第147話 ハイエルフ族との面会
ロナンを救出する3日前。
私はワナルナドさんに紹介されたハイエルフの国ブーダの重鎮、カゲロウさんと面会していた。
「…凄まじい…話には聞いていたが…あなた様はまさにこの世界の救世主です。ようこそ、古代エルフの国ブーダへ。歓迎させてください。…それに美しいお嬢様方も…心より歓迎申し上げます」
「ありがとうございます」
じいっと私を見つめるハイエルフと魔族のハーフであるカゲロウさん。
何とレベルは163。
忍のジョブをとことん鍛え上げた凄まじい力の持ち主。
流石はこの世界の護り手の一人。
『ガーディアン』守護者の称号持ちで、創造神の眷属だ。
カゲロウさんは今私たちの居る石畳でできた小道の先、行き止まりとなる大木の前で魔力を揺蕩らせた。
ハイエルフの住む区域。
それは厳重に秘匿されている。
神聖な魔力が幾重にも絡みつく自然の結界。
いわゆる魔法で作られた植物が凄まじい速度で成長していった。
やがて開く美しい花々。
かぐわしい香りとともに発光を始める。
「ふわー、キレイ♡」
「…凄い…なんて美しいの?」
「ふむ。何とも興味深いな。まさかこのように隠されておったとは」
口々に言葉を漏らす私と仲間たち。
実は今回、私たちはある事情で女性のみでここを訪れていた。
ルノークと案内をしてくれたワナルナドさんは、二つ前のブロックで待ってもらっていた。
私とナナ、リンネ、それからミリナ。
マキュベリアにガーダレグト、ルルーナにミネア。
ファナンレイリ、さらには…
「ねえ美緒?凄いね!とってもキレー♡」
驚くほど成長し、10歳くらいの姿の超絶美少女、フィムを含めた9名で私たちは訪れていた。
本当は女性陣全員が希望したのだけれど…
通信で10名以下にしてほしいと懇願されていた。
ミコトと琴音のあの落ち込みよう。
うん。
今度絶対に連れてきてあげよう。
「…あーあ。フィム、スッゴク可愛かったのに…まあ成長したフィムもとても可愛いのだけれどね」
「むう、ルルーナのイジワル。わ、私もみんなの力になりたかったのっ!」
聖獣であるスイの角を欲したフィム。
彼女は守られているだけだった現状に焦りを感じていた。
自分も力になりたい、皆と一緒に戦いたい。
その想いが彼女の成長を促していた。
相変わらずファルマナさん謹製の可愛らしい服に身を包むフィム。
成長した今もとってもキュートだ。
「ふふっ。フィムは可愛いよ?それにすっごく強くなったもんね。心強いよ?」
「っ!?う、うん」
顔を染め照れながらも私に抱き着いてくるフィム。
ああ、なんて可愛いのかしら。
私は思わずぎゅっとフィムを抱きしめた。
まだわずか残る幼子特有の甘い香り。
私は凄く癒されるのを感じていた。
「…コホン。美緒?カゲロウさん、待っているよ?」
「っ!?う、うん。ごめんなさい、カゲロウさん」
ナナが何故か呆れたような瞳を私に向けている。
どうやら最近の私は抱き着き癖が付いてしまっていた。
「ハハッ。かまいません。…さあ、それではどうぞ。お進みください」
拓ける光に包まれた道。
私たちはカゲロウさんの後に続き、遂にハイエルフの本拠地へとたどり着いた。
※※※※※
一方ゾザデット帝国。
例の倉庫群、ノーウイックが陣頭指揮を執りその調査と解除を始めていた。
「へっ。誰だか知らねえが舐めた真似しやがって…なんだこの出鱈目な魔力の構築は。糞がっ、本当に俺の仕事そっくりじゃねえか。余計に腹が立つ」
主に構築されている隠蔽技術は、あるものと連動していた。
アラート。
つまり誰かに伝える装置がセットになっていた。
「おい。これって…誰か『感知するもの』が居るってことか?」
端から解除をするノーウイックの後ろからドレイクはあきれたように声を上げた。
何しろ付与されている隠蔽、数メートルという短い距離に既に5つもの術式が構築されていたのだ。
「ああ。これはな、いわゆる『初期の仕事』だ。つまり不完全。だがそのアラートだけは一級品だ。意味が分からねえ…よしっ、解除完了だ」
瞬間重苦しいような魔力が霧散する。
そこには明らかに後付けされたような壁がその姿を現していた。
「…すげえ」
思わず感嘆の声を上げるイニギア。
自分ではできない付与に解除。
驚愕とともに悔しさも湧き上がってくる。
「…でもな。…今日はここまでにした方が良いな」
「はっ?」
順調に解除し、いまだ明るい時間。
何故かノーウイックはいきなり興味を無くしたような顔でつぶやいた。
「この先は別の術式だ。俺には解除できねえ。…全く。ジパングといいここといい、とんでもねえ性格の悪い奴がいやがる」
「どういうことだ?」
「連続性の禁則事項を組んでいやがる。つまり同じものの魔力、それに反応する仕組みだ。こりゃあ、とんでもねえぞ?だが俺の分野じゃねえんだよ。この先はな」
大きく息をつくノーウイック。
気付けば驚くほど消耗しているその様子に、皆がごくりとつばを飲み込んだ。
「…早く始めて正解だったな。あと3日はかかるぞ」
「っ!?」
「美緒に頼らざるをえねえな」
ノーウイックのつぶやき。
皆の心に悔しさを思い起こすには十分だった。
※※※※※
光の道を進むこと数分。
突然視界が開け、大小さまざまな建造物がその姿を現し始めた。
「ふわー」
思わず出てしまう声。
まるでおとぎ話のような美しい光景にわたしたちは息をのんだ。
「ハハッ。嬉しいですな。そのように感動してもらえるとは…む?」
私たちの様子に優しい表情を浮かべるカゲロウさん。
突然怪訝そうな声を上げた。
そして物凄い速さで接近してくる魔力反応。
私の心臓がトクンと鼓動をはねさせた。
「…美緒?美緒―――――――!!!!」
「マルレット?…ああ、やっと会えた…マルレット!!!」
可愛らしい女性。
輝く金髪をなびかせ、一目散に私に抱き着いて来た。
エルフの秘宝マルレット。
メインキャラクターで『バナー』旗印の称号持ち。
彼女の居る戦場、それはあり得ない幸運に包まれる。
彼女は多くの人が絡む戦場でその効果を最大に発揮する。
そして彼女もまた、創造神の眷属だ。
「あああ、会えた、会えたよ♡…美緒、ああ、なんて可愛いの?」
「ふふっ。マルレット?あなたもとっても可愛い。…今度こそ会えたね」
「っ!?……うん」
彼女は特別な称号のほかにいくつかのスキルを持っている。
その一つ『未来視』
実はそれは過去の記憶の残滓。
幾つものシナリオで私は彼女と戦っていた。
でも実は会えたこと、今までなかった。
「ふむ。美緒よ。…たどり着いたのだな」
「うん。ありがとうレグ」
「なあに。お前の行い、正しかった証明だ。胸を張るといい」
「うん」
この世界の動き。
すでに私の知るものではなくなっていた。
でも順調に集まる大切な仲間たち。
きっとこれは虚無神の予定調和なのだろう。
だけど。
私は前を向く。
そしてマルレットの手を取った。
「ねえマルレット?長老様に、ルイデルドさんに会いたいの。良いかな?」
「っ!?う、うん。師匠、いいよね?」
私たちの初めての出会い。
その様子に優しい瞳を向けていたカゲロウさんはにっこりとほほ笑んだ。
「ああ。もちろんだ。さあ、美緒さま。こちらへ」
そして私たちは新たなステージへと、その資格を手に入れることになる。
創造神であるおばあ様。
ルーダラルダ渾身の神器。
幾つもの世界を超えて、遂に私の手にたどり着く神器。
物語は大きな変革期へと突入していくのだった。
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