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幕間1

「よう嬢ちゃん。精が出るな」

「あんた誰だよ。おば――お姉さん」


 十二歳程度の少女が、街に近い森の中で一心不乱に剣の素振りをしている。

 いきなり見ず知らずの女性から「嬢ちゃん」と呼ばれたことに眉を顰めた少女は、「おばさん」と言い返そうとしたのだが、そのとき急激な寒気がしたため咄嗟に「お姉さん」と言い直した。見事な危機管理能力と言えるだろう。


「あたしか? あたしは通りすがりの美人剣士さ」

『ブハッ!』

「……あん?」

「オ、オレが言ったんじゃねえよ!」


 女性に睨まれた少女は、慌てて首を横に振る。


「チッ、わかってるよ。クソッ、マルデュークめ……後で覚えてろよ」


 女性は不機嫌そうに舌打ちした。


「あ~それでだな。あたしは知り合いの付き添いでこの辺に来たんだが、偶然嬢ちゃんを見付けて声を掛けたんだよ。嬢ちゃん、見たところ『聖別の儀』を受けたくらいの年齢だろ? 剣を振るより精霊魔法の訓練をしたほうがいいんじゃねえか?」


 女性がそう告げると、少女は落ち込んだように俯いた。


「オレはそっち方面の才能はないから……」

「ああ、そうか。すまん。悪いこと聞いちまったな」


 少女が精霊契約に失敗したことを悟った女性は、バツが悪そうに頬を掻いた。

 そのとき、どこからか第三者の男の声がした。


『イーシア、少しいいか?』

「え、誰だよ、この声? ……あ。もしかして、さっきの?」

「驚かせちまったようだな。こいつはあたしの契約精霊のマルデュークだ」

『うむ。よろしく頼む』

「よ、よろしくお願いします。って、あれ……? 契約精霊って喋れるんだっけ?」

「ああ、それはこいつが高位精霊だからだよ」

「こうい……精霊……?」


 少女が呆けたように首を傾げる。


「説明するのが面倒くせえな。つうか、どう考えても勉強不足だろ! もっと精霊のことについて学ばねえとダメだろうが。この程度一般常識だぞ!?」

「す、すみません」


 イーシアが嘆息する。


「嬢ちゃん、あんたはどうして剣を振るう?」

「え?」

「聖別の儀で中位以上の精霊に選ばれなきゃ精霊契約者にはなれねえ。例外はないこともないが、基本的に精霊と契約できなかった奴は、剣の道からも足を洗うことが多い。それとも、わざわざ苦労して下位互換である騎士になろうとでもいうのかい?」

「……自分としては、そのつもりだ」

「へえ」

「だって悔しいじゃないか! 以前まではオレの方があいつのことを守ってきたのに、あいつが精霊契約に成功した途端、これからは私が守ってあげる、なんて嬉しそうに抜かしやがったんだ! そんなの納得できない。俺の今までの頑張りは何だったんだ。けど、このままだとあいつに置いてかれちまう……だったら騎士にでもなんでもなって、少しでもあいつに近づきたいと思ったんだ!」


 余程鬱憤が溜まっていたのか、少女は一気に思いの丈を吐き出す。

 イーシアは少女の決意に満ちた瞳を見詰めると、小さく頷いた。


「よし決めた。お前、あたしの弟子になれ」

「……は?」

『正気か、イーシア?』


 イーシアの宣言に、少女と契約精霊が揃って困惑する。


「なんだよ。折角、前途有望で意気軒昂な若い人材が目の前にいるんだ。放っておく手はねえだろ? シャーロットも弟子を取ったんだし、丁度いいじゃねえか」

『私が言いたいのはそういう意味ではないのだが……』

「おいアンタら、勝手に話を――」

「聞きな、嬢ちゃん。お前が追おうとしているその女、そいつがさらに目指す先にいるのがあたしさ。そのあたしから直接手解きを受けられるんだ。こんな好機は二度とねえと思うぞ?」

『そうだな。その点は私も保証しよう。剣を師事する相手として彼女以上の適役はいない』

「…………」


 戸惑い気味の少女は、じっとイーシアの顔を見詰める。その雰囲気から冗談を言ってるわけではないと感じた少女は、ややあってゆっくりと首を縦に振った。


「……わかった。あ、いや、わかりました。その申し出を承諾します。ですが、一つだけ条件があります」

「お、なんだ? 言ってみろ」

「オレのことはちゃんと名前で呼んでください。嬢ちゃんと呼ばれるのは不愉快です」

「ああ、そういえば互いに自己紹介もしてなかったな。あたしはイーシア・ヘルナンデス。嬢ちゃ――、お前は?」

「オレはラウル。ラウル・ストレイリーです」

「ラウルか。なんか男みてえな名前だな」

「みたいじゃなくて、オレは男――」

「ま、気が向いたら名前で呼んでやるよ。最初はバカ弟子で十分だろ。ほら行くぞ、バカ弟子! まずは素振り一万回だ!」

「え? ちょ、待っ……」

『やれやれ。これは前途多難だな』


試験勉強が終わったので少しずつ投稿していく予定です。

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