ヘキサクロス6
数的不利に陥ったリーゼロッテ側だったが、精霊魔法を使えないラウルが後方に下がったため、攻撃に参加している人数はまだイーブン――いや、シルヴィアが防御専門に近く、タチアナの実力が未知数である以上、リーゼロッテ側のほうが依然として有利かもしれなかった。
今後の戦いの趨勢は、戦術よりも個人間のデュエルの結果如何によって変わってくる。
大方の観客のそうした予想通り、フィールドの中央では次の戦局に推移しようとしていた。
エルフェイルは去年出場したソロ形式のワルプルギスにおいて圧倒的な成績を残した。
射程は短いが効率よく連射可能な二丁拳銃――レーヴァテインの特性を活かし、無数の弾幕を張りつつ常時相手との距離を保ち続ける戦法で、同年代の並み居る生徒たちを封殺してきた。
そんなエルフェイルにも苦手な相手がいる。具体的に言うと自分よりも射程距離に優れ、さらに攻撃範囲も広く、彼女持ち前のスピードが活かしづらい相手である。それが――
「さあ、行くぞエルフェイル!」
ドバァン!
ショットガン型の武器――フラムスティードを構えたミラは、遠距離から炎の散弾を解き放った。癇癪玉サイズの無数の炎弾が広範囲に亘って撒き散らされる。
早々に回避を諦めたエルフェイルは、レーヴァテインを連射し迎撃を行った。
「相変わらず鬱陶しいのよ!」
ババババババババババン!
ミラとエルフェイルの間で幾重にも小爆発が起き、辺りに白煙と焦げくさい臭いが漂う。
一時的な静寂が訪れたその瞬間、エルフェイルは立ち込める白煙の中にその身を投じた。
遠距離で撃ち合っても、射程距離と一度の威力で勝るミラに有効打を与えるのは困難。ならば、多少のリスクを覚悟で敵の喉元に突っ込み、自分の有利な間合いに引き込むしかない。
エルフェイルのその考えは決して間違っていなかった。
ただしそれは、相手が何の予測も対応もしなかった場合だ。
白煙の中から勢いよく飛び出たエルフェイルは、すぐさまミラに向けて引き金を引こうと銃を向ける。が、そこにミラはいなかった。 彼女はエルフェイルが強引に距離を詰めてくると予想し、攻撃が終わるとすぐさま場所を移動していたのだ。
炎弾という非実体性の弾を放つレーヴァテインの特性上、反動が少なく大した膂力は必要ない。そのためエルフェイルは身体強化を脚部に集中することで規格外のスピードを実現しているのだが、それはミラに対しても同じことが言える。
炎の散弾という範囲攻撃が可能なフラムスティードの特性上、狙い自体は大雑把で構わない。射撃時の反動はそれなりにあるが、必要に応じて脚力を増強するだけの余裕があった。
「考えが甘いんだよ!」
ショットガンというものは、発射された散弾が程よく散らばり出す中間距離において最大の威力を発揮する。中途半端に接近した格好のエルフェイルは、待ち構えていたミラによる全力射撃を浴びる羽目になった。
(――マズい!)
轟音を立て、ショットガンの銃口から吐き出された炎の散弾が急速に迫り来る。
不意打ち気味に攻撃を受けたエルフェイルは、それでも反射的に即応した。ギリギリのタイミングで発射された炎弾は、ミラの散弾が飛び散り始めた直後の地点で衝突――ほぼ全ての炎弾を巻き込み大爆発した。
だが爆発したのはエルフェイルの至近であり、まともに爆圧を受けたエルフェイルは大きく吹き飛ばされた。
「ぐっ――」
ラインを越え、フィールド外に出ると退場と同じ扱いになってしまう。空中で体勢を立て直したエルフェイルは、辛うじてそれだけは免れた。
地面を滑り、自陣深くまで吹き飛ばされながらも、両足で踏ん張り立ち上がる。
制服は右肩から左胸にかけて大きく破れ、スカートもボロボロ。ダメージ許容量的には――
「残り二割といったところか」
フラムスティードを肩に担いだミラが感心したように頷いた。
「咄嗟によく反応したものだ。一撃死を防いだだけでも誇っていいだろう」
「……お褒め頂き光栄ね」
エルフェイルは悔しさを押し殺すように、無表情に吐き捨てた。近くにいたシルヴィアが慌てて声を掛ける。
「お姉さま! すぐに回復を――」
「いいえ、シルヴィ。貴女はそのまま皆のフォローを。私はこのままで大丈夫よ」
「え!? でも……」
「おや。私としては、別に回復してもらっても構わんのだぞ?」
どこか小馬鹿にしたようなミラが、ショットガンの銃口を向けながらゆっくり近づいてくる。
エルフェイルのダメージを回復するためにシルヴィアが接近すれば、二人まとめて攻撃しようという魂胆だろう。それがわかっているエルフェイルは、妹を遠ざけるとレーヴァテイン構え直した。
「ガラにもなく焦っていたようね。試合前に煽られたのが少しは効いていたのかもしれないわ。だから――これからは自分の役目に専念するわね」
「ほう」
ミラの柳眉がピクリと動いた。
元々ミラの役目は、敵の最強戦力であるエルフェイルを抑えることである。
チームの総合力で勝っている現状、ミラとしては無理にエルフェイルの撃破に拘る必要はないが、それでももし倒せればそれは決定的なアドバンテージと成り得る。エルフェイルが瀕死になった以上、それを狙うのは当然だ。
ただし、その点はエルフェイルにとっても似たようなことが言える。
最初の戦闘でラスティを退場させることに成功したラウルたちにとって、学院最強のミラとエルフェイルが戦い続けるのは決して損な交換ではない。もし倒せれば万々歳だが、下手にリスクを冒すよりも現状維持で十分なのである。
(相性が悪いのは最初からわかってたし、ここまでダメージを受けてしまっては仕方ないわね。撃破されないように適度に凌ぎつつ、相手を引き付けるとしましょうか)
頭の中で目的を明確にしたエルフェイルは、身体強化を掛け直し、再度戦いへと身を投じた。




