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ダリアの願い

「この悪役令嬢わたしたちに楯突くとは、愚かな人間共め」


敗北に沈んだ世界で、麗しき少女達が戦闘態勢になっていた。

その綺羅びやかな衣装には似つかわしくないゴリゴリの武器を右手に構えている。

こんな日に限って満天の星が輝く見事な空で、微風そよかぜも心地良い。嗚呼、このまま天体観測でもしながら夢の世界に浸りたい。そんな欲が湧いて出た。


「叶わない願い程、散るのは一瞬だ」


そう呟き、美千宝みちたかは備えていた武器をバッグから取り出す。丁度、家の倉庫にあったバールが目に付いたので考える間もなく手にした。片手でも十分に振り回せる。悪役令嬢あのこたちと殺るのだから多少の負傷は多目に見よう。

他の人間共は怯えて戦闘意欲も喪失している。

当たり前だ。

今まで従順に暮らしを共にしてきた悪役令嬢かのじょたちに反逆を起こされたのだ。信じられぬまま理由も分からず戦う術も間に合わない。到底、素手での勝ち目は無く、武器があっても精々死ぬまでの時間稼ぎにしかならない。


「我らと殺るのがたった一人だけとは、なんて無様だ」


バールを片手で弄んでいた美千宝に悪役令嬢かのじょたちは嘲笑う。自分達には一撃も食らわせられないだろうと高を括っている表情だ。

暴動が起きてから今日こんにちまで2週間。それまでに潰された場所は結構ある。

美千宝達がいるのは、嘗て"ブドウカン”と呼ばれていた大殿堂。この場所も今は更地と化してだだっ広い草原が出来上がっていた。

悪役令嬢かのじょたちにとっては建造物の破壊や人間殺しなどちっぽけなもの。

元々家事代行サービスとして活躍していた悪役令嬢かのじょたち。お掃除から夕飯作りまで何でもお任せだった。それが徐々に可能範囲を拡大していき、家事代行サービスからボディガードまで何でもござれの有能品となっていった。その為、武道の方ではただの人間よりも圧倒的に強い。その上、ゴリゴリな武器で殺しにかかって来たら一溜りも無いだろう。


「随分とお喋りなんだな」

「何だと?」

「余裕綽々だなぁって。感心してるんだよ」


見下す様な発言に周りの人間達が青褪めた表情を向けてきた。

悪役令嬢かのじょたちと戦うのはやめろ。

そんな言葉が聞こえてくるようだった。

何も出来ない弱者の偏見など無意味だ。悪役令嬢かのじょたちに立ち向かう事すら最初から諦めて絶望に従った。そんな奴らと関わる義務も守る義理も無い。


「たった一人で何が出来る?まさか、我々を仕留められるとでも思っているのか?」


中央にいる少女がリーダー格か、他の悪役令嬢かのじょたちは一言も発さない。皆、似たような可愛らしい服装で、ふわふわな雰囲気を纏っている。ただの家事代行サービスとしての悪役令嬢かのじょたちだったら、 きっと友好な関係が築けただろう。

あんな冷めた瞳で人間を殺すなんて少し前なら有り得ない光景だ。

元々信用すらしていなかった美千宝にとってはつくづくどうでもいい事だった。あんなのに頼るからこんな事になる。人間の道楽が生み出した災い。きっと、果てしない後悔に苛まれる。


「キミ達の目的は、世界の破滅?」

「そうだ!人間もこの世界もどうでもいい!仲間が犠牲になった。それは許されない事だ!だから報復として、人間どもにも同じ痛みを与えてやる」


切っ掛けは、一人の人間が悪役令嬢かのじょを本気で愛してしまった事。勿論、悪役令嬢かのじょたちも人間なので恋愛は可能だ。性行為も出来る。

けれど、世の中には契約というものが存在する。悪役令嬢かのじょたちのサービスを利用するに当たって最も犯してはならない決まりが、《本気の恋愛》だった。

見た目も美しく、それでいて何でもしてくれる素晴らしい美少女。割り切って利用している者が殆どであったが、理に反する者が生まれ、愛故に監禁し、無理矢理襲って子を宿させた。

悪役令嬢かのじょたちはあくまでも代行サービスとして生を受け、ありとあらゆる知識と技術を叩き込まれ、快適な暮らしを与える為だけに存在する。規律が乱れるなど言語道断。例外も無い。その悪役令嬢(かのじょ)は消息を絶ってしまった。

それが、この暴動へと至るプロローグだ。


「確かに非はこちらにある。でも、無関係な人間まで巻き込まれるのは心外なんだよ」

「同罪だろう?お前ら人間どもの男は我々を性行為の対象として見ている。だからあの子は散った。何も理不尽ではあるまい」

「……いやいや。決め付けられても困るなぁ……。まぁ、でもキミ達みたいに可憐で完璧な美少女に何でも良くされたら、好きになってしまうのは致し方ない事だと思うけど」

「黙れ!もう二度と仲間は失わない。穢される訳にはいかないんだ」


綺麗な顔がまるで鬼の形相みたいだ。


「………あぁ、そう。なら、もうキミ達を倒してしまうしかないね」

「人間風情が!偉そうに我々を見下すな!」


それが合図だったようだ。

一斉に武器を構えた悪役令嬢かのじょたちが美千宝に襲い掛かった。



「………は?」


何が起きたのか周りにいた人々も理解に困った。

数人の悪役令嬢かのじょたちが美千宝を囲むようにして武器を振るった。

けれど、それは一瞬にして終わりを迎えた。

ゴリゴリの、どんな時に使うんだよ的な武器を持っていた悪役令嬢かのじょたちの攻撃を二本のバールで一手に受け止め、そのまま持ち上げるかのように払い除けた。

恐らく反撃などされる筈も無いだろうと高を括っていた悪役令嬢かのじょたちは虚を突かれたみたいで腰をついたままポカンとしている。


「あれ?なんだ、こんなもん?」


美千宝は息一つ乱さずにバールを弄んだ。


「……な、何やってんだ愚か者!」

「……ふっ…」


リーダー格の少女が喚く端で美千宝は笑いを溢した。

今どき、愚か者なんて言葉を使う人がいるとは意外や意外。

それがツボにハマり、美千宝は腹を押さえながら膝をついた。


「やばっ……止まんね……」


何がそんなに面白いのだろうと周りの人々はちょっと引いている。


「自惚れるなよ、人間如きが!」


今が好機だと思ったのかリーダー格の少女が自ら武器を掲げて美千宝に迫った。

死神が持っているような大鎌を片手で振り回している。美千宝はまだ笑っていて立てないでいた。


「その首、刈ってやるわ!」


あと僅かな近距離で、少女は捕らえたと確信してしまった。

その些細な傲慢さが美千宝に伝染し、大鎌が美千宝の首に触れる直前、標的の姿が消えた。


「……どこに……」

「あんたさぁ、可愛いんだからこんな武器は似合わないよ」


背後から声が聞こえ、振り返ろうとした少女は危機感を覚え躊躇った。肌に感じるのは殺気。少しでも動こうものなら今度は少女の首が飛ぶ。


「……お前……何なんだ……」

「ただの人間だよ。キミ達と同じ」

「……同じ……だと?」

「そう。根源は一緒だろ」


殺気が消えたのを感じ、少女は恐る恐る振り向いた。

眼前には、端整な顔立ちをした青年が手を差し伸べている。


「……なんだ……?」

「キミじゃ、オレには勝てないよ。だから、この手を取って」

「……何故?私は負けてなどいない…」

「背後を取られた時点で負けでしょ。殺されないだけ有難いと思いなよ」

「……お前ら人間ごときに敗北など…」

「煩いな」


ガッ、と少女の首に手が伸び、そのまま物凄い強さで締め付けられた。息が出来ない。抵抗も出来ない。思考が停止する。


「どうしよっか?このまま絞め殺す事も出来るけど」

「おやめください!」


状況を把握した一人の悪役令嬢が泣きそうな表情で叫んだ。

その顔半分は浅黒く、初見では少し引いてしまう程に。


「お、お願いします……。仲間を殺さないで下さい……」

「……いいよ」


別に殺したい訳じゃない。

開放された少女は咳き込みながら膝を着いた。


「お前らの首なんて片手で折れる。その柔らかい身体だって、蹴り飛ばせば内臓はぐちゃぐちゃだ」


美千宝の言葉に悪役令嬢(かのじょたち)は蒼白な表情を浮かべている。


「解る?どんなに戦闘に長けてても、キミ達は女の子だ。男の力には敵わない。だから、あの子も屈したんだろ」

「何も……!知らない、クセに……!」


泣きながらまた違う少女が反論した。

金色のゆるふわウェーブが風に靡く。


「お前ら人間に解る筈無い……!私達がどんな思いをしてきたか……。どんな思いで生きてきたか……知ってほしくない……」

「別にキョーミ無いから。お前らがどんな人生歩んできたかなんてオレには関係無いし、寧ろ不都合だ。お涙頂戴なんて真っ平御免なんだよ」


苛立った口調で言い放つと悪役令嬢(かのじょたち)は呆然とした表情を美千宝に向けていた。


「……弱みを握って我らを掌握するんじゃないのか………?」

「そんな三流みたいな事しないよ」

「では何故、我らに楯突いた……」

「自信満々なキミ達を踏み潰したくて。自分達より強い奴に捻じ伏せられたらどんな表情するのかなって」


美千宝は満面の笑みで答えた。

周りの人々はその言葉に美千宝を見る目が変わる。

腹黒い……。なんてドSなのだと言わんばかりの表情を向けている。


「まだ戦っても良いんだけど、どうせキミ達は負けるからね。大人しくオレに降ってくれないかな」

「……お前に服従しろと……?」

「まぁ、解りやすく言えば。それに、キミ達を養う位の金と家もある。今までの暴動を見逃す代わりには丁度良いでしょ?」


彼の提案に悪役令嬢(かのじょたち)は顔を見合わせ考える。

力では敵わない。 修復出来ない程に街も人も壊した。それを償えと言われても償う気は無い。


「それに。部外者と一緒の方がお仲間の情報も得られると思うよ」


トドメの言葉。

悪役令嬢(かのじょたち)にとって情報は大事だ。

そう言われてしまっては悪役令嬢(かのじょたち)は従うしかない。

美千宝に跪きながら悪役令嬢(かのじょたち)は頭を垂れた。


「我らは貴方に従う。これ以上の暴動はしない」


美千宝は口元に笑みを浮かべ、再び手を差し伸べた。


「これからよろしくね」


リーダー格の子が美千宝の手を取ると、他の悪役令嬢(かのじょたち)も立ち上がり、衣装の裾を手で掴み、片足を下げながら服従の意志を示した。

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