第148話 絶対者たちの鍛錬と忍び寄る影
美緒において行かれたミコト。
かなりへこんでいたが、十兵衛の真摯な鍛錬を見てその気持ちを入れ替えていた。
「…強いな、十兵衛。…ねえ琴音、今のボクと十兵衛、どっちが強いかな?」
修練場の横にあるスペースで、お気に入りのリンゴジュースを飲んでいた琴音はなぜか不機嫌そうにその瞳をミコトに向けた。
「ミコトに決まってるでしょ?十兵衛は強いけどヒューマンじゃん。あんたにかなうわけないでしょうが」
そんな様子に何故か愛想笑いをするトポ。
実はさっきまで荒ぶっていたミコトの暴走に、二人とも疲れ果てていた。
そして何故かめっちゃ疲弊しているスイまでもが、ミコトにジト目を向けていた。
「…九尾」
「うん?」
「あんた、酷すぎ。反省しなさい」
「うえっ?!…し、してるよ?…ごめんって」
実はミコト、一瞬だがその本性を露見させていた。
つまり九尾へと変態していたのだ。
ミコトは九尾。
伝説に謳われる大魔獣で妖魔の頭領。
完全に呪いを解かれた今、その力はとんでもないレベルに到達していた。
しかも普段無意識ではあるものの、力を抑えているミコト。
変態し、本性を現したとき彼女はあまりの自らの中を駆け回る圧倒的な力に一瞬記憶が飛んでいた。
すなわち、修練場にあり得ないほど濃密な魔力の嵐が吹き荒れていた。
美緒のギルドは化け物ぞろい。
恐らく世界でも類を見ない強者の集まる場所だ。
しかしそんな場所でさえミコトの妖気に、全員が本気で死を覚悟した。
ミコトの最大覚醒時のレベル。
400を超える。
それはあのオロチをも凌駕する高みにあった。
ランルガンの決死のブレスとレルダンとザッカートの本気の斬撃、そして十兵衛のアーツ。
さらにはロッドランドの勇者の一撃にアルディのオリジナル魔法。
聖獣であるスイ渾身の結界に、さらにはサンテスのアーツ、金剛無双。
それでどうにかミコトの暴走を食い止める事が出来ていた。
もしそのどれかが足りなかっただけでも、きっとギルド本部は壊滅していた事だろう。
「あー、えっと……ごめんなさい」
ミコトの謝罪。
ひたすら刀を振っていた十兵衛が呆れたように声をかけた。
「…ミコト殿。普段から少し力を開放してはどうだ?ミコト殿は強すぎる。おそらく個で対応できるのは美緒殿のみ。拙者はミコト殿を信じておるが…先ほどは肝が冷えたものだ」
「あう。う、うん。…努力する。約束だよ?」
その言葉にほっと息をつくギルドの皆。
その様子にレギエルデが目を光らす。
「ミコトは魔力と妖力のコントロールを覚えようか?…僕が付きっきりで教えよう」
なぜかニヤリとするレギエルデ。
ミコトは背筋に嫌な汗をかいていることに気づいていた。
※※※※※
何故か借りてきた猫のようにおとなしく連行されたミコト。
彼女が去った修練場、男たちは大きくため息をついていた。
「…ザッカート」
「あん?」
「…俺たちはまだまだ強くなる」
「たりめーだ。…おいっ、ランルガン」
「ああっ?」
「…胸を貸してくれ」
「っ!?…ハハッ、本当にお前らは最高だ。…だがな」
「あん?」
「お前は格下じゃねえ。俺と同等。…だからこれは対等な鍛錬だ。…かかってこいやっ!!」
「っ!?へっ。ああ、そうかよ。いくぞおおおおおっっっ!!!!」
突然始まる超絶者たちの鍛錬。
皆の瞳に光が宿る。
※※※※※
暫くして。
瞬間現れるマールがその目に獰猛な光を宿す。
「…フハハ。騒がしいから来てみれば…まるで数年経過したようではないか」
別の任務で離れていたマールデルダ。
覗いた修練場を包む気配に、凄まじい笑みを浮かべていた。
「くくくっ。たぎる。たぎるぞおおおっっっ!!!!」
そして始まるさらなる超絶者の乱入。
レベルは今男たちの中ではランルガンが一番高くレベル214だ。
マールは202。
しかしいまだ最強は間違いなくマールだった。
男たちは全員がマールに倒され白目をむく。
「くくくっ。我が魔眼、喜びに打ち震えておるわ。さあ、もっとだ。もっと戦おうぞ!!」
さらに吹き上がるマールの闘志。
美緒のギルド、まさに伝説のギルド。
彼等はさらに強くなっていく。
※※※※※
ヒャリナルクの宮殿国王の謁見の間―――
目の前に佇むゲームマスター、美緒の前に跪く国王ルイデルド。
その光景に多くのハイエルフたちは固唾を呑み見守っていた。
「ついにこの日が…美緒さま、今こそ創造神ルーダラルダ様の願い、あなた様にお渡しする事が出来ます」
用意された椅子に座る私たち10人。
そっと立ち上がり、私は跪くルイデルドさんの手を取った。
「顔をお上げください。それに幾つかお聞きしたいこともあります。お話してもよろしいですか?」
「ええ。もちろんです。…まさかここまでとは…まさにあなた様とその仲間の皆さま、この世界の希望を凝縮させたようですな」
にこやかに立ち上がる国王。
そして私たちは大きなテーブルで向かい合い話し合いを始めようとした。
その時。
謁見の間に暗鬱とした魔力が吹き上がる。
参列していたダークエルフの男が、頭を抱え悍ましい眼光で私を見つめてきた。
(…いた。…やっぱりね……本来私がここを訪れるのは帝国歴31年。5年早い今、間に合ったんだ)
「なあっ?くうっ、貴様、ワサマナ、どういうつもり…がああっっ?!!!!」
襲い来る暗黒の魔力。
私はそっと結界を構築し、その男以外を包み込んだ。
咄嗟に臨戦体勢を整える私の大切な仲間たち。
「ぐああ、く、くそおっ!!聞いてないぞ?なんだお前その力…くそがっ!!虚無神様、話が…ちがっ…ぐうあああああああああああああっっっ??!!!」
激昂する男。
刹那その魔力が膨れ上がる。
つい先日感じたその魔力。
恐らく人間爆弾。
すでにそのダークエルフの男は脳をいじられていた。
「させない!!はああっっ!!!『隔絶解呪!!』おまけに『絶封!!』…リンネ、お願いっ!!!」
「任せてっ!!!はあああっっ!!!!『極神封絶陣!!!!』」
悍ましい魔力を抑える私とリンネ渾身の封印術。
神聖ルギアナード帝国で遅れを取った私。
すでにその術式、私はもう認識している!!
「さあ、お話し、聞かせてもらおうかな」
※※※※※
本来のルートと違う今回の私のルート。
2回目のそれはまさに私に都合の良い展開になっていた。
しかしそれは虚無神の予定調和。
そしてそれを私は知っている。
だからこそ、その時まで、私はそれを利用する。
ある『カギ』を抑えていると信じている虚無神。
(せいぜいそう思っているといい)
第3の私が目を覚ます。
それはまだ自覚のできない事。
この世の真理2面性。
そしてそれらを監視する調整していく三つ巴。
齎される事実。
確実にこの世界レリウスリード。
そしておそらく誰も知らない覚醒を果たそうと変貌を始める美緒。
未だ誰も経験のないステージへと世界は加速していくのだった。
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