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お手伝い 2

 ニハールは人参だった。人参が終わったら、マルネ(玉ねぎ)の薄皮をひたすら剥いて、カーゴ(なす)と、キノール類の (きのこ)ヘタを取る。

 葉物野菜とトマトン(トマト)は水洗いをして、レタールカ(レタス)はひたすら手で千切った。

 人使い荒いなって思ったけど、これ、私が手伝わなきゃ一人でやったんだよなって思うと、お手伝いを申し出て良かったって思った。まあ、全部は使わないんだろうけど。


 コンロの前でグツグツしてる鍋をかき混ぜるニックを見ながら思う。

 手際よく野菜や肉を切り、炒め、煮込んでいく姿はさすが料理長だ。私が作業をしている間にも、次々と料理を仕上げていく。

 さっきは、捏ねた小麦粉を形成し、魔法で何かしたあと (多分、発酵?)オーブンに入れていた。


「終わりました。あと、何かありますか?」

「ありがとな。助かった。あとは、俺の仕事だ。でも、まだ手伝ってくれるってんなら、メシ食い終わったあとの洗い物を手伝ってくれや」

「はい。お安いご用です」


 美味しい料理を食べさせてもらうのだ。やって当然。

 ニックの料理を鑑定したら結果がこちら。

 絶妙な味付けのポトフ

 今から楽しみでしょうがない。


「アニーが迎えに来てる。行ってやってくれ」


 ニックが苦笑しながら、厨房の入り口を顎でしゃくる。目をやれば、アニーが戸口から顔だけ出して、真美を観察するかのようにジッと見ていた。

 ――ちょっと怖いんですけど。


「あ、アニーさん?」


 真美が顔を引き攣らせながら声を掛けると、アニーは何事もなかったかのように居住まいを正し頭を下げた。


「侍女長がお呼びです」


 えーー、今の行動の説明とかないのかな?……ないんですね。そうですか。あんまり考えないようにしよ。


 アニーの後に付いて歩く。行き先は、真美が間借りしている部屋の前だった。

 扉の前で待ち構えるマチルダに、ほんの少し躊躇する。


「マミ様、お待ちしておりました。お探ししましたよ?一体どちらにいらしたのですか?」

「……厨房?」


 マチルダの眉がピクリと動いたような気がして、真美は内心で焦る。

 ヤバっ、何かやらかしたかな。


「……厨房で何を?」

「え……お手伝い?」


 マチルダの纏う雰囲気が剣呑なものになる。

 何故か分からないが、かなり怒っているらしい。真美はビクビクとしながら少し後退る。


「アニー」

「はい。厨房でマミ様は、野菜の皮剥きを主に手伝ってらっしゃいました。手際良く仕上げていく様子に、ニックさんも満足気に見ていらっしゃいました」

「……そう」


 アニーが報告をする度に、ピクピクと動く眉が恐ろしい。


「ニックには、後ほど話を付けないといけませんね」


 なんの?なんの話を付けるの?……ニックさんごめん。なんか良く分かんないけど、逃げて。でも、夕ご飯は仕上げて欲しいです。


「マミ様」

「は、はい!」


 背筋を正す真美に「お伺いしたいことがございます」と、前置きをする。真美は条件反射のようにコクコクと頷く。


「どちらで寝泊まりを?」


 どちらって……真美はマチルダの居る場所の隣を見る。


「……そこのお部屋を間借りしてました」


 だ、ダメだった?もしかしてマチルダさんの部屋だった?


「ここですか……この部屋は下働きの者が寝泊まりする部屋です。どうして二階ではなくここに?」

「お、落ち着くから?です。元が庶民なので、ひ、広くて豪華なお部屋は似合わな過ぎてむず痒くなるし、調度品を壊したらって思うと行動が制限されてしまってゆっくり休むどころではないし、私には無理でした」

「……そうですか」


 ため息でも吐いていそうな声音でそう言ったマチルダは改めて問い返す。


「ニックの手伝いをした理由は?」

「働かざる者食うべからずって諺が私の国にはあって、食べ物や住処を提供してもらうのなら、対価を支払うべきだと考えたからです」


 ただより怖い物はない。無償の提供を平然と受けられるほど、厚顔無恥じゃないつもりだ。

 これが上流階級の人たちなら、また違うのかもしれない。でも、その場合も私とは立ち位置が違うもの。

 高い体力のおかげか、疲れ知らず(さすがにひたすら皮剥きは疲れた)で、元気が有り余っている。出来ることはしたいと、真美は考え実行した。

 ああそうかと、真美はマチルダの怒気に内心で手を打った。

 もしかしたら、厨房だけ手伝って他の仕事は手伝わないつもりだと、思っているのかもしれない。

 それは誤解だ。誤解は早く解かなきゃ拗れる要因になる。


「もちろん、厨房だけじゃありません。他のお仕事もお手伝いさせて下さい。掃除や洗濯は得意じゃないけど、出来ない訳ではありません。指示さえ下されば、なんだってします」


 この城の住人が誰もいない状態で、あちこちと動き回るのは憚れたが、今はそうではない。城の主人に挨拶が出来ていないのは気に掛かるが、居ないものはしょうがないと、割り切るしかない。


「侍女の仕事も手伝うと?」

「もちろんです。お庭に蔓延る雑草抜きだってします。何分素人なので、お聞きすることが多く、煩わせてしまうかもかもしれませんが、ヤル気だけはあります。精一杯頑張ります。よろしくお願いします」


 何とも言えない顔をしたマチルダに必死になってアピールをした。

 面倒な仕事は嫌いだ。炊事は適当。掃除は埃如きで死ぬわけでもないと、忙しさにかまけて手抜きもいいものだった。洗濯はさすがにマメにしたけど、干してたたむ作業が嫌いだった。

 女子力皆無の私だけど、それでもやる時はやる子だと、真美は自分では思っている。


 プロの仕事には遠く及ばないだろう。それでも、猫の手くらいにはなるはずだ………はずであって欲しい。



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