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お手伝い 4

 夕方になり、真美はアニーに呼ばれ食堂へと向かう。

 だだっ広い部屋の中には細長いテーブルと、中程にポツンと置かれた一脚の椅子。顔を引き攣らせる真美を、アニーは椅子に座らせた。

 扉の近くの壁にはマチルダたちが立ち、一人座らされる状況に冷や汗が止まらない。お誕生日席でないのが救いだが、何の拷問と戦々恐々とする。

 視線を彷徨わせ「それではお食事をお持ちしますね」と告げるアニーの服をガシッと掴んだ。

 行かせる訳にはいかない。


「ま、待ってアニーさん。ここ、ここで一人で食事は嫌なんですけど」


 ビッグ対応なのかもしれない。一応、主人の見合い相手だし。それでも無理なものは無理。カトラリーの使い方は、端から使うってことしか知らない。持ち方なんて握るしか出来ない。庶民に格式を求めるなと言いたい。

 それに、ご飯はやっぱり一人より皆んなでワイワイ食べた方が絶対に美味しいと、真美はアニーを見上げる。


「皆んなで食べよ?」

「それは出来ません。ここは主人が食事をする場所です」

「ここで食べるのがダメなら、厨房の隣にある部屋で食べよ?皆んなはそこで食べてるんだよね?」


 いつも厨房で作って食べていたから使ったことはなかったが、隣接する部屋にはテーブルと椅子が置いてあった。

 縋るように見つめる真美に困った顔をしたアニーは、助けを求めるように振り返りマチルダを見る。


「マミ様」


 マチルダが進言しようと一歩踏み出すが、バンっと扉が勢いよく開き遮られた。


「メシの用意が出来たぞ。お前ら遅い。早く来ねえと冷めちまうだろうが。ジョンとマックはとっくに来て待ってんぞ。たくっ、何やってんだよ。……ん?なんだ嬢ちゃんはそこで食べんのか?」

「ニックさん」


 真美は立ち上がりニックの元にタタタと走り寄る。


「ここで食べません。皆んなと一緒に向こうで食べます。ほら早く行きましょう。お腹空きました」


 渋面になるマチルダを見ないようにしながら、ニックを促し部屋を出る。


「助かりました」


 バッチリのタイミングである。きっと扉の向こうで話を聞きながら出るタイミングを伺っていたに違いない。

 有難いと真美は感謝する。


「嬢ちゃん、ああいうの苦手そうだもんな」


 苦笑するニックに真美はコクコクと頷く。

 その通り。真美は生粋の庶民なのだから。


 厨房の横にある部屋へと入ると、中には大きめのテーブルと椅子が六脚置いてある。その隣には二人用の小さなテーブルと椅子。その場所にジョンとマックが座って待っていた。

 テーブルの上には湯気の出た料理が置かれ、漂う匂いにゴクリと唾を飲み込んだ。


「適当に座ってろ。マチルダたちも時期に来るだろ」


 真美は頷くと、椅子に座った。暫くすると、アニーやマチルダたちが到着する。アニーは真美の右隣。マチルダは正面に座る。じっと見られ視線を彷徨わせた。

 言いたいことがあるのだろうし、その内容にも心当たりしかない。でも、説教や文句はご飯の後にして頂きたい。――そんな真美の気持ちに気づいたのか、マチルダはハアッと息を吐き出し真美から視線を外し見渡した。


「祈りを」


 その言葉で右手を握り締め左手で包み込み目を閉じる。真美はキョロキョロと辺りを見渡し見よう見まねで真似をした。


「恵に感謝を」


 マチルダの声に合わせ「恵に感謝を」と復唱する。いただきますと同じ

なのかなと思いつつ、真美も小さく呟いた。


 その後は美味しい食事に舌鼓を打つ。カトラリーの使い方は、チラチラと周りを見ながら。カチカチと音を立てて、ミラルダに時折眉を顰められるが、出来るだけそっと真美なりに気を遣いながら食べた。食べている間、誰も喋らないからワイワイしながらって食事をするって感じにはならなかったが、一人見守られながらの食事にはならずホッとしていた。


 料理は鶏肉にタレを漬け込んでじっくりとオーブンで焼いた照り焼きに似たもの。野菜の甘味が染み込んだポトフ。シャキシャキ野菜と潰したマッシュポテトの乗ったサラダ。出来立てのふわふわパン。

 どれもこれも美味しくて、今までの食生活を取り戻す勢いで真美は食べまくった。

 若干、周りに引かれてるような気がするが、気にしない。ニックが噴き出す寸前で必死に堪えている姿が目の端に映るが気のせいだ。

 自分のお腹と気持ちを誤魔化してきたが、真美は美味しい物に飢えていたのだ。

 食文化の進んだ日本から来たのだ。温めるだけで食べられる美味しい弁当に冷凍食品。菓子パンやお菓子、食べ物が溢れる世界から来て、ずっと干し肉と乾燥野菜ばかりだった。ストレスを感じない訳がない。

 致し方なしなのだ。そう自分自身に言い訳をしながらパクパクモグモグと食べまくり――真美はそのまま電池が切れたかのように眠りに落ちた。まるで幼児が食べながら眠りに落ちるかのように、真美は眠りに落ちたのだった。




 ◇◇◇◇



「随分と野性味溢れる方ですわね」


 言動然り。食べ方然り。

 ミラルダの知っている令嬢とは全く違う。楚々として嫋やかなとは縁遠い女性。

 ただ、裏表のない性格は評価に値する。侍女を見下すこともせず、手伝いを申し入れ、豪華な部屋は沢山あるのに住処として選んだのは下働きが生活をする部屋。

 魔王に取り入ろうとする令嬢たちとは相反していた。


「突然、異世界から誰も居ない場所に飛ばされたんだ。緊張してただろうし、気も張り詰めていただろう。誰も知らない世界。人っこ一人居ない場所。若いお嬢さんじゃなくともキツイと思うぞ。俺らに会って、美味いもん食って気が緩んだんだろう」


 ニックの庇うような言動にミラルダが僅かに眉を上げる。


「随分と買ってらっしゃること。絆されましたか?」

「まあな。大の大人ですら根を上げる量の仕事を振ったのに、言われたことを文句一つなく必死になってこなしてた。自分が出来ることはやるって気概が伝わってきたからな。俺はやる気のある奴は好きだ」

「ニックさんは人使いが荒いから、見習いさんたちがドンドン辞めていきますものね」


 アニーの言葉に、周りが苦笑しながら頷いた。


「必要なことだ。最近の若いもんは根性が足りねえ」

「話がズレていますよ」


 マチルダが指摘すると、ニックは肩を竦め、優しい眼差しで眠っている真美を見る。


「食べっぷりもいい。まあ、カトラリーの使い方はなっちゃいねぇが、そんなもんは幾らでも修正が効く。いいんじゃねえか?俺は賛成だな」


 側近のラルクより真美の人となりを見極めるようにとの、沙汰があった。

 彼らはラルクより詳細を聞いている。信の厚い者たちだ。

 魔王の見合い相手。だが、女神より遣わされた異世界人。それだけで、警戒すべき存在。

 監視の役割も担っていた。


「これからですね。初日に決めるのは早計です。ただ、カトラリーの使い方は早急にお教えした方が良いでしょうね」


 マチルダが溜め息を吐きながら締めの言葉を口にしたのだった。




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