第111話 第2の戦場の決着と前夜の女の子の内緒話
業物であろう怨念の籠った妖刀とミリナの聖なるオーラに包まれたロングソードが交差する―――
激しい音とともに衝撃波を伴い光が迸る。
ミフネから吹き上がる悍ましい瘴気。
まさに怨念。
心の弱いものはそれだけで絶望に飲み込まれる事だろう。
しかし天使族であるミリナは悉くそれを振りほどく。
「強いな」
「ああ」
それを見ながらも警戒を続けるカイとナルカ。
すでに戦力外のドルンたちはファルカンを避難させながらアルディ達の手伝いへと赴いていた。
「ふむ。世の評判とはあてにならぬな。まさにミリナ、一騎当千の戦士ではないか」
ガーダーレグトが座り込み感嘆の声を上げる。
世の評判、それは天使族の堕落だ。
正直レベル的にはミフネの怨霊の方が上。
しかしその相性。
そしてミリナはあのマールデルダの弟子。
レベルと供に鍛えられたその熟練度。
すでに遥かな高みにそれはあった。
天使族であり、厳しい鍛錬で力を得たミリナ。
すでにミフネは敵ではなかった。
※※※※※
やがて幾たびも交差する刀と剣。
そしてその時はあっさりと訪れる。
ミリナの聖なるオーラを纏った剣戟がミフネのカタナごとその体を切り裂いた。
「ぐがあああああっっっ!!?まさかこのワシが?!……む、無念……」
崩れ落ち浄化されていくミフネの怨霊。
夥しい呪詛と、悔恨の念が周囲を埋め尽くし、まるで幻のように薄くなっていく。
やがて。
一筋の光が瞬く。
それはまるで再生の光―――
神々しい光があふれ出した。
浄化され消えゆく腐った体の中から光輝く魔力に包まれた男性がその姿を顕わしていた。
先ほどの苦しみを纏った表情はもうない。
ただただ―――
全てをやり終えた、そんな達観した光がその瞳には宿っていた。
「……お主、名は何という」
「…ミリナ。天使族最後の英雄、ミリナ・グキュートだ」
「そうか。我はミフネ。備前之上三船と申す。……ああ、我は最後に報われた……まことの英雄、ミリナ殿に感謝を……我にもう心残りは無い…」
徐々に薄く消えていくその男。
目には美しい涙が浮かんでいた。
「……三船殿…」
「……なんであろうか」
「貴方は強かった……誰よりも」
怨霊とはいえ彼らは真剣で刃を交わした。
それは会話に他ならない。
「ふふ。心優しき娘よ……ありがとう……さらばじゃ…お主のこれからに、幸多からんことを……」
「ああ、安らかに眠ってくれ……この国は必ず守る」
※※※※※
こうして大江戸の北、住民密集地での戦闘は終わりを告げた。
多くの救われた力なき民。
戦闘の終了とともに、多くの民たちが姿を現していた。
「…凄い…本当に生き延びたんだ…」
「あの人たち…きっと神様の使いよ」
口々に感謝と感動を口にする民たち。
その瞳には大破した町に向ける絶望と―――
そしてそれを上回る『明日があること』に対する希望が同居していた。
※※※※※
12月30日夜半。
ジパング決戦の前日、ミリナは。
リンネと最後の打ち合わせのため執務室にいた美緒を訪ねていた。
「美緒殿、夜分すまない。……相談があるのだが…」
「ミリナ?うん。いいよ。座って」
「あ、ああ」
何故か暗い顔をするミリナ。
私はそんな彼女に問いかけた。
「どうしたの?相談?」
「あ、そ、その……」
「???」
何故かもじもじし顔を赤らめ、そうかと思うといきなり青くなるミリナの美しい顔。
そして顔を上げ口を開こうとし、そして閉じてしまう。
そんな様子ににやりとし、リンネが問いかけた。
「なあに?マールに優しく愛されて……混乱してるのかな?」
「っ!?もう、リンネ?言い方!」
まったく。
最近リンネはますますおばさん化している。
「なっ?!…い、いや…コホン……そ、そうだな……正直混乱している……師匠、マ、マールは…」
彼の名を口にした途端真っ赤になる。
見ているこっちが恥ずかしくなってしまう。
「す、すまない。……美緒殿、私を見てはくれないか」
「…見る?」
「そ、その……わ、私は…お、乙女ではなくなったのだ……聖属性は、消えてしまったのだろうか」
何とか口にするミリナ。
途端に可哀そうなくらい顔を青くし、涙が浮かんでくる。
責任感の強い彼女のことだ。
きっと聖属性で選ばれた手前、気にしているのだろう。
「はあ」
私は思わず大きくため息をついてしまう。
「うあ?す、すまない……決戦の前だというのに……か、帰る」
立ち上がり出て行こうとするミリナ。
私はすぐに彼女の腕を取り引き留めた。
「ねえミリナ?嬉しかったのでしょ?」
「うあ、え、えっと………う、うん♡……だ、だが……」
幸せそうな表情を浮かべ、一瞬で暗い顔になってしまう。
本当に彼女は真面目だ。
「あのねミリナ。あなた今、きっとマールと結ばれる前よりもずっと強いわよ?聖属性なんてあふれ出さんばかり。何にも気にすることなんてないわ」
「っ!?ほ、本当か?」
私の言葉に一気に明るくなる彼女。
私は取り敢えず誘導しミリナをソファーに座らせた。
「ねえ、そもそもなんで『愛し合う』と聖属性失うと思っていたの?」
「あ、あ、愛し合う?!…あうう♡」
思い出したのだろう。
途端に色気を噴き出させ蕩けるような顔をする。
メチャクチャ可愛い。
「はっはーん。……マール、とっても優しかったのかな?ミリナ初めてでしょ?…彼きっと、すっごくミリナの事、大事に『した』のね」
もう。
リンネったら。
ま、まあ、ね?
……正直私も興味はあるけど……
「うあ、そ、その……う、うん♡蕩けるようなキスをされ……まるで宝物を扱うように優しく抱擁され…」
「「ゴクリ」」
「そして、優しい瞳で、私を見つめて……『愛してる』……って♡……」
うわー。
なんか目に浮かんでしまう。
マール実はメチャクチャいい男なのよね。
あの顔でそんなこと言われれば……
特にそういう感情のない私だって絶対真っ赤になっちゃう。
「私は、そ、その…当然経験などない。だから基準は分からない。でも……」
「「でも?」」
「うあ、そ、その…初めてで…怖い事もあったが…それを上回る愛おしさと多幸感に包まれたんだ…その…夜明けまで」
「「夜明けまでっ!!???」」
あー、そりゃミリナ。
変な歩き方するわけだ。
それにしても夜明けまで?!
「あ、あの…あまりの幸せに…きっと私も我を忘れ…とんでもない声を…」
もう顔から湯気が出そうなミリナ。
うん。
彼女真面目だから……
こ、声?!
私たちが切り上げないととんでもないことまで言いだしそう。
「コ、コホン。あー、いいよ?もう大丈夫だから。ねっ?それはあなたの心の中にしまっておいて?」
なんでリンネジト目?
これ以上はまずいでしょうがっ!!
「う、うん。…わ、わかった」
はあ。
うん。
こりゃ、落差にやられちゃった奴だ。
普段りりしいミリナのこんな顔。
とんでもなくいじらしく可愛い。
こりゃマールも我を忘れちゃったのね。
「えっと。だから何にも心配いらないよ?あなたは間違いなく以前より強いから。あてにしてる」
「っ!?あ、ああ。任せてくれ。良かった。相談できて。……こんな時間、すまない美緒殿。それでは私は失礼させてもらう」
「うん。おやすみなさい」
「おやすみ美緒殿、リンネ様」
そう言い颯爽と出ていくミリナ。
……なんか少し羨ましい。
「ねえ美緒」
「うん?」
「あんたもエルノールとすれば?」
「はあっ?!」
突然とんでもない事を言うリンネ。
なんだかおもしろがっている?!
「美緒エルノール好きでしょ?だったらきっとあなたももっと強くなると思うよ?」
リンネの言う事。
きっと正解だと思う。
愛し合いそれを遂げた人たち。
ドレイクとミリナを見ればわかる。
もちろん弱点も増える。
だけど……
やっぱり愛はすさまじいエネルギーを生じさせる。
……愛?
そうだ。
私の懸念。
何も恋人同士だけの話ではない。
家族にだって愛は存在する。
そしてこの世界、きっと『愛』は幾つものトリガーになりえる物だ。
私はリンネを真直ぐに見つめる。
「っ!?えっ?な、なに、突然……」
「ねえ。ガナロはさ……たぶん、分離しているよね」
「っ!?」
「私ね、腑に落ちない事あったんだよね」
「……」
「貴女の対になるガナロ。これは分かる」
「……うん」
「じゃあさ、おばあさまやお母さん、えっとマナレルナ様ね。あの二人の対って何なの?」
「っ!?……考えたこと…なかった…」
愕然とするリンネ。
でもこの世界は基本2面性だ。
そして三つ巴。
創世神であるアークディーツの対は虚無神ブラグツリー。
じゃあ創造神であるおばあさまの対って何なの?
そしてこの後、私とリンネは知ってしまう。
この世界の摂理。
2面性。
齎したのはレギエルデだった。
※※※※※
やがて私に呼ばれ訪れたレギエルデの話。
私たち3人は共有したうえで取り敢えず心の奥にしまう事にした。
何も疚しい内容ではない。
いうなれば考えればわかる話。
だけど明日の決戦の前。
これ以上混乱させる必要はないと3人で納得して決めていた。
これを全員で共有するタイミング。
それはすべてのメインキャラクターを集めシナリオをこなし、根源である虚無神。
その決着の直前しかないと私たちは誓っていた。
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