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第144話 変わりゆくギルドの日常の風景2

ギルドの最重要施設である大浴場。

普段ここは時間により男性と女性、それぞれに区別され使用されていた。


今の時間、午前10時。


この時間はお掃除の時間として周知されており、利用する者の居ない唯一の時間帯だった。


「ふうっ。流石に広いね。幸恵?そっちはどう?」

「里奈?うん。もう少しかな」


ジパングからギルドに就職した5人は今、他の女性陣とともに皆で大浴場の掃除をしていた。


「サクラ、そのデッキブラシ取ってくれる?」

「うん」


ジパングのあの大災害から早2週間。

大分馴染んだ彼女たちはすでにギルドに無くてはならない存在へと、自らの努力でその地位を確立していた。


「ご苦労さん。あんたたちが来てよかったよ。流石にあたしとリア、アリアの3人じゃねえ。今までは交代でザッカートたちに頼んでいたんだけど…どうしても水場の掃除だ。濡れたりするとねえ。あたしゃ構わないがリアやアリアはうら若き乙女。…なにはともあれ本当に助かるさね」


額の汗をぬぐいながらファルマナさんは腰を伸ばし笑顔で問いかけた。


美緒の渾身の想いの籠った大浴場。

あり得ないほどの高級品であふれかえり、心の底から癒される空間へと変貌を遂げていた。


「ふわっ?!」

「っ!?コノハ?…あうっ、大丈夫?」

「う、うん」


足を滑らせ湯船に体を投げ出してしまったコノハ。

まさに今ファルマナさんが言う様に、お風呂掃除の為に薄い衣服だった彼女は全身を濡らし、その可愛らしい体が透けてしまっていた。


コノハはこの世界ではれっきとした成人女性だ。

美しい彼女のこういう姿。

これは男性と一緒に掃除をするわけにはいかないだろう。


見ていたマイはなぜか頬を染めてしまう。


「うあ、コノハ……あなたまた…成長したのね?…いいなあ。私まだ全然小さいのに…」


そう言い何故か自身の胸を見つめる。

彼女はまだ14歳。


年相応の可愛らしい大きさだ。


そうはいってもここに来て栄養が良くなったのだろう。

確実に成長しているのだが…


何しろマイは美しすぎる。

実は最近、レリアーナの彼女に向ける視線。


思わず背筋が寒くなる時がある程だ。


そして気付けばマイのすぐそばにいるレリアーナ。

妖しく光る視線がマイの体に絡みついていた。


「ひうっ?!」


反射的に自分の胸を隠すしぐさをするマイ。

何故か顔を赤らめレリアーナが近づいて来た。


「…マイ?あなた…せ、成長したのね?」

「えっ?…あ、えっと…は、はい」


何故か呼吸の荒くなるレリアーナ。

彼女はいきなりマイを抱きしめた。


「あうう…マイ、めっちゃ可愛い…ね、ねえ?一緒にお昼寝しよっ♪」

「うあ?!お、お昼寝?」

「うん」


正直レリアーナだって超絶美形だ。

同姓でもその姿にはドギマギしてしまう。


途端に展開する百合百合しい雰囲気。


それを見ていたファルマナさん、大きくため息をつきおもむろにレリアーナの頭にげんこつを落とした。


ゴンッ!!


「ひゃんっ!!」


頭を抱え蹲るレリアーナ。

ファルマナさんはため息交じりに小言を落とす。


「あんたね。最近ちょっと酷いね?…お仕置きがいるね」

「ひうっ?!」


レリアーナの首根っこをむんずとつかみ、連行するファルマナさん。

その様子を呆然と見送るマイに彼女は声をかけた。


「ごめんよマイ。コイツにゃ悪気はないんだ。ただあんたが可愛くてしょうがないってことさね。まあ、妹みたいな感情かな?ちょっとリアはおかしい所があるんだけどね。まあ、気にしないでくれると嬉しいよ。後はあたしに任せな」


「は、はい」


何とか声を絞り出したマイ。

改めて彼女は今のこの現状に実は非常に満足していた。


何よりも自分の価値を認めてくれるギルドの皆。

そして信愛を向けてくれる多くの美しい女性たち。

何よりも紳士の多い美緒のギルド、マイにいやらしい視線を向ける者は殆どいなかった。


人の視線、特に男性の視線になれないマイ。

ちょっと怖い時もあるけど…


それでもマイは驚くほどその性格が良い方向へと変貌し始めていた。


「…リアさん…あの人もすっごくキレイなのに…私の事…気に入ってくれている?…うれしい」


思わず顔を赤らめるマイ。

その様子にサクラはなぜか見てはいけないものを見たような顔をしてしまっていた。


(…はあ。マイは…とっても可愛い…でも、何だろ?……なんか底知れぬものを感じてしまう…)


「マイ、サクラ?片付けしてサロンに行くよ」

「「は、はい」」


そんなことを考えていると里奈から声がかかる。

取り敢えず大浴場の清掃は終了だ。


皆は濡れた体を拭き、作業着に着替えサロンへと移動を開始した。



※※※※※



「ふんふふんふふん♡」


一方厨房。


今日のおやつ当番を言いつけられていたメリナエードは、つい先日仲間に加わったファナンレイリとともに幾つもの果物の皮をむいていた。


「メリナ?この果物、とっても美味しそうだね♡」

「ええ。ファナン様?…味見、します?」

「っ!?えっ?い、いいの?」

「ふふっ。内緒ですよ?」


女性としては比較的背の高いメリナと小さなファナンレイリ。

まるで仲の良い母娘のようなその姿に、ザナークは癒されながらもシロップを煮詰めていた。


「ファナンレイリ様。まだ数日とはいえ、ここの暮らし、不便はないでしょうか?」


精霊王であるファナンレイリ。

正直彼女の高貴さは、国王や皇帝をもしのぐ。


まさに伝説級の存在。

それを知るザナークは失礼にならぬよう、優しく声をかけた。


「ええ。ありがとうザナーク。皆によくしてもらっているわ。何より美緒がいるのですもの。…本当に夢のよう」


ファナンレイリは多くの権能を持つ。

その力は隔絶しており、実にレベルも200を超えていた。


しかし彼女は生まれておよそ2800年、初めてともいえる自由に、その心は清々しさに包まれていた。


「それは良かったです。何よりこのギルド、美緒の希望そのものです。…最近では美緒はすさまじく成長を遂げました。でも時折不安げな表情を浮かべるのです。どうかファナンレイリ様、美緒の事、よろしくお願いします」


ザナークは正直エルノールに雇われている状況だ。

だから美緒に対してどうしても引け目を感じていた。

本当はもっと実の娘のように接してあげたい、そういう気持ちがあるのだが……


そんなザナークにファナンレイリは目を光らせた。


「ザナーク?」

「はい」

「美緒はね、父親に恋しているの」

「っ!?父親に?…恋、ですか?」


前回のルート。

それを完全に自覚したファナンレイリはその時の美緒の心情を誰よりも理解していた。


「美緒ってとっても可愛いでしょ?だからね、男の人はみな恋に落ちてしまうの」

「……」

「だからこそ、そういう感情ではなく、娘として愛せるあなたには期待しているのよ?」


美緒は地球で大好きな両親を失っている。

何より彼女は異性に対し、過剰なまでに恐怖を感じていた。


そんな中唯一彼女が求めていたもの。

父性だった。


「そう、なのですね……もう少し踏み込んでも良いのでしょうか?」

「ええ。きっと美緒、あなたに甘えたいはずよ?…気付いているでしょう?」


確かに美緒はザナークを見る時、他の男性に向ける視線と異なっていた。

だが彼とて男性。

いくら年が離れているとはいえ、彼にだって美緒は非常に魅力的に映っていたのだ。


大きくため息をつくザナーク。

そして真直ぐにファナンレイリを見つめた。


「美緒が帰ってきたら…話をしたいと思います」

「うん。きっと美緒、すっごく喜ぶわ。お願いね」

「はい」



※※※※※



これが原因で、ザナークは多くのギルドの男性から羨ましがられることになるのだが…

でも実はこのファナンレイリの提案、幾つかの危機を防ぐ結果となるのだった。


グッジョブ!!

ファナンレイリ!!!


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