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メンバー補充2

「――今日はここまでにしましょう」

「「「「ハッ!」」」」


 闘技場にある屋内施設において、エミリアが淡々と告げると、周りにいたメンバーが威勢よく返事をした。

 厳しい訓練を終え、全身に汗を掻いている者が多い中、一番疲弊した様子であるフェリシアの元にエミリアが近付く。


「相変わらず物覚えが悪いわね、フェリシア」

「っ、エミリア様……も、申し訳……ありません」


 学年的にはエミリアの方が年下なのだが、フェリシアは本心から畏敬の念を抱いていた。当然のように敬語を使い、エミリアの不興を買うのを極度に恐れる。

 そして今のフェリシアは、借りてきた猫のように身を竦ませていた。


「一対一の戦闘ならそれなりだけど、それ以外はてんでダメね。周りと上手く連携も取れないし、戦術も単純なものしか覚えられない。私の指示に忠実であろうと努力する点は好ましいけど、それが結果に結びつかないようでは意味はないわ」

「ぐ……」


 フェリシアは、一年次にソロで優秀な成績を残すことができた。そのおかげで、二年次にヘキサクロスの有力チームからスカウトが来たものの、試用期間中に結果が出せず軒並み断られた経験がある。結局、寄せ集めのメンバーでヘキサクロスを戦う羽目になり、散々な成績に終わった。そして三年生になって捲土重来を期していたとき、運よくエミリアに拾われたのだ。


「このままだとレギュラーから降格も有り得るわね。だから――はい、これ」


 己の不甲斐なさに俯くフェリシアに、エミリアは数枚の紙切れを手渡した。


「? これは?」

「今週分の戦術を纏めたものよ。明日までに覚えてくるように。愚直なのが貴女の美点なのだから、精進なさい」

「ハッ!」


 胸に手を当てて返事を返すフェリシア。

 エミリアを失望させることなどできない。このチームにはフェリシアと同様、有望株だったり世間一般で優秀だとされている者ではなく、一度挫折したり失格の烙印を押された者たちが多く在籍している。

 故に、彼女たちを纏め上げたエミリアに対しては、チームの全員が並々ならぬ信頼を置いていた。


「他に必要な人はいるかしら?」

「いえ、我々は問題ありません。どうぞお気になさらず」


 メンバーを代表し、小柄で魔術師風のローブを羽織った女子生徒――フィーナが返答した。フィーナは一瞬だけフェリシアを睨みつけると、すぐにエミリアに向き直る。


「そう。なら、私はこれで……――」

「「「お疲れさまでした!」」」


 その後、一言二言告げて去っていくエミリアの背を見送ったフィーナたちは、書面に目を通すフェリシアを無視し、さっさと部屋を出て行った。

 一人取り残されたフェリシアは、あからさまにハブられたにも関わらず、気にした様子もなく書類を読みふける。


 一癖二癖あるメンバーたちの中にあってさえも、フェリシアの欠陥部分は一際目立っていた。

 要は敵を目の前にすると、頭に血が上って戦闘にのめり込んでしまいがちになるのだ。

 ソロの時はこれがプラスに働いたが、集団戦であるヘキサクロスでは、仲間との連携やコミュニケーションに悪影響を及ぼした。エミリアに物覚えが悪いと言われたように、その欠点がなかなか治らず、今でもエミリアの簡単な指示くらいにしか従えないような有り様だ。

 だが、現行ルールでは、一度メンバー登録された選手はそう簡単に除外できない。

 フェリシアの欠点も、上手く修正を加えながら騙し騙しやっていくしかなかった。

 実際エミリアがよくサポートしているのだが、そのことがフィーナたち、他のメンバーの不満を募らせている。エミリアの手を必要以上に煩わせることが、恐れ多く罪深いことだと憤っているのだ。

 そうした不満が渦巻きながらもチームが空中分解していないのは、偏にエミリアの強烈なカリスマと統率力あってこそだった。

 『ソードダンサー』は、メンバー同士の横の繋がりではなく、エミリアを頂点としたクラウド型の組織として成り立っている。故にフェリシアは、フィーナたちのことなど意に介さず、只管愚直に己の本分を全うするよう努めるのだ。


「先週は不覚を取ったが、今度こそはあの御方の……エミリア様のお役に立つのだ……!」


 フェリシアは気付いていた。

 今週末の試合――特にエルフェイルたちと戦う第三試合――は、今までとは戦術の練り具合や意気込みが全然違うということに。

 細かい事情はわからないが、おそらく何かしらの因縁があるのだろう。ただ、そんなものは正直どうでもいい。

 この前の『ロック・アンド・ミニオンズ』戦で、一人だけ退場してしまったような無様は二度と晒すつもりはない。次こそはフェリシア自身の力でチームの勝利に貢献し、必ずやエミリアの役に立つのだと、フェリシアは心に誓うのだった。

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