第142話 エルフの族長ワナルナド
約束の正午。
わたしとリンネ、そしてナナの3人はブルーデビルのパーティーハウスを訪れていた。
「…ねえ美緒?」
「うん?」
玄関前。
学生服姿のナナが訝しげに私をじろりと睨み付ける。
なぜか私の胸を見つめている?
そしていきなり私の胸に手を這わす。
「ひうっ?!」
「むうっ!……育ってる……ズルい!!」
私の胸に手を置き、大きさを確かめるように確認するナナ。
ますます渋い顔になっていく。
「…一応はまだCの範囲内…でもすぐにもっと大きくなる?…この裏切り者!!」
「あうっ?!な、何を…こ、こら?!」
「ズルい、ズルい!!私もう全然大きくならないのにっ!!」
何故か私に触れまくるナナをどうにか引きはがし、私は遠い目をしてしまう。
…確かに今日の朝、ファルマナさんがニコニコしながら、
「美緒?サイズ少し大きくしておいたからね。ふふ。あんたはまだ成長期なのね」
とか言っていたっけ…
そっか。
私まだ成長するんだ。
ついニヤリとしてしまう。
その表情にナナは渋い顔だ。
「………れたの?」
「はい?」
「美緒、誰かに…揉まれたの?」
「はい?!」
とんでもない事を言い出すナナ。
それって迷信では?
「ううー。美緒はモテまくりだもん。きっといっぱいの男の人が揉みたいに違いない。……はっ?!……み、美緒?」
「う、うん?」
「お、男の人に、簡単に揉ませたらダメだよ?それは大切なものだよっ!!」
なぜか興奮気味に声を上げるナナ。
ていうかそんな『大切なもの』今あなた触れまくりましたよね?
リンネが呆れたような表情でナナの肩に手を置いた。
「ナナ?」
「っ!?」
「…レギエルデにあなたの…揉んでもらうように私からお願いしようか?」
「っっっ!????」
途端に真っ赤に染まるナナの顔。
私は思わずジト目をナナに向けていた。
女3人。
姦しいにもほどがある。
何はともあれ私たち3人は玄関から部屋へと進んでいった。
※※※※※
「やあ、いらっしゃい」
「こんにちは、ルノーク」
相変わらず優し気なイケメン、ルノークがにこやかに私たちをリビングへと案内してくれた。
たどり着くリビング。
そこには先日訪れた時にはいなかった一人のエルフの男性が待ち構えていた。
おもむろに跪くその男性。
きっとルノークの叔父、エルフ族の一種族の族長だろう。
「お初にお目にかかります。ゲームマスター美緒様、創造神リンネ様」
ざっと見る感じこの男性かなり強い。
何よりエルフ族の族長、おそらく数百年は時を重ねている。
「頭をお上げください。無理を言ってすみません。…話し合いをしても?」
「はっ。かしこまりました」
わたしやリンネは当然ながらとても偉い存在だ。
どうしてもこういう反応、いつまでも慣れる気がしない。
取り敢えずソファーに座る私たち5人。
ラミンダがワゴンを押してきて紅茶や焼き菓子を並べてくれた。
「ふむ。そなた、名は何という」
「はっ。私は風エルフの里、ミュナクが族長ワナルナドと申します。以後お見知りおきを」
「そうか。ではワナルナドと呼ぶが、かまわぬな?」
「はっ。ご随意に」
相変わらずリンネは自然体で偉い。
流石は神様よね。
私には真似のできない芸当だ。
「えっと、ワナルナドさん。質問よろしいでしょうか?」
「はっ。美緒さま。何なりとお申し付けください」
うー。
なんかとても聞きにくいのだけれど?
私は思わず視線をリンネに投げてしまう。
「コホン。ワナルナドよ。わが姉である美緒はあまりかしこまった口調が好きではない。我が許可する。普通に話すとよい。…お姉さまもそれでいいですね?」
何故かウインクするリンネ。
口角上がってる?
もう。
「えっと、わ、わたしたちがお願いする立場です。どうか普通にお話しください。私のことも美緒と」
「…はっ。…承知…い、いや…ふう。…分かったよ美緒。これでいいかな?」
「はい。ありがとうございます」
私たちのやり取り、何故かルノークさんはにやけながら見ていた。
むう。
なんか腑に落ちないのだけれど?
「ハハハ。だから言っただろ?叔父上。美緒はこういう感じだって」
「むう。だ、だがな。我々にだって守るべきルールという物があるという物だ。遥か格上の存在、ないがしろには出来まい」
その言葉にルノークはため息をつく。
「ないがしろって…まったく。相変わらずエルフ族は頭が固いんだよ。俺だって付き合いが長いわけではない。でも美緒はそういうの苦手なんだ。…よく見てみろよ叔父上。…めっちゃ可愛い女の子だろうに」
ルノークの言葉にわたしをまじまじと見つめるワナルナドさん。
途端に顔が赤く染まっていく。
「う、うむ。…た、確かにな…ああ、なんと可愛らしい…私も独り身なら求愛したいほどだな」
「ひうっ?!…ご、ご冗談を…」
ルノーク?
何言っているのかな?
もう。
何はともあれやっと立てたスタートライン。
私たちは核心に迫るべく、気合を入れワナルナドさんを見つめた。
※※※※※
一方古代エルフの国。
首都にあるヒャリナルクの宮殿。
時を同じくしてハイエルフの巫女、マザネイナは水晶を見つめ、背中に嫌な汗を流していた。
(なんという力……これは世界が動くなんてもんじゃない。ひっくり返ってしまう……でも…なんだろうね…ゲームマスターの底にある不思議なオーラ…見たことのないものだ)
齢3500を超える最古のハイエルフの一人。
族長の姉であるマザネイナは一人ため息を零していた。
「お師匠様!」
そんな彼女のもとに可愛らしい女性が目を輝かせ飛び込んできた。
彼女の最後の弟子であり、ハイエルフ族の天才マルレット。
かつてこの国から飛び出した王族の忘れ形見。
ハイエルフとダークエルフのハーフである『エルフ族の秘宝』と称される女性だ。
「おやおや。マルレット。どうしたんだい?そんなに慌てて」
「ゲームマスターが来るのね?!」
「っ!?」
目を輝かせるマルレット。
彼女にはわずかだが『未来視』の能力が備わっていた。
「スッゴク可愛い人なの。早く会いたい」
憧れを抱くその声。
彼女は切望していた。
自身よりも強く、そして美しいゲームマスター、美緒に会う事を。
「私ゲームマスターとともに戦う。そして皆を守るの!」
彼女の願い。
純粋な想いは美しい。
だが。
そんな真直ぐな想いを全身で表現するマルレットを、マザネイナは複雑な思いで見つめていた。
強い力が必要になる。
それはすなわち、この世界に危機が訪れることと同意だったからだ。
(もう、その時は近い…そうなのですね…ルーダラルダ様…)
かつての創造神との邂逅。
その情景を思い浮かべ、マザネイナは一人、心を覆う不安を隠していた。
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