首位決戦3
ホイッスルと同時に飛び出したラウルとエルフェイルの向かう先は、言うまでもなく敵クラウンであるエミリアの元だ。ラウルを盾にしつつ、メインの攻撃役であるエルフェイルが敵陣を突き進む。
「フッ、まさにこちらの注文通りね」
片手に長剣を持ったエミリアは、刹那の間に両手にもう一本の剣、次いで空中に同型の剣を出現させる。
滞空する四本の剣は、一匹の生物のようにラウルへと狙いが微調整され、牙を突き立てるように一斉に発射された。
「っ、舐めるな!」
高速で迫り来る剣の群れに対し、ラウルは立ち止まることなく、己の武器である長剣フレスベルグを構える。
「水天流剣技・霧幻!」
ラウルは身体を回転させながら、接近する剣を順に巻き込むように剣を振るう。ラウルの剣が弧を描き、急迫する四本の剣、その悉くを弾き飛ばした。
先制攻撃が不発に終わるも、エミリアの顔色は変わらなかった。
「――そう、それが唯一の正解。そして、導かれた不正解」
「え?」
首尾よくエミリアの初撃を凌いだ――かに見えたラウルだったが、剣を弾き終わった体勢から最も対応が難しい箇所へと、死角から更にもう一本の剣が飛んできた。
見れば、エミリアの両手にそれぞれあったはずの長剣が、今は一本だけになっている。最初の一斉発射後、タイミングをずらして追加で攻撃したのだろう。
エミリアの四本の剣による初撃は、ラウルが捌きやすいようにわざと調整したものだったのだ。この死角からの本命の一撃で仕留めるために。
「こなくそっ!」
エミリアにまんまと踊らされた格好のラウル。剣で払いのけるのは到底間に合わない。なんとか直撃だけは避けようと身を捻ろうとして――
「任せて!」
バァン!
ラウルの背後にいたエルフェイルが、時間差で飛来した剣を撃ち落とした。
今のエルフェイルの役割は、ラウルを盾にしつつエミリアに迫ることと、ラウルが退場しないようにするためのフォローだ。
「助かったぜ、エルフィ」
「いいから。油断せず、集中!」
窮地を脱し、反射的に礼を述べるラウルをエルフェイルが窘める。
二人のコンビネーションで辛くも凌ぎはしたが、足は止められてしまった。そうなれば、両側面から狙い打たれるのは自明の理だ。
「『火槍』!」
「『風刃』!」
二列目にいた二人――フィーナとツヴィーレが、それぞれ精霊魔法を解き放つ。
挟みこむように撃たれた炎と風に対し、今度はラウルが対応する。
「『対抗魔法』!」
フレスベルグが輝きを帯びた次の瞬間、半透明の魔力障壁がラウルたちを包み込む。
大きな音を立てて障壁と衝突した炎と風は、それぞれ爆炎と衝撃波を巻き起こすが、ラウルとエルフェイルは勿論のこと障壁自体に傷を付けることもできなかった。
「器用な真似を」
互いが互いをカバーするラウルとエルフェイルに、エミリアが剣を補充しながら嘆息する。未だ余裕があるのか、その表情に焦りのようなものは微塵もない。
両手に加えて、空中に六本の剣を生み出したエミリア。それぞれがラウルたちに狙いを定める。
「対抗魔法」による魔力障壁は強力だが、これは本来長時間展開するような代物ではない。防御力が強固な分、魔力消費も大きいからだ。そうした事情を過去のデータから読み取っていたエミリアは、障壁が解除されるタイミングを待って冷静に攻撃準備を整える。
が、それが完了する前に、エルフェイルが部分解除された障壁から飛び出してきた。そのままエミリアに正面から向かってくる。
当然、その程度の行動などエミリアにとって想定内だ。すぐさま対応し、こちらの攻撃が最短で届き、かつ相手の有効射程に入らない絶妙な距離で狙い撃つ。
放たれた剣の群れが、エルフェイルに殺到した次の瞬間――
「『榴散弾』!」
二丁拳銃『レーヴァテイン』から放たれた微小な炎弾の集団が、飛来した剣を爆散、あるいは弾き飛ばし、さらにはエミリアからの視界を遮る煙幕となる。
「小癪な――!」
不十分な視界の中、エミリアは、エルフェイルが進むとおぼしき進路に複数の剣を発射し、煙の中に叩きこむ。が、手応えはなかった。
「キャァァァッ!?」
煙幕の奥から突如響いた悲鳴。
エルフェイルのものかと訝しむが、即座に否定する。彼女なら仮に直撃したところでこのような悲鳴は上げないだろうし、そもそも当たったとは思えない。
やがて煙幕が晴れると、そこには無傷のエルフェイルと、転移の光に包まれて消え行くフィーナの姿があった。
(私の剣を迎撃した後、スイッチバックして二列目にいたフィーナを強襲したのね。確かにあのまま私と撃ち合いになれば、フィーナに確実に後方を脅かされる。先に退場させるのは理に適っているか)
行動の早さと迷いのなさから、おそらく事前に予定していた動きだったのだろう。
状況を瞬時に読み取ったエミリアは、チラリと別方向に視線を転じる。すると案の定、障壁を解除したラウルがエミリアに向け突撃してきていた。
エミリアに的を絞らせないため、二方向から接近しようというのだろう。
――が、甘い。
エミリアはラウルを放置し、エルフェイルに向け滞空させていた剣を放つ。
確かに相手はフィーナを退場させて数的優位には立ったが、その反面エルフェイルは自分にとって不利な間合いに飛び込んでしまった。今がまさに攻撃チャンス。集中攻撃してしかるべきだ。
一応ラウルが急迫してくるが、彼には中遠距離からの攻撃手段がないのがわかっている。守りが固く、攻めに乏しい相手など、後回しでどうとでもなる。
「チッ、私にばかり構っていていいのかしら?」
「クラウンである貴女を倒せば試合は終わるわ」
「それはあんたも同じでしょ!」
エルフェイルが苦々しい顔で舌打ちする。
次々に飛来する剣の群れに、流石のエルフェイルも防戦一方である。二丁拳銃を駆使して迎撃していくが、緩急を付けたり、回避先を制限するような箇所を狙ったりと、エミリアは非常に嫌らしい攻撃を繰り出してくる。
他方、エルフェイルを救うべく、エミリアの元に急行するラウル。若干の焦りを覚えたそのとき、死角からラウルの足元へと剣が迫ってきた。
「この程度!」
ラウルを軽視するようなおざなりな攻撃に、ほとんど減速することなく弾き飛ばす。
あと数歩ほどの間合いまで近付くが、それでもエミリアはラウルを無視してエルフェイルへの攻撃を続行した。流石にラウルもカチンとくる。
「――いつからオレが受け専門だと錯覚していた?」
「っ」
相手の雰囲気の変化を察知し、ようやくエミリアがラウルに目を向けた。いや、雰囲気だけでなく構えも変化している。
「火天流剣技・閃火!」
ラウルは水天流が得意だが、攻撃重視の火天流もイーシアから教わっていた。今までの試合では披露する機会に恵まれなかったが、実用レベル程度には研鑽を積んでいる。
この「閃火」は最速の切り払いだ。自分を無視するエミリアに、ならば好都合とばかりに対処する暇を与えない一撃を叩きこむ。
ギィィィン!
エミリアが片手に持った剣を操り、ラウルの斬撃の軌道に滑り込ませて受け止める。防がれたのは残念だが、これでエルフェイルの方には余裕ができるはずだ。
と、そこでラウルは違和感を覚えた。
それが何なのか形になる寸前、フレスベルグと鬩ぎ合っていたエミリアの持つ剣が上空に弾かれる。望外の好機に、ラウルは反射的にさらに一歩踏み込んだ。剣を振るおうとしたラウルに対し、エミリアが空いた手を向けた。
直感的に気付く。エミリアの剣は弾かれたのではなく、わざと手放したのだと。
「球状、全周に展開!」
エミリアが呟いた次の瞬間、ラウルの周囲に何本もの剣が出現した。上下左右へと展開した剣の大群は、餓狼のようにすぐさまラウルへと殺到する。
全方位から飛んでくるこの攻撃は、剣の技量次第でどうこうできる代物ではない。なんとか防げる手段があるとすれば、『対抗魔法』による魔力障壁くらいだろうが、エミリアへの攻撃へと意識が向いている今のラウルでは、発動するのは時間的に不可能に近い。
(何とか相打ちに――)
もはや後戻りできないと悟ったラウルは、そのまま渾身の力でエミリアに斬撃を繰り出す。
フレスベルグは、剣を飛ばすため集中していたエミリアの腕を捉え、少なくないダメージを与えた――はずだった。
「?」
手応えはあった。にも関わらず、何故かダメージ変換による制服の破損は発生しなかった。
ラウルは訝しむが、直後に何本もの剣に襲われ、敢え無く退場になってしまう。
「ラウル!?」
光に包まれるラウルの姿に、エルフェイルが思わず叫び声を上げた。
ラウルへの対処によりエミリアの投剣攻撃が弱まった隙を突き、エルフェイルは全力で突貫する。
「貴様ァッ! 絶対に許さない!」
「来なさい、エルフェイル。ここで決着を付けましょう」
エルフェイルとエミリア。クラウン同士、一対一での決闘が始まった。




