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ソードダンサー3

 互いの陣形は、前から三・二・一と逆三角形に並んだ同じフォーメーションであり、俗にいうミラーマッチという形である。ただ、その内実は正反対になる。

 エミリアに突っかかっていた前線の三人――カトレア、マルセリーナ、オルティナは、各々土属性を操る精霊契約者で、見た目通りの膂力と頑丈さを武器に、力押しで相手を圧倒していく戦闘スタイルだ。

 それに対し、エミリア側の前線にいる三人は、カトレアたちに押し込まれないように食い止めるのが主な役目である。

 中央にフェリシアが立ち、両サイドには鎧や盾を装備した防御重視の選手が並んでいる。

 二列目はそれぞれ彼女たちの援護を目的とする、サポート能力や中遠距離攻撃の使い手たち。そして、最後方のフルバックにはクラウンであるエミリアと、相手側には同じくクラウンである遠距離攻撃手段を持つ氷精霊の契約者が位置している。


 星勘定では確かに全勝と二敗という差が付いているが、傍から見た限りではそれほど実力差があるようには感じられなかった。少なくとも、今の時点ではどちらの側にも十分な勝算が見込めるはずだ。

 しかし、エルフェイルの見解はそうではないようだった。


「よく見ておきなさい。均衡が崩れたら、恐らく一方的な展開になるだろうから」

「え……?」


 険しい顔でエルフェイルが告げる。

 ラウルがどういうことかと質問しようとしたところで、試合開始のホイッスルが吹かれた。


「オラァッ!」


 女性にしては低音で迫力のある声を発し、カトレアがフェリシアに襲い掛かる。

 カトレアは磨き上げられた金属鎧に加え、武器として両手に手甲が装着されている。間合いの長いバトルアックスを持つフェリシアに対し、果敢にも自分から直接殴りに行った。


「舐めるな!」


 リーチの差を活かし、フェリシアが狙いすましたように上方からバトルアックスを振り下ろす。

 脳天を狙った一撃は、しかしカトレアが最小限のモーションで横合いから斧を殴り、巧みに軌道を逸らしたことで失敗に終わった。ズン、と轟音を立ててバトルアックスが地面を叩く。

 的確にフェリシアの先制攻撃を捌いたカトレアは、一気にフェリシアの懐に入る。その瞬間、フェリシアは躊躇なくバトルアックスを手放すと、地を蹴りつつ柄の先端を掴んで支点にして、下から鋭い膝蹴りを叩きこむ。

 そのままカトレアの顎を打ち砕いた――かに思われたが、間一髪でカトレアは顎の下に手を入れてガードすることに成功していた。

 若干体勢を崩したものの、それ以上に大きな隙ができたフェリシアに対し、カトレアは反撃を加える。


「――ぐっ」


 腹部を狙ったカトレアの殴打を何とか腕で防ぐも、制服の袖がダメージ変換で破れ、フェリシア自身は衝撃で後方に弾き飛ばされた。

 カトレアとフェリシアの間が空いた瞬間、側方付近から火球が飛んでくる。追撃を掛けようとしていたカトレアは、咄嗟に土の防壁を形成して防御した。

 ドオオン、という爆発音と共に粉塵が辺りを舞う。そのとき、粉塵の先の離れた場所から声が響いた。


「フェリシア、E5」

「ハッ」


 と、エミリアの指示に従って、フェリシアが右に数歩移動する。


「フン、そんな見え見えの動き――ぐぁっ!?」


 不意に腹部への強い衝撃を感じ、カトレアは慌てて視線を落とす。見れば、一本の長剣が金属鎧の胴部に水平方向にぶつかり、大きな窪みを作るところだった。

 その攻撃の正体に即座に思い至ったカトレアは、思わず相手陣地の奥に向かって叫んだ。


「おのれエミリア! 猪口才な真似を!」

「…………」


 フルバックの位置で両手に二本の剣を持ったエミリアは、淡々とした様子でカトレアに放った剣の補充(・・)をする。その周囲には、引き絞られた弓のように滞空する四本の剣があった。


 エミリアが契約しているのは剣精霊。

 主な能力は、剣の複製と射出である。複製といっても、伝説級武器のような高品質のものを作り出すには限界があり、別段強力な能力というわけではない。

 射出速度にしても、一発一発は盾や鎧を貫通するほどではないし、途中で撃ち落とすこともそう難しくない。

 恐らく一対一ならば防御の固いカトレアの方が有利であろう。

 だが、今やっているのは六対六のヘキサクロスだ。エミリアの真骨頂は攻撃の威力ではなく、射撃の正確性や射出タイミングの上手さである。

 対象が動いていても問題なく命中させるし、ともすれば味方に指示を出しつつ攻撃を繰り出し、自分たちに有利な状況を作り上げる。

 今回の一連の動きにしても、爆発の粉塵でカトレアの視界を制限し、フェリシアの動きで注意を引き付け、射線を確保しつつエミリアの剣を直撃させる――といったものだ。選手単体ではなく、複数人がチームとして有機的に動く。

 そして、それはまだ終わりではない。


影槍(シャドウスパイク)!」

 カトレアの側面に移動したフェリシアが、精霊魔法を解き放つ。

 次の瞬間、フェリシアの影が地面でゴムのように伸びると、そこから剣山の如く幾本もの漆黒の槍が飛び出てくる。

 フェリシアが契約する影精霊は、闇精霊よりも応用が利かない分、直接的な攻撃力や干渉力に秀でている。地属性の防御力でも、片手間に防ぎきれるものではない。

 カトレアは舌打ちすると、影の槍を何発かくらいながら後退していった。

 だが、精霊魔法を放ったフェリシアの隙を突いて、敵側の二列目にいた弓持ちが狙撃してくる。


「もらった! ――えっ……!?」


 目の前で起きた光景に、弓を放った選手が思わず絶句する。

 彼女が放った弓矢が、別方向から飛んできた剣によって撃ち落とされたのだ。そんな曲芸じみた真似を成したエミリアは、顔色を変える様子もなく平然としている。

 身体強化された精霊契約者が放った高速の弓矢を空中で撃墜するなど、その超絶的な技量は元より、タイミング的にその攻撃自体を読んでいなければ間に合わないはずだ。

 自身の弓矢が撃ち落とされたことと、動きが先読みされていたことに弓持ちは戦慄し、しばらく次の行動に移ることができなかった。

 その間に、フェリシアは己の得物であるバトルアックスを回収する。


 互いにダメージを受けつつ仕切り直しとなった状況だが、カトレアの表情には焦燥感が満ちていた。

 カトレアたちのチームの戦術構想(ドクトリン)は、強力な前線からの圧力で相手をどんどん押し込んでいくことだ。そして相手陣内に押し込めたら、フリーになったフルバックの選手が、魔力の溜めが必要な強力な精霊魔法でトドメを刺す。

 だが、現状では前衛同士の戦いが拮抗しており、両サイドにいるマルセリーナとオルティナも苦戦している様子だ。それは敵の前衛が実力者揃いであるということではなく、エミリアを主とした後衛の的確な連携とバックアップによるものだ。

 カトレアたちの場合、なまじ前線の三人が強力なだけに、後衛との連携にはまだまだ未熟な部分がある。下手に援護すると同士討ちの危険もあるため、ある程度距離が開いたり、明確な隙ができたときに散発的に攻撃するだけだ。

 フルバックの氷精霊使いも、リーゼロッテのように細かな援護をするのには向いていない。また、主戦場から離れていると思って油断していると、エミリアから長距離の剣の投射攻撃が来てキューブを割られる恐れがある――実際に別の試合であった――ので、攻撃一辺倒に意識を振ることもできない。


 このままではジリ貧だと判断したカトレアは、精霊魔法を使って己の身体に岩の鎧を纏い始めた。足首周り、太腿、二の腕など、金属鎧が覆っていない部分も岩でコーティングしていく。

 これは、高い防御力を維持したまま身体強化の強度を上げて普段以上のフィジカルを発揮する、カトレアにとっての切り札であった。

 当然、肉体への負担や魔力の消費量は大きい。

 この試合は本日三戦目。体力はともかく、手持ちの魔力残量は心許ない。速攻でケリを付けなければならなかった。

 両サイドにいるマルセリーナとオルティナの二人も、細かな形状こそ違うが似たような岩の鎧を身に纏う。


「フェリシア、アイナ、ドーラ。防御に専念して。ここを耐えきれば勝てるわ」

「「「ハッ!」」」


 状況を読み切ったかのようなエミリアの呼びかけに、前衛の三人が力強く返事をする。

 まるで何もかも見透かされているような気分になるが、カトレアたちのやることに変わりはない。


「オラァ! 死にさらせ!」


 淑女としては眉を顰めざるを得ないような乱暴な言葉遣いで、カトレアはフェリシアを目掛けて突撃する。

 フェリシアはバトルアックスを盾のように扱って、カトレアの拳の連撃を何とか弾き返す。怒涛のラッシュが続くものの、どうにか被害を最小限にして退場だけはしないよう心掛ける。

 敵味方が至近距離で戦っているにも拘らず、後方からエミリアの精密な援護が時折飛んでくるのが頼もしい。

 やがて攻め疲れたカトレアが一歩ほど後退したその瞬間、やや側方から再びカトレアを狙って火球が放たれた。これに対し、カトレアは口の端を吊り上げると、自分から火球に向けて手を伸ばした。


「な、っ――」


 予想外の行動をされ、フェリシアは思わず動きを止めてしまう。

 ドオォォンと先ほどの焼き直しのように、爆発音と粉塵が周囲に広がっていく。カトレアは最も防御の固い手甲の部分で火球を受けたため、本人のダメージ自体は軽微だが、手甲そのものは駄目にしてしまった。

 ただ、今回の爆発はカトレアの方に利した。


「今だ、『解放(リリース)』!」


 カトレアの宣言と同時に、まるで焼き栗が破裂したかのようにカトレアの纏った岩の鎧が弾け飛んだ。飛び散った破片は散弾となり、前方にいたフェリシアに降り注ぐ。

 フェリシアが硬直状態だったことに加え、粉塵によるブラインドを利用していたこともあり、フェリシアはカトレアの攻撃をまともに受け制服を大きく破損させてしまった。そのまま転移の光に呑まれて退場してしまう。


「ぐ、エミリア様、申し訳……」

「ハッ! 見たか、小童(こわっぱ)!」


 消えたフェリシアの穴を突き、身軽な状態になったカトレアが素早い動きで敵陣の中に侵入していく。またマルセリーナとオルティナの二人も同様に岩の鎧をパージし、目の前の相手が怯んだ隙にその横を通り過ぎる。

 カトレアたち三人はまるで示し合わせたかのように、フルバックのエミリアに向けて一直線に突進した。


「っ、速い――!」


 カトレアたちの侵入に対し、中段の位置にいたエミリア側の選手二人は壁に成ろうとするものの、予想外のスピードに付いていけず、あろうことかそのまま素通りさせてしまった。

 その先でスピードを保ったまま、カトレアたち三人は一ヵ所に集まり交錯する。


「覚悟しろ、二年坊主!」

「これが我らの三位一体――」

「バーストストリームアタックだ!」


 三人は縦に並び重なり、エミリアからは先頭のカトレアだけが見える状態になる。それを維持しつつ、彼女たちはエミリアまで三メートルほどの位置まで接近すると、後ろの二人がそれぞれ別方向へと飛び出した。

 狙いはエミリアではなく、その背後にあるキューブ。クラウンであるエミリア自身を撃破せずとも、それで試合終了となる。

 如何にエミリアの技量が卓越していようと、この距離で別々に動く三人を全て止めることなどできない――はずだった。


「――つまらないわね」


 ぼそりとエミリアが呟く。直後、マルセリーナとオルティナが何かにつまずいたかのように派手に転倒した。


「えっ?」「は?」


 何が起こったのかわからず、呆けた様子で地面と熱烈にキスする二人。一人残ったカトレアに対し、エミリアは空中に浮かべた四本の剣を差し向ける。

 至近距離から迫る四本の剣を、カトレアは意地で二本叩き落すが、残る二本が岩の鎧を解除して防御力の薄くなった彼女の身体へと直撃した。そしてダメージ変換により、為すすべなく制服を半壊させてしまう。

 一瞬で起こった逆転劇に、当事者たちだけでなく観戦していた生徒たちも唖然とする。


「本当につまらないわ。事前に書いた絵図面をなぞるだけの単純な作業。まさか既に前の試合で何度か見せている戦術で、この私を出し抜けるとでも思ったのかしら?」


 嘆息するエミリアに対し、転移の光に包まれていくカトレアが衝動的に叫んだ。


「エミリア! 貴様、一体何をした!?」

「何って、あなたの相方二人を地面スレスレに配置した剣で転ばせ、孤立したあなたを撃破しただけじゃない。それくらい見てわからない? 相手を転ばせるには基本的に身体の重心を崩す必要があるけど、その点でいえばあなたたちはお粗末ね」

「っ……」


 途中でカトレアが退場してからも、エミリアは倒れたマルセリーナに向け、剣を手に迫りながら話を続ける。


「身体強化に振り回されているのか、全力での移動時に二人とも重心が左右どちらか一方に傾くきらいがあった。私はその欠点を、然るべき場所で然るべきタイミングに突いただけ。何も特別なことはしてないわ。むしろ練度が甘い不完全な連携技を、こちらの注文通りに試合で使った、あなたたちの不用心さが招いた結果だと言えるわね」

「! まさか、最初から我らのバーストストリームアタックを狙って……!?」

「ええ、その通りよ。さて――種明かしも済んだし、そろそろ終わりにしましょうか」


 エミリアは無造作にマルセリーナの後頭部に足を乗せる。


「き、貴様、我を踏み台に――」

「これで二人目」


 まるで作業をこなすかのように、エミリアは躊躇なく相手の首筋を斬り付け、マルセリーナを退場させる。


「バカめ。今のうちに……ガハッ!?」


 残ったオルティナはその隙に体勢を立て直し、がら空きのキューブに向かおうとする。が、当然彼女の動きを読んでいたエミリアが剣を飛ばして妨害し、さらに背後からようやく追いついた相手選手に攻撃され退場する。

 事実上、この時点で試合の勝敗は決した。


「アイナ、C6。ドーラ、G6。敵の主力は退場させたわ。全員最後まで油断せず、確実に勝利を決めなさい」

「「「「ハッ!」」」」


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