第136話 魔流れの霊峰でのバトル
精霊王の住処である魔流れの霊峰。
その周辺では魔物とゴーレムの戦い、まさに佳境に突入していた。
※※※※※
妖精であるディーネとティリミーナ。
彼女たちに物理的な力はほとんどない。
だが長寿でとんでもない魔力を保有する彼女たち。
実は大きな使命を帯びた種族だった。
創造神がこの世界を作ったとき、最初に創造されたのが彼女たち妖精族だ。
世界の調整役、そして導き手。
『非力であるがゆえに、膨大な魔力を宿す』
――創造神はそんな“二面性”を体現させて、妖精たちを解き放った。
つまりは魔力による物理。
そのため開発し預けていたのが今ディーネたちが操っているゴーレムだった。
だが無駄にロマンを求めていた創造神はそこで少し悪戯をしてしまう。
ただ強いだけでは面白くないだろうと。
だから実はとんでもない欠陥品なのだが…
それを知らないディーネとティリは圧倒的な力に酔いながらも、さすがに飽きてきていた。
※※※※※
『あーもう。きりないじゃん!!はあっ!フレイムバーストッ!!』
5m級のまさに決戦兵器、精霊魔力の結晶である超高火力を備えているゴーレム。
漆黒魔兵機人『ノワールレステ』のコックピットで。
渾身の魔力を練り上げるティリミーナ。
目の前と言うか囲まれている魔物に対して魔法をぶちまけていた。
ズガガガガガアーーーーーーーンンン!!!!
吹き飛び四散する魔物の群れ。
もう数えきれないほどの魔物を殲滅しながらも、おそらく本命である指揮官のような暗い衣をまとうアークリッチをようやくその視界にとらえていた。
『さすがねっ、ティリ!!はあああああっ!!!』
もう一機の殲滅型ゴーレム。
白銀に輝くディーネの愛機『ジルバレスティン』も咆哮を上げ、ぶっといランスで魔物を薙ぎ払う。
もうかれこれ1時間は戦い続けていた。
精霊王のお膝元。
常に供給される魔力があるとはいえさすがに疲労が蓄積してきていた。
オートで動く2m級のゴーレム部隊も数体は破壊されたもののほぼ健在。
ようやく先が見えたことでディーネはほっと溜息をついた。
「ブルシュワ―――!!!」
アークリッチを守るように展開していたサイクロプスの上位種、ギガンテスが3mはあるようなバカでかい棍棒を振り上げ雄たけびを上げる。
コイツは何しろ防御力がとんでもない。
皮膚の一部は高質化しており、種族特性による物理障壁はパッシブだ。
さらにはアークリッチのバフなのだろう。
魔法に対してもかなりの防御能力を備えていることがうかがえた。
『ああ、もう。めんどくさいね。ねえディーネ?こいつ魔法効かないんだけど?』
振り下ろされる棍棒を躱しつつ、幾つかの魔法をぶつけるティリミーナ。
まったく怯まないギガンテスに、心底嫌な顔をしながら声を上げる。
『あー……うん。…ねえティリ?魔力貯めたいからさ、30秒だけ踏ん張ってくれる?』
同じくとんでもない速さで攻撃をかわしまくるディーネ。
彼女はゴーレムの必殺技を使用するため、ティリミーナに指示を出していた。
※※※※※
創造神の悪ふざけ、その一。
何故か無駄に設定されたリキャストタイムのある大技。
とんでもない火力を出すためには30秒のタメを必要としていた。
さらには搭乗者の生命力。
実はそんなことせずとも技術的には可能なのに、だ。
それを知らない彼女たちはまさに今、命を懸けていた。
※※※※※
『っ!?わ、分かった。……あんた、死ぬんじゃないわよ?』
『当たり前でしょ?じゃあ頼んだ』
そういい魔力を揺蕩らせるディーネ。
白銀のゴーレムが煌めきを増す。
(ふん。アレをやる気ね?…私も負けてらんないのよっ!!)
ティリミーナの機体が瞬間ぶれる。
さらに速度を増したゴーレムは残像を煌めかせながら、数十秒の時間を稼ぐ、それだけを為すため彼女はさらに縦横無尽に動き回り、かく乱を始めた。
『もうすぐね…これでっ!!』
自分で数えた数十秒。
恐らく満たしたはず。
成功を確信したティリミーナは最後の仕上げを図る。
限りなく形成される炎の槍、一斉にギガンテスをめがけ解き放った。
ズドオッ!!!!
ズガガガガガ―――――ンンンン!!!!
直撃する渾身の炎の槍。
恐らく視界を奪い、ディーネの攻撃のための隙を作る。
狙い通りの展開、その事実に一瞬ティリミーナの動きが止まる。
その一瞬をギガンテスは見逃さなかった。
大きなダメージは無いようで、すぐさま反撃の振り下ろしがティリミーナにせまってきていた。
『っ!?舐めんな!!そんな攻撃っ…っ!?ぐうっ?!』
刹那視界を奪う激しい氷の檻。
アークリッチの放った阻害魔法『氷結監獄』が、ティリミーナの駆るノワールレステの機動力を阻害。
たまらずガードする右腕がギガンテスの攻撃によりひしゃげもぎ取られた。
『くうっ?!…がああっ?!……ひぐうっ、あああっ!!?』
※※※※※
創造神の悪ふざけその2。
実はこのゴーレム。
何故かダメージが搭乗者へとつながる仕組みとなっていた。
『より正確に早く動かすため』とか言う、ありがちな設定を組み込んでいたのだ。
結果彼女たちはゴーレムとリンクしていた。
つまりゴーレムの受けるダメージ。
半減されるとはいえ直接ティリミーナは感じてしまう。
※※※※※
腕をもがれる痛み、それは想像を絶していた。
コックピットを物理的につぶされない限り決定的な死は訪れない。
しかし痛いものは痛い。
ティリミーナは激痛にとめどなく涙を流してしまう。
『うぐっ、痛い、痛いよ……』
酷い痛みに一瞬ティリミーナの視界がその情報を失う。
しかし彼女とてそのままやられるわけにはいかない。
何より意地もある。
痛みの中、それを凌駕する怒りが彼女の限界を超える。
『こんちくしょおおおおおお――――――――!!!!!』
きっとディーネの準備は終わっている。
もう勝ちは確定だ。
だからティリミーナは後の事を考えずに最後の力を振り絞った。
『獄炎極限展開!!―――鳳凰!!!』
超高温が瞬時に顕現。
刹那アークリッチを含め、それを守るギガンテスが超高温の檻に閉じ込められる。
皮膚が溶け、白い煙が上がっていく。
『ティリ!!おまたせっ!!!はあああっ!!神激瞬光槍!!!!!!』
ディーネの愛機、ジルバレスティンがその存在を輝く光と化した。
ギガンテスを貫き、アークリッチごと中央をぶち抜いた。
「グルギャアアアアアアアーアーーーーーーーーーーー!!!!」
射線上の地面が吹き飛び、激しい衝撃波があたりを蹂躙していく。
やがて纏うオーラを振りほどき、白銀の機体がすでにボロボロになったノワールレステをその腕に抱きかかえていた。
『まったく。…無茶して……ティリ?大丈夫?』
『……ふ、ふん。…平気に決まってるでしょ?』
『…うん』
その視線の先―――
ディーネ渾身の攻撃によりアークリッチとギガンテスは既にチリと化していた。
『勝ち、よね?』
『うん』
どうにか精霊王のオーダーを遂げた二人の妖精。
その瞳にはやり遂げた満足感に満ちていた。
※※※※※
その様子を見下ろしていたファナンレイリ。
ゴーレムの仕様を知っている身として、少しばかりの罪悪感が彼女の思考を鈍らせていた。
そのせいなのだろう。
普段なら絶対に気づくはずの悍ましい魔力感知に一瞬の空白が生じる。
ほっと息をつき、ディーネたちへと癒しの魔力を練ろうとした瞬間、彼女の危機感知がいきなり最大で警鐘を鳴らした。
「っ!?なっ?!…ディーネ、ティリッ!!くうっ、間に合えっ!!!絶無結晶陣!!!」
練り始めた魔力をファナンレイリは今使用できる最大の結界へとその術式を変える。
刹那包まれるディーネとティリ。
ほぼ同時にあり得ない破壊の魔力が、彼女たち含め魔流れの霊峰全体を包み込んだ。
「キャアアアアアアアアアアアーーーーーーーー!!!??」
「うぐっ、うあああああああ―――――!!!??」
「あうっ、うああ、あああああああーーーーーーーー!!!!!??」
瞬時に維持できなくなり、チリと化す自動ゴーレム部隊。
激しい爆風に包まれる二人。
そして憎悪の魔力に蹲り全開で自身をガードするファナンレイリ。
やがて落ち着く爆風と激しく乱れる魔力。
彼女が目を開けた時―――
二人の乗っていたゴーレム。
その姿を確認できなくなっていた。
荒れ果てた魔流れの霊峰―――
吹きすさぶ風の音が、それを物語っていた。
※※※※※
悪魔の眷属、キズビット。
彼のもたらしたとんでもない魔刻石。
それを飲み込み、狂わされた全魔力を引き換えに自爆したあの男。
その魔力は瞬間、あり得ない破壊力をもたらした。
この瞬間、神聖ルギアナード帝国は国土の約3%、皇居より西数十キロにわたり、目視出来ないような激しい閃光と衝撃波により、底の見えないような大穴と言う傷跡を刻まれていた。
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