第129話 新たな来訪者
ブルーデビルのリーダー、ルノークとの話し合いを終えギルドに戻った私。
ナナはしばらく実家で暮らすそうで、私は一人で戻ってきていた。
「美緒さま、おかえりなさい。……うまく話はまとまったようですね」
「ただいま。エルノール。ふふっ、私の顔を見てそういう事って分かるものなの?まだ私何も伝えてないけど」
転移し執務室に現れた私を見て優しく微笑みエルノールは私に告げた。
相変わらずのイケメン。
だいぶ慣れたとはいえ、私の心臓は勝手に高鳴ってしまう。
「もちろんです。私はいつでもあなたを見ているのですよ?ふふっ。本当にあなたは美しく可愛らしい」
さらっと褒める彼の言葉。
もう。
イケメンすぎ。
「コホン。…あ、ありがと。……そ、その…エルノールもいつも素敵だわ」
「っ!?」
私にはいつも歯が浮くようなセリフを言う彼だけど、私の言葉に対する免疫は低いようで…。
彼は真っ赤に顔を染めてしまう。
もう。
カッコよくてかわいいとか反則過ぎる。
「あー、コホン。わりいな美緒。俺もいるんだがな」
突然ぶしつけに言葉を発するザッカートが皮肉を交えたような表情を私に向ける。
えっと。
うん。
もちろん最初から気付いていたよ?
ほ、ほんとだからね!
「珍しいねザッカート?私に用事?」
「ああ。まあ用事というかなんというか。美緒に客だ」
「客?……えっ、誰?」
よくよく見ればなぜか小さな怪我をしている。
服も所どころ破けている?
「っ!?ザッカート?怪我してるの?!」
「ん?ああ。たいしたことはねえ。アリアに回復してもらったからな。…ちょっと手合わせをな。…ったく。美緒の客はとんでもねえ」
ますますわからない。
第一私の知り合いなんて殆どいないはずなのだけれど?
「今はサロンで待ってもらっている。さっきからマキュベリアが興味津々で見ているからな。…できれば早い方が良いと思うぞ?」
マキュベリアが興味津々?!
それってすっごく強い人ってことなのかな?
「わ、分かったよ。じゃあサロンに行ってみるね」
「おう。あー、俺も一緒で良いか?一応話をしたの、俺だからな」
「う、うん」
私はそっとザッカートの腕に触れる。
すると突然彼は私を優しく抱きしめた。
「ひうっ?!」
「こんくらいはご褒美だろ?…ああ、美緒は可愛いな」
すっごく優しい目を私に向ける。
思わず顔が赤くなってしまう。
「おい、調子に乗るな。美緒さまから離れろ」
「ふん。言ったろ?俺は絶対にあきらめないとな。さあ、美緒?頼む」
「う、うん。…転移!」
そう言い消える美緒とザッカート。
思わずしかめっ面をしてしまう。
「まったく。油断も隙も無いな」
そう言いながらエルノールもサロンへと転移していった。
※※※※※
サロン中央。
山のようなドラゴン顔の大男が床にドカリと座り、その前で何故かマキュベリアが魔力を揺蕩らせていた。
「おっ?!ゲームマスター?!!ああ、やっぱり美しいな!!」
私を見て目を輝かせるその男。
ドラゴニュートであるランルガンがそこにいた。
「っ!?えっ?!ランルガン?!!どうして?」
「ははっ。流石はゲームマスター様だ。俺の名まで知っているとは…さて」
そう言い立ち上がる彼。
3メートルを超える巨体。
その威圧感に一瞬私の肩が跳ねる。
「おっと。てめえ、さっき言っただろ?その物騒な闘気、押さえろや」
「ふん?ああ、貴様か。なに、このくらい、ゲームマスター様にはそよ風だろうが。引っ込んでろ」
「ザッカートよ。下がっておれ。わらわが見極めてくれようぞ」
何故か挑発を纏っているランルガン。
マキュベリアのみならずサロンにいる皆の殺気が迸り始める。
「ははっ、凄えな!?ここは。…やっぱり俺は間違っちゃいねえ」
何故か楽しそうに顔に凄まじい笑みを浮かべる。
さらに闘気の質を増していく。
『竜の咆哮ランルガン』
彼は中盤、帝国歴30年ごろ出会うはずのメインキャラクター。
どこかの国の闘技場、そこで騙され毒を盛られ、死にかけのところで私が助けて仲間になるはずだったキャラクターだ。
私は取り敢えず魔力をランルガン中心に範囲を限定して放出する。
ここでの乱闘は、色々と不味い。
何よりもサロンの端の方にいたマイとサクラが怯えている。
「「「「「っ!?」」」」」
「っ!?ひぐうっ?!!」
思わず蹲るランルガン。
彼の性質から言って、手合わせは必須だろう。
私は大きく息をつく。
「ねえ。落ち着いた?ランルガン。…一応あなたの目的聞いておこうかな?」
「ハ、ハハハ。ああ。そうだな。…非礼は詫びよう。…その魔力、押さえてくれねえか?呼吸もままならねえ」
どうやら他人の強さ、彼は分かるようだ。
それに一応の礼儀も備えている。
正直考えられない。
以前のルートの彼と大分違うその姿に、私は疑問を浮かべてしまう。
「ねえ。あなたはどうしてここが分かったの?闘技場は良いのかしら」
「ハハッ。そこまで……ああ、俺は夢を見たんだ」
「夢?」
「俺が仕えるべき真の主、……お前さんの夢をな」
そう言う彼の瞳には、なぜか憧憬の色が浮かんでいたんだ。
※※※※※
ギルド正面入り口付近。
そこではドルンとガーダーレグトが何やら話し合いを行っていた。
「おいドルン。貴様結界の魔刻石、運用を間違えたのではないのか?」
「そ、そんなこたあねえ。第一これを見てくれ。まだ魔力の残滓がある。…あんたならわかるだろうが」
我がギルドのある禁忌地リッドバレーを守る結界。
最近ではもともと構築してあるそれに、ドルンが魔刻石によりその強度をさらに増していた。
通常破ることは不可能だ。
「ふむ。確かにな。……だが在りえなくないか?この強度、美緒やナナならいざ知らず、さっきのドラゴニュートが破ったなど…信じられん」
ガーダーレグトの言葉はまさにその通りだった。
少なくとも力ずくで壊せるようなモノではない。
「…可能性としてなんだがな」
「うん?」
「潜在的な資格者なら恐らく『拒絶部分』が緩和されるんだ。それならありうる」
「潜在的な資格者…っ!?美緒の言う『メインキャラクター』か」
「…おそらく」
ため息をつくドルン。
自分が所属するとんでもないギルド。
ドルンだって力を増し、上限である99はすでに超えている。
しかし日々とんでもないものが集まってくる美緒のギルド。
どうしても焦燥感が募ってしまう。
そんなドルンの肩にガーダーレグトは手を置いた。
「っ!?」
「ふん。ドルン」
「お、おう」
「なんだ貴様?少年ではあるまいに。……お前は間違いなくこのギルドに必要な存在だ。そんなつまらん感傷は捨てることだ。自信が欲しいのなら…我を抱くか?……男としての自信、持てるであろう?」
ドルンはかなり偏った性格をしている。
元々貴族、そして溢れんばかりの才能。
彼が歪まなかった原因はまさにその性格にあったのだが。
何しろロマンチストであり理想主義者、そして恐ろしいほど自己評価が低い。
彼の目に映る仲間たち。
それはまさに彼の理想を超えていた。
「なっ?!何を?!」
「ふん。冗談だ。…なんだ?わらわを抱きたい思い、少しはあるのか?…ふふっ。そうなら嬉しいがな」
ジパングの戦い。
あの時の一瞬の触れ合い。
思い出す遠い昔。
やはり能力に溢れていたかつてのガーダーレグト。
なぜか自分に似たドルンが非常に気にかかっていた。
(ふむ。わらわはそういったもの、すでに諦めておった。だから方法など分からん)
正直ガーダーレグトは期待なぞしていない。
そもそもそういう事、知識も経験もあるが感情の理解が出来ないでいた。
呪いの弊害。
彼女もまた美緒に解呪され開放されたものの、心の奥にある傷はどうしても彼女の行動を阻害していた。
なぜか諦めをその瞳に映すガーダーレグトにドルンは真面目な表情を向けた。
「なあレグ」
「うん?」
「………お、俺は……たぶんあんたが好きだ」
「……ふむ」
「だけど……俺は自分が分からない。…時間が欲しい」
ここ最近我がギルドでは幾人かのカップルが誕生していた。
もちろんまだ体を合わせていない者たちもいるが、それでも彼らの力は間違いなく上昇していた。
研究者肌のドルン。
正直自身も試してみたいと思っていた。
でも彼はそんな自分に激しい違和感を覚えていた。
きっと以前ならすぐにでもガーダーレグトを抱いたであろう。
欲ではない。
研究心の為に。
でも今は。
どうしてもそういう気になれない。
試す?
あり得ない。
俺は……
きっと既に恋に落ちている。
「時間か。かまわぬさ。いくらでも待とう。すでにわらわは4000年生きておる。5年だろうが10年だろうが誤差であろう?」
そう言い踵を返し、魔力を練るガーダーレグト。
結界の再構築を始める。
「くうっ、凄まじいな」
ガーダーレグトの纏う魔力。
しっかりと練り上げたそれは濃厚な色を伴い、結界を構築していく。
「ドルン。力を貸せ。異種の魔力で練る結界、それこそが強度の秘訣だ。…出来るな?」
「当たり前だ。ふうっ、はああっっ!!!」
ドルンから魔力が立ち昇る。
敢えて魔法使いから探究者へと同系統のジョブを選んだドルン。
その魔力の修練度。
数字をはるかに超えたその力はガーダーレグトの魔力に劣るものではなかった。
「ふん。やるではないか。……貴様は素晴らしい男だ。自信を持つといい」
「………ああ」
真っ赤に染まるドルン。
彼の春がいつ来るのか。
以外にも早く訪れるのかもしれない。
「面白かった」
「続きが気になる」
と思ってくださったら。
下にある☆☆☆☆☆から作品への応援、お願いいたします!
面白いと思っていただけたら星5個、つまらないと思うなら星1つ、正直な感想で大丈夫です!
ブックマークもいただけると、本当に嬉しいです。
何卒よろしくお願いいたします。




