メンバー補充1
「本日からお世話になります、アリーシャ・ヒューズと申します。皆さん、どうぞよしなに」
ラウルやシルヴィア等、「テンペスト」の面々が揃っている前で、アリーシャがスカートの端を掴んで慇懃に挨拶をする。
一通り自己紹介が終わった後、正面にいたリーゼロッテが頷いた。
「ええ。歓迎するわアリーシャ。また同じチームで戦うことができて嬉しい限りよ」
「私もですわ、リーゼロッテさん。貴女の雷撃の冴え、さらに磨きがかかっているものと期待しておりますわ」
二人は互いに手を差し出し、親し気に握手をする。
ラウルと出会った翌日、アリーシャは闘技場の一角にて「テンペスト」への参加の意志を表明することになった。
昨シーズン、アリーシャはリーゼロッテと共闘してグランプリファイナルにまで勝ち進んだ実績がある。登録枠の限度である八人目のメンバーとして、リーゼロッテが十分に満足できる選手だった。
ちなみにこの場にエルフェイルはいない。試合まであと二日ほどだが、彼女はまだ学院に帰還していなかった。
ただしそれは、アリーシャの加入がエルフェイルに無断で行われたということではない。数は少ないものの、以前からメンバーに入ってほしいとエルフェイルたちの方から打診していた生徒がおり、その中にアリーシャが名を連ねていたからだ。
つまりアリーシャ次第で、「テンペスト」への参加は任意に可能だったというわけである。
「でもよかったの? 生徒会の仕事が忙しくてヘキサクロスへの参加を控えていたはずなのに」
「幸運にもエミリア以外に手伝ってくれる当てができたのもありますわ。ですが一番の要因は、私の意に沿わないエミリアに一泡吹かせてあげたいという気持ちがありまして」
「あら、意外ね。貴女たち二人が仲違いをするなんて」
「ご心配には及びませんわ。ちょっとした意見の相違があっただけですから。それに、このチームに所属することになった以上、本気で勝ちに行くつもりですわ。皆さんには、私が知る限りのエミリアの情報をお教えしたいと思います」
アリーシャの宣言を聞き、シルヴィアたちから歓声が上がる。
エルフェイルが行方不明のため、チームの士気は低下していたのだが、これで一気に盛り返したようだ。
ラウルやシルヴィアから注目を浴びながら、アリーシャはゆっくりと口を開く。
「エミリアの使う精霊魔法は、剣のコピー能力。腰に佩いた剣と同一のものを複数生み出し、それを投擲いたしますわ」
エミリアの戦闘の様子については、以前試合を見学したときに実際に目にしていた。
一度に操れる剣の数もそう多くなく、剣一本一本の威力も然程高いわけではない。単純な攻撃力という観点で見れば、お世辞にも脅威とは言えなかった。
「そこだけ見れば大したことはないのですが、問題は投擲の際の比類ない正確性ですわ。後方からの指揮能力も高く、味方に指示しながら的確な援護を行える点が驚異的です。周囲を固めるメンバーも多くが強力なのは間違いありません。ですが純粋な実力よりも、どちらかというとエミリアの指示に十全に応えられるかどうかを重視しているように見受けられますわね」
エミリアたちのチーム『ソードダンサー』の精髄は、エミリアの指揮の元に全員が統一された行動が可能なことである。個々の戦闘能力はまだしも、チームの完成度という点では他者の追随を許していない。
エルフェイルやリーゼロッテが、エミリアを化け物かのように評したのもその部分であった。
「……わかってはいたけど、かなりの強敵ってことね。それで、具体的な対抗策は考えてあるの?」
シルヴィアの疑問に、リーゼロッテが肩をすくめた。
「それについてはエルフェイルに任せているわ。本当は今みたいな概要じゃなく、もっと細かい情報を分析して打ち合わせをしたいんだけど、この場にいないんじゃ仕方ないわね」
「そんな……じゃあ、どうするのよ!?」
「どの道、エルフェイルがいないんじゃ勝ち目はないわ。今の私たちに出来るのは、あいつが早く帰ってくるように祈ることと、エミリアと戦う前の二試合を確実に勝つことだけよ」
仮にエルフェイルが試合開始までに戻ってこなかったとしても、リーゼロッテの頭には潔く諦めるなどという選択肢はないが、それ以上に重要なことは、強敵であるエミリアとの試合以外に負けないことである。そうすれば、最低でも交流戦出場圏内には残ることができる。
エミリアに対し強い敵意を燃やすエルフェイルとは対照的に、リーゼロッテはある程度現実的な考え方をしていた。
「エルフェイル殿を待つだけというのは、なんとももどかしい限りだ。それまでここにいる七人で連携や戦術の確認をするべきではないか?」
アカネの意見に対し、アリーシャが小さく頭を下げる。
「多少軽減されたとはいえ、まだ生徒会長としての仕事が残っておりますので、残念ですがあまりお時間が取れません。それに、もしエルフェイルさんが不在のままのようでしたら、申し訳ありませんが私がチームに参加する話はなかったことにさせていただきますわ」
アリーシャの主目的はエミリアを倒し、アリーシャのことを軽視する彼女に意趣返しをすることだ。全力で戦った結果負けるならまだしも、その前段階の時点で満足に戦えない状況なら、アリーシャが「テンペスト」に参加する意義は薄い。
「むむ。なんと……」
「その点は承知してるわよ。取り敢えずサブ登録しておくとして……確か、試合に未出場のままならペナルティなしでチームから抜けられるはずだから、その条件でいいわね?」
と、そこでラスティが懸念を述べる。
「お待ちください! ということは、エルフェイル先輩が来ない場合、その日は六人で戦うしかありませんの? それでは参謀役であり司令塔となるお姉様に、心身ともに多大な負担が掛かるのでは!?」
情報収集や戦術の構築は、リーゼロッテとエルフェイルの二人が担当している。だが今はエルフェイルがいない上に、彼女が帰還するまでアリーシャが出場を控えるとなった場合、ぎりぎり六人しかいない人員で最大三連戦を行わなければならない。
連戦によるメンバー全員の消耗に加えて、戦術の選択や現場での指揮まで取らなければならないリーゼロッテの精神的負担が大きすぎるのは明白だ。三戦目で戦うエミリアたちに勝つことなど、まず望めないだろう。
まあ、その無茶なタスクを対戦相手のエミリアは、当然のように毎週熟していたりするのだが――
「あいつは――エルフィは帰ってくるよ、絶対に」
ラウルは妙に確信めいた声音で言い切った。
「何故そう言い切れますの?」
「エルフィはここ一番って場面では的を外さないし、敵を前にして逃げたりしない、根っからの主人公体質なんだ。きっと当日になったら涼しい顔で現れて、一人で美味しいところを全部掻っ攫っていくさ!」
「……主人公気質、ね」
ラスティが小さく呟く。
平民の出でありながら魔女の愛弟子になり、ワルプルギスで活躍するとなれば、この時代では実にわかりやすいシンデレラストーリーである。
しかし、それは――
(それってラウルさんにも言えることなんですけどね……)
それまで静かだったタチアナも含め、その場にいた人間の多くがラウルに目を向ける。
この世界では弱者に位置する男性の身でありながら魔女の直弟子となり、尚且つ女性しか出られないはずのワルプルギスに出場しているなど、生半可な強運ではない。だがそれはある意味、凶運と呼ぶべきものかもしれないが。
周囲からの視線を集めたラウルが、訝し気に首を傾げる。どうやら本人にその自覚はないようだ。
アリーシャがクスリと微笑んだ。
「フフ、信頼しているのですね」
「あ~……ま、これでも一応幼馴染なもんで」
「以心伝心というのでしょうか。互いに離れていても心が通じ合っているその感じ、何とも妬ま――いえ、羨ましいですわ」
「ん、え?」
普通に頷きかけたラウルだが、アリーシャからどこか不穏な雰囲気を感じ取り、背筋に冷たいものが走った。
「フン、ラウルのくせに生意気よ! 私だってお姉さまのこと、それくらいわかってるんだから!」
シルヴィアの憎まれ口を聞いたラウルは、逆に心がほっこりした。




