第145話 ブーダへの道筋とナナの悩み
ブルーデビル所有のパーティーハウスのリビングルーム。
今ここは緊張感に…包まれてはいなかった。
「あっはっはっ。そ、そうなのですね?いやあ。そんなこともあるのですな!」
お腹を抱え大笑いするワナルナド。
ちょうどいま、先月仲間になった伝説の義賊、ノーウイックの逸話を話していたところだ。
「もう。笑い過ぎよ?ワナルナド。私すっごく頭に来たのだから」
「ハハハッ。そ、そうですな。確かにリンネ様にはとんだ災難。…で、ですが…そ、その…」
つい視線がリンネの立派な胸に向いてしまう。
顔を赤く染めてしまうワナルナドさんに、何故か勝ち誇るリンネ。
最近さらに張りを増した彼女の胸。
男性には少々刺激が強い。
そんな様子になぜかジト目をするナナ。
今日の彼女は何故か『胸に関すること』に非常に敏感なようだ。
「コホン。それでワナルナドさん?ハイエルフの皆さまへの案内、問題はないのですね?」
「ええ。むしろ待っているはずですよ?つい先日、各種族あてに通達が来ているくらいですし。先ほどのお話の通り、3日後の1月16日で問題ありません」
実は国主であるハイエルフの国王、ルイデルド・ルスニールより、ゲームマスターと出会えた場合、すぐに伝えてほしいとエルフの各種族は勅命をもらっていたようだった。
彼等とて古くから存在する、この世界の根幹を知っている種族。
恐らく私の事、すでに認識はしているのだろう。
(…もうすぐ会えるね…マルレット……)
以前の美緒のルートでも出会っているマルレット。
しかしその時美緒は彼女と会話した事はなかった。
実際のゲームではさんざん見てきているし、何なら美緒お気に入りのシナリオの主人公でもある。
だが。
以前の美緒のルート、思い出してきている酷いルートの時―――
彼女マルレットは美緒と出会うイベントのその朝。
暴走したダークエルフ、悪魔の眷属に囚われた男性によりその命を散らされてしまっていた。
(今度は…絶対に守る……私は彼女に会いたい)
美緒の瞳に決意が浮かぶ。
その様子をリンネは優しい瞳で見つめていた。
※※※※※
今日の目的、古代エルフへの足掛かり、それは問題なく解決した。
そんな中いまいち元気のないナナに対し、私はもとよりリンネがかなり心配しており、談笑が途切れたタイミングでリンネはナナに問いかけていた。
「ところでナナ?」
「…なあに?」
ナナに視線を向けリンネが彼女に問いかける。
なぜかナナは難しい顔だ。
「ねえ。あなた学園で何かあったのかしら?……さっきからやけにピリピリしているのだけれど?」
「っ!?………はあ」
いきなりため息をつくナナ。
どう見ても様子がおかしい。
そしておもむろに彼女はリンネの隣の椅子に腰を掛けた。
「リンネ様」
「うん?」
ナナの視線がリンネの立派なたわわに注がれる。
まさにじいいっと音がするほどだ。
「…どうすれば育つのでしょうか?」
「………はっ?」
実は今日の午前中、彼女の学園では最後の身体測定が行われたようだった。
そこでの事実。
ナナはそれに対し激しい悲しみを湛えていた。
「……私は今17歳です。もうすぐ18歳になるのだけれど…」
「…う、うん」
「…どうして……どうして、私の胸…小さくなったのでしょうか?…わ、私、もうどうしたら良いか……」
あー。
そうだったのね?
うん?
でも彼女の胸、以前より少し大きくなったような気がするのだけれど?
そもそも今はこの世界、かなり色々と危ない状況になっている。
正直申し訳ないのだけれど、はっきり言ってどうでも良い事だったりする。
でもナナのこのテンション。
大きな力を持つ彼女、もしかしたらとんでもない事になってしまうかもしれない。
私は恐る恐るそっとナナの胸に後ろから包むように触れてみた。
「ひゃん?!…み、美緒?ちょっ、あう♡」
…やっぱり育ってる?
確実に以前より、大きさも柔らかさも増している彼女の可愛らしい形の良い胸。
どうやらナナ、勘違いをしている?!
「…ねえナナ?今日の測定って、以前と同じ方法だったのかな…私の触れた感触で言うと…あなたの胸、それこそ私よりも大きく感じるのだけれど?」
「えっ?…う、嘘……た、確かに、測定する先生…新しい先生だったけど……」
触れているせいだろう。
何故かナナの想いが僅かではあるが私に伝わってくる。
(…私は胸が小さいせいで…ラギルードに興味を持たれなかった…も、もし…彼も…レギエルデも…大きい胸が好きだったら……)
あー。
そっか。
確かに最近、我がギルドではイロコイが表面化している。
女の子のそういう感情、はっきり言ってバカにできるものではない。
色々と経験のない私が言うのもなんだけど…
女性と男性は違う。
男の人は比較的社会性の生き物だと思う。
感情があるとしても、そのための『妥協』はできるイメージだ。
いうなれば嫌いな相手でも、目的の為なら手を取る事が出来る?みたいな感じかな?
仕事とかね。
でも女性はきっと無理な場合が多いと思う。
この世界はそこまで嫌な人はいないイメージだ。
私の幸運値が高く、運がいいだけなのかもしれないけど。
だけど以前の生活、それこそ日本で働いていた私には嫌なほどわかってしまう。
※※※※※
私の直属の上司だった女性。
会社の不利益になるような重大なことでも、気に入らない女の子とのチームが嫌で…
数億の取引を棒に振ってしまっていた。
しかも原因は本当に下らない事だった。
取引先のイケメンの男性。
その男性が彼女のチームになっていた可愛らしい女性に声をかけた。
たったそれだけの事。
嫉妬。
全ての責任を負わされたその可愛らしい女性。
誰が見ても彼女のせいではなかったにもかかわらず、執拗な嫌がらせで精神を病んでしまい、結局会社を辞めてしまった。
その後風の噂で精神科へと通っていると聞いた時、私は震えあがったものだ。
正直あの上司だって普段はいい人だった。
だけどたしかあの頃彼女は彼氏と別れた直後だった。
※※※※※
女性にとっての恋や愛。
そしてそれに伴う嫉妬などの感情の爆発。
もちろんすべてがそうではないと思う。
でもとんでもない事態を引き起こす『トリガー』にはなり得てしまう。
私は思わずリンネと目を合わせ、うなずき合った。
「ナナ」
「う、うん」
「ちゃんと測ろう?だからさ、そんなに落ち込まないで」
「…うん。……ごめんなさい」
下を向き消沈するナナ。
そんな彼女にリンネは大きくため息をついた。
「まったく。大体レギエルデはね、女を胸で判断なんてしないよ?ノーウイックじゃあるまいし」
「っ!?うあ、わ、わたしは、べ、別に……」
「はいはい。分かったよナナ。…だからあなたもしゃっきりしなさい。今はそんな場合ではない。…分かるよね?」
「っ!?…う、うん」
そう言いリンネは優しくナナを抱きしめる。
突然の行動に固まるナナ。
相当思い詰めていたのだろう。
彼女の瞳から涙が零れ落ちた。
「よしよし。大丈夫だからね。もう。あなたはとっても可愛いのだから」
「グスッ…うん」
その様子にわたしとラミンダは大きく頷いた。
男性陣は戸惑いつつも『良く判らない』といった表情をしている。
まあね。
やっぱり女性と男性は違う。
私はそう心に刻んでいたんだ。
※※※※※
今日の下らないように見えるナナの悩み。
実は大きな分岐点だった。
この後ナナはいつもの明るさを取り戻す。
そしてすさまじい活躍をするのだが…
それはまた別のお話。
何はともあれ、私は大切な仲間であるナナとの『別れるフラグ』をへし折った瞬間だったと後日思い出し、背中に嫌な汗をかいたのだった。
本当にリンネ、グッジョブ!!
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