表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/59

ヘキサクロス8

 突然フィールドに発生した光と共に消滅したソフィアとジャネット。

 リーゼロッテはその光景に動揺するも、状況の変化に対応してすぐさま仲間に指示を出す。


「ティナ! ジャネットたちが消えたスペースから敵陣に入りなさい! 私の守りは考えなくていいから」

「了解っス」


 二列目以降に控えていたティナは、全身鎧をガチャガチャと鳴らしながら軽快な様子で前線に走っていく。


 ティナ・ランドール。

 金属製の全身鎧の他に剣や盾を身に付けており、一見鈍重にも見えるが、金精霊と契約しているおかげで比較的身軽に動くことができる。その上魔力の注ぎ具合に応じて、武器をより鋭利にしたり硬度を高めることも可能である。

 特筆すべき長所は少ないが、状況に応じて槍や弓にも換装可能なため、どのような相手にも一定以上のパフォーマンスを発揮できるのが強みである。

 よく言えば万能、悪く言えば器用貧乏。とはいえ、半年以上の長いシーズンで様々な精霊契約者と戦うことになるワルプルギスにおいて、取り立てて穴のない選手の存在は貴重である。

 当たり前のことだが、契約精霊は個人が状況に応じて変更できるような代物ではない。

 精霊の属性は通常一種類。じゃんけんで言えば、常にパーやグーしか出せないようなものだ。マッチアップする相手次第でパフォーマンスが大きく左右されることが多く、戦術や戦略を組むのにも一苦労する。

 通常そうした場合は、二つしかないリザーブ枠を活用して対処することになるが、それだけでは十分とは言えない。リーゼロッテがわざわざ彼女をメンバーに選んだのも、特に苦手な相手や状況がいないという汎用性に富んだ特質を評価した結果だった。


「っ、来たわね……!」


 剣を構えて接近してきたティナを見やり、シルヴィアはごくりと唾を飲み込んだ。

 リーゼロッテの遠距離攻撃を防ぐために前線に近い位置をキープしている以上、直接的に狙われるのはおよそ避けられない。あとはシルヴィアがどれだけ退場せずに粘れるかが重要な焦点である。


「援護するわ――『渦巻く雷光(ローリング・サンダー)』!」


 後方からリーゼロッテが叫ぶと同時に、周囲が眩い光に照らされ幾筋もの電撃が降り注ぐ。

 狙いはシルヴィア――ではなく、ミラと激闘を繰り広げているエルフェイル。シルヴィアとしては、むしろ自分よりも優先して守らなければならない対象である。


「このっ!」


 当然の如く、自分のことはそっちのけでナイフを飛ばして迎撃を行うシルヴィア。首尾よく電撃を相殺したものの、代償としてティナに対して大きな隙を晒すことになってしまった。


「もらったっス!」


 素早く間合いを詰めたティナが剣を振るう。

 ――が、別方向から飛来した石礫にガツンとぶつかり、その衝撃でバランスを崩し攻撃を中断してしまった。

 金属鎧に受けたダメージ自体は軽微である。ティナが石礫が飛んできた方向に目をやると、そこには緊張で顔を青くしているタチアナがいた。


「や、やった、当たった……!」


 かすれた声で喜びに沸くタチアナの前には、一メートルくらいの高さの土塁があった。厚さは十センチ程度しかないのだが、この土塁は見た目ほど柔な代物ではない。これはタチアナの精霊魔法で作成したもので、通常の土質よりも強化されている。

 タチアナは新入生の中でもどちらかというと落ちこぼれの部類に入っているが、それは精霊魔法の展開速度に大きく難があるからだった。特に入試の際や一年次には、ソロやデュオといった少人数での試合が行われる場合が多く、立ち上がりの悪さはそのまま敗北に直結する。

 だが、六人制のヘキサクロスならばその欠点をカバーすることができる。

 ほとんど誰にも――チーム加入後に目の当たりにしたエルフェイルたち以外――知られていないことだが、タチアナは十分な時間さえ与えられれば、フィールドの任意の場所に堅固な砲撃陣地を構築できる優秀なスキルを持っていた。

 この状況もまた、ラウルを囮にして敵の注意を引き付けたことによる成果の一つである。


「あれ、意外と厄介っスね……」


 敵陣の中央付近に築かれた土塁を見やり、ティナは小さく舌打ちした。

 近接攻撃しかできない今のティナでは、土塁に接近、さらには破壊するまでにかなりの被弾を覚悟しなければならない。弓に武器を換装したとしても、その場合は盾を捨てなければならず、掩体に守られた敵と無防備な状態で撃ち合うという、大変気乗りしない展開になってしまう。

 また、リーゼロッテの電撃では地属性の能力持ち相手には効果が薄い。

 一番有効なのはショットガンで炎弾を放てるミラだろうが、彼女の性格からして、目の前のエルフェイルを差し置いて他の相手をしてくれるとは思えない。

 かといって、放っておけば無視できない威力の石礫がフィールドの四方に飛んでくる。

 判断に困ったティナは、盾を構えて防御態勢を取りつつ、リーゼロッテの指示を待つ。


「迂闊だったわ。むざむざ相手に陣地構築を許すなんて! しかも、私からキューブへの直線状……確実に私の切り札を警戒してのことね」


 後方からフィールド全体を一望したリーゼロッテは、すぐさま方針を決めた。


「ティナはそのままにプレッシャーを掛けて! 土塁のほうは無視でいいわ。防御重視で、敵の撃破よりも退場しないことを優先して!」

「心得たっス」


 ティナは盾をタチアナ側に向けて守りを固めつつ、何とか逃げようとするシルヴィアをしつこく追いかけ始めた。そのため、シルヴィアはリーゼロッテからの電撃の対処に支障をきたし始める。

 タチアナも援護しようとするが、シルヴィアたちが動き回っているために誤射の危険を恐れて上手く撃ち込めない。

 結果としてフリーになったリーゼロッテは、電撃があまり有効でない新入生二人を無視し、別の戦いへと目を向けた。ミラたちの戦場は煙が立ち込めて視界が悪く、ジャネットたちはフィールド上から消えた。

 ならば狙うべきところは――


「セリーナ。頼んだわよ」


 セリーナとアカネの攻防戦へと参加すべく、リーゼロッテは魔力を集中させた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ