お手伝い3
「手伝いは必要ないと言ったらどうされますか?」
その言葉に真美はガクッと肩を落とし、そっかあと呟く。
ガサツな私を見抜かれたってことだよね。でもな、まだ暫くはここでお世話にならなきゃいけないし、一宿一飯の恩義を返すって意味でも、やっぱりお手伝いはしたいよね。まだ決定じゃないよね?交渉の余地はあるよね?
「確かに、私は女子力や主婦力が壊滅的で、面倒くさがりやで性格が適当だから、完璧には程遠いのは認めます」
交渉するには適さない内容。だが真美は敢えて告げる。
どうせバレてるのだ。取り繕っても仕方ない。
「いえ、そうではなく……そうなのですか?」
焦ったように否定しかけ、マチルダはそれをやめた。
マチルダとしては、主人の見合い相手にさせることではないとの認識で手伝いを拒もうと思ったのだが、真美の言葉に反応したのだ。
アレ?バレた訳じゃないのかな?
焦ったのは真美。余計なことを言ったかと思ったのだが、事実は変えられないと直ぐに諦める。多少は誤魔化そうと、足掻いてはみるが……
「完璧には無理です」
「そこではなく、適当で面倒くさがりで壊滅的なのですか?」
もちろん失敗する。
「あ……はい。いえ、たぶん?い、いや、少しは出来ます。見るも無惨な結果にはならないと……思います?」
「どっちですか?」
「えと……仕事はかなり几帳面です。手を抜いたことはありません。要領が悪いのでミスもありましたが、いつも全力で取り組んできたと、そこは自負しています」
真美は胸を張って言った。若い頃に比べると物覚えは悪くなるし、柔軟な考えができなくて「これだからおばさんは」と、陰口を叩かれたりもしたが、そこは若くなった自分に期待だと、真美は今の真美に丸投げした。
「……まあ、いいでしょう。分かりました。マミ様には仕事を割り振り致します」
「ありがとうございます。精一杯頑張ります!」
「アニー」
「はい」
「専属侍女でしたが、明日から通常業務をマミ様と共に行うように」
「承りました」
「厨房と、庭の仕事はこちらで話し合い調整を行います。マミ様、それでよろしいですか?」
「はい。ありがとうございます」
真美が頭を下げると、マチルダは一つ頷き去って行った。
真美は改めてアニーに向き直る。
「アニーさん、よろしくお願いします」
「こちらこそよろしくお願い致します。朝が早いですが起きられますか?」
「何時ですか?」
「朝の五の刻頃です。日の入り前に目覚めます」
五の刻とは、五時のことかな?朝早いけど、目覚まし時計とかないよね?真美は少し不安になりながらも、アニーにどうやって起きるのかと訊ねた。
「時間になれば目が覚めますので困ったことはないですね」
まさかの自力。
「目覚まし時計とかは?」
「目覚まし時計?時計が何かは存じませんが、太陽の位置を見て時を知りますね」
「太陽の位置かあ」
真上に来ると正午としか分からない私に出来るかな。てか、こっちでも東から出て西に沈むのかな?
「あとは、そうですね。こちらの大陸では朝の八刻と正午、昼の三刻、夜の七刻に鐘が鳴ります」
「??」
鐘が鳴る?聞いたことないけど。
「はい。刻を告げる鳥が鳴きます」
「刻を告げる鳥?」
なんか、ファンタジーな名前。
「時を告げる鳥が時を計ります」
「時を告げる鳥?」
「はい。各町や村に一羽は必ずいます。村が出来ると共に、一抱えほどの卵がどこからともなく現れて、一年掛けて孵化します。――こちらにいた鳥は、私達が異界へと渡ったあと消滅してしまいました」
だから見なかったし、鳴き声を聞かなかったのか。
「でも、それならどうやって時間を認識してたんですか?」
「異界では、殆どの者が魔王様の力によって時を止め眠りに就いておりますので、必要とはしませんでした。城のお掃除やお庭の手入れをする際に目覚め、こうして城に来てお仕事をしています」
うわー衝撃の事実かも。
「あれ?殆ど?皆んなじゃなく?」
「はい。魔王様と側近の方々、料理長のニックさんは起きていらっしゃいました」
そうか。ニックさんも500歳超えなのか。おじいちゃんだね。(寝ている人はカウントしない)
「そうなんですね」
「いつか……皆んなでまたここに戻って来れるといいなって、思っています」
少し寂しげに笑うアニーに「そうだね」と頷き返しながらも、難しいだろうなと真美は思っていた。そしてアニーも、それは理解しているのだろうなって、そう思いながら。
「……あ、アニーさん。鳥ってどんな姿をしてるんですか?」
しんみりとした空気を変えたくて、真美は唐突に話を鳥に戻す。無理やり過ぎたかなと、アニーを窺えば彼女はふわりと微笑んで真美の質問に答えてくれた。
「そうですね。大きさはマミ様より少し小さいくらいで、オリッダ(オレンジ)色のトサカと、青空色の羽を持った、とても綺麗で華やかな鳥ですよ」
オリッダ?オリ……ここって、野菜類しか分からないけど、少しだけ元いた世界の名称に似てるのよね。親交はあったみたいだから、その影響かな。
うーんと考え込み、ポンと手を叩く。
「オレンジ!」
「オレ……?」
「あ、ううん。こっちの話。気にしないで下さいね」
真美はオレンジのトサカを持つ薄い水色の鳥を思い浮かべ、確かに綺麗な鳥よね。と頷いた。
大きさは規格外だけど。
「朝、慣れてないと起きるのが難しいかもしれませんね。起こしに行きましょうか?」
「お願いできますか?」
努力はするが、自信はない。
「はい。承りました。お部屋はこちらでよろしいですか?」
「はい。あ、後、もうちょっと砕けた口調でお願いしたいです。きっとアニーさんとはあまり年齢も変わらないですよね」
もしかしたら、52歳の私より歳上かもしれない。
「でも……」
「ほら、同じ仕事仲間の、しかも先輩じゃないですか。逆に私の方が言葉遣いを改めなきゃダメなんですけど、敬語とか苦手なんですよね。取り敢えず『ですます調』でいけばいいかなって思ってるくらいなので」
「……分かりました。侍女長に叱られるので、あまり砕けた口調は出来ませんが、考慮しますね」
固いなあ。でもまあ、おいおいかな。




