最後のバレンタイン
腕に血が滲むハンカチを巻いた女の子が、街の高台にある公園の階段に腰掛けている。
『早く、 早く来て、お願い』
チョコレートの箱を握り、祈る願いが叶い後ろから待ち合わせの相手の声がした。
「遅れてごめん、待たせちゃった?」
振り返った女の子の目に、彼女と同じように手に血の滲む布を巻いた男の子の姿が映る。
「ウウン、私も今来たところ」
女の子は首を振りながら答えた。
それから男の子に血の滲むハンカチが巻かれた腕を見せる。
「何時?」
「此処に来る途中」
「僕も同じだ」
「一緒に行けるといいんだけど」
「そうだったら嬉しいな」
「あ、そうだ、此れチョコレート」
女の子はリボンが巻かれた包装された箱を男の子に渡した。
「ありがとう」
チョコレートを受け取った男の子は女の子の隣に腰掛けて、包装された箱の中からチョコレートを取り出した。
2人はお喋りしながらチョコレートを食べる。
街の中や公園の周りから怒鳴り声や助けを求める人の叫び声、それに人の断末魔の絶叫が聞こえて来ていた。
階段に腰掛けてチョコレートを口にする2人には、それらの雑音など聞こえて無いかのように2人だけの世界に浸っている。
数時間後2人の身体が傾ぎ折り重なるように倒れた。
倒れた数分後、息絶えた若い男女の死体が動き始め立ち上がり生きた人の姿を求め歩き出した。