第146話 ロナンのスキルと救いの手
国境にほど近い農業の収穫物を保管する倉庫群。
その一角に不釣り合いなガタイの良い男たちがたむろしていた。
まもなく夜になる薄暗い時間。
焚火の周りで酒盛りを行う男たち。
ロナンとキナルド、そしてキナルドの仲間であるBランク冒険者パーティー『暁の魔剣』の3人が、少し離れた森の中からその様子をうかがっていた。
「ちいっ。厄介な奴がいるな…6…いや、8人か…おいっ、クラット、どうにかなるか?」
しかめっ面のキナルドはひそひそと冒険者の斥候であろうクラットという男に声をかけた。
「ああ。今仕込んでいるところだ。…あいつ『蛇使いのバラボル』だよな。…厄介だな」
あまり知られていないがこの世界の蛇は隠密に優れている。
ピットと呼ばれる器官、それは周囲の索敵に適していた。
「…秋だが今日寒い日だったのが幸いだな。蛇は寒さに弱い。…もし気温が高ければすでに俺たちは索敵の範囲内だ」
遠目に数匹の蛇の姿が確認できるが、それらは火の回りでトグロを巻いている状況だった。
「…なあロナン。この距離でアイツらの心、伝わるか?」
正直無茶な話だ。
今たむろしている男たちとの距離。
恐らく40mは離れている。
『伝心』スキル持ちのキナルドは、あり得ない事を聞いている自覚がある。
だが先ほど話をしたときに、わずかではあるがコルダの心を拾えていたロナンのそのスキルの力に、キナルドは期待をかけていた。
(コイツ…まだ若いのに…おそらく俺のスキルレベルよりもはるか高い位置にある…もしかしたら…)
「…う、うん。……あの倉庫の中…あいつら『12人』居るって、皆が思っているよ?」
「っ!?…そうか。…他には何かわかるか?」
「えっと…『侯爵の息子?…3時間後に来る…?…』…ぷはっ、ご、ごめん。そのくらいしか拾えないよ」
とんでもない精度。
キナルドはごくりとつばを飲み込んだ。
(ハハッ。すげえ。…こいつはマジで拾いもんだな)
通常スキルには効果範囲がある。
伝心のスキル。
はっきり言ってチート級だ。
でも本来はせいぜい5m位が効果範囲だった。
「…ねえ。いつまで見ているつもり?…準備は整ったよ?…いつでも行ける」
暁の魔剣、その一人アサシンのメイが暗き衣をまとい、目をぎらつかせる。
後ろに控える魔法使いのディザステルも詠唱を終え、すぐにでも発動できる準備を整えていた。
「ああ。ちょっと待ってくれ。…おっと、来たようだ」
「「「「っ!?」」」」
いきなり増える気配にロナンを始め、暁の魔剣の面々は思わず顔をこわばらせる。
咄嗟に殺気を吹き上がらせた。
「おっと?!…おっかねえな。おい、キナルド?お前俺のこと伝えてねえのか?」
「わりい。スマンが今、誰が敵なのか分かんねんだ。…問題なく来れたお前なら信頼できる」
「ふん。相変わらず慎重だな。…俺はカザオルド伯爵の私兵団の団長、ノルイナークだ。…警戒、解いてくれねえか?」
今回の人身売買。
実は領主であるカザオルド伯爵も頭を悩ませていた案件だった。
本来キナルドとコルダはカザオルド伯爵の子飼い。
スラムの取りまとめを任されていた。
「…あいつらか」
「ああ。…お、おいっ!?…な、何でアイツが?!!」
「…ちっ」
たむろするガタイの良い男たち。
そこに一人の上等な服を身に纏った男が数名の冒険者らしき男たちとともに姿を現した。
この場所はカザオルド伯爵の領地のはずれ。
すぐ隣、広大な面積を誇る国境に面した領地を治める辺境伯カゾートの参謀であるピニイット子爵が、神経質そうな顔であたりを見回している。
そして冒険者らしき男たち。
明らかに纏うオーラが他のものと違う。
「……だめだ…撤退するぞ」
「っ!?」
「アイツら、『黒鉄の信徒』だ。…Aランクの冒険者パーティー…俺たちの戦力じゃ返り討ちが関の山だ」
額に冷や汗をにじませ、キナルドは苦々しい顔でつぶやく。
こっちはBランク冒険者含め6人、相手は14人だ。
しかも格上。
「で、でも…ここで逃がしたら…」
思わずつぶやくロナン。
何より彼は母親と約束をしたのだ。
どうにかしてルイミを助けたい。
「…なあ。一つだけ方法がある」
そんな中、今来たノルイナークがつぶやく。
皆の視線が彼に集中する中、ごそごそと腰につけていたポーチから小さな石を取り出した。
「コイツは詳しくは言えねえが『麻痺を付与してある魔石』だ。3つある。正直そんなに強いもんじゃねえ。せいぜい目くらましが関の山だ。…だが一瞬隙を作れるだろう。…ピニイット、奴をさらう。…そして吐かせるんだ。あいつらの所業、そのすべてを」
思わず目を見張るキナルド。
それはつまり目的は違えど、奴らと同じ手段を取るということだ。
だが。
まともに戦うには力が足りなすぎる。
隙をつけば成程、人一人くらいなら連れ去ることは可能だろう。
何よりここで引いてしまえばおそらく二度と足取りはつかめない。
そうすれば今いるであろう攫われたもの12名、そしてルイミまでもが悍ましい目に遭うことは明白だった。
「…効果範囲は?」
「…目の前で発動させる必要がある。まあ数分は動きを阻害できるだろう」
そんな中。
ロナンは激しい違和感に襲われた。
今ロナンはスキルを最大で発動させていた。
今来た男。
その雰囲気と言うか心。
突然全く見えなくなっていた。
まるで…先ほどキナルドが言ったように、何かに憑かれたみたいに。
ジリリと後ずさるロナン。
その様子に気づいたキナルドの背に、いやな汗が流れ落ちた。
(っ!?ロナン?…ま、まさか?!!!)
「……こんなふうになっ!!」
突然魔力が吹き上がる。
鈍い光を放つその魔石。
ロナンにキナルド、そして暁の魔剣の3名。
魔石の効果なのだろう、突然動きを阻害された。
「まったく。…世話をかけさせやがって。…おい、コルダ。もういいぞ」
「っくっ、き、貴様…」
蹲りつつもキナルドは男を睨み付ける。
おもむろにノルイナークは腰から短剣を抜き放ち、キナルドの首を刎ねた。
「「「「っ!????」」」」
「ふん。おとなしくしていれば長生きできたものを。…ほう?お前、スキル持ちだな…しかも…クククッ。なかなかどうして。優秀じゃないか」
「お、お前…」
「く、くそがっ!!」
どうにかして動こうと力を籠める暁の魔剣の3人。
しかし気付いた時には先ほど訪れたAランク冒険者『黒鉄の信徒』5人に囲まれていた。
「おいっ、そのガキは殺すなよ?どうやらスキル持ち、しかも上級だ。クククッ。これならラギルード坊ちゃんも喜ぶだろうさ」
「ああ。ならこの女、楽しんでも良いのか?」
下卑た表情を張り付ける黒鉄の信徒の5人。
すでに拘束されたアサシンのメイ、3人の男に押さえつけられていた。
「くうっ、イヤッ!…や、やめて…あうっ?!!」
「め、メイ?!!ぐああああああっっっ!!!??」
「男はご退場の時間だ」
切り裂かれ絶命するクラットとディザステル。
そして動揺するロナンの首に、激しい衝撃が落とされた。
「ぐうっ?!!」
「ふん。お前はこっちだ」
悍ましい欲望に染まった心。
それを確認したロナンはその瞬間意識を奪われた。
※※※※※
あれから2年の歳月が流れていた。
ロナンはある一つの約束の元、自身のスキル、それを利用されていた。
今彼のスキルはその力を増し、およそ50mの距離の心を拾えるようになっていた。
それは交渉事や謀に凄まじい力を発揮する。
結果ロナンは非道な者たちの切り札となる。
心を削りながらも妹の為歯を食いしばるロナン。
悪党の警戒装置として最低限の生活を保障された彼。
だがその生活はまさに地獄だった。
目の前で暴行を受ける子供たち。
そして少女たちは…。
彼等の泣き叫ぶ声が、ロナンの心を壊していく。
やがて最後のよりどころだった彼の妹。
その命の火が、まさに消えそうになっていた。
※※※※※
浮かぶ悍ましい情景を振り払い、ロナンは心の叫びをあげる。
「ああ、ああああっっ。…これはきっと罰だ…悪党に加担した俺の…くそっ、くそおおおおおおっっっ!!!!」
寒い牢屋の中。
ロナンの咆哮、むなしく掻き消える…
「…間に合った」
「っ!?」
不意に現れる人の気配。
そして包まれる優しくも温かい感触。
ロナンは何が起きたのか分からなかった。
「お待たせ、ロナン?…酷い、妹さん、消耗が激しい…ねえロナン?」
「うあ、え、えっと?」
「いくよ?」
気付けば知らない部屋の中。
ロナンとルイミは明るく温かい部屋で、ベッドに横たわっていた。
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