首位決戦4
試合開始と同時に、ラウルとエルフェイルが敵陣に突撃していく。その一方、アカネやラスティら残った前衛は、同じくエミリア側の前衛と対峙することになった。
お互いに警戒し合う中、新加入であるアリーシャは積極的に前に出ていく。
「新参者である私が、ここで武勲を立てないといけませんわね」
直前の二試合に出場していないアリーシャは、体力・魔力ともに万全の状態である。
味方であるアカネたちは勿論のこと、敵側の選手たちも少なからず消耗しているため、彼女たちは序盤の段階で無理に仕掛けようとはしないだろう。
つまり、アリーシャが主導権を持って動けるということだ。
「さて、行きますわよ」
アリーシャは前方にいる敵――アイナに対し、得物である大鎌を振るう。
彼女の清楚な見た目にはそぐわない、凶悪なフォルムを有したそれは、空気を切り裂いてアイナの首へと迫る。
「その程度の攻撃!」
金属製の軽鎧に身を包み、全身が隠れるほどの大楯を両手に持ったアイナが、アリーシャの一撃を巧みに受け流した。
アイナの契約精霊は金精霊であり、精霊魔法によって、大楯は大きさの割に驚くほど軽量化されている。ただ、彼女の技量は防御偏重で、武器の扱いはあまり得意ではなかった。
ラウルたちと戦ったティナ・ランドールのようにバランスの良い戦士ではなく、攻撃力不足で所属先のチームを探すのに難儀していたところをエミリアに拾われたのだ。
実際、アイナが敵の攻撃を受け止め、エミリアが遠距離から剣で攻撃するという役割分担は、ヘキサクロスにおいて大変相性が良かった。エミリアと組んで数々の成果を上げたアイナは、まさに順風満帆のシーズンを過ごしていた。
「ハァッ! そこっ!」
「っ、と」
アイナが大楯を構えたままタイミング良く前に出て、アリーシャの大鎌を弾いて蹈鞴を踏ませる。そこから大楯を鈍器のように振り回し、攻勢に出たはずのアリーシャを後退させた。
試合経験を積んだアイナは、大楯で守るだけでなく、シールドバッシュと呼ばれる盾を用いた攻撃方法さえ取れるようになっていた。
今はもうただの防御専門の盾役ではない、単独で敵を倒せる優秀な前衛である。
「どうしたどうした。そのゴツイ武器はただの飾りか!?」
アイナに挑発されたアリーシャは、しかし冷静に応対する。
「……やはり一筋縄ではいきませんか。ウォーミングアップも済んだことですし、本気を出すことに致しましょう」
「なに?」
眉を顰めるアイナ。アリーシャはゆったりとした動作で大鎌を構え直した。
「来たれ、グリムリーパー!」
アリーシャは自身の契約精霊を呼び出した。
それは影が衣を纏ったような不吉な印象を受ける、一メートルほどの大きさの精霊。その姿が彼女の手に持つ大鎌に重なると、徐々に武器全体が黒く染まり、闇の気配が濃くなっていく。
少なくないプレッシャーを肌に感じ、自ずとアイナの警戒が強まる。
「『生き埋め』!」
アリーシャは飛び掛かり、無造作に大鎌を振り下ろした。
漆黒の闇が土砂のようなの形を持って、アイナの頭上から押し潰そうとしてくる。
「っ!」
アイナは大楯で受けるが、今までとは段違いの衝撃に、思わず大楯を落としそうになる。受け流そうにも、迫る闇の輪郭や遠近感が上手くつかめず、非常に難しい。
アイナの体勢が崩れたのを見て取り、アイーシャは今度は大鎌で直接攻撃する。ギィンという衝突音から一拍遅れて闇の塊が押し寄せてくるため、まともに反撃もできない。アイナは堪らず後方へと飛び退いた。
「『墓掘り人』!」
振り下ろされ、床に刺さったアリーシャの大鎌から影が伸び、三日月型の刃となって下方からアイナに襲い掛かる。
アイナは正面からの一撃をどうにか往なすが、大楯が上に押され、若干棹立ちのような状態になってしまう。次の瞬間、大鎌から床に落ちた影が一気に伸びていき、アイナの背後にある影に接触。するとその影から再び鎌を模した刃が出現し、無防備なアイナの脚部を斬り付けた。
「うぐっ!? しまった!」
ダメージ変換により制服のスカートが大きく破け、アイナの下着が露になる。
残り体力的に半分を切ったくらいだろう。アイナはその場から移動しつつ、苦渋の表情を浮かべる。
試合前アイナは、エミリアからアリーシャの攻撃パターンについて伝えられていたはずなのに、まったく反応できずに攻撃を受けてしまった。それだけアリーシャの猛攻が苛烈だったというわけだが、失態を冒したアイナにとって慰めになるわけではない。
「――クソッ、負けられない。エミリア様のためにも!」
「エミリア……」
アイナの叫びに、アリーシャがピクリと反応する。
「私……が……どれだけ……こんな……に……」
顔を俯かせてぶつぶつと呟くアリーシャ。それは思いの外長く、状況的に不利なアイナは不気味なものを感じながらも、相手を刺激しないよう待機を続けた。
そのとき、エミリア側の本陣付近から複数の爆発音が響いた。
アイナがチラリと目を向けると、エミリアとエルフェイルが一対一で激しい戦いを繰り広げている様子だった。アイナとしてもできることならばエミリアの援護に向かいたいところだが、目の前のアリーシャを放置できるはずもない。
爆発音を耳にして反射的に肩を震わせたアリーシャは、俯かせていた顔をゆっくりと持ち上げる。それは、奇妙なほど温度のない笑顔だった。
「私を放置してあんな……フフフ。すぐにこの方を排除して、私のことを無視できなくして差し上げますわ」
「っ」
不意に増大したプレッシャーにアイナは気圧されそうになるが、それでもその場に踏み止まり、果敢にアリーシャに立ち向かっていった。




