SS.クラーケンは旨かった
南海の孤島。
そこではかつての力を取り戻そうと一人の英雄がその身に魔力を纏い、大物である海棲の大魔獣『クラーケン』との死闘を演じていた。
「ぐうっ、こ、この?!…クハハ、やるではないか!」
「ブルシュワアアアアーーーー」
海棲の大魔獣、クラーケン。
レベルは150を超え、海の中ではおそらく最強に近い魔獣。
太い何本もの腕を振り回し、目の前の小さな個体に対し絶望的な質量をのせ薙ぎ払う。
ズガガガガッッ!!!
「うおっ?!!ぐうあっ?!!……強いな?!……はああっ!!」
薙ぎ払われつつも自身を魔力で纏いその防御力を上げていく。
そして太い1本の足を鷲摑み、おもむろに陸の方へと放り投げた。
「ブギュ?!!ギイイイイイイイッッッ!!!!」
大量の海水とともに陸に叩きつけられるクラーケン。
激しい衝突音とともに地響きが大地を揺るがす。
怒りに震え、自分より小さな男を睨み付ける。
海に住む魔獣。
だがこいつは陸でも対応する化け物。
突然全身に悍ましい魔力を纏い、クラーケンから圧縮された水の刃が戦っていた英雄、アランに襲い掛かってきた。
「っ!?」
幾つもの鋭い水の刃。
アランの表皮を切り裂いていく。
その恐ろしいほどのキレ味、思わずつばを飲み込んでいた。
「ふう。本当に強いな。…俺が弱くなったのか?」
目覚めてすでに10日。
多くの海の魔獣を倒し食していたアランは、すでにほぼ全盛期の力を取り戻していた。
「ふむ。せっかくの強敵だ…お前俺のリハビリに付き合ってもらうぞ?」
「プルグギャアア――――」
※※※※※
一方ジパング大江戸城近くの海岸。
新年を迎えたその日、何故か海の大魔獣クラーケンがその姿を現わしていた。
「くっ。昨日に引き続きどうなっている?おい小次郎、避難状況はどうだ?」
「はっ。すでに民たちの避難は完了しておりますが…なにしろ奴が現れるのは数十年ぶり。前回は多くの被害を出しながらなんとか撃退しましたが…昨日の大災害、皆疲弊しております」
この世界、意外と海は危険に満ち溢れていた。
実は漁師の仕事命がけだったりする。
元々ヒューマンの一族は当然ながら海の中では生存できない。
どうしてもほぼ手付かずで、そこに暮らす魔獣たちはその力を増していた。
特に昨日まで全土を覆うあまりにも強い妖気。
それが失われたことで、クラーケンは様子を見に来たのだろう。
魔獣とはいえ高レベル。
話すことはできないがそれなりに知能は高い。
「くっ、小次郎よ」
「はっ」
「最悪我が倒そう。アレを使うぞ」
「っ!?ま、まさか?…ですがあれはまだ…使える段階では…」
「仕方がなかろう。せっかくゲームマスター殿たちにより救われたのだ。この国の未来、我らが守らずに誰が守るというのだ」
死を覚悟する半蔵。
その決意に小次郎は何も言えなかった。
「…そんな顔をするな。我とて死にたくはない。できうる限り掌握して見せようぞ…せめてもう一度、美緒殿の麗しき顔、見るまでは死ねん」
半蔵の体に異様な黒き魔力がまとわりついていく。
まだ完全には解明していない最終忍術『アマテラス』の一歩手前、禁呪に近い凄まじい破壊の忍術だ。
対価は生命力。
恐らく半蔵は生きてはいまい。
「我はそれなりに生きた。小次郎、後は頼む」
「くうっ、は、半蔵さまっ!?」
ズドンッッ!!!!
突然弾けるクラーケンの居た浅瀬。
とんでもない魔力が顕現、一瞬でクラーケンを真っ二つに切り裂いていた。
「やっぱりお肉の後は、海鮮でしょ?」
「ふむ。確かにな。じゃがお主、いくら何でも出鱈目が過ぎるであろう?」
海岸に佇む美しい少女二人。
半蔵は目を剝き動きを止めていた。
「あっ!半蔵さーん。こんにちは」
「うん?おお、ジパングの……なんじゃ?鳩が豆鉄砲喰らったような顔をして」
絶対者マキュベリアと美緒に次ぐ超絶実力者、ナナがにこやかに手を振っていた。
「………小次郎」
「は、はい」
「…とんでもないな。ははは。…鍛えるぞ。覚悟せよ」
「はっ」
※※※※※
新年の最初のお昼。
何故かサロンには新鮮なイカのお刺身と、ゲソのから揚げが山のように調理されていた。
「これって…クラーケン?ナナ、あなたこれどうしたの?」
「うん?ほら、昨日いっぱいオロチのお肉食べたでしょ?次は何となく海鮮かなって。そしたら昨日のジパングの方向でコイツの魔力反応拾ったんだよね。運動がてらマキュベリアと一緒に捕まえてきたよ♡」
まるでその辺のお魚釣ってきたみたいに……
まあ今のナナ、称号使わなくてもクラーケンくらいは問題ないのだけれど。
「ねえ美緒、そんな事より食べてみてよ。とっても美味しいよ♡」
すでに多くの皆がご相伴にあずかっていた。
数人は既に酒宴を始めているし。
「う、うん。いただきます……っ!?美味しい♡」
「でしょ?」
ぷりっぷりの歯ごたえが楽しい刺身。
サックサクの衣に包まれた程よい塩気のゲソ揚げ。
まさに絶品だ。
因みにそのあとすぐにナナに連れられて、私の超元インベントリの中にはオロチの隣に、また数十トンのクラーケンが仲間入りしました。
※※※※※
南海の孤島。
先ほどまでまるで大災害の様な轟音が響いていたが、今は打ち付ける波の音が響き渡っていた。
パチパチと燃える枯木で作った焚火。
その周りには大量のクラーケンの身が太い枝に突き刺さり、かぐわしい香りを充満させる。
「うまい……まさに絶品。力が湧いてくるようだ」
焼ける端からかぶりつくアラン。
そのたびにかつての力が沸き上がる。
「…げえーっぷ……流石に多いな」
後ろを向けば、山とある大量のクラーケンの肉。
流石に一人で喰らうには多すぎる。
「仕方ない。少しは干しておくか。…だが取り敢えず…」
アランはそう言い後ろへと体を倒す。
喰い過ぎてもう動けない。
「……いい加減飽きたな」
そのつぶやきは、波の音に消されていった。
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