリアーナに問いかけた。
「え、えっと、リア?」
「(はあはあ)コホン……ん?な、なあに、マイ」
「…す、好きな人とかはいないの?リア、とても美人さんだから…」
「好きな人?男の人ってことよね?…あー…うん。…今はまだ…該当者居ないのよね」
「…該当者???」
「うん」
該当者?
えっと。
いまいちよくわからない返答をするリアに、マイはますます混乱していくのであった。
マイの認識。
レリアーナはギルドの男性陣から非常に人気が高い。
超絶な力を保有する多くの女性たちに比べ、守りたくなる女性。
裏方で頑張る彼女の姿。
常に多くの男性の視線を奪っていた。
だからきっと。
いつかはレリアーナにも春が来るものだと、マイは思っていたのだが。
該当者?
意味が分からない。
マイはため息をついてしまっていた。
※※※※※
レリアーナは実は呪いにも似た信念を持っていた。
彼女の一番近くにいた男性。
兄であるエルノール。
そのせいでレリアーナの中の『男性の基準』がとんでもない事になってしまっていたんだ。
※※※※※
およそ10年前―――
彼等が普段生活していたエルトリア。
ガザルト王国の侵攻で滅ぶ前―――
お気に入りの泉のほとりでスルテッド兄妹は他愛もない話をしていた。
「…お兄ちゃん。…私大きくなったら、お兄ちゃんと結婚する!」
「アハハ。ありがとうリア。嬉しいよ?でもね、姉弟では結婚できないんだよ?リアには僕なんかよりもずっとカッコよくて、強い人が現れるさ」
「お兄ちゃんよりもカッコよくて強い人?」
「そうだよ。きっとリアは幸せになれるさ。凄く可愛くて、賢い。…ボクの自慢の妹だ。もちろん僕が認めた男にしかお前は渡さないけどね」
「…うん。わかった」
※※※※※
よくある子供の頃のお話―――
仲の良い兄妹間では一度は行われる儀式のようなものだ。
だからエルノールは軽い気持ちで言っていた事。
でも彼女は大好きな兄の言葉をずっと信じて今日まで生きてきた。
エルノールはやらかしていた。
彼よりもカッコよく強い男性???
…一体この世界にどれだけいることなのだろう。
何はともあれ、様々な要因が絡み合い―――
レリアーナはいけない扉に手をかけ始めていた。
※※※※※
(うううっ、恥ずかしい?!…何これ?…ピンクのウサギ?)
レリアーナのお願いを聞き、どうにか着替えたサクラ。
まだ幼さを残す彼女、メチャクチャ似合っていた。
「はうっ!!サクラ…ちょー可愛い!!」
思わず近づき、着ぐるみのサクラをとことん観察するレリアーナ。
至近距離にいるレリアーナの興奮する様に、顔を赤らめてしまう。
(うあ?…リアさん、めっちゃ喜んでる?……わ、わたし…)
そして沸き上がる、羞恥とは違う感情。
実は貧乏だったサクラ。
多くの兄弟がいた。
貧しいながらも仲の良かった兄弟たち。
皆ジパングの騒動で命を落としてしまっていた。
レリアーナの妖しくも優しい態度。
何よりサクラを見て心の底から喜んでいる姿。
ちょっと百合っぽくて…
少し怖い時もあるけど…
なんだか。
お姉ちゃんみたいで…
思わずサクラは涙ぐんでしまう。
その様子に気づいたマイは固唾をのみ、見守るとこしかできなかった。
「サクラ………」
とんでもなく美しいレリアーナと可愛らしい着ぐるみに包まれたサクラの二人。
冗談みたいな絵面―――
だけど。
今この部屋には親愛の感動がひそかに流れていた。
そして恐ろしい事実にマイは気づく。
(っ!?…もしかして?!!…つ、次は…私?…アレを着るの?…ゴクリ)
台無しだ(笑)
正直他人から見れば『無理やり変な服を着せられているサクラ』
そういう図式なのだが…
今この場に居る3人、何故か納得していたんだ。
※※※※※
突然レリアーナの部屋に、恐ろしい気配が充満する。
ピタリと動きを止め、ギギギと音を立てドアの方に視線を向けるレリアーナ。
その顔が絶望に染まる。
「リーア――!!!!」
「ひ、ひいいいいいっっっ?!!!」
事情を知らない、冷静な判断をした、
普段優しくみんなのお母さんのようなファルマナさん。
彼女の鬼のような顔がそこにはあった。
サクラとマイは無事解放された(笑)
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