エピローグ
「今シーズンこのチームの世話になる、リーゼロッテ・アーレンスマイヤよ」
「……同じく、ラスティ・アーレンスマイヤですわ」
闘技場での模擬戦とフレスベルグの強盗未遂事件があった日から数日後。
被害に遭わず無事だった校舎の空き教室の一つで、勝負に負けてラウルたちのチームに入ることになった新メンバー――リーゼロッテとラスティとの顔合わせが行われた。
ただし模擬戦に参加したメンバーの中で、ソフィアだけは既に契約期間が終了しているのでここにはいない。
大怪我を負ったエルフェイルはこの場にいるが、学院の治療医の魔法と手術で切断された両手の縫合を行っており、現在はリハビリの最中である。
そのためしばらくワルプルギスへの参加はできないのだが、ベルンハルトの攻撃で学院の施設や闘技場の一部が破壊された関係上、シーズンの開幕が一ヶ月あまりずれ込むことになった。幸いにもその頃にはエルフェイルも復帰できる見込みのため、戦力的にはほぼ問題はないといえる。
現状、問題があるとすれば――
「まったく、今年は私の学生最後のシーズンだっていうのに。何故こんな如何にも間に合わせのチームになんか……」
リーゼロッテが不満気に愚痴を溢す。エルフェイルは失笑した。
「あら? その間に合わせのチームに負けたのはどこのどなたかしら? それに、負けたら妹共々私たちのチームに参加するっていうのは、事前に取り決めていたことじゃない。公爵家の人間ともあろうものが、一度決めた約束事を反故にするつもりなの? 随分と面の皮が厚いことね」
「っ、あんたは相変わらず減らず口が多いわね。そんなだから、アプレンティスなんて組織に襲われて大怪我をするのよ!」
アプレンティス等の敵対勢力が精霊学院を襲うと言うのは、前代未聞というわけではないものの、数十年ぶりというくらいには珍しい事件だった。下手にこの事実を広めれば、学院の生徒たちだけでなく社会的にも不安が増すが、目撃者の多さと学院が受けた被害の大きさから、情報を隠蔽することは難しかった。
しかしそれでも、肝心要であるフレスベルグに関する情報だけは隠し通す必要があった。
そのためイーシアたち上層部は、アプレンティスの襲撃は『殲滅の魔女』シャーロット・キャベンディッシュの弟子である、エルフェイルを狙ったものだという見解を広めた。また『剣の魔女』であるイーシアの来訪はその護衛のためとし、学院施設に被害は出たものの人的損失は軽微であり、見事に襲撃者たちを撃退できたと結論付けたのだ。
実際のところ、施設の修理だけなら一ヶ月も必要ないのだが、警備態勢の見直しや関係各所への根回し、予算の確保など大人の事情が入り込んだ結果、そこまでずれ込んでしまった。
「お生憎様。私は命惜しさに、一度決めたことを撤回したり逃げだすような不誠実な性格じゃないの。どこかの誰かさんと違ってね」
「ほんと、よく舌が回るわね。今からでも弁舌家や講談師を目指したほうがいいんじゃないの?」
「過分な評価ね。いくら私でもリーゼロッテ先輩の二枚舌には負けるわ」
「こいつ……! ああもうわかったわよ! 潔くあんたのチームに参加して、真面目に貢献すればいいんでしょ。それで満足?」
「あら。ただの決定事項を、さも恩着せがましく譲歩したように見せかけるだなんて、どれだけ厚かましいのかしら。余程卑しい人生を歩んできたようね。同情するわ」
「あんたは少し黙りなさいよ!」
などと、エルフェイルとリーゼロッテの二人は、呼吸でもするかのように言い争いを始める。
一方、
「屈辱ですわ……薄汚い男に、一度ならず二度までも敗れるなんて……しかもその軍門に下ることになるとは、なんたる屈辱……いっそ自裁した方がマシというものですわ」
ラスティは全身を小刻みに震わせていた。何度も「屈辱」「屈辱」と繰り返し、ラウルを親の仇のように睨みつける。
ほとんど逆恨みのようなものだが、ラウルは「仕方ないな」と内心で嘆息しつつ、ラスティへと歩み寄る。
「まあその、なんだ。色々思うところがあるかもしれないが、これからチームメイトになるんだ。どうかよろしく頼む」
「どの口が言うのかしら!? どうせ私を油断させておいて、最後には私の身体を貪ろうって魂胆なんでしょ。このケダモノ! その手には乗りませんわ!」
「な、そんなわけあるか! いくらなんでも被害妄想が激し過ぎるだろ!」
「どうだか。男は信用ならないものだと、御屋形様もおっしゃっていましたわ。股間に生やした粗末なもので物事を考える、下劣な犬畜生だと。まあ、その言い様にはそこはかとなく個人的な恨みを感じましたが……とにかくそういうことなのですわ!」
「――おや、それは聞き捨てならんな」
アカネがラウルたちの話に割り込む。
「ラウルのものが粗末だと? 冗談も大概にしろ。あれほどの大物、そうそうあるものではない。わたしが見た中でも確実に三本の指には入る逸品だぞ!」
「聞き捨てならないってそっちかよ! つうかあんたもブレないな!」
「そ、そうなんですの?」
「わ、私に訊かないでよ! ラウルの裸なんて、子供の頃しか知らないし……」
「はわわわわわ」
――問題があるとすれば、新旧メンバー同士の仲がバラバラで、試合での連携や意思疎通に不安があるといったところか。
ヘキサクロスでは、個々の実力以上に、事前の準備や互いの連携が重要である。件の模擬戦では、エルフェイルの考案した作戦が機能し、リーゼロッテたち最強クラスのメンバー相手に番狂わせを演じたように。
ラウルは、教室の喧騒から目を背けるように窓の外を見上げる。
晴れた空から差し込む陽光はとても眩しかった。
ひとまずこちらで区切りとなります。続きは執筆中ですのでしばらくお待ちください。




