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第133話 精霊王ファナンレイリの憂鬱

皇都バラナーダ西方、魔流れの霊峰。

精霊王であるファナンレイリ・ネルゾールドの構築した結界の外には多くの魔物がひしめいていた。


「まったく。なんなのコイツら?いきなり多くで押し寄せてきて…むうっ、ギガンテスまで居る?!…ディーネ、ディーネ!!」

「は、はい。お師匠様」


呼び出され慌ててファナンレイリの前に現れたディーネ。

何かを食べていたのだろう。


口の周りに食べ物のかすをこびりつかせたディーネが口をもぐもぐしながらも、寝巻の様なものを体に纏い目の前に飛んできた。


「…あんたね。なによその格好」

「ふぁ?!す、すみません…だ、だってお師匠様、急に呼ぶから…え、えっと…ゴックン」


呆れたような視線を向ける妖精王。

大きくため息をつき改めて話しかけた。


「ねえディーネ?あなた、スイ、朱雀は今どうなっているのかしら?」

「はえ?……す、朱雀?……あ、あー……大丈夫?です」


思わずジト目を向ける。

朱雀はこの世界にいる聖獣の一つ。

実は大きな呪いに囚われ、今彼女たちが保護している状況だった。


「……確かに大丈夫みたいな気配だけど。ちゃんと見てなさいって言ったよね?」

「あー、うー、そ、その……は、はい」


幾つかの縛りはあるものの、この世界において精霊王の力は隔絶している。

その住処であるこの場所、めったなことでは影響を受ける物でもない。


しかし今の外の状況、異常であることに間違いはなかった。


(…あいつら気付いたのね。…他の聖獣は…………うん。問題ない……まずはこいつらどうにかしなくちゃだね)


恐らく魔物たちの狙い、弱り切っている朱雀の殺害なのだろう。

聖獣はこの世界に4体存在している。

その物自体が強力な結界としての意味を持っていた。


(…エデミステイター……厄介な称号持ち『管理者』がいるね……面倒くさいな)


この世界には多くの称号持ちがいる。

それは何もいわゆる善属性に限ったことではない。


悪魔は基本この世界以外からの侵略者であり、いわゆる神と同等の力を持っている『超絶者』だ。

その眷属、それは元々この世界にいたもの、つまりかどわかされた者たちの成れの果て。

そして限りなく悪性に近い本性を持つ者たちが選ばれていた。


「ディーネ。あんたゴーレム部隊使っていいから。あいつら蹴散らしなさい」

「ふわー、いっぱいいる……っ!?はあっ?!わ、私ですか?!」


気付けばテラスから見下ろしていたディーネ。

素っ頓狂な大声を上げてしまう。


「えー、お師匠様の方が上手じゃないですか。チャチャッとやっちゃってくださいよ~」


自室のテラスから見下ろしながら彼女は唯一の従者であるディーネを睨み付ける。

コイツは従者である自覚が足りていないようだ。

思わず怒りの波動をディーネに叩きつけた。


「ううっ、わ、分かりました。やりますから…そ、その物騒な波動、向けないでくださいよ」

「ふん。さっさとそう言えばいいでしょ?…私は朱雀を見てくるから。あっ、ねえ、あんたティリにも連絡とりなさい?二人でやった方が早いでしょ?」

「っ!?は、はい」


そう言い姿をにじませ、消えるディーネ。

転移ではないが彼女たち妖精にはいくつかのスキルがある。

程なく二人で、オーダーはこなすであろう。


「……はあ。本当に面倒くさいわね。……朱雀も……そう言えば、レギエルデはどうなったのかしら」


ファナンレイリは魔力を纏い、朱雀を保護している部屋へとその姿を消していた。



※※※※※



美緒たちのギルド、ロッドランドの部屋。

自室で剣の素振りをしていたロッドランドは突然現れた気配に思わず顔を向ける。


「うえっ?!…ディーネさん?!…お、お久しぶりです?」

「あ?う、うん。えっとティリの(つがい)の人よね?ランド君だっけ?」

「っ!?つ、番?!…えっと、ロッドランドです」

「ああ、う、うん。コホン。…ねえ、ティリは?」


そう言いキョロキョロと部屋を見回すディーネ。

その視線が幸せそうに寝ているティリミーナを捕らえた。


「むうっ。ズルい。私も眠いのにっ!」


そう口走り、いきなりティリミーナの寝ているロッドランドのベッドへともぐりこむディーネ。

そしてなぜかティリミーナの体に抱き着いた。


「…ん…むにゃ…ロッドのえっち……ムニャムニャ…」


何故か色っぽい声で自分の名を呼ぶティリミーナ。

思わずロッドランドの顔が赤く染まる。


「むう、なによティリのくせにっ!…ズルい、わ、私だってまだ男の子と寝てないのに!」


そう言いさらにティリに密着する。

彼女たちはその体は小さいものの、すでに成人。

美しい女性二人の抱擁。


純情なロッドランドにはいささか刺激が強すぎる。


「……んう…あうっ…っ!?デ、ディーネ?…あ、あんた、何して…こ、こらあ」

「…んふ、ティリ、可愛い…いい匂い」

「…ちょ、ちょっと…こ、このっ…ひうっ?!」


さらに遠慮のない攻めがティリミーナを包み込む。

反射的に真っ赤に染まるティリミーナ。


零れる切ない吐息。

ロッドランドは思わず部屋を飛び出した。


「うあっ?!ロッ、ロッド?!ちょ、ちょっと、助け…」

「ズルい、ズルい――」

「あうっ?!やめっ、こ、こら――」



※※※※※



当然だがロッドはヒューマン。


サイズが違うためそういうことはしていない。

勿論いやらしい悪戯などもしていない。

していないったらしていない。


コホン。



※※※※※



どうにかディーネの拘束から逃れたティリミーナはジト目をディーネに向けた。


「むうっ。あんた、いきなり何してくれてんのよっ!ロッド、出て行っちゃったじゃない!」

「ふん。いちゃついているあんたが悪いんでしょ?…もう…したの?彼と」

「ば、ば、ばっかじゃない?す、するわけないでしょ?大体この体じゃ…」


思わず自身を抱きしめるティリミーナ。

そしていそいそと服を整える。


実は『その気』の場合、彼女たちは体を変化させる事が出来るのだが…


それには相当の覚悟が必要だった。

つまりは番の契約。


真実の愛、それがなければ存在自体が消滅してしまう縛りがあった。


「……ふうん?…なによ。本当にしていないのね…まあ、いいわ」

「あ、当たり前でしょ?…それに…ロッドは……美緒の事が……」


自分で口にして落ち込むティリミーナ。

そういう事実、未だロッドランドには伝えていないし、彼の心を占めている美緒の存在、ティリミーナは怖かった。


「……あんたも苦労しているのね。はあ。まあしょうがないよね」

「う、うん。……そ、それで?何か用じゃないの?」


「うん?………………はっ!?そ、そうよ、私、こんなことしている余裕ないのよっ!あんた、一緒に来てよね!」


「はあっ?!なっ?!どこに?って、えええっ?!!」


いきなり目の前の景色が切り替わる。

気付けばなじみ深い、精霊王の住処。

そこの地下の格納庫にティリミーナは佇んでいた。


「ほら、さっさと乗りなさい?魔物蹴散らすわよ!!」

「あーうー。もう。……っ!?な、何この気配?やばくない?!」

「やばいからあんた呼んだの。ほら、行くよ」

「ちゃ、ちゃんと説明しなさいよね!ああ、もう。…『コネクト』」


身の丈5mはある巨大なロボットの様なゴーレム。

その瞳が怪しく光を纏う。

さらには数十体の2メートルくらいのゴーレムが軋みを上げながら起動し始めた。


(取り敢えず非常事態なのね。……はあ。私まだ朝ごはん食べてないのにっ!!)


開かれる格納庫の扉。

そこには数えきれないような大量の魔物がひしめいていた。


「取り敢えず……『フレイムシュートッ!!』…あとでちゃんと説明しなさいよねっ!!」

「はあ。流石ね。……はいはい」


凄まじい速度と破壊の力。

2体の大型ゴーレムと、数十機の自立型ゴーレムたちの戦闘が幕を開けた。



※※※※※



精霊王の住処、厳重に封印してある一室。

そこには衰弱し、ほぼしゃべることすらできない聖獣、朱雀が横たわっていた。


彼女はいわば鳥獣人。

見た目はほぼヒューマンであるものの、その状況の維持すらできず大型の鳥の魔獣が寝ている状況だった。


「…ふう。まだ生きているわね。…全く厄介な呪いだね…『キュア』……効果が低い…まあ後数十年は大丈夫だろうけど…ちょっとかわいそうだね。……スイ、スイ?…大丈夫?」


スイと呼ばれた魔獣の目がゆっくりと開かれる。

今紡いだ解呪の魔法。

その効果で一瞬だが彼女を纏う悪しき魔力、霧散し聖気がみなぎってきた。


「……ファナン…さま……」

「あー、うん。話さなくても良いよ?想えば伝わるからね…調子はどう?」

(……今は大丈夫ですけど……呪い、解けませんか?)

(えっと…もうちょっとかかるかな)

(…そうですか……)


俯く朱雀。

その様子にファナンレイリの胸が痛む。


彼女朱雀。

名を『スイ・ザラナーイ・クアイスト』

この世界の根幹となる世界結界の起点となる使命を持つ一人だった。


「ねえ、スイ?他の3人は無事なのよね」

(……ええ。波動に問題はないです……ごめんなさい。私がうっかりしたせいで…)


精霊王は一応継承しているが、彼女たち聖獣はこの世界が創造された原初から存在していた。

大きな使命がある代わりに、基本彼女たちには自由が保障されていたのだが…

実はこの世界にちょっかいをかけていた虚無神の眷属、おそらくそれにより彼女は呪われていた。


(あなた様のおかげでお役目は果たせます……ちょっと意識は失っちゃいますけど)


いわゆるパッシブ。

彼女たちは存在するだけでその効果が無くなる事はない。


(あー、もう。…レギエルデはどっか行っちゃうしティリのオーダーは…たぶんちゃんと伝わってないわよね……もう。本当に面倒くさい)


思わず一人、イライラとしてしまう。

精霊王自らこの場所を出る事が出来ない縛り、彼女は唇をかみしめた。


(……えっと。……『時渡』のスキル持ちは居ませんかね?そうすればきっと秘宝の必要、無いですよね?)

(うん?それこそ伝説のスキルよ?レギエルデが使えるけど、あいつスキルレベル低いのよね。遡行はできないもの)

(はあ。……そうですか)


落ち込むスイ。

ファナンレイリはそんな彼女に声をかけた。


「まあ少し待っていなさい。痛みとかはないのでしょう?」

(ええ。とにかく力が抜けちゃうくらいなので……分かりました。ゆっくり待ちますね)


(うん。……ごめんね?)

(っ!?……べ、別にファナン様のせいでは……)


呪いをかけたのは悪魔の眷属の天才、エデミステイターの称号を持つシャドーとダークエルフのハーフであるキズビット。


そこまでは既に分かっている。

あくまで予測ではあるのだが…


「ゲームマスター…しょうがないわね。彼女に頼るかな」


顔を曇らせたままファナンレイリはスイの部屋を出ていった。



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