第134話 謁見の間での騒動
神聖ルギアナード帝国謁見の間。
多くの貴族と各師団長が注目する中、レギエルデは大きく息を吸い込んだ。
「私はレギエルデ。今からあなた達の軍師として指示を出します。戦いには信頼が必要。私に不服ある人は申し出てください」
全員の視線がレギエルデに突き刺さる。
横にいる美緒までもがごくりとつばを飲み込んだ。
「…分かりました。絶対に勝ちましょう。それではバナンス侯爵」
「はっ」
「貴方に第一師団、主力部隊の指揮、お任せいたします。近衛兵を中心に、できれば防御スキルに長けた人材、集めてください。…あなた達には盾になってもらいます。死ぬことは許しません」
戦場における盾。
通常は死の宣告に近い役割だった。
「はっ。仰せのままに」
「大丈夫です。美緒のバフと結界の魔刻石。必ずやあなた達の命を守るでしょう。そして時を見て押し込みます。…敵の大将首、あなたの手で確実に討ち倒してください」
「シュレイヒ副長」
「はっ」
「あなた達は機動力を生かし、敵の後方へ。挟撃します。火力の高い兵を中心に編成してください。転移での電撃作戦。瞬間の火力で蹴散らします」
「…て、転移?ま、まさか?」
「大丈夫です。うちには転移魔法、習得者が4名います。今回はサブマスターであるエルノールが同行いたします」
「はっ。承知しました」
レギエルデはゆっくりと帝国貴族を見回す。
そして目を光らせた。
「そこの…ああ、サイムーナ伯爵?前へ」
「っ!?な、何であろうか?」
明らかに動揺する男。
すでに額からは滝のように汗を滴らせていた。
「……あなた、憑かれていますね……ここ最近、接触した人物、教えてくださいますね?」
「なっ?!つ、憑かれて?…き、貴様、愚弄するか?…ひぐう?!」
美緒はその様子に隔絶解呪を向けた。
突然苦しみだしながらもレジストするサイムーナ。
謁見の間に動揺が広がっていく。
「ぐうっ、がああ、お、愚かなヒューマンどもめ……き、貴様らは既に滅ぶ運命だ…あ、あの方には誰も敵わぬ…ひぎいっ?!!!…ぐうっ、ぐぎゃああ―――――――!!!!」
突然苦しみだすサイムーナ伯爵。
そして暗鬱たる魔力がまとわりつき、弾けるように体が四散、その命を散らした。
余りの事に水を打ったように静まる謁見の間。
おもむろにレギエルデが声を上げる。
「これから先はこういうのが相手です。今は美緒がいる。だから判別は出来る。でもあいつらの擬態は巧妙。…どうやら先ほど3人ほどがこの謁見の間から消えています。そいつらもおそらく……」
「おうっ、レギエルデ。捕らえたぜ…残念ながら一人はいきなり弾け飛んじまった。この二人は意識を奪ったが」
レギエルデの前に現れるザッカート。
彼の手から魔力で作られた鎖のような物が二人の兵士にまとわりついていた。
ざわめく帝国の貴族たち。
そのうちの一人が膝から崩れ落ちた。
「ば、馬鹿な?!…な、なぜ?…デイゼ…」
やや白髪交じりの男性、50代くらいだろうか。
連れてこられた男性を見て口から言葉が漏れる。
「ナルサス伯爵…ご子息か?」
「っ!?はっ。宰相殿……先日入隊したばかりの3男です。…まさか…寝返っていただと?!…なんという…」
そして腰の剣をすらりと抜き放つ。
鋭い眼光がその目に宿った。
「待ってください」
「っ!?」
その前に立つ美緒。
その目には怒りが溢れていた。
「まだ救えます。先ほどの伯爵よりも憑き方が浅い。きっとまだ数日でしょう。…それにこれは彼の本意ではないはずです。…お父様であるあなたが、信じてあげないでどうするのです」
「っ!?…おお、な、なんという……息子は、デイゼは…助かるのでしょうか」
「ええ。絶対に助けます。はあっ!『隔絶解呪』」
美緒から神聖な光があふれ出す。
拘束された二人から、まるで影の様なものが滲みだし始めた。
「ふうっ、『精神束縛』…捕まえた!!リンネ!」
「任せて。はああっ!!『神術捕縛陣』」
「ぐぎいっ?!グギャアアア―――――――!!???」
「くぬっ、な、何だと?!…くうっ、滅びまでをも封じられた?!!」
顕れた影の様なモノ。
リンネの捕縛陣に囚われその正体を現した。
シャドーデーモンと呼ばれる闇の魔物。
この世界では比較的上位の魔物だ。
何よりこいつらは言葉での対話ができる。
おそらくもともと悪寄り。
今回の悪魔、それに従っていたのだろう。
「……流石だね。美緒、リンネ様」
レギエルデはほっと息を吐き出し、皇帝を始め貴族の皆を見渡し口を開く。
「これで今回は勝てるでしょう。もう情報の漏洩はない」
「っ!?ま、まさか…」
「ええ。筒抜けだったのでしょうね。まあ、一番はさっきの伯爵でしょうが。彼の役職は?」
その問いかけに皇帝の顔が青くなる。
声を震わせながら宰相が告げた。
「…参謀本部の副長でした」
「なるほど」
※※※※※
今回の要請、実は美緒達ギルドの者たちは違和感を覚えていた。
確かに3万もの魔物のスタンピード。
小国であれば間違いなく滅びる案件だ。
だが戦力が多く厚みのある帝国。
いきなり美緒たちに要請を出すこと自体異例だった。
少なくともまずは戦うはず。
なにより帝国には多くの他国の者たちも暮らしているのだ。
余りにも弱腰。
あり得ない判断だった。
「陛下」
「う、うむ」
「今回の要請、一番主張した者、誰ですか?」
「そうだな。…確かにサイムーナはすぐに連絡した方が良いと訴えておったが…一番の張本人は…カゾート辺境伯だ。……くっ、奴は昨日のうちに領地へと戻っている。自領の防衛をと…今思えば不自然極まりない。…どうして気付かなかったのだ」
悪魔とその眷属。
特に眷属は元々この世界にいた住人たちだ。
知らずに凋落され、そのほとんどは自覚すらない。
非常に厄介な状況に、皆の気持ちが沈んでいく。
「…美緒?まだ居そうかい?この場に」
「…いいえ。今ここにいる皆さま。皆が真剣に帝国を思っています。でもこの場以外……陛下?第2騎士団、ヤナークの塔のすぐ横ですよね?」
「う、うむ」
「そこに2名ほど、悪魔の眷属の魔力、纏っているものが居ます。…ハイン」
「は、はい」
私はハインにイメージを送る。
彼になら任せられる。
「っ!?……まさか?……ありがとう。美緒さま。…すぐに拘束します」
「ええ。多分この二人と同じような状況です。まだ助けられる。…これを」
私は超元インベントリから小さな魔刻石を取り出しハインに預ける。
これは今ザッカートが使用しているものと同じものだ。
「…これは?」
「封印の魔刻石です。この二人のように拘束できます。…転移ではバレるでしょう。ハイン、危険ですがあなたなら問題ないと信じています。お願いしても?」
「はっ。必ずや。…陛下、よろしいですね?」
「う、うむ。……頼んだぞ、息子よ」
「はっ。必ずや」
そう言い謁見の間を出ていくハインバッハ。
それを見届けレギエルデがおもむろに口を開いた。
「さて。それでは軍議、始めましょうか」
先ほどの指示。
全てブラフだった。
始まる本当の作戦。
悪魔の眷属との戦い、その幕が切って落とされようとしていた。
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