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第143話 変わりゆくギルドの日常の風景1

ギルドの修練場。


普段修行を嫌い、人前では殆ど鍛錬などしないアルディが鬼気迫る勢いで、遥か格上であるランルガンと模擬戦を行っていた。


打撃中心で攻めるアルディ。

その軽い攻撃、まるでランルガンには届かずにあっさりとあしらわれてしまう。

ギリリと歯を食いしばるアルディに、さらなる挑発を行う。


「おらっ、そんなもんかてめえは?…良いから本気で、殺す気でこいやっ!!」

「くそっ!!このデカブツがあっ!!はああっ!!マイクロフレイムシャワー!!!」


アルディを包み込む膨大な魔力が変化する。

小さく光るそれは、圧倒的熱量を内包し、まるで燃え尽きる寸前のような激しい光を放ちランルガンに四方八方から襲い掛かった。


「フンッ!!効かん。そんなものか?威勢が良いのは掛け声だけか?」


瞬間1ミリほどの穴をランルガンの表皮に無数に開けたアルディの魔法。

その深さは数センチに及ぶ。


普通の相手ならほぼ即死の大ダメージではあるが…

何しろ相手が悪すぎる。


全身鎧のようなランルガン。

表皮の厚さもまた数センチに及んでいた。

今のダメージ、見た目とは違い軽い出血のみで、彼の肉体自体にはまったくダメージを届かせていなかった。


ドラゴニュートの外郭はパージ可能だ。

つまり直撃を受けたランルガンだったがほぼノーダメージ。


反射的に長く重い腕を振りぬいた。


「がああっ?!!…くっ、こ、この、化け物め!!」


風圧で表皮を切り裂かれつつも、どうにか直撃を躱したアルディ。

強く噛みしめた唇から鮮血がほとばしる。


距離をとり睨み合う二人。

呆れたようにランルガンはアルディに問いかける。


「…なあ。お前、何がしたいんだ?気合は認めるし正直強い。だがちぐはぐすぎるだろ?お前は後衛のスタイルだろうが」


ダメージを受けた外皮を回復させつつ、首をコキッと鳴らしランルガンは鋭い瞳でアルディを睨み付け、さらなる魔力を纏う。


正直、美緒に受けたダメージはまだ完全には回復してはいない。

だがランルガンは美緒との経験、それのみですでにさらなる高みへと到達していた。


「くそっ。ぼ、僕は弱い。…魔力だって美緒の数十分の一だ。だけど、僕は、僕はっ!!」

「…ふん。そうかよ。…なるほどな。……だが嫌いじゃねえ。…いいぜ?付き合ってやんよ。かかってこいやっ!!」

「がああああああっっっ!!!!」


アルディの咆哮。

珍しいその光景に、見ていたギルドの皆は心の底から熱いものが込み上げていた。



※※※※※



何よりアルディのその想い。

弱い自分に引け目を感じ、さらなる力を求めるその姿勢。

皆が同じ思いを感じていたからだ。


守りたい対象である美緒。

だけどあまりにも隔絶したその力。


アルディのランルガンに向ける在り得ないような気迫。

皆はまるで触発されたかのようにその魔力をたぎらせ始めた。


新たに加わった超絶者。

それは彼らにとって絶望でもあり、希望でもあった。



※※※※※



「じいいいいいいっ」

「……」

「じいいいいいいいいいいいいいいいっっ」


久しぶりに呪いを解かれ、まったりとサロンで過ごしていた朱雀のスイ。

なぜかそこに来た幼子が、彼女の角を穴が開くほど見つめてきていた。


「じいいいいいいいいいい………」

「ああ、もう。…な、何かな?お嬢ちゃん?」


スイは基本秘匿されて過ごしてきた。

だから実は対人スキル、美緒に近いほどそのレベルは低かった。


つまりは彼女、かなりの人見知りなのだ。

だからスイはいつの間にか、ほぼパッシブのように隠匿を使用している。


先ほどから多くの者が彼女のすぐ脇を素通りしていたのだった。

気付かれないままに。


「……聖獣さん?」

「う、うん」

「………じいいいいいい」

「あ、あう?!」


幼子の視線。

何故か彼女の角に集中していた。


幼子、フィムルーナはエンシャントドラゴンだ。

彼女は本能で、自身の強化のためのものを突き止めていた。


そう。

聖獣の角。


それは魔物に類するエンシャントドラゴンにとって、最上級の進化素材だった。

何故かよだれを垂らすフィム。

その様子にスイは鳥肌を立ててしまう。


「フィム?なにしてるの…って、ひいいっ?!!」


聖獣の隠匿。

それはまさに伝説レベル。


声をかけたルルーナが、突然認識できたスイに思わず声を上げてしまう。


「あっ?…ご、ごめんなさい…そ、その…驚かす気はなくて…」

「うあ、こ、こっちこそ。…スイさん?ご、ごめんなさい。…って、フィム、どうしたの?」


取り敢えずスイに頭を下げ、何故か彼女をガン見しているフィムに声をかけた。


「っ!?るるーな。わたし、この人の角、食べたい」

「っ!?……ええっ?つ、角?…だ、ダメだよ?そ、その、スイさん、大切な仲間だよ?」

「ううー。欲しい、欲しいのっ!!!」


珍しくわがままを言うフィム。

その瞳が怪しく光をともす。


そして吹き上がるとんでもない魔力。

ルルーナは思わず反射的に戦闘態勢を取ってしまう。


「っ!?…る、るるーな?……ヒック…グスっ…うああ、うわあああああああああーーーーーーーーーんんんんんん!!!!!!」

「う、うあ?!ご、ごめん?うあ、な、泣かないで?あーもう、ど、どうしよう?」


ルルーナの闘気に反応し、突然大泣きするフィム。

困惑し、オロオロとしてしまう。


その様子にスイはため息をつき、そしてにっこりとほほ笑んだ。


「うん?この子、エンシャントドラゴンなんだね?…そっか。私の角、欲しいのね?」


そう言い優しくフィムを抱きしめるスイ。

驚いたような表情で彼女を見つめるフィム。

やがてスイの豊満な胸に顔をうずめ甘え始めた。


「ふふっ。可愛い子。…ちょっと待ってね?」


フィムを抱きながら、スイの角が優しい光に包まれた。

そしてポロリと落ちる角。


ルルーナはあまりの事態に固まってしまう。


「うえっ?ス、スイさん?!…だ、大丈夫なんですか?」

「うん?ああ。大丈夫ですよ?ちょうど生え変わりの時期ですから。それにこの子、きっと悪気ではないんです。本能?ですかね。はい。フィムちゃん。これ、あげるね」


キョトンとしルルーナとスイを交互に見るフィム。

可愛らしい手でしっかりとスイの角を抱きしめながら、ルルーナの瞳を捕らえたフィムの瞳からまた涙が沸き上がってきた。


「あう、フィ、フィム?さっきはごめんね?スイさんにお礼言ってね」

「っ!?う、うん。……るるーな?」

「うん?」

「………お、怒ってない?」


エンシャントドラゴンでとんでもない力を秘めているフィム。

でも彼女はまだ幼子。

それに賢いとはいえ彼女は魔物の部類だ。


だからこそ、嫌われてしまうことに激しい恐怖を抱えていた。


ルルーナはスイから優しくフィムを受け取ると、強く抱きしめる。

フィムの柔らかい髪の毛と彼女の優しい香り。


愛おしさがあふれ出す。


「ごめんね?もう、怒ってないよ?…大好きだよ、フィム」

「グスッ…うん。私もるるーな、だいすき」


フィムは皆に愛されている。

それは彼女の愛らしさだけではない。


フィムを連れてきたナナ、そして可愛がっている美緒。

さらにはまるでかわいい我が子のようにかいがいしく世話をするルルーナとミネア。


そんな様子にギルドの皆はフィムの事を受け入れていた。


「うん?どうした?ルルーナ。…おうっ?ス、スイさん?…フィム?」


抱きしめあうルルーナとフィム。

そして優しいまなざしでそれを見つめるスイ。


そんな場所に出くわしたスフォードは、なんだか心の底から湧き上がるルルーナへの想いについ顔を赤らめていた。


「…本当に素敵なところなのですね…ふふっ」


にっこり笑うスイ。

彼女は今だ経験のない暖かく優しいこの場所に、心の底から安心している自分に驚いていた。


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