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ソードダンサー1

 闘技場に設置されたピストの一つで、試合終了を告げる長いホイッスルが吹かれた。


「キューブ破壊により、勝者チーム『テンペスト』!」


 勝者を告げる審判のコールを聞き、ラウルは安堵の溜め息を吐いた。


「これで、うちのチームは十三勝二敗か……なんとか上位に踏み止まれたな」


 予定よりも一月近く遅れて始まったワルプルギス。

 メインである六対六のヘキサクロスで出場しているラウルたちは、リハビリが終了したエルフェイルも無事復帰し、それなりに順調な戦績を維持していた。

 シーズン開始から約一ヶ月経った現在、リーグ全体では全勝が一チーム。一敗が無しで、二敗で三チームが並んでいる。このうち最終的に上位三チームが、夏に行われる交流戦(インターリーグ)に出場することができる。

 各学院の上位勢が集まるレベルの高いリーグであり、事実上このリーグで優秀な成績を上げられたチームだけが、シーズン最後に開催されるグランプリファイナルに駒を進めることができるのだった。

 ラウルとしては、イーシアから出来るだけ多くの相手と戦ってデータを取るよう言い含められていることもあり、最強クラスの生徒たちとぶつかる交流戦はまさに打ってつけの舞台だった。そして現状、チームとしての目標もそこに置かれている。

 そのためにラウルたちは、残っている試合を全部取るくらいの勢いで勝ち進んでいかなければならなかった。


「勝ちはしたけど、やっぱり全体的に消耗が激しいわね。早急にもう一人メンバーを増やした方がいいんじゃないの?」


 闘技場の控室で、クラウンとして後方で指揮を執っていたリーゼロッテが、この試合はリザーブに回っていたエルフェイルに提案する。

 だが、エルフェイルは小さく首を振った。


「そのことについては結論が出たはずよ。もう少し経てば、成績の振るわないチームを解散する人たちが出てくるわ。暇を見てソロの試合も見ているし、使える人材をじっくり吟味するつもりよ」


 通常のシーズンでは、ヘキサクロスが行われるのは毎週末の一日に二戦だけなのだが、今年は開始時期が遅れた影響で一日に三戦が行われている。

 ヘキサクロスでは事前準備も重要で、対戦相手に応じてメンバーの選出や戦術の構築など色々とやることが多い。たった一戦増えるだけでも、こなさなければならない仕事量や負担はチームに重く圧し掛かる。

 まして日に三戦ともなれば、試合当日における心身の疲労や魔力の消耗も半端ではなく、どうしてもメンバーをローテーションするなどの遣り繰りが必要となる。

 ラウルたちの場合、参謀役であるエルフェイルが、経験豊富なリーゼロッテと一緒にこれらの業務を担当していた。


 ヘキサクロスで認められている控えは二人までで、合計で八人が一チームの最大人数となるのだが、現在ラウルたちのチーム『テンペスト』はラウル、エルフェイル、シルヴィア、タチアナ、アカネ、リーゼロッテ、ラスティの七人である。

 一人足りないだけとも言えるが、他の上位陣が軒並み最大人数である八人で構成されている中、この一人の差がタイトなスケジュールでは大きな差となり始めているのも事実だった。怪我や故障に関しては精霊魔法で大抵治療できるが、疲労や魔力の消耗については基本的に自然回復に任せるしかない。

 とはいえ、軽々しくメンバーを補充することもまた好ましくない。

 ヘキサクロスでは特別な事情がない限り、シーズン中に一度決めたメンバーを変更することができないからだ。

 ただ、足りないメンバーを補充できるのもシーズン開始から二か月以内と定められており、いつまでも保留しておくこともできない。

 そのため、負担軽減のため早期にメンバーを加えたいリーゼロッテと、ギリギリまで慎重にメンバーを選びたいエルフェイルとで、意見の衝突が起こっていた。


「けれど、来週には大一番があるのよ。準備は万全にするべきじゃないの?」

「大一番?」


 リーゼロッテの意見に対し、ラウルが首を傾げる。


「唯一の全勝チーム『ソードダンサー』との対戦よ。実際のところ、現時点で私たちの勝率はあまり高くないけど、それでももし勝てれば大きいわ」


 エルフェイルの口から弱気な発言が出るのは珍しい。

 今までチームが負けた二敗も、エルフェイルたちが立てた戦術自体は有効だったが、それを実行するラウルやシルヴィアたち新入生がミスしたことが主な敗因だった。

 それだけ参謀役としては優秀な彼女が、最初から負けることを覚悟しているとは、正直想像し難かった。


「というか、完全に想定外だったわ。あいつがあんなにヤバい奴だったなんて……」

「それについては同感ね。生徒会副会長なんて忙しくて中途半端な役職のくせに、ほぼ全ての試合であれだけ完璧な試合運びをされたらお手上げだわ」

「生徒会副会長? あれ、それって確か……」

「エミリア・ランカスター。下級貴族の生まれで、契約精霊はごく一般的な剣精霊だけど、特筆すべきはその情報処理能力よ。事前の敵戦力の情報分析と、その場その場での臨機応変な状況判断、試合での戦い方を見ればどれだけ高度な演算を行っているのか一目瞭然ね。私と同じ二年生だっていうのに、正直嫉妬しちゃうわ」


 あからさまに悔しがる素振りを見せるエルフェイル。どうやら相当エミリアを意識しているらしい。

 副会長であるエミリアとはラウルも何度か会ったことがある。見るからに有能そうなのは確かだが、男であるラウルに対し当たりが強く、どうにも苦手な相手であった。


「勝算を上げるために理想的なのは、一週間以内にジョーカー的選手を加入させることね。エミリアの裏を掛けるような初見殺しとか、あるいは誰にも知られていない実力者とか」

「そんなの都合よく見つかるわけないじゃない! そんな宝くじみたいなこと夢想してないで、真面目に勝つための算段を考えなさい。それが貴女の仕事でしょうが!?」


 リーゼロッテが、ぼやき気味のエルフェイルを強い調子で嗜める。


「その代わり、エミリア以外の対戦相手に関しては私が担当するわ。新規メンバーのことも一任するから、今度のエミリアとの試合、絶対に勝てるように作戦を立てなさい。いいわね!?」

「……善処するわ。それにしても、リーゼロッテ先輩がそこまでチームに協力的なのには違和感があるわね。何か企んでんじゃない?」

「人聞きが悪いわね。私はただ、どうしても倒したい相手が別の学院にいるだけよ。交流戦にも確実に出てくるでしょうね。だから、こんな学内の予選みたいなところで躓いているわけにはいかないのよ!」


 酷く真剣な眼差しで拳を握り締めるリーゼロッテ。その迫力に、エルフェイル以外のメンバーは思わず息を呑んだ。


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