第131話 アルディの苦悩の日々と帝国に忍び寄る影
あてがわれた個室。
まだ夜も明けぬ薄暗いアルディの部屋。
彼は一人なぜか立ち尽くし、苦虫をかみつぶしたような表情を張り付けていた。
「ぐふっ、ぐふっ、ぐへへへ。…まさにパラダイス。尊い!!ちいちゃんは最高でござる!!」
「嬉しいです♡ご主人様♡」
何故かアルディのベッドの上、幼女であるちいちゃんの膝にでかい頭を乗せ、だらしなく顔を緩ませている琢磨が耳かきをされながらにやけていた。
「んん♡…もっと奥…先っちょが届きそう?」
「おうっ?!た、たまらん。はあはあはあ♡いいでござるよ?グイっと、ぐぐぐいっと!!」
「えー。こわーい♡……こ、壊れちゃう……ん♡…ちょっと触った?」
「ひぐうっ?!こ、この伝わる刺激……ハアハアハアハア、も、もう辛抱溜まらんでござる」
「あんっ♡動いちゃダメ♡…痛くなっちゃう♡」
耳かきをしているだけなのだが?
違うように聞こえる人はいませんよね?………コホン。
取り敢えずアルディは耳をふさぎ視界に映さないようにしていた。
「まったく。なんだこの拷問じみた悍ましい時間は……」
つぶやきうなだれるアルディ。
勿論原因はあの時の召喚魔法だった。
※※※※※
ジパングの民を守るために多くの幼女を召還していたアルディ。
大方救助を終え、彼女たちを戻そうと魔力で構築した呪印を切る。
美緒のバフでかなり魔力は回復したものの、限界まで使用した魔力。
さらには禁呪に近いものを使用したことでアルディの精神的な疲弊は想像を超えていた。
「……やばい。気を抜くと意識が飛びそうだ。…早く戻してギルドに帰ろう」
呪印に魔力を込めるアルディ。
100人の幼女が可愛く手を振りながら、その存在を薄くさせていく。
「「「「「さよなら」」」」」
「「「ばいばい」」」
アルディとて元は琢磨。
彼は限定し、100人の幼女に呪印を適応させていた。
確実に戻してあげるために。
可愛らしい幼女100人、思っていたより愛着が沸いていたことにアルディは驚いていた。
「うん。ありがとうね皆。もう会えないと思うけど…元気でね」
「「「「うん♡」」」」
その様子に癒されながらも、アルディは一つ最大の過ちを犯していた。
ほぼ100人が消え自身の魔力が霧散した時、背筋に嫌な気配を拾うアルディ。
恐る恐る振り向いた。
……そこには。
「うん?拙者は消えぬでござるか?おうっ、ちいちゃん。ぐふっ、ぐふっ、ぐふふふ」
「ご主人様♡」
何故か琢磨ともう一人の幼女ちいちゃんが佇んでいた。
瞬間顔を青ざめさせるアルディ。
余りの疲弊に、琢磨ともう一人の幼女を範囲に入れることを忘れていたのだ。
「……マジか?!…くうっ?!…ま、魔力が…ね、練れない?…う、嘘だ――――――!!!!??」
今回の召喚はほぼ禁呪。
つまり通常の範疇を大きく超えていた。
現実として、アルディが単体で構築できる範囲を超えている。
当然召喚から戻すまではセットで構築していたのだが…
しかし最後の最後、アルディはあまりの疲弊に範囲選択を自身の確認した範囲、つまり意識的に見なかった琢磨とちいちゃんを除外してしまっていた。
唯一の救いは逆に魔力が足りず、時間の限定を組み込んでいた事だ。
つまり1日2時間。
琢磨とちいちゃんはそれしか顕現出来ない。
深夜にそれを設定すればどうにか他人に気づかれる事はないだろう。
しかしその滞在期間。
アルディはそこまでの確認ができていない。
何しろ媒介に使用したものは美緒の錬成した魔刻石。
恐ろしい想像がアルディを包み込む。
(不味い…美緒の錬成?…たぶん僕の数十倍の魔力……ううっ、コイツ等いつ消えるんだ?)
こうしてアルディと琢磨、そしてちいちゃんとの奇妙な共同生活が始まった。
※※※※※
暫く悍ましい時間を耐え、徐々に体を薄くさせる琢磨とちいちゃん。
設定した時間が終わりに近づき、アルディは大きく安堵の息を吐く。
「ぐふっ、ぐふ。さらばでござるよ?アルディ殿」
「ばいばーい♡またね!」
「…………はあ」
これでもうこの状況、すでに8日目を迎えようとしていた。
まだまだ消える気配のない二人。
こうなったら美緒に相談したほうが良いかもしれない。
「…やっぱり美緒、チートすぎるでしょ」
もうすぐ夜が明ける。
睡眠不足のアルディはもう一度ベッドにもぐりこんだ。
自らの力不足を改めて心に刻み込みながら……
※※※※※
神聖ルギアナード帝国西方の地アルーリャシャン列島。
そこに新設された物見やぐらでハインバッハは上空を見上げていた。
「2つ…いや、4つ?…くそっ、だんだん増えてきている。おいっ、陛下へ報告をしておけ」
「はっ」
新年を迎え帝国歴26年の初頭。
昨年末から数回目撃されていたガザルト王国の新たな航空戦力、それが年明けとともに頻繁に帝国の領土上空で確認されていた。
勿論ガザルト王国からは通達は来ている。
何でも新造船の運用試験だそうだが…
それにしてもあまりに大胆にその姿をさらし続けていた。
「今確認したものを含め最低でも20機ほどが確認されている。我が帝国の航空戦力は50機。…おそらくガザルト本国ではこの数倍は開発済みなのだろうな」
苦虫をかみつぶした顔をし、つぶやくハインバッハ。
美緒たちのギルドとの交流の中、神聖ルギアナード帝国の技術分野は格段の進化を遂げた。
主な功績としては上空まで届く結界の構築。
これによりあからさまな国土内への侵入は防ぐ事が出来ていた。
だがそうは言え、結界の維持には多くの魔力が必要になる。
そのため帝国の魔力師団、3つあるうちの一つは結界の維持がその仕事になってしまっていた。
(強すぎる力…ままならぬものだな…)
美緒ほどのチートならきっと彼女一人でこの帝国全土を包む結界の維持、問題はないのだろう。
だが通常の範疇で考えれば、いわゆる魔法に特化した人材、常にその10名ほどの全魔力を必要としていた。
(ああ、美緒さま……会いたい…あのご尊顔をこの目に焼き付けたい…そして…)
年末からこっち、ハインバッハはここアルーリャシャン列島にほぼ在中、新年を祝う式典にすら参加していなかった。
募る想い。
勿論彼だって大国の皇子。
幾人かは皇妃候補がいるし、当然夜だってともに過ごしていた。
美しく聡明な皇妃候補の女性たち。
不満なぞない。
だが。
ハインバッハはどうしても美緒を求めてしまう。
悶々とし1人百面相をしていた彼に報告が入る。
それはまさにこの世界を動かすきっかけとなる一報だった。
「で、殿下、至急やぐらへお越しください。緊急の知らせ、陛下からです」
「っ!?緊急な知らせ?陛下自らだと?」
「はっ」
慌ててやぐらへと走るハインバッハ。
報告に来た近衛兵を置き去りにするその速さ、すでにハインバッハも人外に近づきつつあった。
「陛下?何事です?!」
『…うむ。ハインよ、良いか?よく聞け。…スタンピードだ。…しかも今まで見たことのない魔物が多く溢れた。現在シュレイヒが部隊を率いて対応に当たってはいるが…何しろ数が多すぎる。どうにか美緒の結界が防いでいるが…おそらく持つまい。魔力の供給が足りん。…一応リッドバレーには救援の要請はしたところだ。…戻ってこられるか?』
神聖ルギアナード帝国の国土は広大だ。
何しろ多くの国を併合したのだ。
今ハインバッハの居るアルーリャシャン列島は王都から1000kmくらい離れている。
「陛下?私は今アルーリャシャン列島です。…どんなに急いでも、それこそ我が帝国の最新鋭飛空艇でも半日以上かかってしまう。間に合うのですか?」
至急戻れとの通達。
しかし現実として転移の使える人材のいない今その距離はまさに絶望であった。
『…ハイン?今あなたの位置、確認できました。…準備してくださいますか?私が迎えに行きますよ?』
「っ!?み、美緒さま?…おおっ、何と麗しき声…ええ、是非っ、今すぐにでも行けます!!」
ランルガンとの戦いの翌日である今日。
美緒はすでに皇帝の懇願により、神聖ルギアナード帝国の居城へと赴いていた。
『わかりました。では行きます』
瞬間ハインバッハのすぐ近くに在り得ないような魔力が噴き出す。
そして現れる愛おしい人。
思わず跪くハインバッハ。
「…お久しぶりですハイン。……ふふっ、しっかり鍛えたのですね?嬉しいです♡」
「ああっ、美緒さま……なんとお美しい…」
久しぶりにまみえる美緒にハインバッハは胸が熱くなる。
今日の美緒は可愛らしいブラウスに膝まであるフレアスカート。
美しい彼女を引き立てるコーデにハインバッハの顔が真っ赤に染まる。
そして広がる戦場とは思えぬ心ひく女性の香り。
「コホン。それではまいりましょうか。ハイン、腕に触れても?」
「っ!?は、はい」
ハインバッハの腕にそっと触れる美緒。
思わず思いきり抱き締めたい衝動がハインバッハに突き抜ける。
愛おしい女性。
すぐ近くにいる事実に、ハインバッハは瞳に熱がこもってしまう。
「…っ!?…もう。だめですよ?…今はそんな場合じゃありませんから」
「う、うむ。……顔に出ていたのだろうか?」
「う、うん。…もう」
大国ルギアナード帝国。
その第一皇子。
まごう事なき超絶イケメンだ。
いくら多くの美男子がいるギルドに居ようと基本美緒は男性には慣れていない。
正直二人きりでいる今、かつての美緒なら卒倒しているだろう。
しかも遠慮なく向けられる自分を思う男性の欲情と憧れの熱い瞳。
実は今もすでに私は心臓が激しく脈を打っていた。
(もう。本当にかっこいいのよね。ハイン。…心臓に悪い)
現場に残る多くの兵士に指示を出したハインバッハと美緒。
程なく皇帝の待つ皇居へと転移していった。
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